闇の底より生まれ出づる
2017.3.13 改行位置修正
暗い……暗い……ひたすらに暗い……
目の前には、ただ暗黒のみが広がっている。いや、比較するべき光のある光景が一片たりとも存在しないのだから、ひょっとしたら目が見えない、あるいは視覚そのものが存在しないなどという可能性すらあるが、どちらにしろ何も見えないという事実は変わらない。
暗い……暗い……そして狭い……
手も足も、感覚は存在しているのに、動かすことができない。どれだけ力を込めても、微動だにしない。全身を隙間無く、ぴっちりと覆われているというか、埋まっているというか、これもまた「そんな感じ」というだけで、確証など何も無い。ただ体が動かないという事実があるだけで……いや、全く動かないというわけでもなさそうな気がする。何かこう……指の先くらいなら少し動く……か?
もぞもぞと、指を動かす。その度何かがほんの少し崩れる気配がして、ほんの少しだけ動かせる範囲が広がる。
これはいけるか?
ゆっくりと、だが少しずつ体が動くようになる。それなりに時間がかかっているはずなのに、何故か焦りのようなものは感じない。閉塞感こそ感じるが、息苦しいなどの感覚は無いし、腹も空かなければ喉も渇かない。眠くもならないし、そもそも疲れすらしない。そして、それを疑問に思わない。
動かす。動かす。終わりに向かって、始まりに向かって、動かす。動かす。動かし続ける。
そうして遂に、指先が何も無い場所にたどり着く。その瞬間、一気に周囲が崩れていく。
光が差し込む。風が吹き込む。初めて感じる懐かしい感覚に、崩れゆく何かを必死にかき分け、外へと這い出す。
「で、出た! やっと、外に……」
万感の思いを込めて頭を出したその先に広がっていたのは……暗闇だった……




