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俺の決行、最終作戦

 話は一同が集まってから女神の口から告げられる事となった。

 戦争は俺達の勝利に納まる。途中で魔物達は撤退を始め、見事に侵攻を止める事に成功した。

 しかしハウゼンの訃報に幾多の人間は悲しむ事の方が多かった。憎悪をたぎらせる者もいた。

 だが彼の遺言を聞いたレイシアが、それを諫める。そしてこの悲劇が広がらぬようにしようと、導く。


 他にも今になって女神の降臨に大騒ぎする者達もいる。アレイクの兄達--アーメン3兄弟は信仰の対象が現れた事で号泣していた。

「おおおお! なんと我等の元においでなさるとはァ神よォ!」

「なんと降臨なさるとはぁああ! なんとォうおおおん!」

「神よ! amenかくあれかし!」

「ああ、ハイ。女神です……何ですか彼等? なんとかしてくださいよ」

「アンタの信仰者ファンなんだからきちんとお相手して差し上げろ」

「ちょっと! 善行はどうしたんですか!」

「雑用係になった覚えはない」

 慣れ合うような間柄では無いのに耳打ちして来る女神に対し、俺に振るなと仲裁を拒否した。何で個人の事情にそんなめんどくさい事をしないとならんのだ。


 他にも城に向かって一匹だけ獣が向かって来ると聞いたので警戒していたら、その確認した特徴から女神が通すように許可を出した。

「ゴ主人様ァアアアアアアアア! ヤハリ貴女様デシタカァアアアアアアアアアアアア!」

「やっぱりポチでしたかー。お久しぶりです」


 いつぞやの地下遺跡にいたオッサン顔のスフィンクスが、ドラヘル大陸からどうやってか海を渡ってエルマレフの元に駆けつけたのだ。てか、スフィンクスなんだからかろうじて猫科だろうに、犬っぽい名前だったのかよ。

 

 そうして番獣も加わり、女神を筆頭とした更なる次の作戦会議は始まった。中央広場に人が集まる。村の人達も、これから反逆者の襲撃を予期してこちらに退避している。

聖域の楽園サンクチュ・エリュシオン

 話の直前に、エルマレフはアルデバランに光の結界を張った。小人達に盗み聞きされないようにレイシア以上に膨大な範囲を隔離する。


「では、お話ししましょう。未知アグノストスのネモ、彼を倒す為の策を」

 女神は語り出す。皆は静かに拝聴していた。


「彼は非常に狡猾で厄介な反逆者。天からの攻撃を小人化する事でことごとく回避してきました。今も各地に散っている小人全てが核と言っても良いでしょう。全てを一度に滅ぼさねば、根絶する事が出来ません」

 だから、今まで手を焼いていた。そんな相手をどうすれば良いのだろうか。俺では思いつかない。


「しかし、今回私は入念な準備を終え、小人全てに一斉攻撃が出来るよう位置情報を補足しました。標的が小人のままでは確実に死に至らしめる事が出来るでしょう」

「だったら、すぐにそれを行えば良かったんじゃないか?」

「そうですね。それで全てがうまく行っていれば苦労はしなかったでしょう。最近になって確認された更なる能力として彼には自己堕落能力があります。人を反逆者にし、生き物を魔物にするあの力を己にも扱うことが出来る。……小人の状態でも複数体で纏まれば可能であるというのも。当然、残した本体も纏まってしまえば防がれる。その意味、分かりますか?」

 天からの攻撃にも耐えうるように、どれかは本体に戻り、本体にならなかった分裂体は魔物となって生存してしまうと。

 あの喋るグリフォン……まさか小人が堕落した魔物だってことか? いや、よくよく考えてみろ。

 魔物の軍勢も、短期間であれほどの数を自然の生き物だけでこしらえられるだろうか。自己増殖して魔物化したネモそのものだったのではないか?


「それではやはり手の打ちようがないのではないか。相当厄介なのだ」

 英雄ヘレンの独白に、女神は同意するように頷いて続けた。

「幸いなことに、向こうが本体に戻すには小人を一匹でも分裂するストックとして残す必要があるようです。つまり、本体を叩くには予備を全て堕落させて掃討をする必要があるのです。皆さんの協力が要ります」


 ざわつく周囲。各地にいる小人達をどうやって仕留めに? という疑問が浮上する。

「私が貴方達をその各地に転送します。それくらい朝飯前ですよ」

「それが作戦の全容か?」

「いいえ、ここまではお膳立てに過ぎません。それだけでは確実にネモを断絶するには不十分。小人から戻った本体がまた復元して分裂してしまっては失敗してしまいます。ですから先輩が文字通り命を賭して用意した大仕掛けで決着を付けます」

 これこそが奴に聞かれる訳にはいかない話なのだろう。だから、今まで俺達にも直前まで黙秘していた。


「グレン・グレムリン。貴方は覚えていますか? 私と初めて出会った場所を」

「初めてって、それはこの世界じゃなくて……」

「そうです、貴方がローグとして誕生したそれ以前の--前世でお話ししたあの場所です」


 白塗りの何もない部屋。転生する為に女神と話し合ったあの世のことだ。

 どうやら、あそこを使うつもりのようだ。

「あそこはガフの部屋と呼ばれています。管理者--すなわち神が不在になることで現世への道を閉ざす隔離空間になる。あそこにネモが心折れるまで閉じ込めること。それが今回の作戦の趣旨です」

「いやいや、突発的で疑問だらけだ。どうやってあそこにこの地上から送るんだ? そもそも生きてる奴が行けるのか?」

 疑問を追うように女神は説明した。


「生者も入ることは可能です。しかし精神が折れてしまえば、あの世に移る為に肉体と解離させられる。それこそネモを倒す時の重要な過程となります。今、ガフの部屋への入り口は大きくなっています。理由は、先輩……此処で言うハウゼンの魂があの世に送られたからです。神様クラスの霊魂が通過すると通り道が広くなるんですね。言ってしまえば魂も持つ者を吸い込むブラックホールみたいな物を開けると考えていただければ理解できるかと」

 ぶらっくほーる? と現地人達からの微妙な反応がポツポツと出た。無理もない。


「ハウゼンはそれを狙っていたのか」

「その通り。あの人は今頃ガフの部屋の調整に入っているでしょう。私の意図で開けば、付近にいる反逆者だけが吸い込まれるという条件にしているかと。各地の小人を殲滅している内に、最寄りにいる本体に戻る小人だけはあえて生かしたまま、隙を見てこの世界と隔離する。分裂体が私の攻撃で先に魔物化してしまえば、必然的にそうならなかった個体を本体として絞れるでしょうし。ざっくり言うとそんな感じですね」

「……要するに、どういうことだ?」

「殲滅は囮。余分なネモの分身を削いで、本体の小人を狙ってガフの部屋に引き込むって話だよ」

 理解の遅いレイシアにざっくりと捕捉する。おお、とそうして相槌を打った。


「当然ネモは抵抗するでしょう。何せ4千年も生きて来て、あの世に行く気など更々ないから反逆者になったのですからね。ガフの部屋を押し込む一押しが必要になる可能性もご留意を」

「なるほど、大掛かりになりそうだ」


 作戦がまとまったところで一時解散し、最後の休息をしていると、

「グレン・グレムリン、先程の話で貴方一人にだけ続きがあります」

 エルマレフが声を掛けて来た。信徒達からの挨拶を掻い潜りながら、密談を持ち込まれる。


「今回の成功率はこれだけ用意しても五分五分といったところでしょう。貴方の予言が無ければの話ですが」

「俺の立ち回り次第で結果を左右する可能性が高いって訳だな」

「お話を聞いていたと思いますが、ガフの部屋にはリスクもあるのはご理解できていますね」

「……」

「一歩間違えれば、どうなるか。その最終手段の為に、もう少しだけ補足をしようかと」

「へぇ、どういう風の吹き回しだ? 別に俺がどうなっても構わないのかと思ってたんだが」

 皮肉はやめてくださいよ、という女神の苦虫をかみつぶした表情。


「せっかく掴み取ったチャンスを不意にされても、こちらも気分の良いものではありませんから。そして心の準備も無くそうなられても困ります」

「これまでと打って変わってお優しい事で」

「……だから、私も本意ではなかったんですって。辛い想いをさせた事は謝ります。しかし、私も女神ですのでどんな相手に対しても同情せず毅然とした態度を--」

 此処最近の彼女の反応を見てると、もう崩壊していて説得力がないな。


「そういう訳で、有り難くお話を聞いてください。万が一の時には役に立つでしょう」

 詳しく作戦の裏にある仔細を俺は聞いた。そうならない事を祈るばかりだが、覚悟をした方が良いだろう。

 周囲に知らせずに密談で俺に教えるというのは、つまりそういう事だ。



 そしてそれほど時間が経たずに、最後の作戦は始まった。

 アルデバランから少し出た俺達の前で、エルマレフは白髪琥珀眼の戦闘形態に移行し、魔力を解き放った。


 光の方陣が辺りの広大な地面に走り、独自に回転し始めた。その鏡映しのように、空にも魔法陣が展開された。高低差を経て幾重にも張り巡らされた陣に、蠢くおびたたしい光点。俺は、それがネモの分裂した小人であると理解するのに時間を要さなかった。

「全標的に索敵と捕捉を終えました。では始めます」

 頭上に手をかざすと、眩い光の物質が弓と絃の形を象って現れる。同時にその弓ではつがえる事が出来ない数の矢が宙に出現した。どんどん増えていく。


 ハープでも弾くような所作で、エルマレフが絃に指をかけ解き放つ。

 滞空していた全ての矢が、空に飛んで行く。夜空を流れる流星のように上空を駆け巡り、そして飛び散った。


 大陸全土を覆う光の雨は、一発一発が小人を狙い射貫く。荘厳で神秘的な光景は、殲滅の印。

 頭上に展開した魔法陣の中のターゲットマーカーが、次々と消失していく。ネモの小人を確実に倒しているのだろう。

 たとえ木のうろの中に潜もうと、洞窟の中に隠れようと女神が言うには関係ないそうだ。確実に届く設定をしていた。


「思ったより残りましたね」

 女神らしからぬ舌打ち。仕留め損ねた奴等が多く存在するらしい。上空方陣に目をやると、標的を表す光の点がまとまって大きくなって健在する物がいくつもあった。


「ただちに現場への急行をお願いします。ただちに戦闘準備を」

 頷き、大勢の仲間達が手筈通り足元の魔法陣に立って武器を構える。足元の発光が強くなっていく。


「頼んだぞ皆」

「行って来まする旦那様」

「お任せを。このオブシド、全霊を以て臨みましょう」

「ああ頼まれたゴブリン。何、英雄の手に掛かれば楽勝だハッハッハッ」

「兄弟子様のご信頼に背きませんぞ!」


 そして気が付けば、陣に控えていた大半が姿を消す。皆、各地へ飛ばされたのだ。今にも激しい戦闘を始めているだろう。

 残ったのはエルマレフと俺、レイシアやロギアナにアディと最低限の戦力。


「まったく君達ときたら」

 外部で、来訪する者がいた。白百合の花が逆さに咲いたような恰好をした素足の少年。

 心底煩わしそうに、親玉が堂々とその場に現れる。本体だ。


「せっかく障害が減ったと思えば、また余計なことをするのかい」

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