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俺の刑罰、市中引き摩り回し

 逃げたゴブリンの犯人を追っていた村人達が、目の前の俺達を見て足を止めた。

 ゴブリンが増え、何故か仲間割れをしているように見えたのかもしれない。その偏見を打破するべく、俺は気絶した不届き者のゴブリンをその場に突き出し言葉を話す。


「コイツはアンタ達の作物を盗んでいたゴブリンだ。俺自身はこの村に危害を加えるつもりは無い。俺まで悪さをしているという濡れ衣を撤廃する為、コイツの弊害を止めに来てやったぞ」


 流暢な話しぶりに、集まってきた村人は顔を見合わせる。反応を見るに理知のあるゴブリンというのは、この盗人を基準に考えると相当高く珍しいのだろう。

「それで、だ。コイツを更生させたいから俺に預からせてもらいたい。もう悪さをさせねぇようにする。それでも懲りずに続ける気ならその時こそアンタ達につき出すから、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 話が出来る。それだけでも偏見の目は拭えずとも互いに無駄な争いは避けられる。

 それにゴブリンがゴブリンを止めるという自浄作用を注目してくれれば、俺達の見る目だっていくらか変わる希望だってあるだろう。


 まぁ、最悪このまま話を聞かずに追い出される形でも良い。ただ、無害である事を表明すれば今後村関連で俺を討伐しようとする可能性は格段に減る訳だ。

 という点が、俺の想定なのだが、計算外な横槍と情報の確認漏れがあった。


「貴様は魔物だ。それだけでも害となりうるだろう」

 村人はその声に振り返り、道を譲る。左右に開いた人波から姿を現したのは、あの馬に乗っていた甲冑の男達だった。


 先頭の一人だけ飾りが一際派手な男が後列に昏倒するゴブリンを拘束する指示を送り、俺に踏み込む。

「それに、仮に実行していたのがそやつだったとして、貴様がグルである可能性も否定出来まい。濡れ衣を着せて偽善の自作自演か、ゴブリン風情が何処で猿知恵を付けた」


「おいおいおい。待て待て待て。俺は不毛な争いは嫌いなんだ」

 不味いな。騎士が駆けつける線を想定していなかった。たとえ村人と話し合えなくても、この足の速さなら何とかなると考えていた。


 だが向こうは馬を連れてこの村に来ている。それで追われれば、流石に逃げ切るのは無理だろうな。ああクソッ、感情的に動いた事が失敗だった。


「俺がそのゴブリンと仲間だって言うならわざわざ止めになんて入る必要無いだろうよ。村の連中に取り入るのは難しいのは分かりきってるんだ。そんな望みの薄い事をしてまで万が一交流が出来た後に悪さをする理由は一体何だっていうんだ」


「人間の論理をさえずるな化け物。そこまで人を真似たいのなら人と同じ罰を処してやる」

 ダメだ話が通じないぜ。頭が鉄で出来てるのかって思うくらい俺を人類の敵としかみなしていない。


 微かに後ずさる。俺の知る村の出口は反対側。このまま後ろに走れば未知の領域。建物の屋根を跳んで引き返すか? 気絶したゴブリンを抱えてまで逃げられるか? どちらにせよ、深い森に逃げ込めれば追っては来れまい。


「功栄の至りだが、ご遠慮……」

 死角に影が踏み入れられる。一瞬の隙を突いて俺に迫る騎士の隊長と思わしき人物。


 石器の斧を反射的に背中から取り出すも間に合わない。だがそのおかげで俺の身体は無事だった。斧が身代わりとなって破壊される。

「ぐ、わっ!」


 一太刀に次いでガントレットをした徒手の一撃が俺の腹部に撃ち込まれる。金属の拳が臓器を押し出し、俺は地面で悶絶する。

 早過ぎだろ。攻撃も、決着も。武器を封じ、動きも最低限の物で奪われた。レベル差の暴力だ。


「ふん。下等の癖に抵抗など考えるからだ」

 俺は呻きながらも隊長格の男の素顔を見上げる、彫りの深い顔に宿る青の瞳は俺を虫けらを踏みつけたみたいに見下していた。


 そのまま俺の両手首はロープに縛られ、隊列の真ん中を歩かされる。その行進に村人は口を寄せて見物していた。道具と残りの武器は没収。どうやら俺は別の街まで連行されるらしい。


 あの実際に盗みをしていたゴブリンの姿が無いので別の騎士に尋ねたが、

「お前が知る必要は無い」


 身体と一緒に一蹴された。あーもう口も利けないのか。色んな意味で野蛮な奴だ。

 もしかしたら、本当に魔が差しただけで。二度と同じ事を繰り返さなかった事も考えられたのに。

 出入り口にまで歩いた後、騎士隊の面々が次々に馬に乗り俺だけが地面に立たされている。


「俺だけ歩きかよ。でも、それじゃその町まで俺の歩くペースだな。日が暮れるねぇ」

「そんな訳ないだろ」

 憎まれ口を叩くが全く意に介さない。というか、どういう意味だ?


 俺の手縄の先だが、現在馬一頭の腹に括り付けられている。歩いている内に爪で少しずつ切って脱出しようとした考えが、不可能だとその意図を知り理解する。


 一斉に騎士達の馬は駆けだした。そして俺の縄を結んだ馬も、俺に構わず走り出す。

 当然俺はそれに引っ張られ、その勢いで転倒する。だが誰も目もくれず俺は馬の縄に引かれて地面を引きずられた。


「おごごごごごごごごごごごごご!」

 タンマ! タンマ! と叫びたいが無数の蹄の音が邪魔をする。俺の全身は土をなぞり、時に岩に当たって跳ね上がる。

 これは拷問だ。常に刑罰は始まっている。てか、死ぬ!


 数十秒の間に経験した苦しみに、俺は数時間の移動を加味してこのまま街まで持たないと悟った。これも立派な処刑法だ。

 何としても生き残る方法は無いか。鎧ならまだしも、服では意味が無い。ゆっくりと地面に削られてしまう。


 両手はしばられ、手首もロクに動かせないので縄を切れない。無抵抗の状態だ。

 不味いな、どうしたら良い。生き残る為、苦痛の中で頭を総動員させた。俺は唯一の闘技とうぎを叫ぶ。


「こ、ここ、こここ硬御こうぎょ!」

 硬直して倒れている形となった俺は、地面に打ち勝つ程の硬度を手に入れる。見えない鎧を身に纏う程の防御力を得た。痛みも無くなる。一先ず助かった。


 闘技:硬御こうぎょは使用中動けないというリスクがある。裏を返せば動けない間であれば、俺は脱がせない鎧を身に着けていられるという運用に気付いた。

 とりあえず、街に着くまで俺はこのまま硬御(こうぎょ)を続ける事にした。この技はMPも使用する事なく、自分の意思で持続し、解除する事が出来る。



 一時間は経っただろうか。そうして刑罰を耐え抜いた俺が地面に引き摺られる形で運ばれた先は、あの村とは比べ物にならない城下町だ。城があり、屋根瓦のある家と、煉瓦の舗装された道の前で馬達は止まる。


 そこまで来て俺は闘技(とうぎ)硬御(こうぎょ)を解除し、自分の足で立ち上がる。

「ふぃー。ひでー目に遭った」

 此処までの刑罰を普通に耐え抜いた俺を、隊長はいぶかしむような視線を一度向け、令を出す。


「教会に連行しこのゴブリンに秘跡ミサを行う。そして裁量を下す」

 歩け、と促される俺の姿に、街の人達が見世物小屋へ入れる珍獣を見物するように集まってくる。この容姿をある者はさげすみ、ある者は嘲笑あざわらう。見世物じゃねーんだぞ。


 十字架が屋根に意匠いしょうされた大聖堂に騎士達と入ると、黒の修道服に裾が大きな頭巾、そして首元にロザリオを下げた集団が迎えた。

「ペンドラゴン卿。その亜人の方を連れて何用ですか」

「亜人では無い。魔物だ」


 代表と思わしき修道女の問いに、ペンドラゴンと呼ばれたあの隊長騎士が鼻を鳴らす。

「近隣のコルト村にて我が国に献上する作物を荒らしていたゴブリンがいて、扶助していた疑惑があって連れて参った。秘跡ミサをしてもらいたい」

「と、申しますと。まだ悪とは決まっていないにも拘わらず、そのような真似は神はお許しになりません」


「そうだった。これは頼み事ではなく、命令だ。私は神と主君の御意思で動いている。人を傷付ける魔物は、平等に罰しなくてはならない。そして魔物を滅ぼす事が我らの使命」


 どうやら、この騎士は相当偉い立場の人間のようだ。教会の人々を権力で突き動かしている。

「……わかりました。これはあくまで、魔物と関わりを持ったであろうこの方の為」


 そしてシスターは俺の前にやって来る。何かを窺うようにして、呟く。

「この者のLVは8に相当いたします」

 酷く驚いた。スクロールも使わず、俺の顔を見てこの修道女は俺のレベルを言い当てた。そして、その呟きを意味するものとは。



秘跡ミサは終わりました」

 何か呪文めいた物を唱え、俺の周囲に白い光が飛び散った後、彼女はそう言い終える。


 何をしたんだ。特に俺に体調の不良は無い。ただ強いて言えば、怠くなった。以前より軽かった筈の身体に、重りがまとわりついたような感覚が包む。

「意図が分からんようだな」


 ほくそ笑んだ騎士ペンドラゴンは傍らで言った。

「貴様のLVは今、1だ」


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