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俺の付与、神炎と口づけ

タイトルを少し変えました

 王子スペサルテッドは完全な竜の姿形として空に君臨していた。

 体格はフェーリュシオルやパルダとは一回り二回りも大きい。2、30メートルはあるかもしれない。


 口火を切ったのは、スペサルテッド。

「よォゴブリン。テメェにも会いたかったぜクソ野郎」

「おう、元気そうだな大将。マグマに落としてやったんだがよく無事だったな」

 いや、無傷なわけが無い。俺にのされまくった傷痕が残っているし、何より至る所で酷い火傷が目立っている。


「熱かった、地獄を味わったぜ。おかげで俺のはらわたは今も煮えたぎっている」

「そりゃよかった。わざわざ付いて来た甲斐があった。別に良いよな? 一騎打ちだとは言ってないんだから」

「ああ。テメェもまとめて焼き殺してやる--ヨッ!」


 予告なしの火炎の息吹が飛んできた。ぐん、と横に引っ張られる。

 宙にいたのに炎から免れたのは手を引いたアディのおかげだ。直撃は避けるも、チリチリと熱気に炙られる。

 だが今のは神炎ヴァドラじゃない。ただのブレスだ。


本命ヴァドラを撃つには溜めがいるからのう。ノーモーションで吐ける火炎と使い分けられる」

「予備動作があるわけだな」

 拳を叩き込むなら空中戦は不利だな。何とかして地面に落とせば、多少はやりやすくなるか。

 籠手弩ガントレットボウに水の付与エンチャントを纏う。


 短矢を幾度か射出するも。

「同じ手が何度も通用するかァ!」

 距離を置いた上での射撃は、奴に容易く回避されて不発に終わる。ダメだ、さっきの様に態勢を崩した上で狙わないと遅い。牽制としても心許ない。


「矢と魔力を無駄に消費するだけじゃぞ」

「試してみただけだ。デカくなったから当てやすいかと考えたんだが」

ハエが目の前でブンブン飛び交ってるのを見てると苛々してくるよな? とっとと潰れろクソ虫どもが!」


 巨体に物を言わせて、こっちに迫る。アディは俺を連れて後方に飛んだ。

 背中から追って来る火炎が山肌を焼き尽くす。縫うようにして俺達は火の手を掻い潜った。

「防戦一方だな、何か良い案があれば良いんだが」

「おぬしもお手上げか? 確かにぬしが戦ってきたのは陸上だものなぁ」

「ま、とりあえず全力でかましてみますかね」

 ドックファイトの中でも呑気に会話が出来るのは、彼女の魔法の類いのおかげだろう。パルダに乗った時もそうだった。


 追われるアディがくるりと振り返り、人の頭身には似つかわしくない規模の火炎をスペサルテッドに噴き出した。

「んなの溶岩に比べりゃ生温ぃぞしゃらくせェ!」

 炎の暗幕を突き破り、猛然と飛び出す巨竜。


 その間に俺とアディは奴の眼下の方へ移動していた。彼女が思い切り俺を上へと投げた。俺自身を質量弾にして、奴へと肉薄する。

 もっと強めに行く。両手に紅蓮甲ぐれんこうを纏う。

紅蓮ぐれん多連崩拳たれんほうけん!」

 奴の目と鼻の先で、俺は猛火の鉄拳を無数に繰り出す。


 が、両腕で防御に入られた。緋色の鱗にびっしり覆われた巨大な前腕は、二枚の盾となって俺の拳を受け止める。

 流石に堅牢な竜の身体を、突破するには至らなかった。一度奴に紅蓮ぐれん崩拳ほうけんを一発を食らわせた時も吹き飛ばす事は出来たが、あれは不意を突いての結果だ。防御に集中されてしまえば致命打にはならないのは当然か。

 ある程度の距離まで後退させたが、依然奴は健在。お返しの大樹の様に太い尾が差し迫る。


 空中で身動きが取れないので全身を硬御こうぎょを纏う。重い衝撃と共に俺は向こう以上に背後へ追いやられた。

 それをアルマンディーダが腕を掴んで拾う。ダメージはおあいこってところか。


「しゃらくせぇええって言ってんだろぉおおおおがァあああああああああ!」

 閉じていた両腕を広げ、口腔を大きく開いていたスペサルテッド。普通の火炎を吐く時とは様子が違う。

 彼の顔の付近から、無数の小さな赤い炎が生じた。それが中央に集中する。

 どんどん圧縮され、再度生じた炎が掻き集められ、膨張を始める。


 まるで極最小の太陽が、奴の口から生み出されている様だった。

 まさかアレが--

「コイツガードしながら溜めてやがった!」

「いかん! グレン--」


 --神炎の竜火砲ヴァルド・ラ・ウルカヌス


 太陽が解放され、指向性を与えられた神炎ヴァドラは、莫大な業火の奔流となって迸る。目を焼きそうな強い光に目が眩んだ。

 


 直撃すれば、俺のちっぽけな五体はたちまち蒸発していたところだったらろう。

「……ぐぅ」

「すまぬ。完全には避けきれんかった」

 左腕の表面が黒ずむ程度の火傷以外の負傷を免れたのは奇跡と言ってもいい。アディの咄嗟の回避行動が無ければ、熱気を掠めるだけでは済まなかった筈だ。


 体感して分かったが、あれはモロに受ける訳にはいかないな。水の魔力じゃ相殺なんて出来る訳が無い。防ぐなんて選択肢は存在しないという事を身を以て経験する。

「チッ。神炎ヴァドラ一つ分じゃ避けられるかァ」

 忌々しそうな独白。そして絶望的な情報も察知する。


「次は二つ分の神炎ヴァドラで範囲を広げてやる」

 口腔をまた開く。周囲に火炎が生じ始めた。

「避けられると思ってんなら避けてみなァ。それともそのお荷物捨てて身軽になるかアルマンディーダ? かっかっかっ!」


 溜めるつもりだ。どうする? 距離を取ろうにも逃げ切れる気がしない。何せロギアナのはるか遠くにあった巨岩を撃ち落とした射程を誇る炎だ。妨害すれば何とかなるか?

 左はダメだが、右は使える。今、彼女の手に繋がれてる手だが。これじゃ……

「グレン」

「わりぃ、足手まといになった。俺を降ろせ。そうすればお前の生存率が上がる」

「いや。たまには儂の案に乗らぬか?」


 目先の竜はまた小さな太陽を形成し始める。だが、今度は先ほど以上に溜める気だ。

「おぬしの右手に炎を籠めろ。繋がっておれば、儂の手は焼けぬ」

「ただの紅蓮甲ぐれんこうじゃあ、ありったけ打っても効き目は薄いぞ。玉砕するにしたって……」

「よいから、早く」

 促され、俺は彼女に握られた手へと火の魔力を集める。ゴブリンと竜人の繋がる手に火が灯った。

 付与エンチャントは、同和という性質で俺の魔力がアディの手にまで流れる事で被害を被らない。

 それはいいとして、これでどうするというのか。


「今から、おぬしにこれを託す。ほんの僅かじゃがな」

 その宣言と同時にアルマンディーダの方から、燃え盛る俺の手に向けて何かが送り込まれる感覚を覚える。

 灼け付きそうな痛みと強い電流が流される様な痺れ、俺の手の魔力回路が悲鳴をあげているのが分かった。

 紅蓮甲ぐれんこうの炎が、赤から山吹色に染色されていく。


「こ、こりゃあ」

「儂の神炎ヴァドラじゃ。今はこれしか出せぬがな」

 俺の火の付与エンチャントに選ばれた竜人の魔力が加えられた。二人がかりでの複合付与デュアルエンチャントだった。

「ハァ! ちっぽけな蝋燭ろうそく程度の火でどうにか出来ると思ってんのかよォ!?」

 奴の神炎ヴァドラは大きく膨らみ、先ほどの倍以上の規模にまで達していた。もう間もなく、解き放たれる。


「確かにこのままでは、あやつの言う通りになってしまうかのう。相殺すら望めぬよ」

「だが、この一発を決められれば確実に倒せる。そういう事だな?」

「その為にもあやつに突っ込まねば。……それを儂に任せてくれぬか?」

「……でも、お前。まだ」

 彼女の意図に気付く。しかしそれはまだ出来ない筈だ。


 焦土の広がる山頂上空、この危機的な状況であってもうっすらと竜姫はほころんだ。

「その為におぬしは来たんじゃろ? 力を、勇気を貰っていかの?」

「がんばれ、って言うくらいしか俺には--」

 


 突如として、アディは顔を近づけて来た。そのまま、そっと触れる。

「ううおぉっ!?」

 ほんの一瞬、俺の唇を掠める程度に彼女は--


「……ん。よし、これで足りぬ勇気を貰ったわ」

「お、おお、お、おまままま、おまえっ何してんだ?」

「さぁて、これで片をつけるとしようかえ!」

 俺の抗議の声を無視し、彼女は前へと飛び出した。


「今更何しようと遅ェええええええええええええええええ!」

 神炎ヴァドラの息吹が周囲を埋め尽くす。攻撃範囲は尋常ではなかった。アディはさておき、俺は絶対に逃れられない。


 そして彼女は遂に、姿を変えた。

 翼をこれまで以上に大きく、尾はそれまでよりも長く、そして全身は人の原型を忘れ、スペサルテッドと似た赤き巨竜へと変貌する。


 俺は完全な竜形態となった彼女の肩に乗り、莫大に広がる炎の大海に向かっていく。

 そのまま、俺達は神炎ヴァドラの息吹に呑み込まれた。



「かっかっかっかっ! モロだ! モロにくらってやがる!」

 哄笑するスペサルテッド。しかし、もう油断はしていない。スペサルテッドには分かっていたからだ。

「この程度でくたばる訳ねェよなぁ? そうだろアルマンディーダッ!?」


 息吹から抜けた実の妹を迎え撃つ。竜の姿であれば、如何に神炎ヴァドラであろうと簡単には仕留められないのは重々承知だった。奴の狙いは、

「オメェが如何に竜の姿になって自身を盾にしようと、防げるわけねぇ! あのゴブリンは間違いなく焼き殺された! だからさっきまで肩にいたのにいなくなった! こりゃ溶けちまったかな? 仇討ちでもしに来たかぁ? アァン!?」


 残されたアルマンディーダはそのまま奴へと掴みかかる、両者の前腕で取っ組み合いが始まった。

 彼女も全身の鱗に少しながら火の手が回っていた。何度も耐えられはしないだろう。

「オラどうするよ? このままブレスの撃ち合いか? おんもしれぇ!」

 スペサルテッドの口腔が大きく開く。間近で神炎ヴァドラを放つ算段だ。


 彼女も対抗する様に口を開く。だが、スペサルテッドの言葉通り、神炎ヴァドラ同士でも二つ持っている奴とでは明らかに分が悪い。

 が、彼女の口腔からは炎が吐き出されることはなかった。代わりに、緑の影が飛び出した。


 その影が、竜同士の決闘に割って入る。腕に炎を纏ったまま間合いは、詰めた。

「おォ!?」

 内部にいたのに蒸し焼きにされるかと思った。俺はアディの口の中に入り込み、炎から身を守り潜んでいた。全てはこの瞬間を狙う為。


 溜め始めた段階では神炎ヴァドラを放つ事も出来ず、身を退こうとするスペサルテッド。しかしアルマンディーダの両腕がそうはさせない。

 そして俺は奴の隻眼の方へと回り込んだ。確実に避けさせない。


 死角から、竜のかしらかたどった業火の拳を振るう。必殺のアッパーカット。

竜頭りゅうず紅蓮ぐれん崩拳ほうけん!」

 その一撃に奴の顎が閉じられ、衝撃に生成途中の神炎ヴァドラが口の中に解放される。


「ぐびぃいッ--」

 力場に行く宛の無くなった奴自身の息吹と、俺の炎拳によって竜の頭が破裂した。風船の様に。

 頭部を失った赤き竜は、やがてぐらりと地面へと墜落する。俺も平衡感覚を失い、真っ逆さまに落ちて行った。


次回更新予定日、10/12(水) 7:00

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