光の中の骨
2017.3.13 改行位置修正
目の前に広がっていたのは、光溢れる緑の大地……というわけではなく、ごく普通の洞窟の風景であった。
ただ一つ先ほどまでと違うのは、ちょっと先に出口というか、入り口というかがあって、きちんと明るいということだ。
不思議パワーで暗闇でも色々見えるようだが、そうは言っても明るい方が当然よく見える。少なくともこの様子なら、暗闇に適応する代わりに僅かな明かりでも眩しいと感じるなどという心配は必要なさそうで、ほっと胸をなで下ろす。
当たり前のことが当たり前であるということは、とても貴重なことなのだ。
そんな光溢れる世界に一喜一憂しながらも、私は遂に、これまでずっと気になりつつも棚上げしてきた問題に向き合うことにする。それは当然……自分の体のことだ。
まずは、視線を落として足を見る。まるで白磁のような色合いの、細くて、それでいて力強い造形の……骨。
続いて、手を見る。白魚のような白さの、繊細そうな……骨。
やや見づらいが、胴体も見てみる。惚れ惚れするほど真っ白で、男の子ならきっと憧れるであろう、ゴツゴツした突起が至る所に存在する……骨。
骨である。何処をどう見ても骨である。骨の手で触ってみると、案の定顔の部分も頭蓋骨そのままであるようだ。まあ、ここだけ普通に肉や皮が付いてたら、むしろそっちの方が困ったとは思うが、とにもかくにも骨である。全身是、骨の塊。全世界の女性が羨むであろう、余分な脂肪の一切存在しないスリムボディ。まあ必要な脂肪も筋肉も皮もないので、トータルでは大幅にマイナス査定ではあろうが。
「骨かぁ……」
ため息のように漏れ出た言葉に、そう言えば普通に声を発することはできているなと思う。と言うか、それを聞けているのだから、聴力も普通にあるのだろう。見えているのだから、勿論視力もある。
……あるよな? と両手で眼球があったと思われる部分を覆い隠したらちゃんと視界が塞がれたので、あるということで納得する。この際眼球とか鼓膜とか声帯とか、そういうことは気にしない。気にした結果リアリティを追求されたりしたらこの場で白骨死体として崩れ落ちるだけなので、これはもうそういう物なのだと思うことにする。 世界を騙せ。自分を騙せ。常識を常識と思うな。目の前にある現実が、唯一にして絶対の事実なのだ。
……まあ、それはつまり自分が骨であるということなのだが。
「何だろう……あれか? スケルトンかな? うん。何かこう、スケルトンっぽいな」
ふと頭に浮かんだ言葉を口にしてみると、まさにそれしか無いという感じに、ストンと自分の中に落ちてくる。そう、私はスケルトンなのだ。些かの疑う余地すらない、生きている骨、スケルトンなのだ。
納得すると、心が落ち着く。落ち着けば、余裕が出てくる。ならば次は……もっと良く知るべきだろう。自分という存在の全てを。