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俺の仲介、オカマVS痴女

サブタイトルの時点で酷くてごめんなさい

 屋敷の部屋で一同が着席する。

 まずお互いの縁談する者達が向かい合い、挨拶をして名乗り上げた。

「ほ、ホーデン領の四男、アレイク・ホーデンと言います」

「ノルスの森のエルフ一族代表、プリム・ノルスと申します」


 慣れない縁談というのもあってか、どぎまぎしているタキシード姿のアレイク。その中性的な容姿を痴女エルフの兄クレーピオが初めて目にした時「……女装もいけそう」と呟いていたのがホーデン家の陣営に聞こえていないことを祈る。


 此処に来るまで散々嫌々と拒否していたプリムだが、まるで借りてきた猫みたいに今は大人しくしていた。こうして黙っていれば絵になる美女なんだけとな。


 俺は場違いな所にいることを自覚しながらも、招かれた手前二人のやり取りを見守る事にした。まさかこんな少年騎士がエルフの別嬪さんとお見合いをするとは思わなんだ。


「我が家との長いお付き合いになるかもしれないからね。他の息子達も紹介しよう。おーいお前達もこっちへ」

 ゴブリンの俺を部屋に引き入れた物好きな領主、アレイクの父ことブレイク・ホーデンは柏手を叩きなから、奥にいる身内の者を呼び出す。


 扉から厳かな雰囲気を持ちなから入ってきたのは、聖職者の出で立ちをした三人組の男達だった。


「紹介しよう。ます長男のドレイク・ホーデン」

「うむ。エルフの方々よ、神の遠き親戚である貴女方を歓迎します」

 恰幅の良い男がまずそう言ってお辞儀をした。


「次に次男のギレイク・ホーデン」

「歓迎しますぞ」

 頭が河童の様に剥げ痩せぎすの男性がうやうやしくお辞儀する。


「最後に三男のズレイク・ホーデン」

amen(かくあれかし)

 どんな場所でも持っているのか、聖書を抱えたオカッパの小柄な男も腰を折った。



「ていうかアーメン三銃士じゃねぇか」

 思わず俺が口出ししてしまったのはこの三人組に滅茶苦茶見覚えがあったからだ。アバレスタの街で教会で会った、神父達。ということは、まさかアレイクの兄達ってコイツ等なの?!



「ゴブリン! よもやこんな形でまた会おうとはなんと奇遇な!」

「なんと奇遇な!」

「神よ! amen(かくあれかし)!」

「グレンさん兄さん達と知り合いだったんですか!?」

 秘跡(ミサ)をしに来た時のデジャヴと、早速縁談の話が脱線している事態に目眩を覚える。



「グレン、君は中々に顔が広い様だな。是非我々と彼等の間を取り持つクッションになってくれ

「……話が違うぞ」

「きちんと報酬も追加するから」

 俺の耳元で上手く便乗しようとクレーピオが囁く。


 護衛(あと脱走の阻止)をするだけって条件で付き添ったのにどうしてこうなった。やけくそ気味に俺が口火を切った。


「ま、まぁ再会の喜びは追々に。今日はお二人の大事なお見合いでしょうから、そろそろ始めた方がよいかと」

 するとプリムと何故かアレイクが一瞬俺に恨みがましそうな視線を送ってきた。話を進行させるなよ、あわよくば邪魔してよ、という強い感情が伝わってくる。

 つかアレイクまでどうして俺を非難するのか? 何でだよ、俺を責めても避けられないだろっ馬鹿っ。



「確かにグレンくんのいう通りだな。……ええとプリム殿。何かご趣味はおありかな?」

 奥手な息子に代わり、積極的な父ホーデン伯爵がエルフに質問する。


「はい。森では出来る事が少ないので、音楽を少々」

「ほうほう。一体どんな楽器を?」

「竪琴ですわ。以上」


 以上、て。答えておしまいじゃ駄目だろ。


 そこに打ち切らせまいと、兄クレーピオはその話を膨らませる為に捕捉する。

「妹の弾く竪琴は、森で暮らす我々の癒しになっております。静かな緑の中で粛々と紡がれる竪琴の音は、人の心の琴線にも必ずや届くでしょう」

「後はハーレム候補探しも趣味です」


 水を打つような静けさが、プリムの爆弾投下によって広まった。


「グレン様はその候補の一人で、肉体関係の段階まで--」

「ハッハッハッ! 失礼! 妹なりに場を盛り上げようとジョークを披露しようとしたみたいだが大いに滑ってしまった様だね! ホーデン伯爵、申し訳ないが! 彼女を落ち着かせるのに少しばかりお時間を!」


「……き、緊張してたのかもね!? よし皆、一旦小休止だ」

 プリムを連れてクレーピオはその場から出る。そこで休憩の時間にしようとホーデン伯爵は提案した。始まったばかりなのに。


 あー、でもプリムの目論見は分かった。何で俺をあそこまで連れてきたがったのか、そして街中で絡まれていた理由も。


 多分俺という間男を紹介してアレイク側に縁談を却下させたかったんだろう。アバレスタでは間男役になってくれる人に声を掛けていて、悪い人に掴まってしまった所で俺が来たと。


 どんだけ嫌だったんだよ。……そういえば、アレイクもアレイクで俺に対して何か怒っていたな。当人達はどうも縁談には本意じゃないらしい。


「グレンさん、どういうことですか」

「それは俺の台詞だ。何やってんの」

 噂をすればやって来たアレイクが、凄く焦燥した様子で俺に糾弾する。


「決まってるじゃないですか。望んでもない縁談をさせられてるんですっ。助長させないでくださいよ」

「何でお前も嫌がってんの? そんなに結婚したくないか」


 強制されているとはいえ、相手はエルフ。容姿よし、体つきよし、性格も穏やか。しかも一族の中で高貴な立場。言動さえ除けば、男目線じゃ優良物件だろう。多分他の奴等なら羨ましがるのが何人も出てくる。


「僕の事情を知ってるのに分からないんですか!?」

「事情って、アレか。前世が女だったってやつ?」

 アレイクは何度も強く頷く。コイツは俺と同じ現代で亡くなり、こちらの世界で生まれ変わった人間だ。その時に性別も女から男に変わったと言っていた。



「前世は前世。今は今だろ。今のお前は男なんだから」

「心は簡単に変われないですよ。グレンさんだって、心は人間と同じでしょ!?」

「ま、まぁ、そりゃあな」

「それにグレンさん! 例えばグレンさんが望んでもないのに突然女の子になっちゃって、男と結婚しろと言われたらどうします?」


 うーん、想像したくない。凄く嫌だ。アレイクも同じ感覚なのか。


「でも、ほら、女同士で恋愛ってよく言うだろ? アレみたいなのは無い?」

「男同士で恋愛って男目線で良くある事ですか!? どうなんですか!? グレンさんも嫌でしょ! 同じことですよ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい」


 凄い剣幕で怒られたので、思わず素直に謝る。男から見て男同士なんてねーよ、と言うように女性から見て女同士なんてねーよ、ということか。


「……それならそれで親父さんに言うしかないじゃん。そりゃあ、心は女ですなんてのは言えないだろうし、政略結婚を個人的事情で破棄するなんて勝手な話だけどさ」

 痛いところを突かれた様にアレイクは消沈した。


「僕の家はとりわけ信仰の強い一家です。兄達三人は三格位の中で市民、貴族よりその上の聖職者。その立場上結婚が出来ないので、僕がホーデン家の跡取りにならざるを得ません」

「それで、エルフと結婚?」

「女神エルマレフはエルフとの混血の親を持っていたそうですよ。つまりクォーターエルフなんです。父は女神に近い親戚のエルフと交流を望んでいる。そうすれば一家が女神の結びつきが持てると息巻いてて」

 黒いズボンをきゅっと握り、アレイクは絞り出す様に続ける。


「だから、なるべく全否定な破談にしたくないんです。どうにかなぁなぁに出来ないか、悩んでて……。グレンさん、後生の頼みです。今回の縁談、上手く回避出来ませんか?」

「そう言われてもなぁ」


 台無しにするのは気が引ける。二人は嫌でも、両陣営にとっては将来の掛かった一世一代の試みだ。それに、たとえ今回はやり過ごせても今後も同じようにしていくのか?

 個人的にはどちらの味方にもなれない。


「じゃあ、プリムと少し話し合ってくる。それで互いにどうするか決めてくれ。俺自身からは何も言えねぇよ」

「そんなぁ……」

「でも予め言っとくが、向こうも嫌がってるみたいだからお前達次第だろ」



 様子を見てきます、と一言ホーデン伯爵に声を掛けて俺は部屋から出た。

 廊下ではエルフの兄弟が言い争っていた。


「嫌です! あの殿方は頼りない! 私の結婚相手の条件を満たしていません!」

「彼は騎士だ。見掛けで判断してはならないぞ。それに見た目も年齢より幼くて比護欲をそそり立ててグッドではないか」

「それだと奥手で私がリードしなければならないではないですか!?」

「プリムよ、受けよりもたまには責め手に代わっても良いだろうに」


 途中から話の主旨が変わってきたところで、俺が出てきた事に二人は気付く。


「グレン、頼むよ。妹をどうにか説得してやってくれ」

「グレン様! 私は此処で結婚なんて出来ません! 自由な愛が欲しいのです!」

「……なら、他に宛でもあんの? 次結婚出来るのは何時になるか分からないだろ。自由な愛? このご時世に御贅沢な」


 そう言われて、視線を逸らしたプリムが口をもごもごさせる。

「き、きっと5年先なら相手も見つかりますわ」

「5年前に同じことを言って前の縁談を断っただろうに」

「だったらあと10年! 10年だけお待ちくださいお兄様!」

「20年前から同じ台詞を言っている」


 どうやら、彼女の見合いは幾度となく繰り返されている様だ。

 もしや、これはアレか?


「なぁプリム。もしかしてお前さ、これまでもこうして断って来ただろ?」

「……え、ええ」

「これで見合い相手は何人目?」

「…………35人」

「40人だグレン。鯖読んでいるぞ」

「なるほどなー、やっぱそういうタイプか」


 溜め息を吐きながら俺は意を決して口を開く。

「理想が高くて今まで相手が決められなかった口だろ?」

「--な!?」

「あれこれ相手のダメなとこあげつらって、適当な欠点を見つけ出した途端、完璧な男じゃないと嫌だ嫌だとワガママばかり。違うか? それで厳しい条件をクリア出来る男が現れない。だから誰も選べない」

「うっ!」

「その見合い相手の数、見合いに踏み切るまでにどんだけふるいにかかった? 門前払いの段階で3桁行ってたりしない?」

「はう!」

「うわマジかよ冗談半分に聞いたのに。したこと無いけど見合いってもん舐めすぎだろ。良くそんなんで男の性愛語れたな」

「ぐ!」


 エルフの基準の年齢で彼女がどれくらい歳を食ってるのかは分からないが、少なくとも少女と言えないくらいは生きているだろう。勘だがそんな気がする。しかも現代とは異なり14には結婚出来て、20代半ばでは遅いと扱われる。つまり、

「エルフの男と結婚出来ないのは適齢期か何かだろ? だから人間との見合いにまで発展した。違うか? 挙げ句未だに理想を求めてるからことごとく縁談が成立出来ない。これじゃ一生無理だよ無理無理。そんなんだから行き遅れるんだよ」

「ごうっ」


 彼女のどんぐり眼が上に向かい白目を剥いた。相当精神攻撃が効いた様で、プリムはノックアウト。

「プリムぅぅ! しっかりしろ! 傷は浅いぞ! グレンん、なんて事言うんだぁ!」

 兄が必死に妹を揺り起こすももう遅い。やっぱり気にしてた。



 というか、あれ? やり過ぎた? 効果てきめんなんだけど。


 こうしてプリムの体調不良という事で、今回の縁談は延期という形でまた日を改める事になった。

 報酬は今回俺にも非があったので(クレーピオは許してくれたが)、辞退した。結局巻き込まれて終わっただけだったな。

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