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終-09



 翌日、私は統堂さんの家を再訪していた。

 個人的には少なくない金額を、銀行の封筒に入れて。


 ……うう、さすがはプロ。依頼料もしっかりとしていらっしゃる。

 まあ、短期のアルバイトでもすれば稼げる金額ではあるが(都心部の時給はすごいね!)、しかし現状、大学や初一人暮らしの忙しさからそれは難しい。

 一応、統堂さんからは昨日、


「別に、分割でも何でも構いやしねぇよ。アンタみたいな小娘から即時徴収するほど、こっちは困窮してねぇからな」


 と言われたものの、やはりお金のことだ。きちんとしておきたい。

 というわけで、来月の仕送りまで徹底して節約するという方針を決め、私は統堂さんに封筒を手渡した。


「……おう、確かに。それじゃあ、コレな」


 封筒の中身をチラリと見るだけで数え終えると、統堂さんはスッとお守りをテーブルの上に置いた。

 それは昨日、別れ際に統堂さんに預けたおばあちゃんのお守り。いつも通り何の説明もなかったけど、どうしても一度預からせてほしいと言うので(本当にこんな感じの比較的丁寧な口調だった)、渡したものだった。


「アンタのおばあちゃん、どうやら俺たちと同じ体質だったみたいだな」

「え? 幽霊が視えたってことですか?」

「視えたのか、聴こえたのか、触れたのか――どの程度だったかは分からねぇけど、少なからずアンタが自分と同じ体質だってことは気づいてたようだな」


 ほらよ、と統堂さんが一枚の紙を差し出してくる。

 白い紙に朱色の読めない文字。だけど隅に黒く書かれた文字だけは何とか読めたので、どうやらどこかの神社のお札だということは分かった。


「魔除けの札。それがお守りの中身だった。まあ、さすがに効力が切れてしばらく経ってるようだが、長年アンタのことを守ってくれてたみたいだな」

「これが……」

「おそらくアンタの体質を案じて、持たせてくれたんだろうよ。そしてそれのおかげで、アンタはこれまで余計なモンを関わらずに来れた。……まあ今回、どこかのバカ女のバカな行動によって、それも台無しになったけどな」

「ぅ……」


 残念ながら、反論のしようがない。まさしく正論だ。

 だけどおかげで、おばあちゃんが私のことをどう思っていてくれたかが分かった。幼かったから思い出はあまりないけど、大切にされていたことが改めて嬉しい。


「とりあえず今、中には代わりの札を入れてある。それなりに強度の高いやつだから、まあ、アンタがババァになるくらいまでは効力は続くはずだ」

「あ、ありがとうございます。あの、ちなみにお札の料金は……?」

「んなもん、いらねぇよ。俺はただ、アンタのおばあちゃんの引き継ぎをしただけだ。礼がしたいなら、墓参りでもしてあげろ」

「……はい」


 今すぐというわけにはいかないけれど、今度実家に帰ったときには、必ずお墓参りに行こう。おばあちゃんが好きだった花を持って。


「あの……ちなみに、B子さんの件どうなりましたか? 私、本当に警察とか行かなくてもいいんですか?」


 昨日は結局、あのまま帰ることになった。それも、統堂さんが家まで送り届けてくれるという好待遇で。

 だけど、そのせいで警察への報告などは一切していない。そういったことは全て、自分の仕事の範囲だと統堂さんが言うので任せてしまった。

 まあ、私はB子さんの車をこの目で見たわけではないけど、しかしそれでも何かしらの義務はあったんじゃないだろうか。

 しかしそんな私を、いつも通り統堂さんは「はっ、バカかアンタは」と鼻で笑う。


「発見に至った経緯をどう説明する気だよ? 当人の幽霊に案内されて発見しました、とでも言うつもりか? そんなもん、とりあえず最寄りの精神科を紹介されるだけだぜ」

「そ、それは、その……」

「安心しろ。B子の一件は昨日、知り合いの刑事に話を通してある。もう今頃、車ごと引き上げられて、遺族にも連絡がいってるだろうよ」

「そう、ですか……」


 良かった、とは喜べない。結果がどうあれ、人ひとり亡くなってしまっている事実は変わりはしないのだから。

 だけど、せめてものことはできた気がする。もちろん、私はその場に立ち会っただけだけど、今回の出来事を一生忘れないだろう。

 ……と、やっぱりそんなことを思ったタイミングだった。


「よし、それじゃあ今回のことは全部忘れろ。もう二度と、俺の前にも現れるな」

「え、ど、どうして……」

「今回の件で分かっただろ。こっち側に関わるってことは、もう終わってる話に首を突っ込むってことだ。救いはねぇし、救いようもねぇ。だからアンタは戻れるうちに、真っ当な世界でせいぜい真っ当に生きてくこった」


 ――それに何より。

 そう言って、統堂さんは笑う。

 最高に人を小馬鹿にした、最低の笑顔で。


「俺は人間が嫌いなんだよ――生きてるほうも、死んでるほうも。どいつもこいつもバカばっかりだ。だからこれ以上、俺につきまとうな、バカ女」





 数日後、新聞の片隅に小さな記事が載った。

 崖下に転落した車中から、白骨遺体を発見。事故の可能性が高いとして、警察は捜査を進めていくそうだ。



 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

『もしも幽霊に遭遇したら、とりあえず右ストレート』という自分の夢を叶えただけのライトホラーでしたが、お楽しみいただけたでしょうか?

 楽しめたよーとか、思いのほか怖かったよーとか、私だったら左フックでアゴを狙うよーとか、ご意見・ご感想など頂けると嬉しい限りです。

 ではでは♪

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