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俺の公務、パシリ

 トゥバンのクーデターから半年の月日が経った。

 そして此処は荒くれ者が依頼斡旋所に利用する商業街アバレスタ。この街では相変わらず色んな人種がごった返しになる程集う。


 俺の知る限りでは冒険者、教会の関係者、多種の商人に巡回の騎士とほんの僅かな亜人達。皆が様々な目的で此処に立ち寄る。

 悲しい事であるが、そうして人が入り混じれば良い人間や悪い人間も明瞭な差となって浮かび上がってしまう。

 さらに言えばその手の連中は、一人の存在を許した途端割れ窓理論の現象が巻き起こる。どんどん悪くなっていく。

 つまりこの状況が、まさにそうだ。


「だから、さっきから言ってんだろうが」

「ヒィ」

 路地裏で数人のチンピラが一人の亜人を取り囲み、背後の壁を拳で叩いて威嚇する。

 もう、如何にも野蛮で定職にもついてなさそうな、グレた若者達。

 そして奴等の収入源こそ、こういった事での荒稼ぎと言ったところか。


「誰の許可を得て依頼斡旋所を利用してやがんだ? テメェみてぇのが人間様と一緒に仕事できると思ってんのか」

「で、でも……だって、ギルドからは認可されて--」

「ギルドは利用出来る出来ないかしか判断しねぇんだよバカかテメーは!? だから、勝手に亜人がこの街で俺達の断りもなく事業に混ざろうとしてんのが間違ってんだよ」

「此処は俺達の縄張り。人間じゃなくても分かるよな? み・か・じ・め。利用するのに金が要るんだよ金が!」

「そ、そんな! 俺は食って生きていくのにそのお金を稼ぐ為、ギルドを利用しているのに……! 巻き上げられてしまっては今日の食い扶持も買えなくなってしまう!」


 再度、握り拳が壁に当たる音が耳元を打つ。そして唾が飛んだ。

「そんなの何処もそうだっつーの! 金が足りねぇ? ハァ!? だったらもう一回適当な依頼を受けて来いよ日が暮れたって可能だろぉ!?」

「確かC級でも二日は飯食える報酬のやつあったな。郊外の地下墓所のアンデッドを数体討伐とか今からでも行けるなぁ」

「そりゃベテランじゃねぇと下手な奴は逆にミイラになるな」

 掛け合いに、周囲が嘲笑を起こす。搾取側からすれば、搾取される側の事情も無体も関係ない。ただ、自分達が良ければそれで良いのだから。


 もたもたする間に、胸倉を掴まれ、叩きつけられる。

「おら、とにかくさっきの袋をとっとと出せよ。音からしてテメェが結構な額を持ってんのはハッキリ分かってんだ。それとも痛めつけてからの方が良いか? 今なら痛い目を見なくて--」

「あーあ、やんなっちゃうわー」

 襟首を掴み上げられたまま溜め息を吐くと、脅していた主犯格の目つきが怪訝な物に変わる。


「あぁん? 今なんつった?」

「だからさー、この手の手合いは本気で奴隷にでもされた方が良いと思うよ。五体満足で自由な身の分際で、さらに言えば無条件で嫌われる事も無い様な立場の癖に、する事やる事ほんっとにロクでもない所業ばっかり。で、これで何? 弱い奴が悪いって言うんだろ? 立場とか力とか、数とかとにかく劣る事をあげつらって正当化。嫌気がさすよ、こういう馬鹿の集まりにこう何度も遭遇してるとさぁ」

 堪えきれずに捲し立てた途端、鳩が豆鉄砲を食ったように連中は目を点にした。

 やがて、自分達が扱き下ろされた事を理解したらしく、チンピラはがなり立てる。


「テメェ何調子に乗ってんだコラ? やっぱダメだリンチ確定。オッラァ!」

 懐に目掛けて、容赦ない暴力が叩き込まれる。鳩尾に走る衝撃。


 だが、ほとんどは表面だけにとどまり、内部には届かなかった。鈍痛すら無い。

「うぐぁ!?」

 かえって拳を強く入れた若者の拳が傷んでいる。思いっきり人を殴るからだ。あ、違った。俺は人じゃない。

「ご、ゴブリン! テメェ腹の中に鉄板仕込んでやがったのか!?」

「そんなの日常的に入れてたら不便でしょうがないでしょ。ま、普段は鎧を着てるけどね」

 うずくまる男を放って置き、腹を殴られたばかりとは思えない程にケロリとして残りの二人に向き直る。


「それにしたっておたくらこの街でカツアゲは初めて? ゴブリンといったら俺くらいだし、常連は知ってる筈なんだけどなぁ」

「知らねぇよ! 何なんだよオメェは!?」

「俺? 俺は」

 ボロの外套を取りさらい、インナー姿で名乗り上げた。良い鎧着てると警戒されるかもしれないからな。


「グレン・グレムリン。騎士の治安協力により参じた。依頼斡旋の利権を脅かす様な違法搾取、及び暴行罪でお前らを一斉に検挙する」

「ハァ? やってみ……」

 負けじと喚き返す方の距離を一挙に詰める。そして間抜け面に、軽めの崩拳ほうけんを打った。人間の頭身が飛んだ。そのまま力無く路地裏に転がる。


「は?」

「はいドン」

 続けて俺が受けた様に腹部に向けて手加減した崩拳ほうけん。腰がくの字に曲がり、嘔吐の声と共に崩れる。これで二人。


「あと、一人は」

「ひ、ひぃぃ!」

 俺がさっきまであげた様な悲鳴を上げて、負傷した手を庇いながら逃走を図る残党。その逃げる背中に向かって俺は言葉を投げかける。


「くらぁ逃げられると思ってんのかぁ! 地の果てまで追い続けられる様に捕縛依頼してやろうか!?」

 脅迫が、逃足を鈍らせる。言葉の意味に一度振り返る男。俺は続けた。


「あ、やっぱ今の無し。良いよ逃げて貰って、どうぞどうぞ。あとでしっかり指名手配を敷いとくよ。ああ、賞金稼ぎ雇って逃走経路を予想してはなっても良い? 生死は問わないけど、まぁ腕の一本でも持ってきてくれれば上出来かな。そういう訳で何処かお命頂戴される気でよろしくな」

「は……あ、え……?」

「こう見えても俺って貴族でさ。王国とも融通が利く訳よ? そんな俺を取り囲んで脅迫したんだ。リンチにされかけたんだぜ? だったらそれくらいの仕打ちがあってもおかしくないよな?」

 俺の方からも赴く。背後の連中は当分起きないだろう。拘束するのを後回しにしても問題ない。逃げる奴の方が優先だ。


「前にもお前らみたいに指名手配された奴を知ってるんだが、そいつの辿った末路は中々酷かったもんだぜ。どこの街にもいられず、大陸を追われ、海原で海賊と生活してやがったんだ。船の上でまで追い詰められたアイツがあれから無事だったのか知らないが、今頃海の底だろうなぁ」

 野卑な目からはあからさまな動揺が見て取れる。もう少し揺するか。


「具体的におたくのこれからを話してあげようか? 仮にお前がこの場から逃げられたとしよう。もう街には戻れないのは当然だ。周囲の人の住むところにも情報が行き届くのも時間の問題。だとするならもっと遠い地へと行かなくてはならない。しかし人を避ければ当然魔物のいる場所を通る必要がある。おたくちゃんと闘える? か弱そうな冒険者を狙うような奴ってどれくらいのレベルなんだろうね? そうしてよしんば別の異国や街にまで行けたとしよう。待っているのはコソコソと素性を隠す生活だ。住民の目がいつしか自分をたれ込むんじゃないかと気が気でなくなる日々。そしてお前の首を血眼で追う奴はいずれ……さぁ、それからどうする?」

 返事を求めて手のひらを差し出す。男は狼狽して言葉を失っていた。


「……あ、ぁ」

「だからね、お前らは今二択なのよ。首が締まる手綱を引っ張ってでも抵抗するか、大人しく犬みたいに足元でおすわりして言う事を聞くかどっちかしかない。でも俺ってやっさしー。選択肢をあげるんだからさー。わざと追い立てて罪を重くさせる事だって出来るのに、あえてそれをしないんだよ? 聖人だろ? まぁ、抵抗する悪人には容赦しないけどネ。死んだ方がマシだと思わせる手を、いくらでも用意してあげるから」


 歯をしきりに打ち鳴らす男。処刑人を見る様な怯えた目で俺を見る。

「ま、無事生きて捕まるにしろ厳罰は免れないかなぁ。悪質だとギルドも騎士も認めちゃって動いてるみたいだから。俺以外に酌量する相手はいないし、しかも俺は被害者。誰もお前の人権を守っちゃくれない。この調子だと囚人として過酷な労働させられそうだねおたく。奴隷人生行っとく?」

「ま、待ってくれ」

「くれ?」

「待ってください! 待ってください頼みますお願いしますごめんなさい許してください見逃してくださいい! 魔がさしたんですぅ! 調子に乗ってました! もう二度としません! だから許してェぇ……」

 這いつくばって自分より背丈の低い俺に懇願する男。さっきまでの威勢の良さが嘘の様だ。


 でもはいそうですかとも言えない。コイツ等は手口の手際からして常習だ。恐らく三人ぽっちの集まりじゃない。

「いやいや、俺は私怨でお前さんにこういう酷い仕打ちしてる訳じゃないから。義務なんだよ、悪いね。家畜をほふるのと同じで嫌でもこうしなきゃならないの。残念だったね、囮に徹した俺に目を付けられちゃったのが運の尽きって事」

 濡れた子犬の様に震え上がる野郎に肩を回し、でもねと俺は囁く。


「こういう考えもあるんじゃないかな? 減刑させる為に、より健全な自首をするんだよ。自分が悪いことをしたという全容を洗いざらいに話して、他の連中が何処の誰で、どんな所に潜伏しているか……とか」

「……仲間を、売れって、ことか?」

「おいおい仲間も何も悪さをする為につるんだだけの仲だろ? しかも多分にお前ら末端の方だ。だからみかじめ料を献上する分以上に稼げる様に必死なのが透けて見えたからな。そんな上下関係で仲間意識を勘違いしちゃダメダメ。それにお前さんだってほら」

 背後を示唆する、そこには同じカツアゲ連中が倒れている。


「脇目も振らずに逃げ出したじゃない。見捨てておいて今更仲間を売るとか売らないとかの次元じゃないって」

「……」

「けどこれはあくまで俺の感想。お前さん自身が仲間だと思っていて、皆を売るくらいならそのまま犠牲になってやる、と腹を決めたならそれでも良いさ。他の二人からも時間を掛けて調べて口を割らせるだけだし。じゃ、減刑嘆願のお話はこれでお終い。これからしばらくは牢獄で頑張ってね」

「い、言うよ。話すから……本当に減刑してくれるんだな?」

「それは、お前さんの態度次第だ。ほら、両手を縛るから出しな」

「は、はい……」


 大人しくお縄に付かせながら、俺は軽口を叩いた。

 でも、コイツも今は神妙で申し訳なさそうな顔をしているが、この手の奴等って言うのは腹の底じゃ一時助かったと思っているだけで全く反省なんかしていない。むしろ時間が経てば俺のせいで捕まった事を逆恨みし始めるだろう。

 ま、あくまで酌量するのは俺に関わった案件だけで、余罪についてはどうなるかね。

 



「いやぁお手柄でしたねぇグレンくん。やはり君に手伝って頂けると治安がどんどん改善されていきますよ」

「公務として引っ張り出しといて良く言うぜ。隣町だからって、もっと警備が動かないと駄目だろ」

 騎士の連中が、三人のチンピラを連行していくところを尻目に、聖騎士長からの労いを押し退ける。


「申し開きが無い。監視の目を掻い潜られているのは君の言う通りこちらが舐められていた証拠です。これから違法な金銭の巻き上げを行う元締めは今回できっちりと釘を刺します。それで手打ちを」

「そこまでは俺やらないからな。自分達で尻拭いしてくれよ」

「勿論です」

 銀縁眼鏡をかけた爽やかな騎士は、穏やかな微笑みを湛えながら答える。この男の笑顔とセットになっている掴みどころの無さにはいつも翻弄されてばかりだった。


 仮にも貴族という地位を貰ってしまった俺は、自分のやるべき事とは別に国の有事に動く義務が発生している。こうして、俺があの小悪党を呼び寄せるのに適任であるという名目で使い走らされたのだ。


 最近の貴族は中々愚鈍で強く言わないと重い腰を上げないらしい。しかもこういった公務で役に立つことが少ない。その分グレンくんは良いですねーと、のたまいやがる。

 この根無し草からこの近辺に腰を据えてしまった以上、仕方ないとはいえ参った参った。兵士の訓練とかこういう雑事とか、仕事には困らなくなったがね。


「で、そちらはどんな状況ですか? 居抜きとは言え、大分発展して来た頃だと思いますが」

「ああ、拠点の方ね」

 かつて騎士でありながらこの国に災禍をもたらした男、ペンドラゴン。俺も辛酸を舐めさせられた人間至上の差別主義者は、アルデバランでの王族が提唱する宗教の価値観の相違により、騒ぎを起こしたのと共に文字通り身を滅した。


 彼は国から与えられた領地や村を保有していたが、彼が亡くなった事でその保有の権利は国に戻った。

 ペンドラゴンが起こした騒ぎにより、その親族の信用は失墜し可哀想だが没落。ペンドラゴンの信心深さに影響を受けていた村の者は邪教に手を染めた者が管理した地として、住む者もかなり別の村や街に移って行った。


 そんなもぬけの殻とも言って良い領地が、まわりまわってドラヘル大陸から帰って来た俺に渡ったという訳だ。

 その領地というのは、俺がこの世界で目覚めた周辺の土地だったのだ。そしてその村というのも、俺が初めて訪れたあのゴブリン騒ぎのあった村だ。


「建物とか出来始めているみたいですし、もはや町と形容した方が良いですかね? あのコルト村は」

「竜人達が良い働きしてくれるもんだから助かってるよ。悩みは尽きないけど」

 あれから、それほど大きくはないが色んな事があった。


次回更新予定日、11/5(土) 10:00

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