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012「討伐組と待機組」

よろしくお願いします!

012 「討伐組と待機組」




 夜明けとともに、村の入り口ではコボルド討伐のための討伐組が出発しようとしていた。

「本当にお前達が協力してくれて助かる」

 キースはそう言うが、不安や不審といった感情を隠さずシルバードを見ていた。

「やはり、どこか様子がおかしくないか?」

「……ん? ああ、そんなことないよ、キース。それより早く行こう」

 キースの指摘を否定するものの、しかしどこか考え込んでボーッとしていたり、口調が不安定だったりすることがある。

「いつもむず痒い呼び方をされないのは歓迎だが、いざされるとむしろ気味が悪い」

 そう言ったキースにミナリーが口を挟んだ。

「ごめんなさい、何か気になることがあるみたいなの。でも、私もフォローするから気にしないで」

「まあお前達なら大丈夫だと思うが、気を抜くなよ?」

「わかっているわ」

 心外といった表情でミナリーは応える。

 キースはそれに頷き、周囲を見渡してエインスを見つけると言った。

「エインスはこの村で守りを固めておけ。頼んだぞ」

「はい!」

 キースはエインスの返事を聞くと、コクを伴い先に森の中へと入って行った。




 今回の討伐に出るのは人数は多くない。

 シルバードが報告に行った後に改めて合同での話し合いが持たれ、目標のコボルドの強さから下手に大勢でいかずに少数精鋭で望むこととしたのだ。

 コクの証言からコボルドはランク3以上であるとされるが、もしあの後さらにスライムを狩り、力をつけていた場合、ランク3のエインスとそれ相当のナルとシノーリスは危ないかもしれないという理由から村で待機となった。

 ナルは自分があれほど討伐に行こうとしていたのだから、と反対したが、村が襲われたり、そもそもの『魔紫霧(スライム・ミスト)』が範囲を拡大してくる可能性も考慮に入れた判断だと止められてしまった。

 一方で討伐組は万全を期すために、二人一組での探索を行うこととなった。

 組み合わせは、相性やギルドの違いから考えキースとコク、シルバードとミナリー、そしてリッツとリナリスだ。

「それじゃあ、私たちも行くわね」

「大人しく待ってろよ」

 ミナリーとリッツもナルとシノーリスにそう言うと、それぞれのペアを連れて森に入る。

「お願いします」

「がんばってくださいですぅ!」

 二人の声とともに、四人は見えなくなっていった。




 討伐組の彼らが出て行った後の村には、村人を除けばエインスを始めとする『龍の巣(ドラゴンネスト)』のランク3までの代行者達と、『銀の薔薇(シルバーローズ)』のナルとシノーリス、そして個人で参加してきていた何人かの代行者達だ。

 初日と比べて数が少ないのは、すでに『龍の巣(ドラゴンネスト)』からかなりの死傷者が出ており、さらに個人できていた代行者達も同じように襲われたからに他ならなかった。

 個人で来ていた代行者達もランク的には低く、実力はさほど無いものが多かったため、襲われればほぼ死に等しい状況だったらしかった。ここに戻って来れたのは、運良く遭遇しなかったり、誰かが襲われる中必死で逃げてきた人達だった。

 つまりここにいる最高戦力は、ナルとシノーリス、それにエインスの三人だということだった。

「とにかく、村人達はできるだけまとまって隠れててもらおう」

 エインスが言う。

「そうだね。それと、もしここもさっき話したとおり襲われたり『魔紫霧(スライム・ミスト)』が伸びてきたら危険だ。動ける人以外は出て来ないように言って欲しいんだけど?」

 ナルはエインスに頼んだ。

 もし、本当に襲われたとしてここにいる『龍の巣(ドラゴンネスト)』の低ランク代行者では足出まといになりかねない。

 そんな指示を出したナルをエインスは見つめて、頭を下げた。

「……さっきは失礼なことを言った。甘い、などと俺が言える立場でも無かった。すまない」

 ナルは若干呆気にとられたが、すぐに苦笑して頭を上げさせた。

「いや、君の言うとおりだったよ。僕は甘い。色々な意味で。君にはっきりと言われてそのことに気づいたよ。感謝こそすれ、謝られることようなじゃない」

「……そうか。だが、すまない。謝罪はさせてくれ。俺のケジメだ」

「うん、わかったよ」

 二人は握手して、互いに笑い合った。

「二人とも早くみんなに指示を出してくださいですぅ!」

「「わかった」」

 シノーリスの急かす声に声を揃えて返事をした。




   ☆




「コク。できるだけ早く始末して戻るぞ」

「分かってると。今の状態だと村が危ないと」

 霧の最奥にほど近い場所。スライムが湧く中心部に一番近い位置に、キースとコク、『龍の巣』のトップに立つ二人は居た。

 ほぼ走っていると言ってもいいほど早い速度で、濃霧の立ち込める森の中を進んでいるのだった。

 三組で別々に行動しており、彼らは中心部へと一直線に向かっていた。

 他の組は、シルバード達が村から見て右斜め方面、先にコクがコボルドと戦った左斜め方面にはリッツ達が進んでいる。

「今村に居るのはエインスとシルバードのところの若いの二人だ。三人とも、多めに見てもランク3を抜け切らないレベルだ。もし、襲われたらまずい」

 分かってるというようにコクは頷いた。触角もせわしなく動いている。

「でも、それならなんでこういう組み分けで決めたと?」

「……経験を積ませるため」

「それだけと? ボクは何か理由があると思ってさっきは何も言わなかったと。けど本当は二組出るだけで良かったと。わざわざ三組六人も出さなくても良かったと」

 そう言って尋ねるコクに苦虫を潰したような表情になる。

 そのとおりなのだ。

 だが、キースは嫌な予感が拭えなかった。漠然としたものだが、今回『魔紫霧(スライム・ミスト)』にはそもそも最初から疑問もあった。

 シルバード達がいて、『龍の巣(ドラゴンネスト)』からも二人のランク5がいる。普段ならこんなにも何も無いメリダール近郊には揃わない面々だ。

 それにもかかわらずなぜ、シルバード達はメリダールなどを拠点にしていたのか。

 コクがわざわざ良い新人を見つけたという知らせを送ってきて、それがメリダールだと聞き、それらをまとめて確認する丁度良い機会だとキースは本拠地から出てきた。そして到着したその日に、『魔紫霧(スライム・ミスト)』の報告。

 そしてコボルドの襲撃。これも異常。

 だが、一番の問題は……。

「……シルバードのあの様子……」

 そう呟いた。

 はっきり言って、一連の中で最も異常なのはシルバードが取り乱していることだった。まともに頭が働いていない。

 それこそミナリーが気を配って後から来ていなければ、協力の条件などの交渉すらせずにいただろう。

 あの男に限って、と言うのがキースの素直な気持ちだった。

「何か、気づいたのかもしれない……」

 だがそれでも、シルバードがことの原因に気づいたからだとすれば、わからないでもない。

 その場合、それほどの事態だと言うことでもあるのだが。

「とにかく、今のシルバードを一人にするのはまずい。だが、あの様子では村には残らせることはできなかった。ゴートランドが居ても、正直まともにやれないと仮定した場合。俺たちとスペルマ達の組が早く終わらせて、シルバード達を回収。そして村に戻るのがベストだと考えた。ゴートランドもスペルマもヤコヤクも承知の上だ」

 キースがそう告げると、コクはしっかりと頷いた。

「わかった。ボクたちは最速で終わらせると」

「ああ頼む」

 二人は更に速度を上げて、中心部へと駆け抜けていった。




   ☆




 『魔紫霧(スライム・ミスト)』の紫の霧の中、度々うねり近寄ってくるスライムを片手間に斬り飛ばしてはズンズンと探索を続けていたリッツは、異常を再確認していた。

「やっぱ数が少ねえ……」

 中心に向かって進み続けているにもかかわらず、ほぼ狩られた後のように散在しているのだ。

 それは単に中心近くでスライムが湧くたびに、大方が狩られているという証でもあった。

 そしてそうであれば、リッツ達が相手しているスライムはその取りこぼしに過ぎないというわけだ。

「そうね。アンちゃんが言ってたコボルドがやってるのでしょ」

 ここまではほとんど何もせずについて来ていたリナリスが応えた。何もしていないとはいえ、それはリッツが全てを薙ぎ払っているために不要なだけであったが。

「コボルドがか? だがよ、普通に考えて……あれ、アンちゃんて誰だ?」

 初めて聞いた呼び名に首を傾げる。

「あの蟻人族よ。コク・アンティグアでアンちゃん」

「……そうか」

 リッツは微妙な表情で頷いた。

「それで? 普通に考えて、どうしたの?」

「ん? ああ、普通に考えてコボルドがスライムの大群に勝てるとも思えねえんだよ。普通なら数に押しつぶされるだろ。それに勝てたとして、強くなったとして、それでもコクの奴が護りながらといっても、手こずるか?」

「何が言いたいの?」

 いまいち何が言いたいのかわからないように、リナリスは首を傾げた。

「だから誰かが糸引いてるというか、勝手に起こったわけじゃねえ気がすんだよ」

 そんなことを言うリッツに、リナリスは呆れたような表情言う。

「今頃なの? そんなことはシルバードが始めから気づいていたじゃない。むしろ気付くのが遅いわよ」

「えっ? みんなそう思ってたのか? なんだよチクショウ。だったらちゃんと教えろよな」

 ケッと若干拗ねたように地面を蹴る。

「気付かない方が悪いわ。それに……」

 ちらりと霧に隠れて見えにくくなっている木々の隙間に目を向けて言った。

「……そっちは言われなくても分かってんよ」

 その横で、大剣を構えてリッツは表情を引き締めた。

「あの木の向こうに何か居やがるな」

 そう言った瞬間。

 茶色い影が飛び出して来ていた。

「しゃあ行くぜ、おい!」




   ☆




「あらかた備えておくことは終わったかな」

 村長を通じて村人に避難を促し、エインスの主導で代行者達をそれぞれの場所に配置してナルたちは今の村の中央辺りにある村長の家にいた。

「そうだな。キースさんやコクさんが行ったんだ、大丈夫だとは思うが、それでも戻ってくるまでは油断しないでいかなければ」

 表情を引き締めたまま、エインスが注意する。

 始めて指揮をとって大勢を動かしたエインスの顔には、若干の疲労が伺えた。

「大丈夫?」

「ああ、慣れないことをするもんじゃない。俺はまだ上に立つほどの人間じゃ無い」

 苦笑いして言った。

「僕もだよ。みんなの戦いを見たり、傷ついている人達を見ているとまだまだだって思う」

「お互い様だ。俺たちも早く強くなろう」

「そうだね」

 二人は頷き合うと、真剣な表情に戻った。

「それじゃあ村長さん。お願いします」

「はいよ」

 ナルが言うと、二人のやりとりを微笑ましげに見ていたパナム村の村長が村全体の見取り図を広げた。

 村はほぼ四角に近い形で広がっているようだった。

「まず、霧の出ている方の入り口か北じゃ。そして反対の南にももう一つの入り口。家は大体が真ん中に集まっているんでの、今は皆自分の家に隠れてもらっておる」

 この村は中央に住居が密集し、外側を畑や果樹園が覆うようになっていた。そして更にその外側を簡単な堀と柵が取り囲んでいる。

 よくある一般的な形だ。

 だが、やり易い。

「中心以外に住んでいる人達は居ませんか?」

「…………いないの。わしの知る限りでは」

 煮え切らない返答に、 ナルとエインスは揃って眉を顰める。

「知る限りでは、というのは?」

「…………」

 村長は悩ましい表情で唸るが、二人の引かない様子に溜め息をこぼした。

「すまんの、皆少しはずしてくれるかの?」

 周囲で話を聞いていた、村の男たちを下がらせようとする。

「ですが……」

「いいから出ててくれるかの」

「……わかりました」

 そう言う村長に渋々と部屋を出て行く。

 残ったのは村長とナル、エインスの三人。シノーリスは北側の入り口付近で待機している。

 突然皆を追い出した村長に怪訝な顔でエインスが尋ねる。

「あ、あの村長、どうしたのですか?」

「実はの、村の外れにある果樹園の一角に一組親娘が住んでおるのじゃよ」

「村の外れ?」

「そうじゃ。数ヶ月前にこの村を訪れての。始めはここで世話をしておったが、わしらの村に災いをもたらすかもしれぬと言って出て行こうとしおったのじゃよ。しかしの、母娘二人、逃げるように放浪するには厳しいじゃろう? じゃからの、留まるように言うたのじゃ。始めは申し訳ないと出て行こうとしたがの、わしが説得して外れに今も暮らしておる」

「……災い? それって」

 エインスが言いかけた時、村長は目でそれを止めた。

「そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん。他の村の者は詳しく知らんのじゃ。迂闊なことは言わんでやってくれ」

 それを聞いていたナルの頭の中では、あることが思い起こされていた。

「……あの。もしかしてその親娘というのは金髪金眼の娘ではありませんか?」

 村長は大きく目を見開いた。

「な、なぜ知っておるのじゃ。ま、まさか……」

「い、いえ。村の中で一度見ただけですので。ただ、その、その娘の特徴を聞いた僕の仲間がものすごく動揺していたのを思い出しまして……」

「ナルのところのギルドマスターか?」

「うん。何か知っているのかもしれない」

「お主ら、あの親娘を狙っておる者では無いんじゃよの?」

 何かを恐れるように、恐々とした口調で村長は尋ねた。

「いえ、何より昨日始めて見ましたから」

「俺はそもそも知らない」

 そう応えると、村長は目に見えてホッとした様子で溜め息を吐いた。

「そうか、良かった。ならばもし果樹園の方が危ないことになれば助けに行ってやっておくれ。頼む」

 二人に頭を下げた。

「わかりました。僕達が守ります」

「ありがとう」

「いえ、気にしないでください」

 ナルはそんな風に返しながら、考えていた。

 自分が偶然出会った少女。

 彼女は何かから狙われ、逃げるようにして今はこの村の外れにひっそりと暮らしているらしい。

 そして、「災いが起こる」と言ったその言葉の通り、普通ならここらでは起こり得ないという『魔紫霧(スライム・ミスト)』の発生。

 同時に現れた強すぎるコボルド。

 少女の話を聞き動揺を隠さなかったシルバード。

 ここに至ってようやく、ナルは何かが不味いと確信した。

「エインス。何かが起きているのかもしれない」

「何か起きているかもって、もう起きてるじゃないか」

 何を言っているのか理解できないように返す。

「そうじゃない。もしかしたら……」

 ナルはゆっくりと立ち上がり次の言葉を続けようとしたが、その言葉は走り込んで来た男の叫び声で掻き消された。

「エインス! 入り口が破壊された! 奴だ!」

 伝えられたその報告は、最悪の事態だった。




お読みいただきありがとうございます。

感想・評価・アドバイス等頂けると嬉しいです。


また、よろしくお願いします。

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