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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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そして、骨は帰って行く

2017.3.13 改行位置修正

「お、朝か……」


 眩しいほどの朝日が木々の隙間から差し込んでくるのを感じて、私はゆっくりとその身を起こした。


「明るい。温かい。やっぱり朝日は素晴らしい……」


 流石にここで体操をするわけにもいかず、とりあえず手足を曲げ伸ばしする程度で満足すると、早速来た道を引き返し始める。この様子なら、何かイレギュラーな問題でも起こらない限り、問題なく洞窟へと帰れることだろう。


 それにしても、長い夜であった。いつ明けるともわからぬ、長い長い……だが、まあ、長いだけの夜であった。




 そも、夜中に森で迷子となったら、とるべき行動は何であろうか? そのまま探索を続けて帰り道を探す? 愚策どころか自殺行為である。森の生物を歯牙にもかけない絶対強者なら別であるが、むしろこの骨は、圧倒的に捕食される側である。

 あるいは、アンデッドだから夜の闇でパワーアップする……とかいう素敵エフェクトがあるならそういう選択肢を選んだ可能性もあるが、当然の如くそんな様子は微塵も無く、それどころかお化けとかでそうな感じがして、テンション的には逆にパワーダウンであった。

 骨のくせにお化けが怖いのか、などというぶしつけな問いは受け付けない。骨は黙して語らない。ただそこにあるだけなのだ。

 閑話休題。夜の森における最適行動だが、これはひとえに「その場を動かない」これに尽きる。気配を殺し音を消し、存在を忘れさせる。小動物たちが本能的に行うそれこそが、最大公約数で見る夜の森生存率のぶっちぎりナンバーワンであろう。


 とはいえ、これは言葉にするのは簡単でも、実行するのはかなり難しい。何故なら、生き物ならば当然行う生命活動の維持……呼吸や排泄にしかり、体温保持のための火の必要性など、完全な隠密性を保つのは、それこそプロの狩人でもなければなかなかなしえることでは無いのだ。


 だが、そこは骨である。骨は呼吸などしていないし、夜中に目覚めてトイレに行くこともない。暑さも寒さもよほどでない限り骨には影響しないし、身じろぎ一つしなかったとしても、床ずれを起こすことも無い。

 骨はただ、骨のままに。木にもたれ掛かって座り込み、BPを最低限まで絞り込んだら、何処にでもある白骨死体の振りをして過ごすだけで、世界最高クオリティの隠密具合を発揮できるのだ。ああ、素晴らしきかな骨。昼に続いて夜の森でも、その圧倒的なポテンシャルを見せつけてしまった……


 ということで、ただぼーっと過ごしていたというのが、夜の森における行動の全てである。ハイドアンドシークなスペクタクルもなければ、うっかり迷い込んだでかイノシシの巣で芽生えた、ライバルとの意外な友情などというものもない。

 冒険が許されるのは主人公だけであり、骨に許されるのは死体ごっこだけなのだ。


 ちなみに、問題なく帰れそうというのは、森歩きの素人であるが故に、通ってきた道がわかりやすく荒れているからである。しょぼい暗視能力程度で夜の森を移動するのは無理だったが、昼間であれば来られたのだから帰れもするだろう。


 若干残る慢心を胸に秘め、それでも何事も無く歩き、進む。特別なイベントなどというものは、平凡な骨には無縁の存在なのだ。

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