承-05
美味しいとは決して言えない――とはいえ、美味しくないとも言えるわけがない自家製茶(ラベルは剥がされ、キャップも未開封ではなかったので、おそらく容器の使い回しだと思う)を飲み終えると、私は広いリビングの真ん中に立たされた。
相変わらず、これから何が起きるかは分からない。説明なんて一つもしてくれない。
だけどそれでも、私は統堂さんに従うしかなかった。
だって、この人は本物だから。
さっきの言葉――右肩にへばりついてるソイツ、で私の怒りは一気に冷めた。それどころか、寒気すら感じた。
今、ここに、誰かいる。
その事実が、私を凍りつかせた。そして、妙に冷静になった頭で考えてみれば、もう一つの事実が浮かび上がってきた。
……さっき私、肩としか言ってない。
確かに今も、私の肩には手形が残ってる。そしてそれは統堂さんの言った通り、右肩。
だけど手形は服の下で、統堂さんがそれを知ることはできなかったはずだ。
つまり、それを言い当てたということは――
「まぁ、無理だろうけど、あんまり緊張すんな」
指示通り、ただ黙って立ち尽くす私に、向かい合う統堂さんはそう声を掛けてくれた。
だけど、今はその気遣いが怖い。今まで通りバカにしてくれたほうが、逆に安心する。
――俺が何をしようとアンタは黙って動かなきゃ、それでいい。
統堂さんからの指示はそれだけ。今のところ、儀式らしいことなど一切ない。
だけど、この人は本物の専門家だ。全てを任せれば大丈夫。
……だから私のこと見守っててね、おばあちゃん!
スマホのストラップ代わりにつけたお守りを、ギュッと強く握りしめる。
そしてそれを合図にしたかのように、統堂さんは声を上げた。
「よし。それじゃあ、始めるぞ」
グッと一歩、統堂さんが私に近づく。
目を瞑っていようと思ったけれど、何も分からない怖さに負けて、それは失敗した。
だから二歩目、統堂さんが上体を大きく捻ったのが分かった。まるでスローモーションのように、世界がゆっくりと進んでいく。
だけど次の瞬間、『それ』はもう目の前にあった。
避けることはもちろん、目を瞑ることすら間に合わない。
そしてそのまま、
「――そぉいっ!」
ドンという激しい音と共に、私は殴られた――
「……! ……、……!?」
――わけではなかった。
私は同じ体勢のまま、そこに立ち続けていた。統堂さんの拳は私の右頬をかすめ、宙を切っていただけだった。
……いや、それじゃあ、今の音は!?
ほとんど反射的に後ろを振り返る。すると壁に打ち付けられたかのように、そこには髪の長い女性が一人。
私たち二人しかいなかった部屋に、いきなり現れた女性。
それは紛れもなく、あのときヘッドライトに映し出された女性だった!
……と、多分普通ならそれで恐怖を感じるんだろう。そういう場面なんだろう、ここは。
しかし幸いと言うべきか、残念ながらと言うべきか、今の私にそんな余裕はなかった。それ以上に恐ろしく怖い気配を、背中で感じ取っていたから。
「さぁて、たっぷり話を聞かせてもらおうか、バカ幽霊」
再び振り返れば、ゴツンゴツンと拳を打ち鳴らしながら笑う統堂さん。
どうやら本当に怖いのは、生きている人間のほうみたいだよ、おばあちゃん。
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