俺の看破、勇者のメッキ
「ッシャァオラァッ!」
力任せの太刀筋が降りかかる。俺は片手斧で嵐の様な剣撃を防ぐ。
一度剣をまじえた時と動きは変わっていない。剛剣に物を言わせた猛攻が迫る。
試合早々ながら攻めの一手となる局面で、勇者カイルの剣を受ける度に見る者の声が喜びを合唱していた。
「やれぇぇええええ!」
「そのまま押し切れェえええ!」
「とっととやられちまえェゴブリン!」
何度も繰り返される容赦ない一撃に打たれながら、俺は徐々に後退する。まだ様子見だ。これまでの試合では隠している実力があるのか見定めないとならない。
こちらも少し動いて揺さぶ--
「付与--」
「させっかよォ!」
距離を置いて片手斧に魔力を送り込もうとした矢先に、奴はそんな猶予を与えまいと襲い掛かって来た。
ハチェットで咄嗟に剣を受ける。鍔迫り合いとなり、体重を乗せられた事でぐいぐいと防御の展開に再び追いやられた。
目と鼻の先にいる勇者が哄笑を漏らしながら、ドスの利いた声音で告げる。
「知ってんだぜぇ? その手品の弱点」
「へぇ、この際聞いておこうか」
「ミィルフィアから聞いてんだよ。テメェが魔力を流す事で斧の性能を上げてんのは丸分かりだ。なら話は早い。そんな真似をする前に出掛かりを潰せば良い」
一理あるな。俺は魔力操作がそこまで巧みな部類ではない。斬り合いの最中で上手く付与を扱いきれない。特にこうした激しい武器の激突の最中では。
「そのまま終われよッ断空牙ァ!」
カイルの剣が真上に掲げると、その刃に風の渦が目視出来るほど激しく纏った。闘技か。
そのまま振り降ろされた刀身から放射状に伸びるのを目の当たりにし、後方に下がるのは危険とすぐに判断。横に抜けた。
俺のいた場所からステージ外に届くまで、地面を風の斬撃が音を立てて抉った。射程は20メートル程度か。
「チッ、運の良い野郎だ」
「付与、紅蓮斧」
隙が出来たのでようやくハチェットに火の魔力を流し込み、斧頭に炎が灯った。
「出しやがったか。でもよ、それは他にも弱点があるんだぜ」
剣を持った腕を後ろに回す構えを見せた。それは見覚えがある。
「空牙!」
そうして前に振るわれた剣から、弧月の形をした風の刃が迸る。どうする。炎斧で迎え撃つか、それとも避けるか。
「遠距離から攻めりゃ怖くないって事とかな!」
「……受けるか」
後の事を考えて威力を確かめたい、という理由から俺はハチェットを縦にした。激しい衝撃に、痺れを覚えた。流石に前よりは威力も向上してるか。でも、受けられない程じゃない。
「そらそらァ! 一発で終わりじゃねぇぞ休んでる場合かァ! 連空牙!」
無数の太刀筋が虚空に振られ、数々の空牙が連射された。視界に闘技の光景が埋め尽くされる。
棒立ちじゃ不味いか。俺はステージを迂回した。仰せてカイルの追加した飛ぶ斬撃が追いかけて来る。ばかすか撃ちやがって。
移動の軌跡に地面がごっそりと砕かれていく。並みの人間が当たればひとたまりもないだろう。
「ハッハッハァ! 連空牙! 連空牙!」
いつまでも逃げ切れられる程、奴の猛攻も緩くは無かった。俺が移動する場所を読み、狙い放った。
乱れ撃たれた風の牙は足元や背後に散乱し、俺のハチェットにも直撃した。
ジリ貧でも望むところだが俺は魔力供給を止め、あたかも付与が乱れた様に見せかける。
「よっしゃ隙が出来たぜ!」
「クソォ!」
俺が態勢を崩すまで一方的に遠距離攻撃を仕掛け、崩れたところで態勢を立て直す前に接近戦で攻め倒す。それが奴の闘い方か。
再度細剣で防御の上から滅多打ちにされる。決着はもうじきだと言わんばかりに、歓声はクライマックスに盛り上がっていた。
「カイルー! いっけぇ!」
メンバーのクレーマーエルフの一際黄色い声援が虚空に呼応した。
苦しい顔をする俺に、剣の向こうでニィとほくそ笑む勇者。
「どうだ! これがぁ」
そうか、これが。
押し込んでいた剣を突如退いたと思うと、下から思い切り打ち上げる様に振りぬいた。
「勇者の力だぁああああああああ!」
勇者の底かぁ……
握る力を抜いた瞬間、ハチェットが吹き飛ばされた。空を回って飛んで行き、場外の地に突き刺さる。
ワァァァア! と大喝采が埋め尽くす。
彼の名を大勢の者が合唱した。崇め称える。
「カイル選手ゥ! 反撃の隙も与えず、グレン選手の斧を打ち飛ばしたァあああ! これで彼に対抗する術はなぁぁあいッ!」
実況までもが、この興奮に呑まれていた。そんな中心にいる勇者は栄光の味に恍惚な表情を浮かべ、俺にじっとりとした目でねめつける。
「無傷で終わっちまったのが癪だが、テメーもおしまいだ」
「そうだな。すごいすごい」
パラパラと俺は両手を叩く。拍手で奴を称賛した。
世間が認めた平和の象徴。自分達を守ってくれる存在としては、彼の実力はこの闘いを見て誰もが十分と思っているに違いない。
さっきのが全力と思って良いだろう。持てる物を出し尽くした感覚が奴の顔には表れている。
正直、がっかりだ。
もう少し力があると思っていたので拍子抜けだ。ダックスハントとやりあった方が全然手強かった。
まさに、メッキ勇者だな。こんなので衆目は騙されるか。
「さぁステージから降りろ。今の内にリューヒィと別れの言葉で考えておけよ。此処は俺の舞台だ」
「うーん? 何言ってんのかな?」
俺は拍手を止めた。歓声はやまない。審判がジャッジを降そうとして、ピタリと止まる。ある事に気付いて俺に返事を求めて来た。
「グレン選手、降参ということでよろしいですか」
振り返り、すっとぼけた表情で、
「いいや? 何で負けた事になってるの?」
え? とあまりの言動に毒気を抜かれて戸惑う勇者。観客たちも、徐々に違和感に気付いて声を落とし始める。
「おいテメェ、何言ってんだ。武器ならなくなっただろ」
「そうだねぇ。俺のハチェットはステージ外に飛んでった。取りに行くには場外じゃないと駄目だもんな。分かってるよ。で、それが何か関係ある?」
「何って、はぁ、お前何言ってんの」
冗談に思ったのか、苦笑交じりにカイルは言う。
「斧が無けりゃお前の負けだろ。とっとと降りろって言ってんだろうが。それとも何か? まだ続けんのか?」
「そのつもりだけど? だってさ、俺はまだ負けた事になってないから」
やがて、司会進行が止まり、そのまま両者が棒立ちとなっているステージ下に会場はざわつき始めた。
意味を量りかねた奴等に、俺は懇切丁寧に話を続けた。
「勝敗はあくまで戦闘不能か明らかな致命打が決まりそうな場面の目前。他にもリングアウト、降参の意思表示や何かしらの違反のどれかで決まるんだぜ? 俺は、どれにも当てはまっていない。使っていた武器を失っただけだ。この意味が、分かるかなー?」
「まさか、テメー」
「そう、そのまさか」
観客にあえて降参をする様な素振りを見せる為に両腕を上げ--そして前に構える。その両手には、何も持っていない。
「俺は素手の方がつええ」
実況は、試合の最中である事を訂正し、そして俺がまだ続行する意思のある事を伝えた。
面白おかしく、まさかこのまま無手で闘うという情報を広めると、
どっと、周囲に笑いが起こった。大半にはジョークに受け取られている。
さっさと引っ込めー。見苦しいぞー。という野次が飛んだ。本音を告げても、奴等は全く信じもしない。
真実はこの武器を失ったという事実に塗り潰されて誰の目にも映らなかった。
目の前にいる、奴もその一人だ。くつくつと笑いだし、頭を抑える勇者。
「……つくづく、救いようがねぇな。自殺志願にしても盛大過ぎだろ」
「どうだかねぇ」
「でもちょうどいいや。素手でやり合うと言い張る以上、間違いなく擦り傷じゃ済まない。しょうがねぇよな、どんな怪我をしたってよぉ。『間違って』致命傷与えても自業自得に出来るわけだ」
「まわりくどいなー、素直に手酷い目に遭わせたいって言えよ」
美青年の恵まれた顔立ちに彩られる不敵な微笑。その奥底にはどす黒い悪意が伺える。奴は、俺を再起不能にする口実と捉えたらしい。
試合再開の為、俺達は仕切り直しにステージの初期位置に戻った。じりじりと、剣を構えて迫るカイル。
「最後になるなら辞世の句でも残しておくか? 代わりにリューヒィに伝えておいてやるぜ……隣の枕からな」
「多分ロクな場所で寝れなくなるんじゃないかな、この後」
「何言ってるか意味わかんねー。やっぱ狂ったか?」
俺のセリフを鼻で笑っている奴の頭には、全く想像していないのだろう。
これから自分がどんな目に遭い、そして何が待っているのかを。
「あばよ、バケモン」
審判のコールと同時にカイルは飛び出して来た。俺を斬り伏せようと、畏れも無く。
さて、じゃあそろそろ俺も--
「くたばれェえええええ!」
白刃の軌跡が読める。奴の大振りな攻撃はもうこの目に慣れていた。
かわしても良いが闘技を、出すか。この為だけに俺は隠して来た。奴が臆病風に吹かれない為に、ずっと。
片腕を前に出す。それは何も知らない三者からすれば自殺行為だった。刃物を生身で防ごうなどと。
「部分硬御」
鈍い金属音。細剣が籠手の無い腕によって弾かれる。微塵もその国から賜った刃に通っていない。
「--ハ?」
「舐めててくれてありがとよ」
全体重を乗せて斬りかかった事で、前のめりの態勢で茫然とする勇者のご尊顔を間近で拝見出来た。
「おかげで、お前を此処まで引き摺り出せた」
クリスマス連続更新
次回更新予定日、12/24(土) 7:00




