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俺の激突、魔物狩り

 アバレスタから数キロほど離れた平原。そこで俺は魔物を倒してレベルの向上に努めていた。

 数時間の所要でもファンファーレが幾度も頭に鳴り響く。いわば保険だ。


グレン:LV12(+4) ★

 職業:戦士 属性:土 HP:50/50 MP:19/19

 武器 黒鉄の長剣 防具 狼皮の革胴着 装飾 聖ロザリオ

 体力:50 腕力:36 頑丈:34 敏捷:45 知力:24

 攻撃力:45 防御力:42


 これで一段落終えるまでは俺の成長はストップ。やり直すのは毎度ながら不便だが仕方ないな。

 それとどうやら人間側の成長速度は十代後半になると格段に遅くなるらしい。俺の現在は初級冒険者とどっこいな状態。レベルの差は、補正を受けている能力差でもどこまで開きがあるのか今後確かめたいところだ。


 休憩がてらそこにある岩場に座り、持っていた干し肉を取り出す。

「ぐぬ、ぐぎぎ」

 保存用に塩漬けされたそれはとても固い。ジャーキーなんて目じゃないくらい。年寄りの歯なら真っ先に欠けるぐらい固い。あーでも、ナマモノよりはマシだ。


 これでパンでもあれば御の字だが贅沢は言えない。ちなみにこの世界のパンも保存用のを一度食べてみたがフランスパンよろしくの歯ごたえを超え、乾いた餅でも食った気分だった。春のパン祭りが恋しいなぁ。今ならシール揃えられるくらい買いそうだ。

 そんな質素な食事をしつつ、待つ。俺はあの後、街に種を蒔いた。間違いなく気付く。


 そして視線を受けるのを肌で感じ取る。野生の生き物とは違った、あの嫌な感触の敵意。

 風が吹いたのを機に、俺は岩場から跳んで離れる。


 するとその後2メートルの大きさはあった岩は激しい爆轟に巻き込まれ、吹き飛んだ。

 粉塵が舞い、黒煙が立ち昇る。その後方で、人影がシルエットを映した。


「良く避けた」

 奇抜な鞭を振るい、フードを被った男が着地した俺の前に立ち塞がる。肩提げのプールバッグ状の荷物を降ろし、衣を取っ払う。


 幾多の種類と思わしき獣の皮で編み込まれた服を着ていた。フードを外した中には大きな魔獣と思わしき骸骨の兜を被っている。男が自らの手で命を奪ってきた魔物達の物であることを示唆し、同時に実力を誇示させる格好だった。

 やせぎすの身体とその横傷の入った鼻。目は四白眼で俺を睨んでいる。


「いきなりご挨拶だな。どちらさん? 俺に何か用?」

「俺はゴラエス。魔物討伐を主とする冒険者。それを生業とする俺がゴブリンに用があるとするなら、わざわざ説明はいらないだろう」

 だろうな。欲しいんだろう、俺の命が。


 わざとらしく、俺は顎に手を当てる。

「ふーん。で、その冒険者様がよりにもよって俺を狙うのは何でだ? 誰かに頼まれたか? たかがゴブリン一匹、価値なんかないぜ?」

 返事を待つまでも無く鞭が飛んできた。容赦がない。


 後方へ跳躍すると、その足元の地面に接触。同時に例の爆破が起こった。

 繰り出される一撃を経るごとに地形がどんどん荒れ果てていく。

「価値はあるんだよ! お前のような亜人もどきこそ俺の獲物だぁ!」


 破壊をまき散らす鞭を振るい、高揚し始めた男は吠えた。

「亜人もどき?」

「ああ! お前は魔物でもあり亜人でもある! そういう中途半端な奴はぁ、珍しいんだよ。知ってるか、お前?」


 鞭を巻き上げ、届かない距離を保とうとする俺に向けてゴラエスは走ってきた。中距離が奴の持ち味なのか? 魔法使いであれば遠距離は望むところの筈だ。

「亜人でも! 人間でも! 経験値は得られるんだぜ。それもたんまりな! 特にお前みたいな知能のあるレアな半魔物! 俺の爆裂鞭ばくれつべんの腹の足しにしてもらうぜ!」


 一つでも触れれば致命傷になりかねない攻撃をかいくぐりながら、これ以上話を聞く必要は無いと判断。

 単純な話だった。コイツの目は俺を仇でも街に潜む敵という見方でもなかった。純粋に自分が狩りたかっただけだったのか。


 ならもういいや。これ以上は付き合う義理もない。


「あ、もういいです。じゃ、おさらば」


 シュタッ、と音がしそうな挙動で俺は逃避する。レベルを上げたのも敏捷を最大にする為。まともに戦う気なんて最初からない。

「逃げられると思っているのか! ふははははは!」


 白昼堂々魔物狩りの男は追ってきた。街中ではこそこそしてたみたいだが、その必要は無くなった。奴にとって街の外は都合が良い状況だろう。


 だから、俺は外にいたんだけどな。

 俺の目的地はそう遠くなかった。その間に、相手からの魔法攻撃が何度か飛んでくる。


業火爆砲イグニート!」

 一度に放たれる数発の火炎弾が俺の背中に差し掛かる。とはいえ、距離もあったので俺も難なく避ける。コルト村での盗人ゴブリンを追って屋根まで跳んだ時もそうだが、レベルに応じてやはり身体能力は向上している。


 当然、奴も恐らくは俺以上にレベルが高いようだ。何よりの証拠に、魔法使いなのに逃げ足が得意の俺にちゃんと付いて来られている。全力は出してないけどね。

 鞭と魔法の爆撃を逃れながら走り、俺は遂に立ち止まる。

「ははぁ。諦めたかゴブリン!」

「しつこい男は嫌われるんだぜ?」

 じりじりと詰め寄るゴラエスを窺い、俺は間合いまで誘い込む。


「大人しくやられるのを見ても面白くない。かかってこいよ! どうせ死ぬんだ。悔いなく死んでけ」

「やなこった」

 そうして近づいて来たところで、俺はようやく避けてばかりのスタンスを変える。


「くらえ――」

崩拳ほうけん!」

 両者の間合いにして3メートル。相手にとっては鞭が届き、俺にとっては持っている剣を使っても届かない距離。にも拘らず俺はその闘技を使用する。


 ゴラエスに向けてではない。俺の足元にだ。

 地面に拳が炸裂し、地盤が亀裂をあっという間に広げていく。俺の目の前から、ゴラエス周辺の地面まで。


「なっ!?」

 その場を脱する時間もなく崩落が起き、男は突如ぽっかりと空いた穴の中に呑み込まれた。俺はその光景を地上で眺める。ドリフのコントぐらいに鮮やかだったな。


 そして、大穴にまで歩み寄り眼下の様子を確かめる。ゴラエスの姿はすぐに見つかった。

 すかさず、付近に隠していた投網を穴へ目掛けて放り投げる。

「そぉい!」

「ぐっ! 何をするっ!?」


 固い網に絡まったゴラエスが喚いた。鞭を振るう事も伸ばす事も出来ない。


「漁港で使われなくなった投網だ。ナイフで切るにしても相当時間かかると思うよ」

「こんなもの! くぐってしまえば……」

「いやさせねーよ?」


 続けて崩拳ほうけんで地面を突く。次いで再び軽い崩落が始まり瓦礫や土砂が、穴の中に降り注ぐ。

「……ま、まっ……待て……キサ…………ゴバッ!」

「はいはい埋めちゃおうねーっ。危ない人は埋めっちゃおうねー」

「き……き、汚いぞ!」

「ご自慢の爆発する鞭、使わない方が良いぞ? その距離で使ったらお前も巻き添え食うから。それとさっきの炎を飛ばす魔法もだ。すぐに俺が引っ込めば届かなくなるし、なにより穴を広げて崩落が進むかもよ?」


 網にもいい具合に瓦礫が挟まった。捲り上げて抜け出すのも一苦労だろう。そして、俺がこれを続ければコイツは生き埋めだ。

「知ってて、俺にこんな罠を!」

「うん。お前がワイルと一戦起こしたおかげ」

「まさか……その騒ぎも……」

「そっ、街でじろじろ見ていたお前を見る為。能力もな。そして、お前が此処におびき出せるように店先でも情報集めると思って、この辺りで経験値稼ぎをしている話を蒔いた。だから、はるばる外にいた俺を見つけ出せたんだよな?」

「卑怯な!」

「戦略だよ」


 突然だが俺はジャイアンが嫌いだ。汚いからだ。ああ別に綺麗なジャイアンがどうのとかそういう話じゃない。要するにそのスタンスが嫌いだ。

 力の無い相手に対し自分を押し通す為、一方的に力尽くで物を言わせるのは卑劣だと思っている。それで今の俺のように罠に貶められると正々堂々を抜かすのは筋違いではないだろうか。


 正々堂々とはフェアでなくてはならない。コイツが卑怯となじるのは、自分の都合の悪いやり方を避けてあからさまに力の差があるのを踏まえて勝負しろという意味。

 つまり自分の勝てる土俵に立てと言っているのと同義だ。ましてやコイツの場合ただ俺を狩るという目的にし、絶対の優位の上で行っている。


 弱肉強食。弱いのが悪い。もしもそういう論理がまかり通るなら、俺は力だけでなく勝てる物を駆使して対抗する。今回で言えば罠を使った。じゃあ、それに引っ掛かる方が悪いんじゃあないのか?



 勝者は生殺与奪の権利が手にはいる。奴が勝てば俺の命。俺が勝てば……


「さて、どうするかね? イチかバチか、その鞭を爆発させて出てくるか? 生き埋めか?」

「ぐっ……」

 見降ろした俺だったが、無駄な脅しはやめる事にする。俺にはまだそんな度胸は無い。奪うのは奴の荷物だけとしよう。こっちだって命を奪われかけたんだ、それを責められるいわれはない。


「うーん。やーめた。そんな度胸無い」

「……何」

「せいぜい脱出するんだね。一日かかると思うけど」

「憶えていろ……貴様」

「三日で忘れるさ」


 穴に埋もれたゴラエスを取り残し、奴の荷物を俺は頂いた。金も手に入る。

 その足で街へと俺は何事もなかったように戻った。後始末が残っている。


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