表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/207

俺の種族、不明

 結果から先に聞いて、思わず脱力してしまった。

 あんな目に遭ったのに、こうもリターンが少ないのは悲しすぎるだろ。


「分からなかったって?」

 おうむ返しの俺の言葉に、研究員のシレーヌは顎を縦に振る。

「結論から言いますとー文献にあったどのゴブリンにも該当していないんですー」


 説明の途中で持ち出した羊皮紙の束を捲り出す。そこには多々の魔物の絵が手描きでスケッチしてあった。途中から俺と似た顔の多い絵のページに変わる。ゴブリンの項目だ。


「御覧になれば分かるとは思うんですがー」

「聞くまでも無く、確かに此処に載ってるゴブリンと別物だな」


 断言できる根拠として、その絵にあったゴブリン達と俺は全くと言って良い程似ていなかった。それは人の顔の差異の次元ではなく、耳や鼻の造り、どれもが俺の外見として一致していない。

 それでも俺が種族としてはゴブリンであるのは、周囲が口を揃えて指摘していた事からして間違いない筈なのだが。


「なのにー何故人々はグレンさんがゴブリンであるとー思うのでしょうか? 分かりますか? レイシア次期隊長」

「それは」


 教え子に式の解答を求めるように、シレーヌはくっころ騎士に答えを指名した。

 細い顎に親指を当て、レイシアは己の考えを捻り出す。


「やはり、ゴブリンに似通う部分があるから、でしょうか?」

「70点ですねー」


 可もなく不可もない評価を、女学者は付ける。


「共通点があるから大雑把な印象でグレンさんをそうだという思い込みが先行している、というのが正しいでしょうねー。ゴブリンと似通う部分があるからグレンさんはゴブリンである。グレンさんはゴブリンだから似通っている。どちらなのかはさておきーグレンさんはこれまでのゴブリン種に該当していないのは間違いないんですー」

「つまり新種という事かしらシレーヌ」

「そうともー言えないんですよねー」


 彼女は口をへの字にしながら続ける。


「例えばーこのゴブリン。ホフ種の耳とグレンさんの耳は酷似しています」

 一匹の絵を指差し、女性陣が俺の耳と見比べる。俺は見えないから分からないっつーの。


「でも他は殆ど似ていない。かと思えばー長い鼻はドフル種と同じだったり顔の骨格がベメンテ種と当て嵌まったりしてるんですよ」


 次々に指されたゴブリン達と、俺の共通点が挙げられていく。


「まるで数あるゴブリン達の一部分を寄せ集めて生まれたような存在ですーグレンさんは。出生とか伺いたいんですがー」

「あー、すまん。それは言えねぇ」

「何故だ貴様、話して不利益な事でもあるのか」


 詰問する空気になりつつある状況で、俺は口を濁す。

 そう簡単に言えるか。俺は前世が人間で、生まれ変わってこんな姿になっただなんて。信じられるとか以前に、面倒になるのが分かりきっている。


「話したくても話しようがねぇの。……気づいたら俺はゴブリンだったんだから」

 一同は俺の言葉に固まる。


「俺がどんな風に誕生してどんな風に育って来て誰に育てられたかなんて記憶が無い以上分かる訳ないだろ」

「はえー記憶喪失なんですか?」

「んー、そうなるのかな。記憶があるのは一か月とそこいらの間からだ」


 嘘は言っていない。そこまで以前のゴブリンとしての記憶が無いのは事実だし、気付いたらゴブリンだったというのも本当の話だ。

 生前にどのような経緯でこの世界に来たという事情もこの個体に成長するまでの記憶が無い理由を話していないだけ。事実で真実を誤魔化しているのだ。


「グレン様に、そのような事情があるとは……」

「不思議な奴だ。人並みの知能……いや、人並み以上に狡賢くて自分の出生を知らないゴブリンとは」

「まぁそんな事はどうでもいいの。俺は俺でこういう風にいるのは変わんねぇもん」


 重要なのは現在と、何より先の事。俺からの本題はまだ終わりじゃない。


「それでシレーヌ……で良い? ありがと。シレーヌに聞きたいのは俺がどんなゴブリンか、だけじゃなくてそのゴブリンという種族についてなんだけど」


 俺が尋ねたのは生態や能力、そしてゴブリンが持つ技術の話だ。

 この件についてはまた調べる手間も時間も無く、所員シレーヌがすらすらと話した。


「ゴブリンはーご存知の通りー、洞穴等を主に薄暗い場所を棲み処にしておりますー。でも生息域はとても広くてーありふれてポピュラーな生物です。夜行性でー暗所でも良く物が見えているそうですよー。此処までは良いですか?」

「基本だな」


 それは俺自身も良く経験して熟知している。


「次に能力ですがー、手先は器用とまでは行きませんが岩石を加工して石器の類を作ったり、森林にある木々で弓矢を扱う種族もいますねー。原始的な人間の武器を模倣したという説があります」


 それを可能とする鋭利な爪。岩盤を掘る事まで出来る。


「戦闘能力はー魔物としてでもそこまで脅威とは受け取られていないようですねー。統率を取って集団で襲って来る性質もあり、単体であれば初心の冒険者でも倒せるレベルだとか」

「しかし、グレン様はドラゴンを相手取り、盗賊を軽々と捻り、わたくしを助け出してくださいましたわ。我が国の騎士達にも劣らぬ実力かと」

「ほえー、それは興味深いですねー。そんな戦闘能力を持った未知のゴブリン……じゅるるる」

「やめろォ!」


 危険を感じて思わず席を立った俺と、王女ティエラがシレーヌに軽く頭を叩く行動が同時に起こった。


「じ、冗談はさておきー、話の続きをしますー。ごく一部のゴブリンにはー能力に階級があるようでーそれに応じて様々な技量を持つとされています」

「……ああ。それだよそれが聞きたかった」

「大半の個体は石器の斧や槍といった武器を用いて突撃するだけのタイプで、その上の段階として弓を使って遠距離を攻撃し始めるようになるそうです。此処までが報告例の中で殆どを占めています」


 聞く限りではやはり、平均的にも知能が低い種族なのだろう。肉体と知性どちらにしても人間には劣る。


「そして稀に魔法を覚えた個体もいるそうです。彼らにも魔力回路があるので、ゴブリンの中でも高度な知能がある者が扱うのだとか」

「魔力回路?」

「魔法を発動するときに使う器官の事だ。人間にも持つ者がいる」

「さっきの検査でもグレンさんにもーある事が分かりましたー」

「え? じゃあ俺も使えるの?」

「ふーむ。どうでしょうねー。会得には才能やら努力やらが絡むので素直にイエスとは言えませんー」


 魔法か。俺は現状接近戦で強力な打撃を放つことしか出来ない。遠距離からの攻撃……特に魔法攻撃には弱い。


 対抗策、そして魔法の相殺が出来れば俺自身にも可能性の幅が広がるかもしれない。


「もしやグレン様、魔法を憶えたいと?」

「あった方が便利かな、と。教えられる人いない?」

「となると、騎士か王宮魔導士の中で魔法に長けた者に教わるのが近道ですわね……しかし、ゴブリンに教えるとなると難色を示しそうですが」

「姫様、それでしたら私に心当たりがおります」


 そう進み出たレイシア。お前は教えられないのか? あーでも、感覚派っぽいし遠慮しておこう。



 そんなこんなで、収穫を得たところで俺は一から魔法の師となる人物の元へと向かう事にした。ティエラは城へと戻り、同行したレイシアも部下達との鍛錬があるそうだ。


 一人で会いに行ってトラブルが起こるという心配は無い。何故なら、その人物は俺が良く知っている奴だったからだ。


「グレンさん。聞きましたよ! 姫殿下を賊から救ったらしいじゃないですか」

「おうアレイク。そんな大げさな話じゃないよ」


 中性的なうら若き美少年、アレイク・ホーデンがアルデバラン城下町の入り口で落ち合った。


「レイシア副隊長に呼ばれてきたんですが、僕に何か御用ですか?」

「頼みたいことがあってな。率直に言えば魔法を学びたいんだ」

「へぇ、誰に伝えれば?」

「今伝えた」

「そうですか……でも、此処にいるのは僕だけ……僕に!?」


 自らを指さしながら、裏返った声で叫ぶ。


「無理無理無理! 僕なんかより副隊長の方が断然強力な魔法使えますし、優秀ですって!」

「物事を教えるのに向いてるってくっころ騎士から聞いたぞ」

「そんな……ただのお世辞ですよ」


 この見習いは鉱山の時からそうだが自分を卑下し過ぎている。自信が無いのは分かるが、そんな事でこの先やっていけるのか? 俺には関係ないけど。


「でもな、他にいねぇんだよーこれが。俺と満足に話が出来て、魔法を教えてくれる奴。ダメで元々の話だ。試しで話を聞くだけでも良いから、頼む。な?」


 だが、その手の手合いはこういった拝み倒した頼まれ事に弱い。折れ易い。


「うう……。……分かり、ましたよ」

 ちょろいな。


 翌日。という訳で、アルデバランから少し外れ、草原が風で波のようにうねる丘に俺達は移動する。


「で、ではふつつかものですが……」

「はいよろしく」


 そういってすぐに話に移ろうとして、アレイクは待ったをかけた。


「ごめんなさい。その前にこれを渡すのを忘れてました」

 リュックをしょってやって来たので、魔導書でも入っているのかと思ったが全く別の物だった。


「あのドラゴンの素材で作った鎧です。蛇竜鱗じゃりゅうりんの鎧」

 緑の角ばった大小の鱗が胴体に満遍なく詰まった鎧を俺に差し出す。流れで受け取って、そのごつごつした外見とは裏腹の軽さに驚く。


「どうしたんだ、これ」

「ドラゴン討伐に、副隊長に同行していたって事で僕とオーランドさんにも素材が回ってきたんです。でも、実際僕達は何もしていなかったしグレンさんには何度も助けてもらったので、加工してグレンさんにお礼としてあげようと思ったんです。グレンさんの方が必要になると思います」

「俺が言っていた、礼って訳だ」


 それにはハッキリと頷く。なら、受け取るべきだな。

 さっそくその鎧に着替えたが、幾分か身軽になるのを実感。鎧なのに、服みたいだ。

 どんな性能があるのだろうと思い、俺はスクロールを開いた。


 蛇竜鱗の鎧 防御+22 敏捷+6 効果 魔法攻撃20%軽減


グレン:LV10(+6)

 職業:戦士 属性:土 HP:52/52 MP:18/18

 武器 なし 防具 蛇竜鱗の鎧 装飾 聖ロザリオ

 体力:52 腕力:38 頑丈:34 敏捷:57 知力:21

 攻撃力:38 防御力:56


 数値が上昇した。やはり岩竜の鱗の軽さによって効果がもたらされて素早さも増している。これは良い。


「グレンさん……」

 そうして眺めていると、アレイクが声を掛けてきた。こっちに夢中になっていたな。


 彼の様子は、俺がこの羊皮紙を取り出してから変貌していた。驚いているようで、むしろ何か得心の行ったような表情だ。あ、いけね。気を抜いて見せちった。でも、別に問題ないよな?



「やっぱり、グレンさんもなんですね。くっころって言葉とか前々から変だと思ってたんですよ」

 も? 変だと思っていた? 俺がその言葉の意味を探るより早く、

 アレイク・ホーデンは俺と同じ色の羊皮紙の束を掲げた。スクロールだった。


「僕もですグレンさん。転生者です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ