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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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骨まっしぐら

2017.3.13 改行位置修正

「アーッ!」


「うむ。そうだな。アーだな」


「ターッ!」


「うむ。そうだな。ターだな。うん」


「ホネー!」


「うむ。そうだ。骨であるぞ。まごうこと無く骨100パーセントである」


 舌っ足らずで甲高い、人によっては気に触るなどと言われるであろう感じの声が、洞窟の中に木霊する。

 むろん、私はそうではない。この声を不快に感じるなどと言われたら、へそで茶を沸かしてしまう。

 ありもしない骨ボディのへそで茶を沸かすのは、きっと創造神でも無理だろう。


 というわけで、骨である。そして骨の膝の上には、子ギツネことケモ子が鎮座しておられる。正直骨の足では固くて痛いのではないかと思うのだが、ケモ子が気にしていないのなら、骨が気にする理由など、微粒子レベルでも存在しない。


 あの後、ケモ子を抱えて洞窟まで戻った私は、そっとケモ子を草原に下ろすと、その足でとって返して例のアロエもどきを大量に採取してきた。その後近くの草をこれでもかとむしり、洞窟の入り口付近の風通しが良く、さりとて雨がふっても濡れないであろうベストプレイスをチョイスして草のベッドを作り、そこにケモ子を寝かせることにした。


 正直に言って、ケモ子の容態は良いものではなかった。かろうじて止血できているだけなのだから、当然と言えば当然だろう。せめて薬草のたぐいを探せれば良かったのだが、ここに来て今まで圧倒的な利便性を誇った骨ボディの致命的な欠陥が発揮されてしまう。そう、生物ではないので、自分の体を傷つけて薬効を確かめるという、いわゆる漢鑑定が出来ないのだ。散々便利に使ったくせに、この時ほど自分が骨であることを恨めしいと思ったことはない。


 薬草も問題だが、やはり最大の問題は食糧であった。まさか油揚げを食べたりはしないだろうし、そもそもそんなものを調達することもできなければ、油揚げが何であるかも曖昧であった。何か黄色っぽい感じのものだった気がするのだが、詳細に関しては不明である。

 まあそれはそれとして、せめてドングリや木の芽などを食べてくれるならまだどうにかなったのだが、私の知る普通のキツネは、ネズミや鳥、兎などと言った小動物を狩って食べる。大量の血を流していることからも、動物性タンパクを摂取することが好ましい。


 が、そのためには当然骨が狩りをしなければならず、その間はケモ子をここに一人きりにすることになる。


 離れるのが、怖い。もし目を離したすきに何かあったら、戻ったときに物言わぬ骸になっていたら、そう考えると怖くて堪らない。

 だが、食事を与えなければ、それこそ緩やかに弱って死ぬだけである。救う手段が片方しか無いなら、迷いはしても止まることなどない。男一匹、骨、決断の朝。


 もっとも、やると決めたからと言って、できるとは限らない。狩りの経験など全くない骨が、遠隔どころか武器そのものがない素手狩りで、野生の獣を仕留められるはずがない。苦戦に次ぐ苦戦。結局何の成果も得られず、しょんぼり帰宅した骨の眼前に、少しだけ呼吸の強さを取り戻したケモ子。


 そっと……15階立てのトランプタワーすら微動だにしない程のソフトタッチで、ケモ子の頭をなでる。野生で生きていただけに、毛の手触りはごわごわで、正直そんなに気持ちよくはなかった。だが、それでも、骨までしみる優しい温もり。それは命。生きている証。


 やる気が骨の奥底からあふれ出す。同時に、頭の方は冷静になる。身体能力で勝負するなど、骨のやることではなかった。勝負すべきは頭。スッカラカンの頭に詰まった人類の英知こそ、私の最大の武器であるのだ。


 であれば、罠である。起き抜けの動物を狙うべく、森の浅めのところに、夜の間に草で輪を作って罠を仕掛ける。が、流石の骨でもこれで全てが上手くいくと思うほど、世の中を舐めてはいない。本命にして、最強の罠。私にしか出来ない、コスト0で使える究極の罠を仕掛ける。それは……私自身である。


 私は、骨である。地面に寝そべり力を押さえ、一切動かずにいたならば、私はまさにただの骨であり、動物的には、そこらの木石と変わらぬ自然物となれるのだ。

 体を横たえ、肋骨を開く。背骨の上に餌となる木の実をまき、そのまま自然と一体となって……待つ。深く静かに、獲物を待つ。


 お、来たな……よし、来い……いや、そっちじゃ、そうそうそう……今っ!


 きゅぽっという音を立てて、開いていた肋骨が締まり、兎を骨ボディの内側に捕獲することに成功する。これぞいつの間にか出来るようになっていた、ちょっと無理目な感じでも骨を動かすことのできる技! その名も……あー、えっと……あれだ。そう! ムーバブルボーン! ムーバブルボーンである!


 そんな感じで、再び大活躍することで見事汚名返上した骨ボディの力と、意外と草でわっかを作った程度でも引っかかっていた小動物などを持って、意気揚々と帰宅。草のベッドに目を向けると……いない。そこに、誰もいなかった。

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― 新着の感想 ―
>トランプタワー 富豪ビルかと思ったらカードか。 >草で輪を作って罠を仕掛ける 別のケモ子が掛ったら手に余るだろうから私が引き取りますね。 >開いていた肋骨が締まり、兎を骨ボディの内側に捕獲 兎さ…
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