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エピローグ

 地球区の浄化から数日後、神羅界は女神たちの浄化力のおかげですっかり元通りになっていた。帰還したセリアが花びらを使うまでもなかったほどだ。東の海洋区と精霊区の立ち入り禁止令も、現在は解除されている。

 会議室では、今回の騒動について神王も参加して緊急会議が開かれていた。

「このような騒動を起こした人間界は、以前案の出ていたように抹消するべきである」

 神王の言葉に、女神たちはざわついた。セリアやサラ、ウィルの表情も暗くなる。

「しかし」

 閉じていた目を開け、やれやれといった表情で首を振った。

「まだ人間界には、清らかな心が溢れている。その心まで抹消してしまうのは、我々神の仕事ではないと思う。これについて、皆の意見を聞きたい」

 部屋中が静まり返った中で、アクアが立ち上がり、一礼した。

「私は、今回の騒動が起こるまで、人間たちは皆、悪しき心の塊だと思ってまいりました。しかし、実際はそうではなかった。我々には、神としての自覚が足りなかったのかもしれません」

「人間たちを見捨ててはならない」

 続いて、サンウェストが立ち上がる。

「何故なら、私たちは女神であるからです」

「女神には、すべての世界を平等に扱う責任があります」

 ウォーラも立ち上がった。

「すべての世界を幸せにする責任も」

 セリシアが付け足す形で立ち上がる。

「何より」

 最後にウィルが立ち上がった。

「それを教えてくれたのはセリアとサラです。こんなに数多い女神の中で、二人だけが本当の女神でした。私たちは、二人の意見に賛同したいと思います」

 私も、私もです。部屋中の女神が次々に立ち上がり、まだ腰を下ろしている二人に視線が集まる。

「……それでは、どうだね? セリア、サラ」

 突然のことに驚きながらも、二人は顔を見合わせてから微笑み、立ち上がった。

「私たち皆は女神です」

「まだ未来のある人間界を抹消することは許されません」

 神王の隣に座っていたヴィオードに始まり、部屋中から拍手が沸き起こった。神王も、こうなると思った。といった顔で頷く。

「……それでは、人間界は、今しばらく様子を見ることにしよう。環境については、我々が少しずつサポートしていけば良い。皆、それで良いな?」

「はい!」

 では解散。との神王の声で議会は解散し、セリアとサラは手を握り合って喜んだ。

 地球は、人間界は抹消されなくて済む。

 涙を浮かべながら喜んでいると、ヴィオードが笑顔で声をかけた。

「セリア。最後の仕事、引き受けてくれるわよね?」


「この辺りかしら」

 セリア、サラ、ウィルとヴィオードは再び人間界を訪れていた。すれ違う空気は、もう埃臭くない。

 残り二枚の花びらのうちの一枚を、すっと抜いた。

「この世界に、祝福を」

 ゆっくりと息を吹きかけると、花びらは粉々に散っていく。薄紅色の温かい光が、静かに広がっていく。

 今回の地球区騒動の最後の仕事。それは、女の子の願いを叶えること。


『これいじょう、きをきらないで』


 あの願いが人間界を救ったと言っても、過言ではないかもしれない。

「……願いは叶えたわ、小さなお嬢さん。この星の未来は、あなたたちが自分の力で切り開いていくのよ」

 広がっていく温かい光を見つめながら、四人の女神は微笑んだ。




 幾年かの月日が経ち、草原は、前以上の美しい姿を取り戻していた。

 腐りかけた木々は再びまっすぐに伸び、小鳥たちも元気に囀っている。雲もゆったりと流れているし、花々も幸せそうだ。

 そんな中を、一人の女性が歩いていく。青みがかった長い銀色の髪が、風にそっと流れる。頭にある大きな花飾りのようなものは、三枚目がちょうど生えてきたところだ。

 ある場所まで来ると女性は膝を折って、その細く美しい手を伸ばした。浄化によって再び咲いた珍しく美しい花を、指でそっと撫でてやる。

 その表情には、安堵と、心からの喜びが溢れていた。


 しばらくそうした後で立ち上がると、また風が彼女の髪を流す。見上げる空はどこまでも高く、青い。

 あの女の子はどうしているだろう。もう学校を卒業して、社会に出て行く頃だろうか。

 過ぎる時の速さに苦笑しながらも、変わらないものがあることに嬉しさを覚える。


 どうかこの時が、絶えることのありませんように。




 桜の咲く季節に愛しい人との結婚が決まった女神は、心からそう願った。






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