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俺の面接、ヘレン兄弟

 面接に来たのはヘレン兄弟。自称未来の英雄を名乗る痛い兄ヘレン。そしてそのフォロー兼兄のコミュニケーション不足に潤滑剤の役目を為す弟のクライト。


「また会ったなゴブリン! いや会いに来た!」

「チェンジで」


 有無を言わせず俺は鼻っ柱を前に扉を閉めた。一度間があった後、扉が無理やり開かれようとしている。俺は妨害に動いた。


「むうう! 開けろ! 開けるのだゴブリン! せっかくこの英雄候補ヘレンが直々に面通しに来たんだぞ!?」

「いや結構です。誰ですか怖い。入ってこないでください」

「貴様っふざけるな!? 募集をしていたのは! ほかならぬ! 貴様! だろ!」

「どっちがふざけてんだ! 存在自体がふざけたお前なんか募集しておらん! パーティーにオメェの席ねぇから!」

「嘘つくな! 未だ契約ゼロであろう!?」

「お前には関係ねぇよ断るって言ってんだ!」

「断るのを断ると言ってるのだ!」

「何でそっちに拒否権あるんだよ!?」


 がたがたがたとドアの押し合いへし合いをしている場で、背後でリューヒィが横槍を入れる。

「まぁよいではないか。試しに話だけでも聞いたらどうじゃ?」

「ええー、リューヒィ、お前コイツの事知らねぇから--うわ、入ってくんな!」


 気をとられた隙に冒険者ヘレンはずかずかと部屋に入ってきた。そこに乗じて弟のクライトも失礼、と言いながら侵入する。

 そしてリューヒィの姿を見るなり、それまでの押し問答が嘘のように爽やかな顔でそちらにヘレンは向かう。


「そちらの御仁、貴殿もこのゴブリンの依頼で同行されるので?」

「如何にも。リューヒィじゃ、よろしくの」

 恭しく頭を下げた挨拶に、ヘレンはぼそっと「美しい……」と呟いている。


「よーし! 決めた! 俺もドラヘル大陸とやらに向かい、新たな旅路を始めよう」

「決めるのは俺だよこのタコ! ……あー! 分かったから座れ、取り敢えず面接してから」

「ふっふっふっ。安心しろ、このヘレンが来たからには大船に乗ったつもりでいるが良い。話をするまでもないさ」

「はいはい、泥舟かどうか確かめるからさっさとしろ」


 下心丸出しな事はさておき、この二人に対してリューヒィの中の心証は合格の様だ。それが分かるのは、彼女が彼等に口を利いたからだ。


 リューヒィは他者の器を鑑み、話す相手を選ぶ。酷い者には一切返答を返さない時もある。現に今回の面接の時も、俺の傍らで最初に会釈だけしては以降だんまりしていた相手も何人かいた。


 どういう判断基準なのかは分からない。ゴブリンな俺や、こんなポンコツコンビには普通に会話をするあたりでますます混乱する。さすがに面白そうだから、とかじゃないだろう。多分。


 でもやだなー。明らかにめんどくさくなるし。


「じゃあ登録証と応募紙出して、二人分」

「うむ。存分に拝見しろ」

「どうぞグレン殿」

 机に出されたカードと応募用紙を俺は流し見。ギルドガードにはコイツらの身分(カースト)戦闘職業(ジョブ)、階級が。応募用紙には現在のレベル、自分に何が出来るかというアピールポイント、その他要項等の内容が記載されている。


 ヘレンは剣士で完全に近距離タイプ。クライトは狩人で後方支援型。二人での冒険としてはバランスのとれた組合せだ。両者もレベルは水準を越えた20台前半。前提条件はクリアしているな。


 だから質が悪い。門前払いが出来ないってことだ。なら、揚げ足取りで行くしかない。


 冒険に影響しないような個人情報は素通りして、気になるとこは無いかと粗探しをしていると、ヘレンの方のその他要項の箇所に目が止まる。

「おい、これは何?」

 将来の希望は英雄として名を馳せる事と書いてある。まぁ、これは良い。いつも(のたま)ってる事だから。だがもうひとつ書かれた内容、此処がどうも気になった。


「そんなの見れば分かるであろう」

「分かるよ。意味くらい誰だってよ。でも……彼女募集中、はねぇだろ。お前何しに行くの?」

「だとしてもだ、冒険者たる者、何処で縁があるとも分からぬ。偶然集ったパーティーとの運命な出逢いとかもな。それにゴブリン、もし美人の知り合いがいるなら紹介してくれ」

「ゴブリンに何期待してんだお前」

「あ、出来れば亜人でなく人間で頼む。……貴様の美醜感、大丈夫であろうな?」

「もう帰れや!」


 コイツ何しに来たんだよほんと。俺は依頼を受けて貰うのに募集を掛けてるのに、受け手側が女を紹介することを要求するとかアホだろ。


「かっかっかっ! やはりおぬしと関わる者も愉快だのう。儂は気にいったぞ」

「むっ、それならリューヒィ殿、よろしければ俺と--」

「パスいちじゃ」

 からから笑いながらも、即お断りする美女。ヘレンは唸る。完全に目的見失っているよな。


「兄者兄者、本題を忘れるな」

「おお、そうだった弟よ。さてゴブリン、今回は素直に貴様と手を組んでやろう。以前の依頼ではまだ完全に見極めきれなかったからな。この長旅で判断する」

「却下だボケ」

「何故だぁ! 条件は整ってるだろうが!?」

「理由も分からねぇのか! 頭おかしいんじゃねぇの!?」


 俺とヘレンは席を立った。地団駄を踏む野郎といがみ合う。やっぱり性格というか思考の方に問題がある。


「落ち着け兄者、どうどう。グレン殿もすまんなぁ、兄者は常識に疎いのでなぁ」

「グレン、おぬしも熱くなるな。気持ちは分かるが焦っても仕方ないじゃろうて、どうどう」

「俺にまでどうどう言うな!」


 仲裁に入った二人に俺達は引き離される。そこにリューヒィは俺の耳元で囁いた。くすぐったくなる程近い距離だった。


「それに儂から見れば御しやすい相手に見える。()は強いかもしれんが腹積もりが無い分、遠方での旅路でかつ即席のパーティーにはむしろ丁度良いかと思うがのう」

「そりゃ、単にお前が気に入ったからじゃないのか」

「擁護の理由の一部に否定はせぬが冷静に考えてみよ。どうやらおぬしはこやつらがどんな人柄か存じておるんじゃろ? 下手に裏切る事が無さそうな者を優先させた方が儂らが困らぬよ。それにあの手の輩は不義を嫌う。条件反射で断るのは賢いとは言えまい」


 論理的であたかも客観的な説得だ。どうも言いくるめられてる気がするが。

 確かに、この先誰も募集に引っ掛からなかった事を考えるとどうにかやりくりする上でパーティー面子は四人になる様確保しておきたい。


 もっと優良な物件に期待してこの場は無かった事にするか。それともリューヒィの言う通り、私情を無くして契約を結ぶか。

 俺には呪いの解決が掛かっているのに、四の五の言ってられる状況じゃあない。なら、仕方ないだろうか。


「……分かったよ。一ヶ月程度の遠征、分割でディル白金貨一人辺り100枚。それで良いな?」

「まぁ、それなら依存はない。元は報酬と鍛練に旨みを感じて訪れたのだからな」

「ああ、よろしく頼むグレン殿。我らは貴殿たちの力になろう」

 むすっ、とした様子ながらもヘレンは了承し、クライトも俺に握手を求めた。



 これでパーティーの主戦メンバーは俺とリューヒィの護衛に加えてヘレン兄弟が入った事で四人。あとは最低でも一人、出来れば二人欲しい。



「それでのうグレン」

 ヘレン達と出発日の約束をして別れ、以降収穫は無かった今日の面接を終えた時、リューヒィが俺に話を持ち掛ける。


「ギルドでの募集はさておき、今回の様に知人に声を掛けてはどうじゃろうか? その方が揃えやすいと思うが」

「知り合いっつったって、俺もそんなに顔が広い訳でも無いし、他の冒険者となんて全然関わった事無いぞ? ロックリザードの討伐の集団依頼の時も、冒険者とは直接共闘した訳じゃないしなぁ」

「何、冒険者に拘る必要はあるまい。闘える者であれば困らぬであろう? 本当に誰かおらぬのか? ロックリザードやドラゴンも、聞けばおぬしは冒険者ではない者達と討伐したのであろう?」

「あ……騎士……」


 ああ、そうだった。盲点だったな。確かに、聞いてみる価値はあるかもしれない。公務とかで難しいかもしれんが。

 そんな根本的な部分を見落としてるとは、やはり俺は知らず知らずの内に自分の中の時限爆弾に焦っていたみたいだ。助からないならそれは甘んじて受け入れる。が、希望があるとなると焦燥に駈られるんだな。


 だからアルデバランの王女達やレイシア達とは話をしていない。宿にいる女中(メイド)のハンナさんには言っているので伝わっているが、訪れずにアバレスタに通いつめていた。

 そっちの路線を加味して、一度俺は彼女達の元に訪れる事を考えた。

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