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俺の同族、出逢う

 思った以上にうまくいった。老人に扮して馬鹿二人組の身ぐるみを剥ぐ事が出来たのは良い収穫だった。命を奪おうとしたんだ、それくらい奪っても構わないだろう。村の近くの道に縛り付けたぐらいで済ませたのだから感謝してほしいくらいだ。


 俺は奴等が持っていた荷物と装備を拝借している。持っていたのはまず干し肉とパン。コンパスにナイフ。動物の胃で作られた水を入れる用の水袋。

 そして武器。


 鋼の長剣 攻撃+6 効果 なし

 木の弓 攻撃+4 鉄の弓矢12本 効果 なし


 原始的な石器の斧よりも断然良い。とりあえず剣の方を装備する。

 

グレン:LV8 ★

 職業:戦士 属性:土 HP:37/37 MP:10/10

 武器 鋼の長剣 防具 旅人の皮服 装飾 なし

 体力:37 腕力:21 頑丈:18 敏捷:29 知力:16

 攻撃力:27 防御力:21


 眺めた後、スクロールを閉じて俺は老人の変装を続けた。

 冒険者達を欺く事が出来たこの変装。この緑の肌を隠すのに粘土の土を溶かしてメイクをするように塗っていた。するとその肌は日焼けをした老人に見えなくもなかった。そして毛皮を使って付け髭と付け眉を作り、素顔を隠し、あとはフードなどで厚着をする。


 そうして小柄な体躯で腰を折って歩けば、一応は老人の変装の完成。これが何処でも通じるか否かを確かめるのに、まずあの二人をターゲットにした。


 実験は成功。これなら人に間違えられて、村にも入れるだろう。情報収集の為には、村にはいつかは入らなければならないと考えていた。

 道のりを老人の姿を真似て俺は、ごく自然を装い歩く。


 以前俺を見るなり逃げ出した馬車が通ったが、何も気にせずすれ違う。俺をゴブリンとは思ってもみないようだ。


 それから後ろから、今度は馬に跨った隊列が俺を追い越していった。銀に光る甲冑鎧を纏い、屈強な男達が先に村まで過ぎ去っていく。老人姿の俺には全く目もくれない。


 絵に描いたような騎士の軍隊の横断だ。数にして10騎が村へと駆け抜けていく。あの村に何か用件でもあるのか? 外観からでしかきちんと見ていないが、そこまで人のいる所でも無い。


 まさか件のゴブリン騒ぎに討伐せんと依頼があったのか? 騎士って存在は、小さな村の問題に大勢で戦力を投入するような戦闘集団だというのは知らなかった。そしたらヤバイな。あの冒険者達とは比べ物にならない。


 だがそれは流石に考え過ぎだろう。だったら村で過ごしていたあの冒険者二人組が先に俺という獲物をかっさらって騎士に喧嘩を売るような真似はしないだろう。2人が失敗した為に、村の連中が代わりに騎士を寄越したのなら矛盾している。たった一時間で罠に嵌めた事情を把握し、騎士を呼び出し、そして駆けつける展開は早すぎる。


 何にしても、その情勢を知っておかないと後々自分が危うくなる。村で知るべき話の内容が増えたそうだ。

 そうして、俺は木の柵に囲まれた村の入り口にまで辿り付く。


 実はこちらの変装はしっかりバレていてのこのこやって来たところを捕えるべくして騎士が入り口で待ち構えている、なんて事もなくすんなり中にまで入れた。

 木で作られた家が並ぶ集落で、そこに住んでいる村人は特に不審な目を向けなかった。よし気付かれてない気付かれてない。


「おや爺さん、ここらじゃ見かけない顔だな」

「んー。そうだのう。此処には初めて来たわい。珍しいのかの?」

「あんまり年寄りでこの村にやって来る人は滅多にいないんでな」

「そうかもしれんなぁ。儂のように歳を食って旅する物好きは中々おるまいて」


 通りがかりの農夫らしき男に声を掛けられ、俺は老人の口調を真似て答えた。どうやら、よそ者が来る事自体は珍しい事では無いようだ。

「それでな、旅の途中で此処の近くまで来ていたんじゃが、村の外ですれ違った若い冒険者からこの村の騒ぎを聞いての。儂ぁこのまま外にいたら襲われないかと心配で心配で詳しい話を聞きに来たんじゃ」


「ああ、ゴブリンの話か」

 男の顔つきに憎さが反映される。目の前にいるという意味では正しいんだが、そう俺を睨まないでくれ。

「本来この周辺にいる魔物ってのは森の奥地にしか出ない筈なんだが、村にそのゴブリンの野郎が現れた。先月くらいからだな。夜な夜な畑の作物を食い荒らしたり、備蓄していた食糧庫に忍び込んだりして大迷惑してたんだ」


 先月? その時系列の食い違いに俺は戸惑った。

「常習的に、悪さをしておったと」

「しかも逃げ足が早くて困ってたんだ。それでついこの前、村に来た冒険者の二人に事情を話したら奴を討伐してくれるって請け負ってくれたんだ。無償でやってくれるなんてすげぇ良い人達だよ。直にあの腐れ豚の生首を持ってきてくれるさ」


 その2人組の現在の姿を想像しながら、俺はほうほうと相槌を打つ。やはりアイツ等は村の依頼を受け賜り、俺を狙って森を捜索していたのか。しかし、どうも不自然なのは常習的なゴブリンの話だ。


 俺がこの村を訪れたのはあの時一度っきりだ。ましてや畑泥棒や食糧庫に忍び込むような真似はしていない。あーでも、それも今思えばその手があったかと自分の盲目さを責めたい。

 もしかしたら、これは仮定だが、俺の他にもいるという事だな。


 そう考えると、少し頭に熱が入る。俺はまんまとそいつに濡れ衣を着せられ、そして命を狙われたのだ。もしかしたらそれが無ければこんな目に遭わなくて済んだのかもしれないのだから。


「ゴブリンが出たぞー!」

 後ろから胸を矢で射抜かれるような声が耳を打つ。俺の身は凍り付いた。遂に正体に気付かれた、と俺は青ざめる。


 ちくしょう! 何処でしくった。縛っていた冒険者達が戻ってきたのか。くそう、もっと強くしておけば良かったな。


 という杞憂は、別の声で理解する。

「あっちから追え! ウチの野菜盗りやがった!」


 俺が身を強張らせた理由を、ゴブリンが村に出没した事に恐怖を覚えたと思ったらしい。


「爺さん大丈夫だ、すぐに追い払える」 

「ん、儂行くわ」


 俺は声が導く方へと腰の曲がった老人らしからぬ速度で走った。突然行動を起こし、俺に置いて行かれた農夫は唖然としていた。


 集落の奥で俺と同じ新緑の肌が見えた。住居の裏を走り、追い立てる村人を抜かして俺はその姿を追う。


 地面を跳び、屋根伝いにその姿を捉える。あれ、俺の身体ってこんなにも身軽だっただろうか? レベルが上がって備わった高い敏捷のおかげか。


 そうして、高い所からの俺とそのゴブリンとの距離を詰め一気に襲う。

「ギャヒッ!?」

 大根を抱えたゴブリンが驚いて転がる。俺の跳び蹴りが命中した。そして目の前に立ち塞がる。


「テメェかぁ。村で悪さしているゴブリンってーのは」

 声を荒げ、俺はそのまま詰め寄った。ぼろきれだけを纏ったゴブリンの胸倉を掴み上げる。


 俺自身が興奮していたのもあったが、やられる気はしなかった。小動物もそうだが、逃げ足の早い奴は捕まった時点で終わる。


「ギギ、オマエ、ナニスル」

 苦しげに呻きながらもゴブリンは言語を話した。片言で俺とはくらべものにはならないが、知性はあるみたいだ。


「何を、だと? 分からないのか?」

 俺は土気色のメイクを服で拭う。するとゴブリンの表情は驚きに変わる。そりゃそうだ。同族が邪魔をするんだから。


「お前が村に被害を与えるせいで、俺まで命狙われてるんだ。しょっぴいてやるから、覚悟しろよな」

 こんな悪さする奴と、仲間とも思われたくもない。コイツを突き出して、俺は善良だというのを示す。そこまで考えて俺は行動に出た。


「マ、マテ。コレ、シカタナ、イ」

「ああん?」

「イキル、タメ。オマエ、オレ、オナジ。ワカル?」

 生きる為にはこうするしかない。ゴブリンは僅かな知能ながら、詭弁を使い出した。


「コノ、ヤサイ、ツクッタヤツ。イヤナ、ヤツ。ドウブツ、イジメテタ。ネコ、コロシテタ。コレ。シカエシ」

 この世界でも無用な殺生はきっと好まれない。食べる気も無いのに、生き物をなぶりあるいはいじめて殺すような奴は悪人だ。


「成程な、つまり悪い奴は悪い事をされたって仕方ないってお前は言いたいんだな? ふうむ。そしてそれでしか生きられないならなぁ」


 ニタニタと俺よりさらに小柄なゴブリンは、不気味に笑って救いを求めていた。きっと同情と共感をした俺が味方になってくれると思ったに違いない。

 だから知性が低いな、俺はそう断定する。コイツは別に猫を虐めるのが許せないんじゃない。ただ自分の欲を正当化してるだけだ。

 俺だって此処数日森で暮らしていたが、別に村から何も盗らなくたって平気で生きてこられた。ただの怠慢だ。


「じゃあ、俺はお前のふざけた真似を邪魔しないとやっていけないんだよ。良いよな? 恨まないよな? だって悪さをしてる奴は何されても文句言えないだろ? 例えば、同族を売ったりとかしても、な」

「ギッ!?」

「だが、俺はお前とは違う。このままつき出してやっても良いが村の連中にやられて命はなくなる。それじゃあ負の連鎖だ。だから、お前をしばいて二度と悪さが出来なくなるまで仕置きをして許してやる。学ばせてやる」


 崩拳ほうけん。されど手加減した一撃が、ゴブリンを気絶させる。まさにザ・羅生門を俺はこのロクデナシに叩き込んでやった。

 


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