承-04
黙々と歩く統堂さんの後を追い、辿り着いたのは高層タワーマンションの一室。
それも最上階のワンフロア丸々という、テレビでしか見たことのないような空間が、目の前に広がっていた。
「あ、あの……ここは?」
昨日や一昨日とはまた違った恐怖から、私はそう尋ねた。
こちとら至って普通の一般庶民だ。こんな場所、そう気楽に踏み込めるわけがない。雰囲気にビビるに決まってる。
でも統堂さんはさも当たり前のように、そしてやっぱり少しキレ気味に、こう答えた。
「はぁ? 俺んチに決まってんだろ」
いやいやいや、別に決まってはいないだろう。
確かに統堂さん的には当然のことなんだろうけど、知らない人からすればここはただのVIP空間だ。しかも、ここまで何の説明もしてくれなかったし。
というか統堂さんの格好から、誰がこんなセレブ住まいを想像できるというのか。
だけどそんなことを言おうものなら、またバカにされるに決まっている(これに関しては決まりきっている。絶対的確定事項だ)ので、私は別の感想を呟いた。
「へぇ……私、霊能力者の方のお家って、もっとスピリチュアルな感じだと思ってました」
あちこちにお札が貼ってあったり、祭壇やら水晶やらが置いてあったりと、それっぽいもので溢れているものだと想像していたけど、実際はそんなことはないらしい。というか、そういった類のものは何一つ見当たらず、適度に生活感がありながらも、まるでモデルルームのように整った綺麗な部屋だった。
案外この人、キレイ好きなのかもしれない。
なんて、統堂さんを見直したのも束の間だった。
「はぁ? アンタ、本っ当にバカだな。俺は霊能力者だなんて一回も言ってねぇだろ」
「え? いや、だって、こういうことの専門家だって先輩が……」
「専門家イコール霊能力者なわけねぇだろ、バァカ。バカな頭でも少しくらい使え、バァカ」
「そ、そんなにバカバカ言わなくても!」
「はぁ? バカにバカって言って何が悪ぃんだよ? 何にも知らないようだから特別大サービスで教えてやるけどな、俺たちのコレは『能力』じゃねぇ、ただの『欠点』。一種のアレルギー体質みたいなモンだ。真っ当なヤツには何の影響もないモンに、俺たちはガッツリ影響を受けるってだけの話」
――だから、霊『能力』者なんて名乗ってるヤツはなぁ、俺に言わせりゃ全員ド素人か詐欺師だ。
そう言いながら、リビング横のカウンターキッチンへと向かう統堂さん。
そして冷蔵庫から500mlのペットボトルを取り出すと、それを手に戻ってきた。
「つーか、その様子だとアイツ、ロクな説明してやがらねぇな……まぁいいや。とりあえず言っとくけど、俺は『交渉人』――お祓いとか除霊とか、そういう乱暴なことは専門外だからな」
「そ、そうなんですか……?」
てっきり、そういうことをしてくれるものだと思っていた。
というかこの人、乱暴なことは得意中の得意な感じがする。それどころか、それ以外は苦手なイメージさえある。
しかし、そんな私の勝手な想像も間違いではなかったようで、
「ま、できねぇわけじゃねぇし、嫌いでもねぇけどな」
と付け足して、統堂さんは続けた。
「だけどこの業界、意外と棲み分けが厳しいんだよ。自分の専門以外のことをすりゃ、それ相応のペナルティがある。だから俺にできるのは交渉だけ。ここから出てってくれませんか、って霊にお願いすることだけだ」
「交渉……」
統堂さんの言葉を、自分でも口にしてみる。
だけど、それがあまりにも統堂さんのイメージからかけ離れていて、どうにもしっくりこない。この人が誰かに――たとえ相手が幽霊であっても――お願いするという姿が全く想像できない。
そしてそんなイメージ通り、統堂さんは半ば放り投げるように乱暴に、持っていたペットボトルを渡してきた。
「ほら、飲め」
「あ……ありがとうございます」
なんだ。いくらこんな人でも、来客にお茶を出すくらいの心はあるんだ。
と、少しでも見直してしまった私は、やっぱり迂闊だった。評価を上げなければ、下げることもなかったのに。
「いいから、さっさと飲め。飲み終わったら、話を聞くからな」
「話……って、え!? やっぱりさっき聞いてなかったんじゃないですか!」
大体分かったなんて言ってたけど、やっぱり何も聞いてなかったんだ、この人は!
散々、人のことバカにしてきたくせに!
直前の評価修正など取り消して、そんな怒りを、ここまで積もりに積もった怒りを、言葉にしてぶつけてやろうと思ったけど、その前に「違ぇよ。落ち着け、バァカ」と先手を打たれ、その計画は中断――いや、中止せざるを得なくなった。
「アンタに言ったんじゃねぇよ」
そう言って、統堂さんは笑う。この人が笑うのは二度目のことだ。
だけど、今度の笑みはとことん意地悪そうなもので、そして、その視線は私のことを捉えてはいなかった。
「俺が話を聞くのは、右肩にへばりついてるソイツからだよ」
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