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俺の成長、早熟そして

 マッドベア。森林の広域を縄張りとして活動し、足を踏み入れた者には見境無く襲い掛かる。その荒い気性に逃げるという選択肢は無い。草食で甘い物を好み、果樹等を中心に侵入者がいないか巡回する。



 羊皮紙に新たに加筆された情報を俺は読む。今回は生態だけであまり役に立つ知識じゃなかった。魔物によって有益な情報が取れたりそうでなかったりするようだ。


 もはや棲み処と化している石に囲まれた洞穴の中、あの果実をかじりながら体力の回復に努めた。MP同様、やはり時間経過とともにすり減ったHPは取り戻していく。

 薬草や回復薬とか治癒する魔法などの傷を癒す特殊な力の無い俺にとって、この肉体はたとえ醜悪でも貴重な資産だ。腕を失う程の大怪我は、野生動物などと同じく死を意味する。あの熊との争いのように気軽にゲーム感覚で危機を晒すのは得策とは言い難いだろう。


 そんな命懸けの状況を回避するには、無駄な戦闘を避ける事もしくはこの世界で概念として存在するステータスの底上げのどちらかでいかなければならない。

 前者は逃げ足が通用する相手なら良い。けれども、それがまかり通らなくなった状況になった時は俺の安い命は確実に詰む。


 たとえゴブリンでも、生き残るには強くなるしかないのだ。多少魔物に狙われても、脅威にならないくらいには。


 軽い打撲ですぐに復帰した俺は食糧源を確保したので、経験値の獲得を次の目標とすることに決めた。もっと魔物と闘い慣れ、強くなれば強くなる程の俺の今後は保証される。森の魔物に怯えて暮らす日々とはおさらばしてみせる。


 森にはマンドゴドラ、マッドベアの他にも別の種類の魔物がいた。

 次に対決したのはロンリーウルフという灰色の一回り大きな狼だった。本来なら群生生物として群れでしか生きてはいけない生物なのだが、単独でも生き残ることが出来るだけの強さを持った魔物で、これまた獰猛な化け物だった。


 その牙や爪に翻弄されながらも、難なく倒す事が出来るまでに俺の実力は身に付きつつあった。肉としては食えたものでは無かったが、毛皮を剥ぐ。


 そうしてマンドゴドラの群生地とも向き合い、その解毒作用のある根も何本か頂き、着実にレベルアップさせていく。加えて狼と出くわす度、毛皮になってもらった。マッドベアはその遭遇っきりで姿を見せず、二種類の魔物が森を占めているみたいだ。


 経験値稼ぎを始めて丸一日。順調だった巡回路が途中から停滞する事態に見舞われることになった。

 事の異変に気付いたのは、レベル8以降になっていつものファンファーレが聞こえなくなったまま魔物を二桁になる程けちらしていた。


 何で上昇しないんだ? いつものなら、魔物を一匹や二匹くらいで上がったのだからとっくに上がっていてもおかしくない頃合いなんだけど。


 脳内ファンファーレを聞き逃したか? 俺はそう思いながらスクロールを開き、自分のステータスを眺める。



 グレン:LV8 ★

 職業:戦士 属性:土 HP:37/37 MP:10/10

 武器 石器の斧 防具 旅人の皮服 装飾 なし

 体力:37 腕力:21 頑丈:18 敏捷:29 知力:16

 攻撃力:24 防御力:21


 これまでと違った物があるのを、俺はすぐに発見する。俺の名前の表記の横に、今までになかった記号が増えているたのだ。

 この黒い星が、レベルの文字の横にあるのは初めてだ。レベルがこれ以上上昇しない状態と関わっているのか。


 あれ? もしかして、そういう事? それが一番辻褄合うよなぁ。

 状態異常ではない。今回俺は無傷だ。あと、俺の種族のレアリティが星一個分だというなら、以前からあった筈だ。


 つまり、この星は、俺がこれ以上成長しない事を示唆する物では無いのかと、そう考えると背筋が冷えた。

 成長限界。推論からそれが自身の現状に一番納得がいく。


 恐らく俺は魔物のステータス成長では早熟の部類なのだ。雑魚モンスターにありがちの、並のモンスターよりもすぐにレベルが伸び、そして早い段階で壁にぶつかる。


 心当たりはあった。最初から野兎一羽で簡単にレベルアップし、その後魔物を少し倒しただけでトントン拍子で成長するのは、不自然だと感じていた。


 オイオイオイ。つまり俺のパワーアップは此処までって事? 例えばゴブリンにもきっと色々種類があるだろうから進化するとか、そういうのも自然に発生したりしてないし、森の中ではこれが関の山?


 思わず頭を抱えた。闘技とうぎの習得もあれからひとつもなし。崩拳ほうけん硬御こうぎょの二つだけで打ち止め。実力もゲームなら序盤に毛が生えた程度。


 万が一この森林でももっと凶悪で狂暴で強力で危険な魔物がいたら、俺は太刀打ち出来るのだろうか?


 ……戻ろう。くよくよ悩んでても仕方ない。もうじき夜だ。一晩経ってからまた考えよう。

 あの果物をまたもいで持ち帰り、夕日の照らす森林を出た俺は遠くの平原でこちらに向かってくる姿を見た。見覚えがある。沐浴していたら襲ってきた、あの冒険者二人組だ。既に武器を構えている。


 俺は元来た森へ引き返す。奴らもきっと魔物と闘ってレベルを上げているに違いない。もしも打ち止めになった俺以上にレベルが伸びているなら勝ち目なんて無い。それが二対一だ。


 根城にしている石丘の洞窟にすぐに戻ったら、寝首をかかれる。そう考えて一度森の中へ逃げ込んだのだ。


 俺は服を脱いだ。

 ああ! こう言うと俺が追われながら全裸になることに性的快楽を憶えていると勘違いされそうだから補足するが、旅人の皮服を着ていたら森に逃げても白い服装が目立ってバレ易い。なのでこの緑の肌で擬態まがいの真似をすることにしたのだ。だから裸になって何が悪い。


 草の茂みに身を隠してしばらくすると、俺の先程まで居た場所まで冒険者達が来ているのが分かった。息を押し殺す。心臓はバクバクしている。見つかったらアウトだ。


「くそ、また逃げたか! 逃げ足だけは早い魔物だな」

「ああ兄者、村にも出没している手前、討伐しておかないと村人達の不安は晴れないだろう」

「だが直に夜だ。今日は此処までにして家に戻ろう。奴が森に居る事が分かった。明日は森に入って捜すぞ」

「そうだな兄者」


 思いの外早く二人は森を立ち去った。暗くなるのを待ち、それから待ち伏せを警戒しつつ俺は今度こそ石丘の洞窟に戻った。



 俺の安寧は、森の中でも保障されない。付け狙われているんだ。あの村に一度顔を出して以降、きっと討伐の依頼でも出てるんだな。きっと、何処に隠れてもいつかは見つかる。


 そんな事で良いのか? このまま狩りから逃げる野生動物さながらにむざむざ殺されて終わるのだろうか? この森の周辺で一生びくびく過ごす日々を送るのか?


 俺は自問自答を洞窟の中で続ける。此処だって安全とは言えない。此処にいるのを目撃されたらもう潜んではいられなくなるんだ。


 立ち向かうしかないな。その結論を出すが、数々の障害が目に見える。このまま闘うなんて当たって砕けろと一緒だ。剣士と弓を使う二人と、どうやったら勝てるのか。物音の無い闇夜の最中、とにかく悩んだ。


 闘わずに話し合いは出来ないだろうか? いいや、無理だろう。この姿を見るなり以前のように問答無用で攻撃して来る。だまくらかすには、この容姿がどうしたって足かせになる。


 待てよ? この容姿を見て、襲ってくるんだよな?

 浮かんだのは、成功するかは分からない一計。そして自分に出来る可能性を十二分に使って何が出来るか考えてみる。うん、これしかないか。


 深夜、俺はある作戦を実行するために準備を行う。まず土を掘って粘土質の土を手に入れた。他にも考えうる仕掛けの準備に入った。

 俺の命運を決めるイチかバチかの博打は、明日になってハッキリする事となった。

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