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俺の結託、騎士の勧誘

「ドラヘル大陸への出発、ですか」

 鍛錬場にいたハウゼンに報告する。癖なのか彼は少し思案する様に銀眼鏡を掛け直す。


「その大陸と言えばやはり竜人の国、彼等とはまだルメイド大陸のどの国でも未だ大きな交流が出来ていない文化です。土着的な向こうの人間達から伝来された話で確認されている程度の物で、あまり良く知られていないんですよね」

「人から見れば未知の勢力か」

 敵か味方かもわからない。おそらくは歯牙に掛けられていないんだろうけど。


「でも別に必要なく関わるつもりはない。俺は呪いの事を調べられれば良いだけだから、不容易に接触する気は無いよ」

「その方が良いでしょう。下手に刺激しない方が身の安全につながります」

「それで、身の安全の話で相談があるんだが……」

「聖騎士長」


 話し込んでいたところで、レイシアも俺達の話を聞きつけたらしく訓練の途中で抜け出してこっちにやって来た。

「どうしましたか聖騎士レイシア」

「進言よろしいでしょうか、グレンの事でお願いがございます」

「言ってごらんなさい」


 事情をどうやら聞いていたらしく、彼女は意を決した様子で口を開く。


「私も彼との冒険に同行するご許可を頂けませんか?」

 振ろうとしていた本題を、レイシアの方から持ち出してきた。俺からすれば願ってもない。だが、


「それは、我が国を守ることよりも重要な事ですか?」

 ハウゼンはそう返す。当然の話だ。だから俺も、あわよくばの話だと思っていた。

「分かっております。陛下や姫様、この国の人々をないがしろにしてまで、一介の騎士が冒険に混じろうというのはあまりにも身勝手な話です。ですが、私は知りたいのです」


 頭を下げながら、ハウゼンに言う。

「我が屋敷を襲い、家族の命を奪ったドラゴン。公ではそういう話になっていますが齟齬そごがございます」

齟齬そご? どういう意味だレイシア」

「グレン。お前もヴァジャハとの闘いの時、私の過去を見たはずだ。あの竜の姿を。私はお前が竜のはびこる大陸に赴く様な話を聞いた時、調べたんだ。ドラゴンについて」


 鮮明に覚えている。火に包まれた建物の中で闊歩する黒竜の姿を。獰猛な牙で、レイシアの家族を襲った元凶の全貌を。

「あの晩、私が見たアレは竜ではなく、竜の形態をとった……竜人です」

「すなわち、亜人が民家を……?」

「はい」


 折れていながらも、兜の様な角。確かに、奴にはそれが存在した。

 角を持つドラゴンは、竜人というカテゴリに当てはまる。知能も、戦闘力も桁違いな存在。そして人に近い形態と完全な竜としての形態を持っている。では、レイシアの家を襲ったのは魔物ではなく、俺と同じ亜人。


「天災ともいえる魔物の襲撃だったのならそれは仕方ない話でしょう。しかし、竜人ということは知性のある存在。そんな相手に襲われた。どうして、街を襲ったのか知りたいのです」

「それは復讐ですかレイシア」

 くっころ騎士は首を振った。


「憎しみで動くつもりはございません。彼が、その戒めを解いてくださいました。しかし、ただこのままでは、過去の出来事を引きずり続けていくと自分で感じたのです。私が前に進むためにも、別の大陸に棲むとされる竜人がなぜ襲来したのか把握した上で判断を下したいと考えております」

 だからとレイシアは懇願していた。俺が呪いを解く手掛かりが得られないかも分からないと考えた上での気持ちと同じで、試みる想いはそれ以上に強い。


 そういや、あの晩に見掛けた白い奴も、一角のドラゴンだった。ってことは、アイツも知性のある竜人で竜の形態をとっていたということなのか? では俺を襲わなかったのは、理由も無かったからか。


王女ティエラ様からも既にお達しが来てますよ、まったく」

「姫様が?」

「きっとレイシアの事だからグレンくんに同行を求めるだろう、と。聖騎士としても貴重な戦力なんですがねぇ。当然我々の国では未踏の地に部隊を割くほどの余裕はありません」

 悩みの種の様に吐露するハウゼン。


「許可を致します。ただし、そのまま遊ばせる訳にも行きませんので使命を与えます。道すがらドラヘル大陸の神を知らぬ人々に、我らの主エルマレフの信仰を布教して回りなさい。宣教が冒険の同行を許す条件です。独断専行で問題を起こすのは勿論避ける様に」

「はっ!」

「という訳でグレンくんのお供に彼女をお付けしますがよろしいですか?」

「うん。ちょうど旅の面子が欲しかったところだからな」


 ラッキー。話してみる価値はあった。このくっころ騎士には面接する必要がない。実力も多分俺よりある。ヴァジャハにとどめを刺したのはコイツだしな。

 しかも騎士の同伴は任務である以上、報酬が払わなくて済む。打算的で悪いが、レイシア自身も別にそういった見返りを望んではおるまい。



「出発するのは三日後。荷物も準備するんだぞ。ほんじゃ、よろしく相棒」

「いや同行はするが相棒になったつもりは無いぞ」

「うーんつれない。というか洒落が効いてない」

 けれどもがっしりと俺達は互いの手を組む。


「グレンさーん!」

 今度は若手の新米騎士が大手を振って駆け寄る。

 アレイク・ホーデン。つい先日もお見合いの件で一悶着に巻き込まれたばかりだ。


「僕も連れてって下さい! ハウゼン聖騎士長! 僕にも許可をお願いします!」

「お前もいきなりだな」

「騎士アレイク。君まで行く必要は無いのでは?」


 パーティーの確保したい定員は最低でも五人。レイシアを含めた事で今揃ったばかりだ。そういう意味では無理に増やす程でも無い。

 それに冒険者を募集している手前、優秀な面子が来るならそっちを優先しておきたい。


 こういうのも何だが、アレイクは正直戦力としては心もとない。剣の腕も魔法の技術も中途半端な聖騎士レイシアの下位互換だ。


「じゃあ聞くけどさ、お前今レベルは幾つだよ?」

「え、16です」

「うーむ。募集の水準を満たせてないな」


 リューヒィとの話し合いで実はLV20以上からLV15以上という条件に引き下げている。が、それは人手が足りない上での妥協であって人数も足りてきた今なら戻しても良いかなと思う。



「わり、遊びに行くわけじゃないんだ。今回は留守番で」

「いや! 今回ばかりは! 頼みますよぉ! 僕もお供させてください荷物持ちでも雑用でも喜んでやります!」

「……何でそんな必死にドラヘル大陸に行きたい訳? 中止になった見合いはどうすんの?」

「そ、それは……」


 しつこく食い下がる辺り、どうやら例の痴女エルフとの縁談に関わりがあるらしく、アレイクは言葉を濁した。


「はいアレイク、ちゃんと答えなさい。でないと絶対連れてかねぇ」

「……え、遠征で見合いの話を当分出来ない状況に……。そうすれば、諦めるかな、と」

「なるほど逃げる口実にする気か」


 なら却下! そう通告を突き付けるも、アレイクは泣きそうになって俺にしがみついた。


「おーねがいしますぅ! 連れてって! 絶対に足手まといになりません! 連れてって! ちゃんと役に立ちます! 報酬なんて要りませんから! 何でもしますからぁ!」

「寄るなよホモかよ」

「うわーん! 知ってるくせにひどーい!」

 身も世も無く喚くアレイクに、俺達は呆れる。


 確かにあの痴女エルフ(プリム)も結局のところ本意ではないみたいだし、両者の要望を擦り合わせる意味では問題を先延ばしに出来る良い口実になるんだろう。


「ホモってなんだ?」

「いや、知らなくて良いんだレイシア。お前はピュアなままでいろ」

「?」

 頭に疑問符を浮かべるくっころ騎士。頼む、これ以上属性を増やすな。



「……言っとくが、その縁談でこじれても俺は責任取らねぇぞ」

「う、分かってます! 自分の事は自分でやります」


 結果的にいえば、この少年騎士も同伴する事が決まった。ハウゼンもやむを得ないと嘆く。


「グレンくん、それともうひとつよろしいですか?」

「何よ」

「私が以前お話しした予言の話を覚えていると思います」

「あー、ゴリーヌさんが前に占った予言ね」


 加護を切った影、月の殻と鳴動せしめる

 災禍は六度りくど、地の子に降りかからん

 一は天の王の息吹、小さな土を焼く

 二の死の夜、地の子を収穫せん

 三こそ堕ちた蛇、呪いを食らわんとのたうつ

 四も天の王、虫殺しの吐息を吐く

 影、(おのず)と加護の欠片に問いかける

 五に灰の雨、終末の角笛を吹かん

 そして六に、地の子に代わりて影の子は受肉する

 六度りくどの影を貫く地の子、勇ましき者なり

 采配を振るうは天に座す王、降す者なり

 加護もまた、新たに影を導かん



 一度目の災禍は以前に実現された。レイシアの街を襲った。

「二度目の災禍、死の夜というのは今回の騒ぎでは無いでしょうか」

 言われてみれば色々辻褄が合う。あの空を夜にした結界。化け物が名乗ったのも(タナトス)のヴァジャハ。人の魂を食うというのを収穫に置き換えられる。


「アレも予言の災禍だったのか。なら、次の災禍は」

「堕ちた蛇、ある意味ではドラゴンという解釈も取れるでしょう。そしてその次も天の王。これは間違いなく竜です」


 もしかしたら、今回のドラヘル大陸でもその災禍が関わって来るかもしれないな。そう思ってアレイクを見る。彼は意図に気付いてブンブンと頭を左右に揺すった。うーん予想より危険かもしれないが、良いって言ってしまったし……


「もし災禍が起きる予定で、ヴァジャハ並の奴が出てきたら、今の力じゃキツイなぁ」

「こちらも人員が補強出来ない手前、あまりサポート出来ずに申し訳ない。代わりに何かグレンくんの戦力強化のヒントになりそうな方を紹介しようかと思います。その人物にご指導して貰うというのは如何です?」

 ハウゼンはそう提案をしてきた。


「ゴブリンの俺を強くする可能性がある奴がいるのか? 誰だ」

「君も良く知ってる方ですよ」

 了承と受け取った様で、ハウゼンはその人物を呼びに行った。

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