俺の換装、アーマードゴブ
※視点が変わります
※
「ばっ、馬鹿じゃないの!? あんなものを落とすとかまともじゃない! 何考えてんの!?」
上空の異変を聞きつけ、アルデバラン城の屋上に出た時のロギアナの第一声がそれであった。
「国に直接隕石落として滅ぼそう、とか指令出した奴どんな神経してんのよッ!?」
儂の知識にはどれにも結び付かぬその光景が何を意味する事か、説明を受けて素直に驚嘆した。
現象を流星、あるいは隕石という。よもや天からの大きな落石は、火達磨と化して空を照らす程の物であるとはのう。
そして、おおよそペテルギウスが仕掛けた物と断定しても良い事らしい。それほど本来起きる様な物では無く、戦争を見計らうように発生した状況からして確信犯であると。
「アレ、燃え尽きないなら間違いなく此処に落ちるでしょうね。そしたらこの城どころか、この近辺の地形が更地になるわ」
「それは困るのう。せっかくコルト村や別の拠点も出来始めたばかりだと言うのに、こんな所で壊されては竜人達の苦労が台無しじゃ」
「呑気な事言ってないで、何とか隕石を止めないと。でも、私の天上級が仮に間に合っても防ぎきれるかどうか……」
「のう、アレは別にどれだけ破壊しても構わないんじゃな?」
儂は周囲から見れば悠長ながらに、城に控えていた魔導士達を呼びつける令を出しながら彼女に尋ねる。
空からの災厄に兵士達も慌てふためき、退避を急かし、あるいは終末を悟る声もあった。こっちに来るぞ。逃げろ。もう駄目だ、おしまいだ。
「ええ。遠い目測だから大きさは分からないけど、数十メートルの大きさでもすごい規模の被害になるそうよ。激突前に粉々にしないと」
「ふむ、分かったぞい。なれば」
儂は赤い翼を左右に広げた。レンガで出来た地から足を離し、ゆらりと浮上する。
「竜の真の息吹で何処まで通じるか試してしんぜよう。しかし欠片は残るかものう。その時はロギアナ、取りこぼしの方を頼むぞい。魔法使い勢にも迎撃を急がせよ」
「気軽に言ってくれるわねぇ。……でも、仕方ない。一応バッグアップはやってあげる。私だって、あんなので死にたくないし」
古木の杖を構えるのを見て、儂は後続を任せて飛翔した。
隕石からは熱波を感じた。まだ距離があるというのにこれほどとは。相当大きいだろう。
激しく明滅する光源へと向かいながら、この身を完全な赤き竜へと変化させた。射程を見定め、雲と並ぶ程の上空で対空砲火の準備に入った。
赤の一族だけが備える、竜の王たりえる為の炎。その魔力を体内から引き出し、口腔に収縮させる。
神炎と称えられ、畏れられた業火を儂は初めて存分に行使する事にした。
此処は上空。狙う先も天。誰も被害を被らないならば安心して、撃てる。
--神炎の竜火砲!
開放された息吹は、一筋の光芒のように伸び、迫り来る炎岩を貫いた。
内部にまで届いた神炎は、隕石の各所から噴き出し、やがて強い閃光と共に--
「ぬうっ」
最も間近にいた儂は目がくらみ、思わず瞼を瞑る。大気が震える程の轟音が鱗を叩くのを感じた。
粉々に爆散した隕石の欠片は、小さくはなっても儂を過ぎ去って地上へと降り注いでいく。やはり完全には燃え尽きぬか。このままでは完全に被害を防ぐ事が出来ない。
儂が飛び出した城を振り返ると、そこから色鮮やかな光が灯っていくのを見た。皆もきちんとやっている様じゃ。
「業火爆砲!」
「雷天撃波!」
「疾風拳弾!」
おびたたしい数の流星群を迎え撃つべく、魔法使い達の渾身の魔法群が一斉に地上から昇った。
巨体となった儂を追い越し、欠片の雨を見事に相殺していく。儂は討ち漏らした分に回る。
「枝裂の電矛!」
ロギアナの魔法らしき一際大きな雷槍が飛び出す。空中で解放された稲妻は枝分かれし、広範囲に渡って迎撃の網を張った。
地上に細分化した隕石が落ちる頃には殆どの物が燃え尽き、あるいは跡形もなく吹き飛ばされた。
城に近い近辺には全く落ちてくることも無く、被害が軽微で済んだのは奇跡と言っても良いじゃろうな。
アルデバランに襲い掛かった終末は、こうして阻止出来た。儂は人の姿に戻り、元来た場所に降りる。
「ふぅー、何度も出来る芸当じゃないんじゃがのう。また来ない事を祈るばかりじゃ」
「あんな大掛かりな魔法--恐らくだけど--なら宮廷お抱えクラスの魔導士が束になってやっと出来るような物でしょ。短いスパンで連発が可能だとはとても思えないわね」
兵士や魔導士達の歓喜に囲まれ、儂らは戦争の停戦の一報を耳にする。どうやら、グレンが上手い事やったようじゃ。皆も無事らしい。
「直に帰って来るなら、支度をせんとな。湯張りに夕餉に服の仕立てに……ほれほれ。皆もまだ仕事が残っているのではないのかえ? 戻った戻った。ロギアナ、ぬしも手伝うんじゃぞ」
「隕石にブレスぶっ放して戻って来たばかりとは思えないセリフよね」
周囲を柏手を打って促しながら、ひとまず国王達に報告をしようと儂は城内へ戻った。
※
アルデバランへの凱旋に、城下町に入ると市民は有頂天としていた。
まるで戦争の勝利ムードだったが、まだ一時しのぎでしかない。これからの立ち回りで戦場はすぐさま再開されるかもしれないし、この城だって落とされる可能性も無きにしも非ずだ。
しまいには俺は用意された衣装を命令という体で着る事を強要される始末。
「で、何だコレ」
「はいー以前私が設計した鎧ですー。似合ってますよー」
シレーヌが讃えた俺の姿は、普段以上の全身甲冑だった。兜によって素顔も隠れ、声がくぐもる。視界は申し訳程度の隙間だけである。
人より若干小柄な全身が、ガシャガシャと音を立ててぎこちなく進む。その不格好な有様に、
「ブッ……いやー確かに似合って--ブフッーーますねぇグレンくん。その晴れ姿は誇って良いか--ブホァ」
「ハウゼンテメー! 本当に国王が着ろって言ったんだよなぁ!?」
「それは勿論。『戦火に赴いた事を強調出来るような戦衣装を見せた方がいい』というお達しですからねぇ。仕方ないんですよ」
「それ別に普段の鎧でも良かったんじゃあないかなぁあああ!?」
意味も無く持たされた身の丈もある戦斧の柄を地面にガンガンと叩きつけて抗議すると、『おやー? そうですかねー? ブッ、アハハはぁーー』と、このクソ眼鏡聖騎士長は遂に噴き出した。命令の範囲まで狭めた確信犯だった。
このアーマードゴブ姿の設計案の元凶であるシレーヌは、自分の理想的な構想を実現できた事にご満悦そうに瓶底眼鏡越しからでも分かる椎茸目で何度も頷いていた。このマッド研究士はいずれ新しい機構の為に人体改造でもしだすんじゃないかと不安にさせられる。
ちくしょう、呑気な奴等め。まだ戦乱を回避しきれる保証は無いんだぞ。
だがそれも、こいつの利用価値次第だがね。
「離せ! 離さぬか! 余を誰と心得るか無礼者! このような仕打ち許されんぞ貴様らァ!」
城門で目覚めてから大騒ぎしている黒髪褐色の少年を、俺達は連行していた。一度国王達に面通しさせる為だ。
「よくぞ戻ったのう、大きな怪我もなくて……何故そんなに鎧着こんでおるんじゃ?」
「ハウゼンに嵌められたんだこんちくしょう! もう良いよな!? 脱ぐからな! コレ邪魔!」
「あー! 私がーせっかくご用意した鎧をー! もっと大切にー!」
「知るかー! ……まぁいい。帰って来たぜアディ。そっちも隕石砕いてくれて助かった」
「何、街や城が無事だったのは皆がいたおかげよ」
シレーヌの抗議をよそにポイポイと甲冑を脱ぎ捨てた。そうして竜姫アルマンディーダと再会する。この後トリシャの元にもいかないとな。
そんな俺達のやり取りを、連れられていたヴァイツェン王子は見ていた。
その視線は、鮮烈な赤い髪をしたアルマンディーダに向けられている。
「おい、そこの美女」
「ん? こやつが例の?」
「ああ、ペテルギウスの王子サマだよ。大事な大事な捕虜だから丁重に扱わないと」
「名前は何という? 余はヴァイツェン・ドー・ペテルギウスである。潔く答えよ」
拘束された身ながら、王子は尊大な態度で彼女に名を求めた。
「おーい立場分かってんのー? お前今敵国の腹ん中にいるんだけど」
「うるさい! 貴様は口を挟むなゴブリン! さぁ! 名乗り上げよ!」
「ふぅむ」
一考してアディは王子の元へ歩み寄る。にこりとした微笑を繕ったところを見た。ああ、何か企んだな。
「儂はアルマンディーダ・マゼンドル・ドラッヘ。いずれはアルマンディーダ・グレムリンになるがのう」
「婚約者であるのか! 誰と契りを結ぶのだ?」
「そちらのグレン・グレムリンとじゃが?」
そちら、という単語に護送する衛兵や同行していたレイシアやハウゼン、シレーヌ達を褐色肌の少年が一巡する。
その中で俺は一瞥もくれなかった。考慮の内に入ってすらいない様だ。
「どれがグレン・グレムリンだ!? 余の前に出よ!」
「俺だけど?」
名乗り上げると、ヴァイツェンは素早い勢いで振り返る。一瞬硬直を見せた後、どっと独りでに笑い始めた。
「はっはっはっはっ。冗談も大概にしろ! ゴブリン如きがこのような美女などと結ばれようとは、嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐け、はっはっはっはっ」
ほんと、何だコイツ。いきなり藪から棒にこんな話を振って来るなんて。何考えてるんだ。
ひとしきり笑った後、皆が静まり返っている様子に目をしばたかせる。
「どうした? 此処にいないのなら余の元に今すぐ呼んで参れ。そのグレンとかいう男と話がしたい」
「だから、俺がそのグレンだって言ってるだろ」
「フン! 貴様の嘘に付き合う気は更々無いのだゴブリン! 引っ込んでいろ!」
「嘘ではない。そのゴブリンこそが、儂の番となる者じゃ」
「は? 何を言っている? 何故こんなみすぼらしい生き物と貴殿ほどの女が? ありえん!」
耳を疑うヴァイツェン。これだけ言って聞かせても頑なに信じようともしなかった。
もしかして、と俺は王子の意図を予想した。方向性としては悪い方だ。
「まぁ良い! どうせ誤魔化す為なのだろうな! いないというなら好都合! アルマンディーダと言ったな? 貴殿を見てピンと来たぞ!」
「うむ。儂に何をお望みかえ?」
兵達の制止を振り切り、手枷を嵌められたまま彼女の前に踏み込む。この野郎やっぱりーー
「余の妻となれ! 見返りにペテルギウスの王太子妃にしてやろう! 余が王になればいずれは王妃であるぞ!?」
それは、敵城の中でのプロポーズであった。
フ〇ムさん新作早くしてください
次回更新予定日、3/3(金) 7:00




