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俺の探検、二日目

 引き返してからの魔物の遭遇は行きの時よりもある程度は減っていた。収穫は占めて18匹分。何だかんだ言いながらも、騎士の連中も舌を残すように倒してくれた。


 外に出る事が出来たのは入ってから9時間程度だった。残された時間は入り口付近で出没するロックリザードを掃討して安全確保や休憩、騎士達の点呼で過ぎていく。此処で俺は3枚の蛇舌を確保。


 晩になる頃には採掘場の上辺で幾つかの焚火の炎が灯っていた。流石に俺は騎士達の集まりに混ざれないので、昨日一睡していた場所と同じ所で今夜も過ごすこととした。


 他人にはあまり見せたくなかったスクロールをようやく開いて、自分の現在のステータスを確認。


 グレン:LV13(+5) ★

 職業:戦士 属性:土 HP:38/55 MP:10/23

 武器 黒鉄の長剣 防具 狼皮の革胴着 装飾 聖ロザリオ

 体力:55 腕力:42 頑丈:39 敏捷:50 知力:26

 攻撃力:51 防御力:47


 やはり秘跡ミサを行いたいが、その衝動を堪える。成長限界の間の我慢を対価に、俺にはパーティを組む上では避けられなかった筈の山分け無しで報酬が待っているのだ。


 それと、一応周りにも警戒する。参加した冒険者達には俺の独り占めがバレていないとは思うが、それでも欲が祟って強奪してくるかもしれない。

 まだ一日目だから仕掛けては来ないとは思うが念には念。いつでも逃げる準備はして置いた。


「あ、そうだ」

 それとやるべき事がある。忘れていた。

 ランタンの明日分の燃料が必要になる。それを貰いにあの炭鉱夫の許に俺は出向く。


 小屋の扉を叩き、毎度不機嫌な表情をしたオヤジとご対面。

「何だテメェか」

「何だとは何だ」


 そう言い返して俺は燃料の無いランタンを目の前に突き出す。向こうもそれを乱暴にひったくった。


「こんな時でもなけりゃあ、オメェらなんてこの採掘場に入れねぇ。あのトカゲどものせいでこっちは働き口も失わずにすんだのによ」

「大がかりにしちゃあ、此処にいるのはアンタ一人のようだが」

「またその質問か。逃げちまったよ。こんな所危ねぇってんで避難するのを機会に皆辞めちまった。薄情な連中だ」

「ん? じゃあどうしてアルデバラン王国公認で鉱山内の魔物を駆除するって話に?」

「だから国が炭鉱権を買い取って俺達のやって来た仕事も余所の連中にやらせるんだとよ。俺はそれまでのお守って訳だ。そしたら俺も用済み、職無しだ」

「ひでぇ話だな」

「人手が無くなったからと言って、そのまま野放しじゃ資源の持ち腐れだろうが」


 責任者の最後の務めという事なのか。愚痴をこぼしながら、燃料を入れる。

 ふと引っかかっていた疑問を、俺は口にした。


「おっさん、家族はいねぇのか? あの村にももうまともに人はいなかったようだが」

「……」


 ギロリ、という擬音が似合うような睨みを炭鉱夫は利かせる。どうやら地雷だったか。


「深い他意は無いからそんな恐い顔すんなよ。ただ、何で一人でこんな所にいるのか不思議でしょうがなかった。国が責任もってやるんだ、クビにされるのに付き合う必要は無いだろうし。鉱山に愛着があるのとは違う気がしたんで気になってなぁ」 

「テメェに関係あんのか? ええ?」

「ないさ。そりゃあな」


 と、おどける仕草をしながら俺は思い出す。その小屋にあったこの男と家族が描かれている絵画の事を。家族はこの男のやっている事をどう思っているのか? あるいは、


「見ての通り俺は通りすがりの冒険者だ。人様の事情に首は突っ込むのは筋違いか。悪かったな、余計な事聞いて」

「テメェらは手前テメェの仕事をしてろ」


 悪態と共に鼻っ柱を殴りつけそうな勢いでたらふくの燃料を入れたランタンを突っ返した。それを受け取りながら、俺は最後に言う。


「何か見つけたらついでに教えてやるよ。心残りがあるって事だろ?」

 虚を突かれた様子で炭鉱夫のオヤジは息を詰まらせた。用事は済んだので俺はその場から立ち去る。掛かった。


「ついでだついで。余計なお節介だから期待はすんなよ?」

 これ以上はしつこく絡まない。引き際は肝心だ。


 そして二日目の早朝、俺はくっころ騎士、アレイク、オーランドの三人と再び合流して洞窟に入った。だが昨日とは違う事がある。


「同じ入り口には入らないのか」

「あの道はほぼ一本道。別の組に入らせて、我々が入り組んだ方を探索した方が効率が良い」

「余所者一人に新人二人と組んでまで上司は大変だねぇ」

「なら、精々足を引っ張らないようにしていろ」


 彼女の場合、俺の皮肉が通じているのか否か分からないが、相も変わらず辛辣なコメントをいただく。

 今日俺が入った鉱山の内部は、まるでアリの巣のようだった。分かれた道の先には部屋のような空間があり、そこで行き止まりになる。昨日はトロッコ線路が伸びていたり途切れて残骸が散らばったりしていたが、此処はそういう人の手が関わっているようには見えない。人間が掘った物なのか?


 さらに、現れるロックリザードの頻度は昨日よりも倍増に感じる程増えた。反比例して余裕を持って歩いていた時間も減る。


 俺が持つロックリザードの対抗手段の大半を占めているのが崩拳ほうけんだ。まともに剣が通らない以上それで俺は倒していく。反面、必ずそこには問題が行き着く。

 MPの残量だった。一発につき1消費する以上、俺の崩拳は20数発しか使えない。


 だから今回俺は時間を掛けて闘うやり方と騎士三人を利用してやり繰りする。

 極力、闘技:崩拳を使うことなくMP消費の無い硬御と肉質のマシな所を剣で少しずつ弱らせ、そのままトドメを刺すかあるいは騎士に片づけてもらうという手段だ。


 アレイクの場合は、何も言われずとも一生懸命善戦してくれた。自分の所も中々精一杯だというのに健気な奴だ。


 くっころ騎士の場合、

「それくらい自分で何とかしろ」


 オーランドのノッポ野郎の場合、

「何チンタラやってんだよ! 世話焼かすな」


 と二人の反応はよろしくはなかった。まあ当たり前か。サボってるような物だし。

「ところで副隊長さんよ」

「何だ」


 洞窟に入って数時間が経っただろう。交代と休憩を昨日より多く挟みながら進む中で、俺はくっころ騎士に尋ねる。


「探索って言ってたが、騎士の任務っていうのは魔物の掃討作戦のお手伝いなんじゃなかったか? 魔物以外に何かお探しで?」

「貴様に関係ない事だ」

「おいおいつれない事言うんじゃねぇって。知られちゃまずい事でも無いだろう。俺って夜目が利くからな、灯りだけじゃ見逃しそうなのも見つけられるかもしれないんだぜ? 言ってくれりゃあ、それくらいは手伝って--」

「いらん」


 申し出は撥ね除けられてしまった。損得勘定抜きでゴブリンのお節介は不要、といったところだな。

「そんじゃ、もし俺が遺留品を見つけても報告しないで素通りするって事で良いか? 俺の御世話はいらないんだもんなぁ」


 騎士達の足は止まる。振り返り、問い詰める様子で俺に詰め寄った。


「……どこから聞いた」

「いいや推測だね。この鉱山の麓の村に魔物が押し寄せた時の傷跡が残っていた。でもロックリザードがそんな事をするのはそれはおかしい。アレイク君、それは何故でしょう?」

「え?」


 突然の振りに戸惑った彼は言葉を詰まらせる。だが、恐る恐る回答に乗った。


「そ、それは、鉱食のロックリザードがわざわざ山から降りる必要が無いから、ですか」

正解エサクタ!」

「だから何が言いたいんだお前は」


 指を指して俺はアレイクを称賛。そのやり取りを見てイライラしたのかオーランドが口を挟んだ。


「食べる以外の目的で村を襲うとすれば、それはロックリザードの生態としてありえない。そこが気になる。それと、おいくっころ騎士。村への襲撃で何人かが行方不明にはなってるんじゃないか」

「……ああ」

「副隊長、初耳っスよそんなの」

「確定した情報が断片的である以上、無闇に広げるのは混乱を招く、だろ? 俺もその立場だったらそうするぜ」


 独り魔物が巣食う鉱山に残ったオヤジ。騎士達の導入。大規模な作戦。俺はリューヒィがこの依頼をさし向けた時から訝しく思っていた。


「一か月も経つ以上、恐らくは此処まで引き込まれていった村人に生存者はいないだろう。新人には秘匿にしていたが、組のリーダーに探索時に彼等の遺留品もしくは亡骸を見つけた場合報告するように話している」


 想像しただけで身の毛がよだつ。俺も市中引きずり回しの刑を受けた身だから分かるが、化け物に山頂まで生きたまま地面を引きずられる気分は最悪だろう。そして、こんな穴奥にまで連れてこられるなんて。


「だから不自然なんだよなぁ。どうして魔物がそんな真似をするかねぇ。大した知性がある訳も無いのに。そもそも、元々人が普通に働いてた鉱山にこうも大量発生するのもおかしい」

「こんなペラペラ喋ってるゴブリンがいるんだ。働き蟻みたいな事するロックリザードだってありえなくは無いだろ」


 オーランドめ。そいつは結構失礼だぞ。ゴブリンは喋るのもいるし、後者は陸に暮らす魚くらい事象外だ。


 ん? 働き蟻、だと?

 と、そんなほんの少し立ち止まっている合間に、


 ガラガラガラ、という喉無き蛇の警告音が背後で聞こえる。迫ってくる。


 ガラガラガラガラガラガラ、ガラガラガラガラガラガラガラガラガラ、ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ。ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ。


 その音は、連鎖した。耳障りに洞窟を反響し、埋め尽くす。そして無数のあの

地を這う足音も共に。


「何ですか! 奥の、たくさんの黄色い眼は……!?」

「うへぇ、誰か蜂の巣でもつついたか?」



 雪崩なだれうつようなロックリザードの群れが、進んできた道から俺達へ迫る。

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