俺の抜擢、適材適所
次回更新予定日、2/7(火)7:00
会議の席で立てたのは今後のプランだった。
ペテルギウスの大規模の軍がアルデバラン領にたどり着くまであと二日。それまでに急ぎながら入念の準備が求められる。
龍人達に突貫で砦--第2拠点を築かせ、少しでも時間稼ぎと戦力を減衰させる奇策を講じる為に俺も動き始めた。
まず肝心なのは会敵するそれぞれの場所。3方向からの進行経路を予測し、地理を頭に入れて人員の配置を抜擢する。
主力戦が予測された小さな丘が多くある地帯では、起伏のある地形で迎え撃つ。空からも急襲が可能な龍人と騎士の過半数をぶつける事にした。
指揮に指名したのはレイシア。騎士達の紅一点である彼女は、百戦錬磨の実力を仰せて士気を上げる役割になると見立てた。
そしてその補佐には二人。強大な力を秘めた龍人側を如何に上手く立ち回らせるかで勝敗を分けると言っても良い。一人はオブシドを指名。もう一人は情報役として適任と判断した人材である、
「えぇ?! 僕ですかぁ!?」
「そうだアレイク。主戦場になる所にお前を頼みたい」
「無理無理無理! そんな重要な局面に向かっても足手まといになりますって! 怪物級のグレンさん達と違って僕は凡人なんですからぁ!」
「もう一人前だろ。自信持てって」
「そんな事言ってもぉ……」
情けない声を出す少年騎士。相変わらず頼む度に手のかかる。俺は肩に手を回して説得に出た。
「まぁ聞けよ兄弟。別にかち合う為の実力を求めてる訳じゃあない。そういうのはオブシド達に任せりゃ良いんだよ」
「じゃ、じゃあ僕は何をすれば」
「おいおい忘れたのか? お前にはアレがあるじゃないかアレが」
「アレ?」
「察しが悪いなぁ。転生者の特典能力はどうした? 状況を逐一報告するのに亜人とのテレパシーを活かせるんじゃないの? うん?」
指摘にハッとした表情に変わるアレイク。自分が出来る事に気付いたみたいだ。
アレイクならば、目まぐるしい戦局であっても竜人の統率を取る為の号令を難なく伝える事が可能だ。
「それだけじゃない。お前さ、トゥバンを訪れた時から竜人達と仲良くなってるだろ? そういう意味でも連携取れやすいと思うんだ。だろ? オブシド」
「グレン殿のご意見に異義はありませんな。皆も歓迎すると思います。こちらとしても動きやすくなるのであれば是非とも」
恭しく黒き竜が頭を下げる。後押しを受けた彼は、戸惑いながらも最後は渋々折れた。やっぱチョロイぜ。
次に山林地帯だが、予想としては一番少数規模でやって来ると見ている。狙いは主戦場を偵察しながらの状況に応じた奇襲と陽動。森という地の利を活かしてエルフと獣人達と対面させる形に収まった。そこの指揮にはプリム、クレーピオのエルフ兄妹とダックスハント……そして会議の場に不在の弓手であるクライトにも行って貰う事にした。話せばクライトも了承してくれる筈だ。
良くて撃退。悪くて殲滅をして貰わねば、別方向からの襲撃で挟み撃ちにされてしまう。
「非常に遺憾であります兄弟子様。私も兄弟子様やパルダ様と戦場を共にしたかった……」
「贅沢言うな。そっちを抑えられたらかなり不利に追いやられる。責任重大だぞ」
「……はい」
耳をしおらせる犬女。その横でプリムは『ああ! もしも捕虜にされてしまったのなら私の様なエルフは森のど真ん中で--』と腕で自分を抱いて悶えていた。
「で、森の各所に罠とか事前に設置するがてら、一緒に森から獲って来て欲しい物があるんだが--」
俺はダックスハントに使いを頼ませた。それを聞いた彼女は、利用する意図が分からず目を瞬かせる。
残りは沿岸地帯。竜人と騎士達の兵を分配し、不死のレグルスと自称未来の英雄ヘレン、パルダに行って貰う。あそこは特に足止めが必要な所だ。地質からして馬を使ったアキレス腱を妨げる事が出来れば、『海からの支援』がやって来るまでの時間稼ぎが叶う筈。
司令はハウゼンに任せ、俺は少数勢で状況に応じての遊撃。血眼で敵国が狙う事を逆手に取り、群雄割拠になるであろう各地域を移動し、誘導や攪乱の立ち回りにする事とした。そしてあわよくば、敵将を狙う。
犠牲をなるべく減らす為に敵を無力化させるいくつかの案を考えた。定石に罠を使って戦えない負傷者を多くする事で、相手に治療の方に回らせる事で戦力を削ぐ事。そして指揮を執る大将やペテルギウスにとって価値のある人物を捕虜--つまりは盾にして戦を鈍らせる。
といっても俺の動きはあくまで理想論だ。だから最悪の想定もしておかないとな。
「まるで、牙駒棋の様に動かすのう」
「確かに。こんなの、遊戯感覚でやるもんじゃないよな」
「しかし前も言うたじゃろう。それは戦の縮図を模した物で、兵法には変わりないと」
駒取り合戦の様に、犠牲は出したくはない。だが、それは綺麗事である。善処はしているが、どちらの血も流れるのは避けられないだろう。
いや、思いつめてどうする。やる事をやるしかない。
「ロギアナ。お前はアルマンディーダと共に有事の際に城の攻撃を相殺する役だ。天上級の魔法を使えるお前と神の炎を持ってるアディなら防げる。お前クラスの魔法を長距離から飛ばして来る奴はまずいないだろうけどな。ただ、他に頼みがあってな」
「何よ。まさか前線に出ろって? 接近戦の苦手な私は数の暴力を相手するのにも限界あるんだけど」
「いや違う。準備を進めてる間、アルマンディーダと一緒にやって欲しい事がある」
かくして、それぞれが戦争に備えて動き始めた。
ちなみに今回、子竜シャーデンフロイデはこの戦争に興味を示さなかった。
曰く『不幸に旨みの出ない争いなど早々に終わらせたまえ』とだけ言って我が家で寝ている。このひねくれ者の仰る通りだ。俺達は人同士で内輪揉めをしている場合ではない。闘うべきは反逆者達だ。
まず準備として小基地の設置に罠や即席牢の用意。コルト村の拠点を作った時もそうだったが、竜人の土工技術は恐るべき物だった。木の伐採から石の切り出しまで、どんとこいと言うので頼もしい。
しかも竜人達は数を増した事で、短い期間ながらに望ましく仕立てあげる。石垣山一夜城も真っ青。
ダックスハントらも森をトラップジャングルに変え、俺が頼んでいたとある物品もきちんと調達してくれた。それを偵察をしている兵に送り、動いて貰った。
「しかしあの様な物を一体何にお使うのですか?」
「ん、秘密。それより二人とも早速だがアレの為に外へ」
竜姫と銀の魔導士は、城から離れた海岸で行動を起こす。被害を起こさない為だ。
「フゥー」
浜辺の砂浜で、アルマンディーダが掌の上に火炎を吹き掛ける。渦巻く息吹を頭上に掲げた。
「ロギアナ、儂が安定させるから先に行っとくれ」
「終末の火、余燼となりても空を赤銅に変え、山を灰へと帰さん。射て、災いの焔」
仰せて、ロギアナも杖を前に詠唱した。火属性の上級魔法だ。
「焦熱の重炎玉」
杖を担う古木の先端から、紅色の小さな蛍火が灯りふわふわと浮かぶ。
「うおっ」
俺は急激な熱波を受けて呻く。俺達の遥か頭上へと差し掛かった辺りから、ちっぽけな光玉が膨張していく。まるで小さな太陽だった。球体に留めているが、今にもはちきれそうだ。
彼女の魔法と一緒に、アディの手元の炎も徐々に大きさを増して行きロギアナの炎魔法に付す。そうして形状を維持し、規模を増した炎熱地獄を上空に発生させた。
「かなり距離を置いたが、熱っちい……」
強い日差しを受ける様な熱気が周囲に降り注ぐ。標的の無い、ただその場に存在させただけの業火を二人は維持し続けていた。春の陽気が、まるで砂漠の日照りに勝る熱気に塗り変わる。
大半の魔力の供給をロギアナが流し、不安定になった所でアディが息吹を吹き付けて表面を整える。
「どれくらい続ければいいの?」
「雲が出来るまでだ。地表と海面でこれだけの温度、少し続ければ……」
「少しと言ってものう。これキツイぞい、主にロギアナが」
皆で汗をダラダラ流しながらも、吹いてくる海風をどんどん熱で温め、上昇気流を生み出した。
やがて、それを続けて一時間は経っただろうか。竜人のスタミナ、ロギアナの桁外れの魔力量でなくては不可能な長時間の芸当であった。
そして変化の兆し。ゆっくりと出現し始めた雲が陽射しを遮る。灰色の厚雲が少し前まで青かった空を埋め尽くしていく。
「……ぜぇ……ぜぇ、これで、もういいかしら……」
「充分だ。此処までできれば上出来だよ」
「それで、これがどういう意図があるのかのう」
「積乱雲--要するに激しい雨雲を発生させたんだよ。おっと退散しよう」
遠くから雷鳴が唸り始めたのに気付き、すぐに城に戻る。竜化したアディなら早い。
この一帯は雨が少ない。ましてやスコールなど滅多に起きる事例が無かった。地質も大雨に向いていない点を狙う。
寿命の少ない激しい雷雨だが、数十キロの範囲からしてペテルギウスの進軍する地帯にも届くだろう。
狙いは当然悪天候での足止め。そしてあわよくば、山林地帯の土砂崩れが起きれば儲けもの。
「明日には決戦だ。後は魔力を温存させよう」
「浪費させたのはアンタじゃない」
赤き竜の両手に抱えられ、俺はロギアナに憎まれ口を受けながら、冷え切った空気の流れ始めた大地を飛翔する。
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