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俺の検問、逆転差別

 野営と休みを入れながらの大陸横断は続いた。道中、何度も様々な魔物との遭遇もあったが、最低限の戦闘で済ませる。それで経験値も十分に獲得した。


グレン:LV25(+17)★

 職業:戦士 属性:土 HP:169/178 MP:67/75

 武器 鋼の長剣 防具 蛇竜鱗の鎧・籠手弩 装飾 聖ロザリオ

 体力:178 腕力:128 頑丈:97 敏捷:142 知力:81

 攻撃力:134 防御力:129


 鍛錬と二桁に及んだ周回レベル補正、魔力修行等をおおせた事でスクロール羊皮紙に記載される数字も立派になって来た。というか、跳ね上がった。やっぱり土台を固めた事が一番影響が大きい。いっぱしの冒険者を名乗れるだろうか。


 日が暮れ始めた頃、幾度となく地形の変わる大地にようやく人の手が加わった建造物を拝めることが出来た。


 鉄の城壁に囲まれた砦の様な光景は、その大陸の魔物の危険さを物語っている様だった。アルデバランの城街と比べても堅牢さには天と地の差がある。

「あれがベナトの街、じゃ。見ての通り、内陸の魔物の脅威から守る為に非常に堅固な壁を築いておってのう。四つの門のどれかから入らねばならぬ。もちろん検問を通ってな」

「ちょっと待ってそれゴブリンの俺じゃ門前払いされちゃうんじゃないの?」

「行けば分かると思うが、それは無いじゃろう。亜人ならば問題なかろうて」


 リューヒィの言葉に引っ掛かりを覚えながら、俺達は街の前にまで馬竜と移動する。

 そこで待つ存在に最初は目を疑った。しかし、案内人の彼女が敵ではないと言うので恐る恐る近づいた。


「止まれ人間。我々の許可無しに街へは入れさせない」

 俺達を引き留めた二人……いや二体の憲兵は人の姿をしていなかった。鎧だけでなく緑鱗を身に纏う亜人。蝙蝠こうもりの様な飛翼を畳み、鱗と同じ色の尻尾が垂れている。

 人と同じ背丈と骨格ながら、頭部は竜そのもの。角も生えている。

 そんな獰猛な外見とは裏腹に、憲兵は流暢に人の言葉を話した。


 竜人の憲兵。状況からして、信じられない事に彼等が入り口を守っているのだ。

「リューヒィ。ベナトは人の街じゃないのか?」

「いいやそうではない。ドラヘル大陸の人間は、基本的に竜人達に管理されておるのじゃ。だから人のいる所でも彼等がおる。珍しい事じゃありゃせんよ」


 そう言いつつも、俺達は検問を受けようとする。何もやましいことは無い筈だ。

「そこのゴブリン、貴様は何処から来た? 目的は何だ?」

「あー、ルメイドって大陸から渡航して来たもんだが、ちょいとこの街の大工を頼りにな」

「そうかゴブリン、貴様を街への入所を許可しよう」

「アレ? 良いの? 自分で言うのも何だけど俺怪しくない!?」

「言語を解するほどの高度な知能を持った亜人だ。それならば逆に信用が出来る」


 おや、厳つい外見と違って話が分かる。ゴブリンになって見知らぬ街なのにこんなあっさりと快く引き入れてくれたのは初めてだ。

「そっかそっか。んじゃあ皆入ろうぜー」

「待て。まだ許可をしていない」


 竜人は俺の後ろにいる皆を阻んだ。

「え? 俺は良くて何でこいつ等はダメなの?」

「竜の国の領土の人間は我々の管理下にある。商人の様に移動許可の書状はあるか? 移民なら申請の証書は無いのか?」

「あ、ある訳なかろう! 我らは外部の人間だぞ! そんな物何処から貰えるというのだ!?」


 ヘレンの言葉に、竜人の裂けた顎が歪んだ。煩わしそうに。

「人間のよそ者が気安く立ち寄れる街なのではない。何の許しもないまま入ろうなどとは笑止。失せろ」

「そ、そんなの横暴ですよ……リューヒィさんからそんな事……」

「そうだろうな。この街での戒厳令による取り決めはまだ日が浅い。しかも近くにワームが出没した故、街の内部の人間を出さぬ様にしている。知らぬのも無理はない」


 ワームと言うと、あの三頭のドラゴンか。ベナトの街でも警戒していたみたいだな。


「お引き取り願おう。よそ者による外来の文化など、尚管理体裁を乱す」

「だが、それでは私達は元の大陸に戻れない。もしどうしても街へ入れないのなら、せめて大工の者に取り次ぎを願えないだろうか?」

「言ったであろう。管理している上、戒厳令を敷いているので街の人間を連れ出すわけにもいかん」

「安全という意味なら大丈夫だ。護衛は私達が引き受ける。それにそのワームなら既に討伐しているんだ。だから、頼む」

 レイシアは食い下がる。必死に説得しようとするも、


「くどいっ。その様な嘘か真か判断しようもない戯言をぬかすな人間が」

 口腔の牙をむき出しに竜人が唸った。彼女の嘆願も容易く切り捨てられる。


 頑として拒絶する憲兵達。俺はこの構図を良く目の当たりにしていた。何よりの当事者として。

 差別。普段であれば真逆で、人間側が亜人を自分たちの都合で冷遇して来た事情だ。俺も、そういう経験がある。

 竜人達に人間は見下されている。そう、俺は理解した。今回俺は、たまたまその侮蔑から免れている。


「ワ、ワームを倒した証拠ならあるぞ。ほら、この牙は奴等の……」

「いい加減にしろ! 人間如きが我等に立てつくか! このまま居座るのなら命を貰うぞ!?」

 聖騎士の喉元に槍が伸びた。ぐっ、とさしものレイシアも閉口する。


 不味い状況だな。このままじゃ俺達は敵としてみなされる。竜人もまさかこの二体だけとは限らないし、強行突破なんてしたら大工を呼ぶどころじゃなくなる。

「ま、まぁまぁクールダウンしましょうよ旦那。別に悪さをするつもりは無いんでしょうし」


 俺が介入してその場を取り持つ事に努める。此処で戦闘なんて起こされたら最悪だ。

「じゃ、人じゃない大工なら良いんでしょ? 例えば亜人とかでも大工やってる奴とかいない?」

「いや、その必要は無いぞい」


 憲兵達に食って掛かったのはレイシアだけでは無かった。案内人としてリューヒィが前に竜人という上位の存在に躊躇ためらいなく進み出る。もしかして顔利きが期待できるか?

「のう、おぬしら。儂の顔に免じてこやつらの街への入所と大工の連れ出しを許可してくれんか?」

「何だ貴様? 女だからとて容赦すると思っているのか?」


 ダメだ。顔パスの通用する相手ではない。

 腹の底から凄みのある声で憲兵が睨む。しかし彼女の余裕の表情は崩れない。

「しかし嘆かわしいのう。竜の者がこのようなか弱き者達に対してこうも横暴を働くとは。矜持きょうじはどこへ行ったのやら」


 それどころか、竜の兵達の神経を逆なでさせる言動までするとか命知らずにも程がある。

 マジでやめてくれ、俺が止めに入ろうとしたが、


「貴様……良い度胸だ」

「度胸? そうじゃな。儂くらいになるとそれくらいでないと--」


 それよりも早く、竜人の手が出た。槍の柄による殴打。リューヒィの顔にめがけて暴力が振るわれる。

「リューヒィ殿!」

「動くな貴様らァ!」

 一同が彼女の元に寄ろうとするのを、竜人の一括が遮った。

 どうする。退くか。


「女、貴様は此処で処刑してやる。人間如きが我等を愚弄した罪は重い、その身をもって(あがな)ってもらう」

 処刑宣告まで敢行する。俺達の何人かが息を呑む。最悪の結果だ。


「…………くっくっくっ」

 すると、地面に膝をついた彼女が笑い始めた。顔を抑えながらも、何故かその声音には余裕が含蓄されている。


「何がおかしい! 早く立てぇ--がぁっ!?」

 リューヒィの元へと迫ろうとした竜人の前に、影が飛び込んだ。

 首狩りパルダが、憲兵の首元に刃物をあてがっていた。息は荒く、今にも首を落としてしまいそうな勢いだ。


 何より異質なのは、その刃物。パルダの黒い袖から巨大な白刃が飛び出していた。まるで、腕から生えている様にも見えた。


「やめいパルダ。大丈夫じゃ」

 結構おもいっきり殴られた筈のリューヒィだったが、何事も無かった様にすくっと立ち上がる。怪我をした様子は無い。


「き、貴様……我々に手を出せばどうなるか……」

「それは、こちらのセリフじゃな下っ端風情が」


 彼女の声に、鋭利と冷めたさが混じる。周囲が息を呑む程に、その言葉に気圧された。

 普段の飄々(ひょうひょう)で陽気でおっとりとしたリューヒィとはかけ離れた雰囲気。まるで、強者の振る舞い。


「儂に手を出したな。一体、誰と存じて、手をあげた、『貴様ら』」

 リューヒィに変化があった。彼女の紅い髪から何かが伸びた。

 角だ。彼女の頭を包むようなかんむり角が現れる。衣服越しの背中からは真っ赤な飛翼が顔を出した。


 そして、リューヒィの紅い瞳には獣の様な瞳孔が走り、口元からは小さな牙が覗く。そして赤い尾が地面に降りる。


 その変貌……己と類似する姿になったリューヒィを見て、竜人の憲兵達は唖然とする。俺達では顔色が分からずとも、青ざめているのが分かった。

「竜人……だと……!? それに赤の髪にその冠角……まさか……貴女……いえ貴女様は……りゅ、りゅ……!」

「いかにも」


 威厳のあるリューヒィの言葉に、竜人たちは平伏した。

「儂……いやわらわこそ竜王ペイローン王の娘にして王女、竜姫アルマンディーダ・マゼンドル・ドラッヘぞ」

 彼女リューヒィは己を竜姫りゅうひと名乗り上げる。彼女の正体は竜人で、そして竜の国の王女であるという事実に、俺達は戸惑いと驚きを隠せずにいた。


「貴様ら、わらわを王女と知っての狼藉ろうぜきか」

 牙と角の生えた赤き魔性の美女の姿は、俺の目に焼き付けられる。

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