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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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閑話:近くて遠くに存在する、あり得たかも知れないお話のお話

2017.3.13 改行位置修正

 助からない。目の前にある命は、きっともう助からない。

 知識が、経験が、常識が、運命が、目の前にある小さな命が、どう手を尽くしたとしても助からないと教えてくれる。


 助からないのは、仕方が無い。助けられる限界を超えているのだから、それは仕方が無いことなのだ。誰も悪くない。誰も何も……少なくとも、自分は悪くない。


 ここで、ストンと気持ちが落ちついた。ああ、コレはもう助からないのだ。まだ死んでいないだけ(・・)の存在なのだ。確定された「死」があって、あとはそれを誰が、何が、どんな風に与えるか、その違いがあるだけなのだ、と。


 そう考えると、別に放置して立ち去ってもいいのだが……ここで、一つ頭に浮かんだことがある。曰く「知性有る命を刈り取れば、その力の一部を奪うことができる」


 確かそうだ。敵を倒すと経験値が溜まって、それが溜まると強くなるのだ。何故そんなことになるのかはわからない。だがそれは、物が上から下に落ちるように、時が過去から未来に流れるように、世界に存在する(コトワリ)として、間違いなくここにあるものなのだ。


 ならば……コレを見逃すのは、勿体ない(・・・・)のではないか?


 私は弱い。いくらか骨の体を操れるようになって、だからこそ実感する。スケルトンというのは、圧倒的に弱い。

 武装を整えられればいくらか増しになるだろうが、それはどんな生き物でも同じなわけで、スケルトンの基礎能力の低さは変わらない。

 生命としての、格が低い。


 故に、それを補う必要がある。敵を倒し、格を上げる。だが、今の弱さでまともな敵と戦い、勝てるかと言われれば、答えは否だろう。敵を倒せば強くなるのに、倒せる敵が存在しない。どうしようも無い矛盾。始まったときから終わっている袋小路。それを打破する最良の解決策が……今目の前に転がっている。


 手を振り上げる。高く高く、出来るだけ威力が出るように。出来るだけ苦しめずに殺せるように。

 手を合わせる。心の中で。お前の強さは継いでいく。だから、どうか安らかに。


 そして、手を振り下ろす。


「ア…………」


 一瞬目が見開かれ、小さな音が口から漏れた。だが、それを見て、聞いても、私の心は揺るがない。もう決めたのだから。己のために命を奪うと。そして、それは既に終わっている(・・・・・・)のだから。


「おぉ……おおお……おおおぉぉ!?」


 体の中を、命が駆け巡っていく。熱い何かがこみ上げてくる。


「これか? この感覚が……レベルアップか!」


 わかる。ほんの僅かだが、間違いなく強くなっている。これなら、これを繰り返すならば、きっと自分は何処までも強くなれる。限界なく、際限なく、奪えば奪うだけ、何処までも、何処までも高く!


「フッフッ。いいな。凄くいい。私の冒険は、まさにここから始まったということか!」


 これなら、例のでかイノシシを倒す日は、そう遠くないだろう。そのまま力をつけ続ければ、程なくして森を出ることになる。世界を巡り、幾多の戦いを経て、冒険は続いていく。

 時には誰かを助けることもあるだろう。時には何かを壊すこともあるだろう。数え切れない程の存在と関わり、世界にさえ影響を与え、いつかこの手は神へと届き、その話は英雄譚どころか、神話とすら呼ばれるようになるかも知れない。


 その最初のきっかけとなった小さなキツネの話は、きっと何処にも語られないのだろう。骨の意識のなかにすら、最早その存在は無いのかも知れない。

 だが、それは確実にあった、誰も知らない分岐点。


 世界中で知らぬ者のない、骨の男の物語は、今ここに幕を開けたばかりである。

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