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俺の称賛、ありがた迷惑

「もっと高いの頼めばよかったな」


 それがリューヒィと別れた時に俺が一番に出た感想だった。本人の前では言わないけれど。


 ロックリザード討伐依頼の件で主催者でも責任者でも無いのにも拘らず、今回の不手際の詫びという事で俺の食事代を払うという申し出をしたのだ。なので破格の報酬に加えてタダ飯にありつけた。以前から心待ちにしていたのに加えて思いがけない幸運、渡りに船とはまさにこの事。


 そしてリューヒィは自らの商売柄この地域のギルド組合を回って定期的にこの街を出入りするようで、斡旋所を通して連絡をすれば依頼の仲介役を引き受けてくれるとの事だ。どうやら相当に顔が広いらしい。


 実際問題依頼は受注の資格があればどんな依頼も誰でも受けられるという訳ではない。そのトラブルや頼み事によっては複雑な事情故に実績と信頼のある者にだけ受ける事が許された依頼も多い。


 現状俺も難易度が低く、内容が達成できれば誰であっても良い依頼……いわばフリークエストでしか日銭を稼ぐことが出来ない。そういう意味では、今後彼女の手を借りられる可能性を視野に入れられるのは心強い事だ。


 と言っても、当然それに見合う実力を伴わなければならない。依頼を任せられる程の力量がある事が前提になる。


 これでまず金に余裕は出来た。色々な武器を用いて闘技の派生の出現を確かめた。ダメだったが。つまりは、ただ鍛える事に時間を費やすことが出来る。


 しばらくはそれで倒す魔物の素材を売って節約をしながら過ごそう。と言いたいところだが、


「あー、忘れてた……」


 そういえば、俺は使っていた剣を岩竜との闘いで失くした。丸腰で闘ってもそこいらの魔物相手でも脅威にならないが、闘技とうぎ頼りではMPがいたずらに消費されて経験値稼ぎの効率が悪い。


 丁度くっころ騎士のレイシアが剣を教えると言っていたから、剣でももらいに行くのもいいかもしれない。どちらにしろアバレスタでは労働組合の街であるので、売っている冒険者向けの武具は少ない。アルデバランに行こう。


 道中は素手で殴り殺すという過程で俺は街から街へ行き来する。その間にもレベルを再び1からやり直した手前、数日ぶりの上昇のファンファーレが頭に鳴り響いた。


 ステータスを見るべく歩きながらスクロールを開いた。


 グレン:LV5(+6)

 職業:戦士 属性:土 HP:41/43 MP:5/12

 武器 なし 防具 狼皮の革胴着 装飾 聖ロザリオ

 体力:43 腕力:30 頑丈:28 敏捷:35 知力:13

 攻撃力:30 防御力:36


 これでレベルを最初に戻して6周目。能力が下がる性質上、苦にもならなくなった筈の相手とまた手こずる感覚には気をつけないとならないな。レベルが高い時は、大したことないと思っていても低くなって相当な脅威になるという事がざらだ。本当に不便だ、ゴブリンというのは。


 遠目からでも見える城を構えた下街を俺は目指す。憲兵に止められ、おなじみのように許可状と信仰の印のロザリオを見せて入る。


「あぁ! グレンさん!」

 数日ぶりの再会。何かを入れた木箱を運ぶ鎧の少年が、俺の姿を見つけて明るい表情を見せた。


 重い荷物なのだろう。わっせわっせと抱え込みながらこっちに走ってきた。

「アレイクか。精が出るな」

「そうなんです! ちょうどよかった! 見てくださいこれ!」


 アレイクが蓋を開けた木箱に入っていたのは、見覚えのあるものだ。あれの一部だと、すぐに想像がつく。


「あの時倒したドラゴンの鱗です。ついさっき鉱山で倒されたドラゴンの遺体が到着したところでして、国が引き取ってこうして職人達の所に運んでいるんですよ」

 加工するのか、岩竜の素材を。


「触ってみていい?」

「どうぞどうぞ! これも本当はグレンさんのお手柄があっての事ですから」

 木箱に収まっていた黄土色の外殻の一部を俺は手に取った。


 凄く軽いな。あまりにも重みが無さ過ぎて驚いた。まるで紙で張り合わせた精巧なはりぼてみたいだ。でもそれでいてとても堅い。

 ドラゴンのような巨体に飛行する能力があるとして、それには自重が相当軽くないと不可能ではないかと思っていたが、あの岩竜の全身の大半がこの軽さで出来ているなら納得が行く。俺の崩拳で多少なりとも動きを封じられたのも実際より重さが無かったからなのかもしれない。


「ところで、このドラゴンの素材の取り分は全部アルデバランって事なんだよな?」

 アレイクが俺を褒め称えた事を逆手に、痛いところを突いた。彼の顔にも応え難いものが映る。


「あー、良いんだ別に。実際は俺が倒した訳じゃあない。レイシアが仕留めたから、騎士側の功績という事……つまりは国益にはなるって事だろう。そこに異論も不満も無い」


 実質、俺ではあの岩竜を倒せなかった。彼女の力があってこそ生き残れた。そのための手助けをしたに過ぎない。

「皆はこれを副隊長のお手柄だと思っています。でも、グレンさんがいなければ僕達は全滅していました。なのに、グレンさんには何も」


「欲しくないと言えばまぁ嘘になる。仕方ねぇよ。よそのゴブリン一人に栄誉なんてやっちまったら市民に大顰蹙だいひんしゅくを買っちまう」

「でも、僕言ったんです。貴方の活躍でドラゴンを倒せた事!」

「何!?」


 思わず俺は目を吊り上げた。アレイクは俺の予想に反した反応に戸惑う。

「え? だから、岩竜の闘いで貢献した話をみんなに……痛っ! 痛い! ちょ、やめてください!」


 彼の話が途切れたのも俺がその頭に何度もチョップをかましているせいだ。


「アホッ、間抜けッ、馬鹿ッ、ありがた迷惑だ」

 余計なことしやがった! 何も考えちゃいねぇ!


「な、何でですか!? 別に悪い噂を広めてる訳でもないのに!」

「あのなぁ。俺を知ってるからそうしたのかもしれねぇがよく考えてみろ。第三者視点でな。ドラゴンと多少はやり合えた奴がいたとします。それが人なのか魔物なのか曖昧なゴブリンさんです。何とそいつは自分達の住んでる街中に徘徊していたとしよう。それがもしかしたら民家を襲う可能性があるとしたら?」

「グレンさんはそんなことしません!」

「だから知ってるから大丈夫だと思うって話だろ! 俺は何であれゴブリンという種族でとるに足らない雑魚で、トラブルを起こしても最悪抑えられますって前提で此処にいる事を許されてるの。それが相当手が抑えられない奴だって周りに言ってどうすんだ? そんなのがいたら追い出したいんじゃないのか? 俺を迫害させるような煽り入れてどうすんだ」

「う……」


 よく考えれば簡単に分かる筈だ。俺を普通の人間と同じように思っちゃダメだろ。


「で、話した奴等は誰で何だって」

「まだ、仲間の騎士にだけ。笑い話に受け取られて一蹴されました……」

「なら良い。もう余計なことすんな」

「……僕はただ、グレンさんが正当に評価されないと不憫だと思って……。副隊長は近日中に隊長として昇進するのに」


 しょげる美少年。言ってる事は分かるがそんなものはもてはやされる資格がある奴に当て嵌まる。レイシアみたいな立場にふさわしい。

 親切な気持ちで動けば何でも良いという訳ではない。きちんと考えてから行動をすべきなのだ。


「忘れんな。俺だってお前等が倒したロックリザードの報酬を独り占めしてんだ。持ちつ持たれつなんだよ」

「……元々貰う筈無かったんですよ。釣り合ってないです。恩人なのに」


 どうして此処まで俺の心配をするんだコイツは。同情か? 生きて帰って来れた時点で御の字だったのに。


「でも、やっぱりそんな事だろうと思って正解でした。もう少しで仕上がる」

「何の話だそれ」

「あと数日したら教えます。それまで待っててください」


 そう言って持ち場に戻ったアレイク。未熟なのは一目で分かったが、此処までとはな。


 まぁいい。そんな事より今は次期隊長に成り上がる副隊長殿の所へ行こう。



「そこぉ! 腰が引けてる! そんなへっぴり腰で敵に勝てるか!」


 訪れた場所でレイシアは相変わらず、自分の隊への厳しいしごきをしていた。手当している事から完治はしていないようだが既に復帰している。

 演習で兵達の指導しているのを見物し、休憩に入ったところで俺は近づいた。


「元気そうだな隊長殿」

「まだ副がついてる時期だ。オーランドかアレイクに聞いたか?」


 当のオーランドはそこで汗を流している。俺を見つけるなり、あまりいい顔はしていなかった。他の連中の視線にも好感触のものは無い。


「言っておくが、貴様を差し置いて昇格というのも納得は行っていない。アレは私の力量では太刀打ちできない敵だった」

「少し頭使えれば勝てただろうぜ? 過小評価すんな。レベルも結構上がったんじゃないのか」

「ああ……あの時トドメを刺したのはこちらだったからな。経験値も相当貰ってしまった」


 やっぱりか。このくっころ騎士が隊長になるからして、栄誉だけでは条件が足りないと予想していた。強敵を下した事で能力も高まったのだろう。


「経験値については全然構わねぇ。あの時の俺じゃあ無駄にするところだった」

「どういう事だ?」

「俺はどうやら、一定のレベルに達するとそれ以上は上がらなくなる。ゴブリンが弱い理由の一つに、成長限界がすぐに訪れるのがあるだろう」

「では何故お前はあれほどの力を出せる?」

「それは秘密だ。それについて口止めも兼ねて此処にきた。アレイクの馬鹿みたいに余計な事を周りに触れ回らないようにな」

「情けない話ついさっき寝所から復帰したばかりだ。訓練を優先させているからまだ誰にも」


 てことはいずれは言い出す可能性もあった訳か。釘を刺して正解だったな。クソ真面目で冗談の通じないコイツの口からだと、未熟なアレイクとは違いマジで受け取られるかもしれない。


「その含みからして、秘匿にしようとしたいようだが、隠す必要があるのか?」

「メリットが無い。何でかはアレイクにでも聞け。それにもう一つ用件があってきたがお前の成り見るとやめとくわ」

「しごいてやる、という話か? 良いだろう、剣を出せ」

「だから剣はあの時折れちまったって言ってんだろ! 覚えてないのか、ドラゴンとやり合った時!」

「詠唱していたのでな。貴様今丸腰なのか?」

「お前抜けてんなぁ結構」

「抜けてなどいない。あまりに夢中になると別の事に視野が行かなくなるだけだ」

「それを抜けていると言う」


 こんなんで良く隊長になれるな! 心配になるわ。


 というやり取りを経て、俺は騎士に支給される安物の剣を貰った。後は彼女を上手く口でごまかし、貰う物だけ貰って離脱する。よし、これでレベル上げに行けるぞ!



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