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俺の死闘、小鬼と魔王

 反逆者とは転生者が堕落した存在。大まかながら、人を人ならざる者へと変質した魔物とも異なる化け物の総称。その姿は多種多様に分かれ、決まった形を持たない。当人達の個性に影響されるそうだ。


 俺は完全に見落としていた。既存の転生者が新たに反逆者になるというケースを。俺も、アレイクも、ロギアナにも、ヴァジャハやシャーデンフロイデのように変質する可能性がある事を失念していた。

 よもやカイルが実際にそうなるとは。確かに俺が勇者という地位を奪い、監獄送りにしてやったがそれは奴自身の自業自得であり理不尽と呼べるようなものでは無いと高を括っていた。


 だが、奴にとってはそれが挫折であり絶望であった。そんな事、考えてみればすぐわかる事だったのに。

 でも、まさかこんな簡単になるのか? シャーデルの奴が千年以上も影の手掛かりを求めて探した時にも、反逆者はヴァジャハとしか面識がなかったと言っていた。それだけ稀有な堕落がよりにもよって、カイルなんかに……


 動揺とは裏腹に俺は精神的優位を奪われないよう、飄々とした態度を繕う。相手のペースに乗るわけにはいかない。

「何だぁその悪役丸出しなコスプレは? 監獄で過ごすにしても派手すぎ。その無駄に多い突起邪魔じゃない? 格好つけるにしたってほどほどにしろよ。何処のお祭りに出席するんだ? ん?」

「俺は形から入るタチでな。勇者の時といい、反逆者としても見た目ですぐわかるようにしてやってんだよ」

 奴自身も認める。勇者カイルは、反逆者だ。


「で、それで?」

「あ?」

「いつ頃牢屋から出所したのよ大将。俺の記憶じゃあおたくは鉄格子の中での暮らしを終身契約した筈でしょ。王様ごっこなんて、やってる立場じゃないでしょうに」

「そうだ! カイル貴様! 何故貴様が王の間にいる!」

 ヴァイツェンの糾弾に、元勇者が煩わしそうにねめつけた。


「分かんないかなぁ。今は俺がこのペテルギウスの国王なんだよ」

「王を語るな! 本物はどうした! そこに座るなど父上が黙っていないぞ!?」

「『此処』にいるだろ」

 口を開け、不気味なほどに白く統一された歯並びの中を示唆するカイル。


「遺体なんざ残したら、めんどうになるから食ったさ」

「…………食っ、た?」

「けど遺品は残ってるぜ? ほら、俺が脱ぎ捨てた皮のローブや王冠は本人の物だ。なり切る時に気分が出るんだよ」


 褐色肌の少年は膝をつく。遅れて茫然と、誤魔化しようのない事実を口にした。

「父を、殺したのか」

「それくらい分かれよ王子サマ。成り代わるのに生きてたら邪魔になる。そもそも、俺を勇者と持ち上げておいてゴミみたいに牢獄送りにしようとした糞野郎を生かして置くわけないだろ? それが最初の復讐だ」

 反逆者は復讐の為に王を殺した。自分を貶めたペテルギウス王に化けたのは、その一環であると。

 何故王を語るのか、それはこの戦争への発展と結びつければすぐに察する事が出来る。


「お前、まさか俺を嵌める為にこんな事をしたのか」

「こんな事? さーて、何だろうな」

「惚けんなよ。理不尽な要求をしたのも、アルデバランに戦争を仕掛けたのも、王子諸共滅ぼすような大規模魔法の命令を出したのも、全部俺への仕返しの為なのかって聞いてんだッ」


 人らしからぬ、口の端が裂けた哄笑。もはや、コイツは人を辞めている。

「それ以外を目的に俺がこんな周りくどい事する訳ねぇだろぉおおおおおははははハハハハハは!」

 これまでの騒ぎは全てカイルの私怨。それによって国内どころか、色んな人間が被害を被った。


「おのれぇ……おのれぇええ……! そんな動機でぇ、父上を殺したのかぁ!」

 ヴァイツェンは、涙ながらに怒りで身体を震わせた。仇を前に、崩れた足を奮い立たせる。しかし敵意の矛先を向けられたカイルは何処吹く風に、


「おいおい筋違いだぞぉ? 元はといえばそのゴブリンが全部悪いんじゃあないか」

「……っ? 何ぃ……?」

「俺をこんな目に遭わせなければよぉ、戦争は起きなかったしお前のだーい好きな父親の命は奪われなかった。大元を正せばゴブリンが存在しなければ、誰も不幸せにならなかった。そうだろ?」

 自らの行いを棚に上げ、責を全て俺に押し付ける。あまりにも勝手なカイルの理屈。


「俺だって勇者でいたかったさ。あのままだったら俺は世の平和に貢献してやれてたんだぜ? そうだ、ソイツが余計な事をしないで大人しくしてりゃあ栄光の座についていられたのに、全てを台無しにしやがった。地位も名誉も肩書きも武器も防具も力も。持っていたもん全部奪いやがった。許せるか。この復讐は正当な権利だ。勇者カイルを貶めたのが悪い」

「いやぬしが悪いんじゃろうがッ!」

 演説を聞くに堪えないとばかりに、アルマンディーダが火炎の息吹で戦闘の火蓋を切った。王座の前が、焦熱に包まれる。カイルが火だるまに包まれた。

 その間にヴァイツェンの襟首を掴んでこちらへ引き戻す。


「自らの行いで出た身の錆びを、グレンに当てつけるでない!」

「旦那様、お耳に貸す価値もありませぬ。ここでこの者を抑えれば--」

「へぇ! びっくりしたなぁリューヒィ。火を吐く女を見るのは初めてだ。以前の俺がキスしてたらヤバかった」


 生ずる火の中から悠々と顔を出すカイル。まるでぬるま湯の中から上がるように、竜の息吹をもろともにしていない。


「そうかお前が竜人ってやつか。あながち嘘じゃあなかったんだな」

「アディ、ヴァイツェンを連れて避難しろ。パルダと二人がかりでやる」

「しかしグレン。こやつを相手に」

「庇いながらじゃ上手く闘えそうにないんでな。それと、可能ならレイシアやロギアナを呼んで来てくれ」

 王子は証人。俺たち以上に説得力がある。と言葉にすれば奴に狙われるだろう。

 だから邪険に扱って、遠ざけないと。



 反逆者の天敵は同類あるいは対局の転生者か、女神エルマレフの血を継ぐ者。竜人の息吹で通用しないなら、俺や彼女達の力で対抗する他ない。


 アルマンディーダに促され、立ち上がる王子。切れそうなほど唇を噛み締める彼に、

「ヴァイツェン。良いよな? 俺はコイツを討伐するぞ」

「……父の仇を討ってくれるのか?」

「いや。コイツとは俺が先約ってだけだ。やらせてもらう」

 王子には悪いがこれなら話が単純になる。呪いを解く取引として反逆者を倒す必要がある以上、会敵は必死。奴を倒せば今回の騒動は収束できる。


「パルダ、お前はバックアップだ」

「承知」

「作戦会議は終わったかなぁ? 始めようぜ」


 カイルは腕を頭上に掲げる。奴は素手のまま得物を持たない。勇者だった時は剣を持っていたが戦闘スタイルはがらりと変わったのか。

 いや、得物はあった。全身を包む黒鎧の手甲の部位、ちょうど手首辺りから漆黒の刀身が伸びる。


 腕を横合いに振るう。黒剣が空を切った。

しん空牙くうがッ!」

 視界の空間に線が引かれる。音よりも早く、風の斬撃が迸る。



 俺は、咄嗟の硬御こうぎょで回避ではなく防御に回った。退避したアディ達の後に閉ざされた王座への入り口が引き裂かれる。彼女達は既に階下に降りていた。

「っくぁ?!」

 反射で思わず交差していた腕は、直撃の跡のように僅かに赤い切れ込みを作る。そこが奴の闘技とうぎの中心を受け止めたようだが、ダメージを貫通するか。まともに受けたらお陀仏だ。


 リゲルの試合で片手間に弾いた時とはわけが違う。明らかに進化している。

 奴は秘跡(ミサ)でレベルを初期化された筈だが、反逆者には関係無いって言うのか。


 パルダの方は無事だった。紙一重の回避から転じて反撃に出ている。両腕の刃鱗じんりんを展開していた。最初から全開だ。


 電光石火のパルダの動きであるが、カイルはノーガードで攻撃に専念する。斬り付けられるのも承知で、怯みもせずに彼女に手甲の剣を振るう。

 それどころか鎧を断ち、肉を斬られても盛り上がるようにしてすぐに修復を始める。異常な再生力。

 大振りな太刀筋は以前のようにてんで技術が伴っていないが、威力は恐らく驚異的なものだろう。空振りしながらも、城の柱に届いた刃はするりと通り抜けて切断する。


「我が家が壊れねぇ内に終わらせたいんだがなァ!」

「テメーの城じゃねーだろっ崩拳ほうけん!」

「ぐぅっ」

 合図や掛け声も無くいい具合に囮役になったパルダと連携し、隙を見て間合いに接近した俺は手加減を捨てた全力の闘技とうぎをカイルの横っ面に放つ。ぐきりっ、という骨が曲がる嫌な音を間近に耳にする。

 その威力に胴体まで捻り、王座の間を跳ねる反逆者。俺は追撃に走った。今度は多連崩拳たれんほうけんを浴びせ掛けてやる。


 宙に舞ったまま、剣の無い方の腕を引くカイル。崩拳ほうけんで捻じれたままこちらを見た奴の顔は、ニタリと笑っている。

 まさか、誘い込んだ?


「----返すぜ」

 その挙動は見覚えがあった。それは、俺の動作と非常に酷似していたからだ。奴の反撃が、来る。

 飛び込んでおきながら俺は攻撃を中断した。攻めに入った筈なのに、再び腕を交差して硬御こうぎょの姿勢に入る。


「--崩拳ほうけんッ!」

 奴が繰り出した素手の一撃は、俺が扱う闘技とうぎそのものだった。重い衝撃が拡散する。勢い良く背後の壁に衝突し、崩落したまま外に身を投げ出された。


 落下しながら、ガード越しに痺れる両手解く。あの威力、まがい物ではない。

 籠手弩(ガントレッドボウ)が嫌な音を立てて、砕けた。籠手のある腕を前にしたのは失策だった。


 野郎、俺の闘技とうぎを--

 反逆者カイルが崩拳ほうけんを扱った。その事実に翻弄されながら、遠ざかる出口を見上げる。



 不自然な首の捻れは、ひとりでに元の形に戻る。不敵に笑うカイルが俺の激突で崩れた外に顔を出していた。倒れ込むようにして奴も降りてくる。

 片手斧(ハチェット)は回収していないので王の間の中。籠手弩(ガントレッドボウ)はもう使えなくなった。俺は完全にこの身一つで奴と闘わないとならない。

「旦那様ーッ!」



 王座の間からのパルダの呼び掛けに答える余裕もなく、空中で俺はカイルとの戦闘を再開した。

次回更新予定日、3/27(月) 7:00

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