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俺の余暇、農作

あけましておめでとうございます

 リゲルの闘技大会から一週間。

 アバレスタを経由して竜人拠点のコルト村には亜人や冒険者達がごぞって押しかけて来た。同盟への呼び掛けに予想以上の反響があったのだ。

 しかし大概の動機は興味本位、儲けの匂い、力試しなど様々。まぁそんな次元だ。かえって潔くて助かる。


 その中にでも粒はそこそこいる。後は信頼できるかどうかをオブシドやアディらの面接でふるいにかけている真っ最中だ。

 俺と3回戦で闘ったあのイタ--少し変わった魔導士アイドルのピノも、顔を出している。

 同盟の看板になるからどうだと自分を売り込んでいるらしいが、俺はノーコメント。


 それより、最後の力試しをしたがる連中はどうも厄介な問題だった。竜人や俺に対して実力を確かめたがるタイプがめんどくさい。俺の優勝がやらせではないかと疑う自称猛者が吠える吠える。

 途中からは竜人の兵士達に闘って貰う事にした。彼等も一人一人が相当な強さを誇る。それまでの事情によって、限られた場所に缶詰にされている奴等の息抜きに好都合だった。


 で、俺は何をしているかというと、

「何をやってるの」

「んー、農作」


 田畑で土いじりをやっていた。数日前にこの村へ移動したロギアナがしゃがんで聞いてくる。約束通りに訪れた。

「そうじゃなくて」

「あ、これの事。何だと思う? これはね」


 以前からこそこそと栽培を目論んでいた苗を示唆しながら、

「ミキプルーンの苗木」

「ぶっ! ……ぐっ……ふくくっ」

 噴き出した彼女が顔を抑えて痙攣していた。同じ前世の人間にこそ通じる冗談が見事に決まった。してやった。


 ロギアナもかつての鉄面皮を被らなくなり、感情を人前で表に出す様になった。これで他人との距離を少しは譲歩していく様になってくれれば越した事は無い。


「本当の事を言うとピープルの苗だよ。普通のは果物にしてもあんまり甘くないんだが、以前俺が近くの森を散策していて変異種なのか甘くて美味いのを作る樹を見つけてよ、それを栽培できないかと半年前から試みてるんだ。やっと苗までこぎつけたのを植えてるのさ。目指せ俺の果樹園」

「は、畑の事を聞いてるんじゃなくて。忙しい時期にそんな事をやってて良いのかって聞いてるの」

「良いんだよ。組織って言うのはトップがいなくたって回るもんだ。少しくらいサボるくらいが丁度いい」


 王座防衛戦に敗れたとはいえ、一応大会で優勝を果たしたんだ。これくらいの余暇を貰ったって罰は当たるまい。

 それに、忙しいのはこれから先だ。


「今伝令をドラヘル大陸に送ってる。そろそろ大勢引き連れて来そうなもんだが」

「どういう事?」

「トゥバンもこれまではあまり大規模に動けなかったからな。でもこの前のアディの宣伝で……おっ」


 噂をすれば何とやら。

 遥か遠い地平線に無数の黒い点が見えた。

 渡り鳥の大群の様な影は徐々に大きなシルエットを象り、竜の姿を露わにし始める。物資を積んだ運搬用の大きなドラゴンや兵達が空を横断していた。


 竜人という存在の熟知が無ければ、空を埋め尽くす竜の大移動は周辺国--主にペテルギウスからは敵襲に思われてしまう。

 その障害が無くなった今、小規模での航海をせずに済んだ。


 まるでおとぎ話にでもありそうな光景を見上げながら、こちらにやって来る竜人達を迎える準備に俺は立ち上がる。

「グレン殿」


 割れ鐘を突く様な声が俺を呼び掛ける。降り立ったのは黒翼を生やした人であった。

 俺とロギアナが、来訪に目を点にする。村の中にいたにしては見慣れない容姿。

 刈り上げた黒髪に鋭い瞳。キリリとした顔立ち。コートに似た黒い衣を羽織った青年が俺と接点があるように接して来たのだ。


「誰だお前」

「え? どうかされたのですか? 自分ですよ自分」

「いやこんなくっそ腹立つイケメン俺の身内にいねーよ。何処から忍び込んで来た」

「……そうでした。パルダの奴めに唆されてそのままでした」


 黒翼の男はスッキリした美青年の顔を変化させた。見慣れた黒い竜の頭が露見した。

「このオブシデアドゥーガ、人との交流に備えて変化の術を練習しておりましてこの容姿に。どうやらこちらの顔では村でも女子供に怯えられてしまうようで」

「お前かよ!」

「効果はありました。しかしそうすると何故か子供というより、ご婦人達がごぞって言い寄られておるのですが。どういうことなのでしょうか」

「嫌味か貴様ッ!」

 俺は顔中の皮膚の皺を寄せ、鬼の様な形相を見せて唸る。困惑するオブシドは自覚が無いみたいだが、入れ知恵を受けて端麗な顔立ちを繕っていた。そんな風に顔を変えられるならどれだけ楽だと思っている。


「……まぁいい。で、空から飛んできているアレで全部か」

「はい。これで予定されていた竜人の移動は完了致しました」

「どれくらいだっけ」

「仰せて400人の兵力が、この大陸に」

「うひょー」

 頼もしい事この上ない。ただ、それだけの人数を村で居住するには手狭になってしまう。

 なら、拠点の規模をもう少し拡張する必要がある。この調子では本当に街に発展してしまう勢いだ。


「じゃ、ちょっくら見てきますかね。あーロギアナこの苗に水やりしてくんない? 魔法で出来るっしょ?」

「嫌よ、めんどくさい」

「良いじゃないかそれくらい。頼むよー」

 するとふてくされた調子で手を前に出した。まさか、対価に金銭要求?


「この前パルダが焼いたシフォンケーキ。あれが食べたい」

「へへ、分かった。伝えておく」

 

 この村に物資の運びの手伝いに俺は降り立つ予定のアルデバランの平原にオブシド率いる竜人達と外に出た。彼等はもう、人目を気にする必要が無い。


 飛んで来た大きな翼竜や竜人達と合流すると竜の背から跳ねて地上に着陸する影が俺達の前に。

「やっほー。グレンにしてみればおっひさー」

 パルダの姉、トパズだ。相も変わらず能天気な調子での挨拶。


「おー、久しぶりだなトパズ」

「どうして貴様が此処にいる」

「そりゃ此処までの横断に指揮する筆頭が必要だからでしょ。ご挨拶だねーオブシドったら」

「そちらこそ相も変わらず緊張感の無い腑抜けた顔を。それが上に立つ者の面か」

「えへへーそれほどでも」

「褒めてないっどうしてその様な解釈になるのだ馬鹿者!」

 白の一族、黒の一族とトゥバンを担う要としている竜人達の会話は些か人間味のある雰囲気があった。こうしてみれば亜人と言っても人と大して変わらないな。


「はいこれ、お土産ね。こっちは平和そのものだよー。姫様とパルダ元気? どういう所棲んでるか気になるんだ。文を貰ったけどお屋敷なんでしょ? 見たい見たい」

「そうだな。茶でも飲んでくか?」

「ダメですグレン殿っ。この様な軟弱者に出す事はありません!」

「固い事言わない言わない。オブシドもそっちで何やってたか教えてよー」

「それはグレン殿が言うべきセリフだ! 貴様が言うな!」

 運び入れに同伴しながら、トパズはフランクに俺の隣で笑い上戸に肩を叩く。力強くて遠慮がない為か、結構痛い。


「おっじゃまー」

「あ、姉上! こちらにお越しくださいましたのでするか!?」

「うん。遊びに来た」

 なんて飄々とした様子でトパズは我が家に上がり込んだ。オブシドも竜人と荷台の受け入れによってこっちには来れなかった。


「おお、トパズではないか」

「御無沙汰ね姫様。こっちの生活に慣れた?」

「勿論。さては父上からの視察じゃな」

「当ったりー。上手くやれてるかって」


 茶を出しながら席に着く。

「でもそんなの杞憂だったみたいだね。此処も良い所、あー私こっちに棲んでみたいなー」

「これこれ。それではトゥバンの方をどうするのかえ。父上やガーネトルムが大変であろう。青の一族のサフィアもおるというのに」


 互いの近況の話に花を咲かせ、俺達は我が家で二番目の来客をもてなした。此処は土地柄でどうも、基本的に亜人が来訪するようだ。

「反逆者、だっけ? 動きはまだ無い?」

「今のところはな。だからその間に着々と勢力を増やしている」

「そっかぁ。早くその呪いの痣も消せると良いよね。トリシャちゃんの分も」


 小一時間程話し込んだ後、トパズはまた竜の国へ戻る為、お暇する事になった。

 やって来たと思えば去るところが、嵐みたいな女性だ。


「今度来る時はもっとゆっくりそっちにいるよ。姫様もたまにはこっちに顔を出してね。これからは気軽に行き来できるんだからさ」

「うむ。トゥバンの皆によろしくのう」

「ところでトパズさぁ」

「ん? なーにグレン」

「ソイツ何なの? どっからどう見ても、ただの竜馬ドラホースじゃあないよね」


 彼女が跨っているのは、俺自身も見覚えのある竜馬とは少々かけ離れた馬型の竜だった。

 目を引くのは、大鷲の様な翼を脇辺りから生えており、それを広げると横幅が6メートルにまで達している。


天竜馬ペガドラスっていうの。竜馬の突然変異みたいな物かな。超貴重な品種でさ。ほら私羽無いし、これでドラヘル大陸に戻るんだよ」

「良いなそれ! チョーカッコイイ。俺にも乗ら--」

「あ、ヤバイよ」


 警告は遅かった。後ろからその天竜馬に近づいたところ、ソイツは過敏な反応を見せた。

「ぶるぁぁっ?!」

 俺の懐に目掛け後ろ脚を蹴り上げたのだ。


「旦那様!」

「おやおや。大丈夫かグレン」

「な、何とか」

 俺に後ろ蹴りをかました竜馬は鼻を鳴らして見下ろしていた。気安く俺に近寄るな、みたいな雰囲気を放っている。


「あちゃー、間に合わなかった。この子オス嫌いなの。好色家で女の人しか乗せないんだー。ごめんね」

 ……か、家畜の癖になんと破廉恥な。

 今まで馬とはウマがあってきただけあって今回の反撃は中々ショックである。


「じゃあ私行くねー!」

 天馬の竜は勢い良く駆けだして助走をつけると、空を滑るように飛翔した。

 羽ばたく馬竜の姿は徐々に小さくなって行き、俺は地面に突っ伏したまま完全に置き去りされた。


「アレはトパズの愛馬じゃ。そればかりは無理と思った方が良い」

「……ちくしょう」


次回更新予定日、1/5(木) 7:00

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