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俺の自戒、くっころの進路


 魔物の軍勢は数にして万を越える。濁流のように大地や木々を踏み荒らし、人の世界へと侵攻していた。種類も多岐に渡り、ドラゴンや獣、巨大な虫と生物の習性では在り得ない群れの混線具合だ。


 空から偵察へ向かった竜兵の報告に、迎え撃つ地点や隊列などの作戦会議をすぐに始めた。

 かつてのペテルギウス戦よりも幾分か規模の大きく激しいものになることが危惧される。だが、魔物相手なら容赦なく倒せる。


 予定では接触するのは明日の正午。ペテルギウス等からも兵達の応援をする返事を貰えている。人と反逆者率いる怪物の総力戦だ。


 エルマレフも直前で降臨するとハウゼンから聞いているので、後はその準備を進めるだけ。

 そして俺の方も決戦に備えて新たな装備を頂戴していた。

 シレーヌからはカイルとの戦闘で失った籠手弩ガントレッドボウをまた製作してくれていた。扱い方は以前と同じ。

 さらに竜人達からは抜け落ちた鱗を繋ぎ合わせた人竜鱗の鎧を贈呈される。蛇竜鱗の鎧よりも軽く耐久耐火に優れた防具だった。


 騎士代表のレイシアが皆に演説する。それを聞きながら、俺もその勇ましさを眺めていた。

 かつて俺の至らなさで悲劇に襲われてしまった少女。向こうは覚えてないだろうが、ゴブリンになる前に一度会っている。

 あの泣きじゃくっていた幼い子が、今や兵を纏める戦闘に立っているんだ。大きくなったもんだ。



 決戦前夜。夜半に俺も自身の最終調整に入った。魔力操作と鍛錬はパルダが不在の今でも継続している。

「おい、グレン。少し良いか?」

「何だレイシア」


 就寝前とは思えない鎧姿で、俺に声を掛けて来るくっころ騎士。それともいつでも敵襲に対応できるようにそのまま寝る気か?

 俺も休息に入り、棚田の土手に座る。隣で彼女も腰を下ろした。



「いよいよだな。予言とお前自身の決着も」

「お前もそうだろ。黒竜に襲われてるんだからな」

「既に私の方は決着がついてるよ、この手で倒しているからな」

 最初の頃の尖ったナイフのような雰囲気はもう無い。随分丸くなったなコイツも。


 そういえば、これもまだだった。

「ところでレイシア。頼みがあるんだ、自戒がある」

「うん?」


 これは言って置かないと……いや、ケリをつけて貰わないといけないことだ。

「俺を殴れレイシアーーほげぇっ!」

「これでいいか?」


 俺は土手をゴロゴロ転がり落ちていく。まだ心構えが出来る前に、手加減したのか些か疑問に感じる程の殴打を受けた。


「い、いきなり問答無用でブッ叩く奴がいるかァ!? こういうのは『ああ分かった行くぞ』とか『どういうことだ? 説明してくれ』とかそういう前振りがあってしかるべきだろ! 条件反射とかすげーなどんな神経してんだ!?」

「殴れと言っておいてすぐに殴るなと喚いたり滅茶苦茶な奴だな」

 お前が言うな! 眉の根を寄せている彼女に抗議の感情が湧く。

 まぁいい。これでおあいこだ。俺は再び元の場所に戻る。


「で、何故急に?」

「いや、棚にあげてた事があったんでな」

「? 何のことだ?」

「オーランドの時引っぱたいただろ? アイツの気持ちを汲めってさ。俺も人の事を言えなかった。大事な人の気持ちを忘れてた」


 俺も猫の女ミリーの事を忘れて生きていた。彼女は俺のせいで死んでしまったのに、そんな事も露知らずこれまでのうのうとしていた。

「そのけじめだ。まぁ深く考えなくて構わんよ」

「お前が納得しているなら、それで良いが」

「それにしたってお前少しは遠慮しろよな。流石に全力で殴る奴がいるか。口の中切れちったい」

 血の味を覚えて不服を訴える。すると彼女の髪が白く発光する。


「分かった、治してやろう」

「いや良い良い。余計痛くされちゃたまったもんじゃない」

「それなら大丈夫だ。大人しく受けてみろ」


 怪訝に思いながら、レイシアの言葉を信じて頬を差し出した。

 ペチっと顔に手を当てられると、すぐに治癒魔法が始まる。傷口を無理やり治そうとすることで到来する痛みを覚悟する。


 光に当てられて数秒間。全く予期していた痛覚の信号はいつになっても到来しなかった。

 痛みが抑えられている。鎮静だった。


 治療はすぐに済んだ。口内の傷口は跡形もなく消え去っている。

「お前水属性が使えるようになったんだな」

「ああ。グレンの努力に触発されて私も覚えたんだよ」


 王女ティエラと同じくして、くっころ騎士も治癒魔法の弊害とも言える激痛を鎮静させることが出来るようになっていた。治される側にとってすごく有り難い進歩である。

「色々、お前を見ていて学んだことがあるよ。ただ傷を塞げればそれで良い訳ではないというのもそうだが、人を守る事が出来ればそれで良いとこれまで思って来た私も、考えを改めさせられる。ましてや、守れなかった者に対してのフォローなんて気が回っていなかった」

「あー、もしかして知ってんのか」

「隠さずとも周知されているさ」

 レイシアも誰かから聞いたのか、俺が被災した子供に恨まれ手を刺された話を。


「私は厄災の被害に遭いながらも、運良く皆に恵まれたおかげでこうして志高く騎士になれた。しかし、皆もそうであるわけじゃない。お前も全員に憎まれ役を買って出て生きる指標をくれてやるわけにはいかないだろう?」

「まぁ、そうだが」

「おこがましいかもしれないが、彼等にも手助けが出来ないかと考えている。ただ、それは騎士のままではダメなんだ。守り通しても、彼らがその後を生きられる保証まで出来ない」

 つまり彼女は見つけたということだ。自分の本当にやりたい事を。

 しかし、よりにもよって俺に相談しに来たか。他にも相手がいるだろうに。


「現実的に考えれば孤児院だろうな。身寄りのない子供達に支援が出来るだろう」

「良いんじゃね。ずっと騎士でいなきゃならん理由も無いし。ただそうなるとシスターって事? 似合わねー」

「言ってくれる。生憎既に信徒である以上、なろうと思えばなるのは難しくないんだなこれが。この戦いが終わったら、潔く引退する事も視野に入れている」

「あれ? それ死亡フラグじゃない?」

「お前の活躍次第だよ」


 振り返れば、この女騎士とも色々あった。

 最初は険悪とも言って良かったのに徐々に互いのことが分かるようになって、それでもすれ違いがあったりして、頼りになる相棒として幾度も共に死地を乗り越えて来た。

 もう目の前の現実に翻弄されていたただの子供だとは思わない。目指す道が何であれ、しっかりやって行くだろう。


「それと……いや、やっぱり何でも無い。話を聞いてくれて礼を言う。そろそろ寝ないとな、お前も時間を見て切り上げないと明日に響くぞ」

 すくっと立ち上がったレイシアは、その場を後にする。何かまだ言いたそうなことがあったようだが。


 月輪を見上げ、しばらくして俺も屋敷に戻った。安らげるのも今の内だ。


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