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俺の抽選、震える受付

 ダックスハントが来訪した夜。帰って来たアディとトリシャを囲っての食卓で話が上がった。

 当然、首狩りパルダの弟子を熱望する件である。

「そろそろ話してくれても良いんじゃない。向こうは良く知ってるみたいだったぞ。俺を口止めしたって事はお前にも心当たりあるんだろうし」

「そうじゃそうじゃ。そんな愉快な事があったという事は何かいきさつがあるのじゃろ?」

「……い、いきさつと言いましても」


 犬女が異様にリスペクトした本人であるパルダは、食事の手を止めながらどう言った物かと悩みながら、

「たまたまでございまする。こちらの大陸、とある街で依頼をお受けして魔物を討伐した時に、獣人の子供から非常に好かれてしまいまして。追っかけとしてつきまとわれていた時期がありました」

 つまりアディ達の放浪期、パルダが冒険者として名をはせ活躍した頃の話だな。


「ああ、それなら儂も覚えておる」

 アルマンディーダも天井を仰ぎながら思い出した様に言った。

「まさに子犬の様に黒ずくめ姿のパルダに懐きおって、サインまで求めてた子がおったなぁ」

「はい。その子が、どうやら冒険者を志してしまったようで。私を模倣するかの様にめきめきと腕を上げていつしかS級と呼ばれる程になられたのです」

 なるほど。機動力を生かした双剣での闘い方など、どことなくパルダに似通う物があるのはそういう事だったのか。妙に闘いやすく感じたのも、悪く言えば首狩りパルダの下位互換でだったからかねぇ。


「知っておったかグレン。パルダはS級冒険者の中でトップじゃ」

「1番! そうなの? S級っていうのは確かそれまでのA級とは異なり、実績や経歴とは別に実力として選り抜かれるんだっけ。流石パルパル」

「いえ、そんな大した物では……」

 それが災いしてダックスハントの様なエスカレートしたファンが生み出された訳だけど。


「それで、次来た時はどうすんの? 弟子にするのかあの犬女を」

「困りまするよ! 私はただ、来たる激しい闘いに備えて旦那様に僭越ながら自分の培った経験を御教鞭しているだけですし。このパルダに、弟子だなんて……」

 謙遜しすぎだろ。


「ん? ちょいと待て」

「どしたん」

「確か儂が見たのはほんの2、3年前じゃぞ? 聞けばその獣人は成人女性だったのであろ?」

「まぁそうだな」

 その場でアディは、恐るべき事実を吐露する。


「その獣人が同じ人物であれば、今の歳を考えるとトリシャより小さい筈、なんじゃが」

 静まり返る周囲。トリシャだけは意図が分からず、チキンソテーを頬張りながら頭に疑問符を浮かべた。

「え、じゃあ何? 今、ダックスハントって10歳にも満たないって事になるよな?」

 あの犬女が、トリシャくらいの歳だと? あまりに信じられない様な事実確認をしながら、絶句する。


「ふぅむ、それはアレだね」

 椅子に立つ形でテーブルから頭だけを出すシャーデンフロイデ。物知り顔で口を挟んだ。

「獣人は人間で言う第一次性徴期までは成長速度が同じで、以降は人間以上に発達が早い亜人だと聞く。その犬の獣人はそういった過程で、ものの数年で幼い子供から成人になったのだろう」

「ほんとに犬猫みたいだなオイ」

「儂ら竜人なんて三桁の年月を経ないとまともに大人にもなれんというのに、とんでもない話じゃな……」


 そこで改めて俺は気付いた。俺って、トリシャの様な幼い年齢の女の子を捻り倒してしまったという事じゃないの? うわ、思い出すとなんか酷い事しちゃった……!? 頭打ったのも、俺のせいだし!

 テーブルで両肘をつき、頭を抱える。酷い罪悪感に苛まれた。


「あぐぅ……」

「どうしたのパパ」

「クックックッ。少女トリシャ、君の父親は君と同じ頃合いの少女に手酷い真似をしてしまった事に対して、自己嫌悪に陥っているのだよ。どう思うかね? 例えば君の友達を、御父上が泣かせたとするなら」

「泣かせてはねぇよ! ……気絶は、させたけど」

「……パパ」

 我が娘が、そんなの嘘でしょ? みたいな視線で俺を見る。やめてくれ、そんな軽蔑した目で見ないでくれ!


「うわぁそんなつもりは無かったんだうわぁああ!」

「こういう積み重ねが親子関係の亀裂になるのだろうかね、クックックッぐむ!?」

 俺の傷心を高笑う他人の不幸は蜜の味シャーデンフロイデ。が、奴の忍び笑いが突如ぐぐもる。


「良い加減にせい似非ドラゴン。グレン、あまり気負うな。獣人の年齢を人間の年齢基準で考えなくて良い。きっと相応に精神も発達しているに違いあるまい。であれば、そやつも立派な大人よ。儂も余計な話を振ったのがいかんかった。すまぬ」

 顔を上げると、テーブルの下から赤い尾が伸びて子竜の口に巻き付いていた。アルマンディーダの援助。

 

「亜人の歳のとり方など種族によって違う。儂だって数百年生きとるが、まだまだ若いんだぞい」

「アディ……」

「そうじゃグレン。だから気にするな」

「分かった。ありがとう」

「フッ。礼などいるまい。儂はおぬしの味方じゃ……」

 顔を見合わせる。彼女は何と心優しい事か。


「--口説くなババア!」

 せっかくの良い雰囲気をぶち壊す愛娘の罵声。代わりに彼女が消沈する事となった。



 そして大会の期日。ドラヘル大陸行きの為に経由したリゲル国に、再び俺達は訪れていた。

 出店の大通りは、かつて俺が見た時より人がごった返している。大半の目的は恐らく、闘技大会だろう。

 あの特徴的な玉ねぎ屋根の建物群。その中で、円型の大きなドームに俺達は向かう。


「おおデカイ。あのコロッセオでやるのか」

「盛大な行事だ、気を引き締めろよグレン」

「レイシア、お前って出るの?」

「騎士が参加を規制されているのでな。観戦だけだ」

 俺の一行の面子は我が家のトリシャとアディにパルダ加えておまけのシャーデンフロイデ。そして数日の休みを頂いた私服の騎士二人が一緒に来ていた。

 ついでに言うと、同じく声援に来た少年騎士アレイクの顔は死んだ魚の様だった。エルフとの縁談でまた何かあったんだろうな。気晴らしに誘ったわけだし、聞かないでやるのが思いやりという物だ。


 このイベントは、数日にかけて行われる。その間も当然この街に滞在する。

 会場の近場にある宿を取った。ゴブリンを泊めるのは、と難色を示したところで不平等を許さぬ騎士達の言葉が追い風となり、半ば強制的に部屋を借りる事に成功。一応宿泊料に色はつけておいた。


「もうじき参加者だけで集まるみたいだから会場に行ってくる」

「うむ、抽選じゃったか?」

「そうらしい。本戦は明日。だから旅の疲れでも癒してて」

 既にトリシャは昼寝モード。朝早かったからなぁ。


 通り過ぎたコロッセオの中に一人、俺は入った。周囲から物珍しそうな視線が刺さる。

 入り口付近で虎顔の剣闘士っぽい奴が喉を唸らせたり、紫のとんがり帽を被った妖艶な魔導士の女がクスクスと笑っていたりと、実力者の風格がある者達もちらほら。

 そんな中に一匹のちんちくりんなゴブリン。前述した奴等と肩を並べるというのが冒涜と思われても仕方ない。


「こんちわ、明日の大会に出場するんで来たんですけど」

「はい。ようこそおいでくだ……」

 声を掛けた受付らしき男性が書類から顔を上げて俺の姿を見た途端、絶句した。

 少しの間があって、固い口調で尋ねられる。


「失礼ですが、お名前と出身をお聞きしても?」

「グレン・グレムリン。アバレスタの支部からの出場ですが何か?」

「お、おま、お待ちください」

 名簿に慌てて目を落とし、俺の出場を確認し、恐る恐る、


「貴方は亜人、なのでしょうか……魔物じゃないですよね」

「人権も持ってる。証拠物も此処に」

「ここに書いてある、アルデバランの貴族というのは……」

「そう。グレムリンってついてるだろ」

「……ほ、ほんとに?」

 くどいな。毎度ながら、こうやって疑われるのに辟易する。


「おい! バカ!」

 隣の席で話を聞いていたもう一人が仕切りの向こうから俺を相手している受付に肘をつく。

「噂で聞いてなかったのか? あの狗斬ダックスハントを軽々と倒したっていう」

「いや、半信半疑だったし、まさかのまさか本気でまんまゴブリンが来るとは思ってもみなかったから……」

「だから気を損ねさせるなって……! 話では見た目とは裏腹に凄まじい剛力を持っているんだぞ。一つ間違えると俺まで……」

「ひ、ひぇ……! 大変失礼致しまひたぁ! グレン様!」


 何か、そちらの界隈ではまことしやかな噂に語られているのか。多分悪い方向で。

「こちら! こちらですこの箱に手をお入れください!」

「何これ?」

「中にある紙は抽選のくじになります! これでトーナメントの組み合わせを決定しておりまして、一枚お引きください!」


 無骨な桐の箱に穴を開けた簡素な物に俺は手を入れる。まさぐると、紙の塊がいくつかあった。

 それを適当にひとつ取り、広げる。

「49?」

「はいグレン様49番!」

「はい49番ですね記入しまぁす!」

 向かいの壁に掲示された組み合わせ表らしき大きな用紙に俺の名前が書き込まれていく。


「では、明日の本戦の説明を簡潔にお伝えしますね」


 ルールと大会の進行についての話を聞く。

 試合はトーナメント制。決勝まで勝ち進めるなら試合は全部で6回戦。それが過ぎると現チャンピオンと王座を賭けて闘う。1回戦と2回戦は、複数の試合を同時並行で進めるらしい。これは参加者数と開催期間の都合上による物。大々的にひとつひとつの試合を進められるのは3回戦以降だそうだ。


 更に4回戦以降になると、互いの提示した財を賭けて勝負し合う。それ以外にも両者が合意の上なら金銭あるいは所有物、何かの契約でも要求できる。しかしこれでは大した資産を持たない者の方が断然有利になるという話になるが、そこは賭ける資産が大きい者としてアピールにもなる為必然的に背伸びをするのだという。

 事前に情報を知っていた俺は、もし四回戦に行き着く事を考えて5万ディルを用意して大会の主催側に預けた。50万円くらいの財産を提示すれば対戦相手は他を選んで来たりしないだろう。

 


 他にも共通するルールとしては武器の使用は申請した一種類だけ認められ、闘技とうぎや魔法など個人の能力を振るう事に特に制約は無い。

 ただし試合中の負傷や死傷については参加者の自己責任。審判が過剰だと判断した場合は反則になりうる事もあるとのこと。

 勝敗の基準はリングアウト、違反行為、戦意喪失の意思表示--つまりは降参、気絶などの明確な戦闘不能状態によって決められるみたいだ。



 一種類しか武器が使えないので、変形斧ハチェットを申請。籠手弩ガントレットボウは外す事にする。


「では本日の手続きはこれにて終了です!」

「明日、またこの会場にてお待ちしております!」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


 もうお帰り頂いてくれ、という心の叫びが伝わったので。俺は手をひらひらとして受付から離れる。

 明日、俺の最初の対戦相手は50番の記入者。おや、名前が既に載っている。

「ダンガルフ、ねぇ。いかにも強そうな名前だ」


 1回戦から負けたら怒られるかなぁ、と遠い目になる。今回は地味で終わったら意味がない。目的としては目立って興味を持ってもらう事だ。せめて3回戦はいかないとならない。

次回更新予定日、11/26(土) 10:00

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