1つ目の出会い
1
「お前の瞳は、この世界をどう映している?」
突然私の前に現れた男が問う。
「…俺は、綺麗だと思う。でも、汚れているとも思う。」
矛盾している。意味がわからない。私は答えずにただその男の声をを聞く。
「…なぁ…椿……。俺と一緒に、来てくれないか?お前の力が必要なんだ。」
「は?」
なぜこの男は私の名を知っている?会ったことがあるのか?いや、ない。顔に見覚えがない。声も、聞き覚えがない。
「どちらさまですか?」
そう尋ねると、男の表情は曇った。
「噂は本当だったか…。」
「噂?」
「いや。こちらの話。橘 悠、俺の名前。」
「橘、悠。」
「あぁ。……いつかまた、会いに来る。」
その強い瞳を知っている気がした。
「もう、会うことはありません。」
「言い切らないほうがいい。」
「いいえ、断言します。私、ここから消えますから。」
「それでも見つけ出す。」
「……ストーカーですか。」
「その趣味はない。」
そう笑う、橘 悠の顔は優しかった。こいつは何者なんだろう。まぁ、考えるのはやめよう。そんなことは時間と体力の無駄だ。
「じゃあ、また。」
そう言って橘 悠は飛んで行った。
2
「あの女を見つけた。」
桐谷 真琴からそう告げられた俺は、すぐに示された場所に向かった。着いてみるとそこは、古びたガレージだった。
いきなりガレージへは行かず、観察するため近くの高層ビルの屋上へ飛んだ。すると、ガレージの上に小柄な人と大小の獣が見えた。
「獣……。」
獣使いはあまり多くない。しかも2匹の獣をあつかえるというのは、相当な腕だということだ。
首にあったヘッドホンを装着する。
「ソリッドモード。」
オレンジのラインが入った白いヘッドホンが現れる。それのスイッチを入れ、通話モードをオンにした。
「近くまで行けたみたいだな。平気か?悠。」
機械越しに真琴の声が聞こえる。
「あぁ。今から飛ぶ。」
「了解。」
通話モードをオフにする。
「エアモード。」
ヘッドホンに触れながら呟く。それは姿を消し、代わりに耳の周りを空気が優しく包む。
深呼吸をする。そして、コンクリートを蹴る。一直線に飛び、静かに着地する。ガレージの屋上に足をつけた瞬間、ぎょろりと獣たちの4つの目がこちらを向いた。そして、その主であろう彼女がゆっくり振り向く。
「何か用ですか?」
驚くほどに冷たい。俺に向けられた全てが鋭く俺に突き刺さる。それでも、俺は伝えたいことがある。
「お前の瞳は、この世界をどう映している?俺は…綺麗だと思う。でも、汚れているとも思う。」
俺は、お前の力を借りたい。ただそれだけ。そうすれば、この世界を、壊すことができる。