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俺は英雄、ヘレン その2

※視点変わります

 ヘレン視点


 俺の名前はヘレン。いずれは英雄となる男だ。


 コルト村までは順風満帆だった俺と弟の旅路だったが、ゴブリン討伐に向け彼奴が潜んでいると思わしき森に向かったところで悪天候に見舞われた。


 その途中の道で休んでいた老人の甘い言葉に惑わされ、俺達は身ぐるみを剥がされた。装備を失い、ゴブリンと闘う事はおろか旅を続けるのも難しくなってしまったのだ。


 仕方なしに一度故郷に戻り、再びコルト村を訪れた頃には既に、ゴブリンによってもたらされていた被害は既に終息していた。

 俺はその村で口先だけの冒険者というレッテルを負いながらも、本来の旅を再開したのだ。


 おのれ老人め! そしてゴブリンめ! もし次見掛けたら、成敗してくれる!

 そんな胸中に秘めた怒りが冷めやらぬ内に、次に辿り着いたアルデバラン王国でも彼奴の目撃情報が出た。


 そちらに向かったが奴は不在。聞けば現在その隣街アバレスタにいると言う。田舎では飽き足らず、各所にまで出没するとはな。

 当然俺はその街にも向かった。生意気な奴め。この英雄から逃げおおせると思わない事だ。

 

 アバレスタは故郷やコルト村と比べて商業の異彩を放ち、大通りの両端にびっしりと出店が並び、毎日がお祭りの如く賑わっている。奴を探すがてら、良い買い物が期待出来るな。


「兄者。しかし、懐には金がもう……」

 しまったな。此処まで来るのに尽きてしまっている。仕方ない、冒険者らしく斡旋所ですぐに金が手に入る依頼でも受けようか。


 そんなわけで、本来英雄になる身としては似つかわない酒場へと俺は来店する事とした。地道なたゆまぬ努力も、時には必要か。

 その看板の前、店内の中で何やら不穏な物音が聞こえる。物騒な連中だとは思っていたが、昼間から何をやっている?


 外に飛び出したのは、冒険者の恰好をした男。特徴的なのは、小柄な体格に何より見覚えのある肌の色。緑色の皮膚をしたあのゴブリン。


 まさか、こんなに早く見つかるとは。そう驚いている内にゴブリンが飛び出した入り口から、今度は大柄の暴漢が顔を真っ赤にして姿を現す。

 恐らくあのゴブリンに対する罵倒を吐きながら、彼奴の逃げた先へ追っていった。やはりあの魔物はトラブルを起こす災厄だ。どうやって街中に入ったのだ?


「我らも追おう兄者」

「うむ。因縁のある身としては捨て置けんな」

 助ける為ではない。先約はこちらなのだ。別の余所者に倒されては気が晴れなくなる。


 街中を巡る逃走劇に混じり、ゴブリン、暴漢、そして我らという三者の立場が成り立った頃。

 我らは不覚にも気付くのに遅れていた。また別の立場の存在が、介入している事に。


 男が奥で曲がり角に差し掛かるのを見て、俺もその場所へ急行する。民家の迷路に彼奴は逃げ込んだようだ。味な真似をする。


 突如としてそこで起きたのは爆発だった。黒煙が空に上がる。

 俺と弟は慌てて曲がり角まで行くと、


「なっ」

 路地裏は爆破の現場と成り果てていた。周囲の壁に黒い焦げた跡が残り、その爆心地と思わしき地点には先程までゴブリンを追いかけていた暴漢が倒れていた。


 男からも煙が上がり、酷い火傷を負っている。これは炎の魔法が直撃でもしないとそうはならないぞ。

 そして、もう一人の存在が犯人であると俺の予測が結論を出す。そいつはあのゴブリンでなく、人間だ。


「新手か?」

 その呟きは、フードを被っている若い長身痩躯の男の物だった。片手には奇妙な物を持っている。

 魚のヒレにも似た突起が節のように繋がっていて鞭にも見える武器。それが地面で大蛇のようにとぐろを巻いている。


爆裂鞭ばくれつべん

 何の予告も無く、男は鞭を振るう。我らに向かって。


「兄者!」

 弟が突き飛ばす形で俺は地面に横倒しになった。鞭の一打は空を切った。

 標的を失い、民家の屋根にそれが激突すると先程と同様の轟音が耳を叩く。岩造りの屋根は容易く吹き飛び、僅かな業火が噴く。


 駆け付けた女性住民の悲鳴。野次にあつまった人々が、その出来事に恐怖を示した。

「ざわめくな!」

 爆発を起こした主が唾を飛ばして怒鳴りつける。遅れて立ち上がった俺はその男に問いかけた。


「何の真似だ。こんな街中で人を襲うとは」

「この豚の事か? 話が分からないようだったので、焼いた」

 淡々とさっきまで威勢よく走っていた暴漢の姿を値踏みする。肉の焼ける空恐ろしい匂いがするが、まだ生きているのだろうか。


「あのゴブリンは俺の獲物だ。お前ら、アイツを狙ってるなら、この豚同様の目に遭わすぞ」

 鞭でぴしゃりと地面を叩く。小さな爆発で威嚇。この男、気が短すぎるぞ。

 だが、通告は分かった。この鞭の使い手は我らに彼奴から手を引けと言っている。


「……あのゴブリンは好きにすると良い」

「兄者! それでは……」

 男は、何も言う事なく立ち去った。周囲は恐ろしさに口も出せず、フード男に道を空けた。


 あの者、かなりの強敵だ。LV20は軽く超えているに違いない。我ら二人がかりで捨て身になっても、敵うかどうか。

 英雄になる身としては情けない失態。力によって押し黙らされてしまうとは。


「だが弟よ、諦めた訳ではないぞ」

「え?」

 残された暴漢が駆けつけた自警団達に運ばれる。その光景を目にしながら、俺は言った。


「あの男にゴブリンを先に手を出す権利を譲っただけのこと。もし失敗すれば次は我らの番だ」

「だが、相当な手練れだぞ。如何に逃げ足の早いゴブリンといえど」


 にっと、俺は口角を吊り上げる。俺の予感は悪い方へと行ってはいない。こういう時程当たるものだ。

「我らから二度も難を逃れた魔物だぞ。そう容易くやられはしまい。だから我らも手を焼いているのだろう?」


 グレン視点


「んー。あれは鞭から魔法が起こってる感じか? 当たったらやばいなー。避けにくいだろうなー。耐えられないだろうなー」

 その一部始終を、オペラグラスでしかと見届ける。件の騒ぎの渦中にいたゴブリンである俺は、追う者達をしっかりと撒いて敵情視察をしていた。てか、あの冒険者二人組もこの街に来ていたんだな。


 今回酒場で騒動を起こしたのは、確認の為。付け狙う視線は何を意味するのか。もし俺の首が狙いだった場合、執念深さに納得がいく。

 そんな奴の前で別の輩が獲物を横取りしようとした場合、見兼ねて排除する為に姿を現すだろう、と予想して頭の悪そうな剛腕のワイルにちょっかいをかけた。正直ご愁傷様だな。まぁ女性に不必要に迫り、俺を襲おうとしたから自業自得かな!?


 ずっと感じていた視線の正体は、あの爆発する奇妙な鞭の使い手で間違いない。初めて見る野郎だ。何故、俺を狙うのかその意図が分からない。


 言えるのは、あの男は俺の天敵である魔法使い型だ。正直、正面きっては勝てないだろう。

 物理専用の硬御が魔法攻撃では全く通じないし、何よりあの鞭のリーチは無傷で接近戦へと持ち込む事を不可能にする。多分、一発でももらえばアウト。ワイルのように焼きチャーシューにされるだろう。


 あわよくば奴等で相打ちと行きたかったが流石に無理か。だが、どういう奴が俺を狙っているのか把握出来れば十分。

 この街にいる以上、会敵は必至。きっと話し合いの場は設けられないだろう。

 なら、どうするか?


「そりゃ決まってるよな」

 いつもの事だ。ただ今回はいつも以上に大物だろう。

 さっそく俺は準備に取り掛かる。


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