第6輪:女神
セリアとサラが地球に降りると、そこにはサンダーとアクアの姿があった。
「セリア……」
「……いったい、何が起こっているの……?」
「戦争だ」
戦争。世界の抹消。
そんな言葉が浮かび、慌てて振り消そうと頭を振る。
「大規模な戦争なの?」
「世界全体を巻き込むほど大きいとは言えないが、決して小さいとも言えないだろう。数多くある国の一つを、いくつかの国が警告と称して攻撃している。被害状況は……」
失われたアクアの言葉の先を、マーキュア姉妹の無言の誘導で、アイオニス姉妹はその目で見た。
巻き上がる粉塵、噴煙。
上空から 空を飛ぶ鉄の塊が爆弾を落とす。
その度に悲鳴を上げて逃げ惑う人々。
腕を 足を 頭を失った死体。
声を 心を 命を失った死体。
その 未来を失った 幼い 死体。
声にならない悲鳴を上げて、セリアはその場に崩れ落ちた。体中が震えて、もう何も信じられない。辛うじて立っているサラも、その残酷な光景に顔を背けた。
「どうして……どうしてこんなことに……っ」
あふれ出る涙で声にならない。喉の奥から絞り出して、恐らく表彰式の間ずっとここにいたのであろう二人の言葉を待った。
「……確かに、この世界は完全に腐ったわけではなかった。砂漠の端では人々が幾度枯れても木を植え続けていたし、油にまみれた鳥を助ける人々もいた。それを我々は自らの目で確かめた。……確かめて、表彰式に戻ろうとした時だ。陸から噴煙が起こり、そこから大量の汚染物質が破壊的速度で溢れ出したのだ。通路付近にいた我々は何とか跳ね返そうとしたが、汚染物質はそんな我々の結界をも突き破ってしまった。もう、この星が抱えきれなかったのだろう。汚染物質の量が、この星の許容量を越えてしまったのだ」
サラの体が、細かい震えに襲われる。
「そんな馬鹿な……空間許容量は、そう簡単に超えられるものではないのに……」
「サラに落ち度はない。人間が愚かで……その加減が我々の予測を超えただけだ」
「しかし……!」
「それに」
アクアでなく、サンダーが口を開いたのにそちらを向く。彼女らしくなく、顔が屈辱に歪んでいた。
「今回ここから流出した汚染物質は、人間たちの悲鳴が半数を占めている。『無念だ』……『死にたくない』……『なぜ自分がこんな目に』……。命を落とした人間たちの憎悪や怨念が、これまでの分も積もり積もって汚染物質化し、溢れ出たんだろう」
「……それじゃあ……!」
「その通りだ。戦争を止めても、戦争を仕掛けた国が自らの罪を認め、命を落とした人々を悔やみ、弔わない限り、汚染物質の流出は止まらない。だが戦争において、そんなことは有り得ない」
次々と突きつけられる事実に、またしても自分を見失いそうになる。
世 界 の 抹 消 。
振り払ったはずの言葉が、再び脳裏に蘇る。
「それで、神羅界のほうはどうなっている?」
「神羅界は……環境汚染度がランクAに達し、精霊区と東の海洋区は立ち入り禁止地区に指定されました」
「何だと!?」
「セリア!」
アクアがセリアの腕をつかんで引き起こし、瞳をまっすぐに見つめる。セリアにはその意味が分かった。今は、神羅界に戻って神王の指示を待たねばならない。
「神羅界に……戻りましょう」
次々と溢れる、憎悪や怨念で作られた汚染物質を背に、四人の女神は一先ず神羅界へ飛び去った。
管理塔に戻ると、既にそこに女神たちの姿はなかった。
「セリア様、サラ様、サンダー様、アクア様。他の女神様は既に発たれました。アクア様、サンダー様は西地区へ向かってください。セリア様とサラ様は、会議室でヴィオード様がお待ちです」
「承知」
それを聞いたサンダーとアクアはすぐに飛び立った。西へと向かう二つの影が、あっという間に見えなくなる。
「ねぇ、何故私たちは会議室なの?」
「申し訳ありませんが、詳しくは存じません。ヴィオード様からの言伝ですので」
この非常時に。と顔を見合わせるが、行かないことには始まらない。管理神族に短く礼を言って、管理塔の階段を駆け降りた。
会議室には、ヴィオードだけでなく、ウィル、「夢」を司る神であるドーラ・エヴァレス、「光」を司る神であるティライト・ハーネスと、彼女の妹である「闇」を司る神のアーク・ハーネスの姿があった。どの女神も髪を一まとめにしている。
「セリア、サラ、よく聞いて」
横からこぼれた髪を耳にかけて、ヴィオードは言う。
「私たちはこれから地球へ向かいます。戦争の終結と、汚染物質の除去を目的に。あなたたちも一緒に来なさい」
戦争は終結するだろうか。終結したとしても、汚染物質は止まらないかもしれない。もしそうなったら、地球も抹消処分を受けてしまうのだろうか。自分も、サラも、隠蔽を受けねばならなくなるのだろうか。
不安の溢れは止まらなかったが、セリアは無言で、髪で髪を結った。自分が動かなければ、自分がしなければ、今は誰も、何も信じられそうにない。目を閉じて、あの願いを思い出す。
『これいじょう、きをきらないで』
大丈夫よ、私に任せて。あなたの願いは、必ず叶えてみせる。
目を開けて、頼りになる仲間を見つめた。
だって私には、こんなに頼りになる仲間がいるんだもの。
「セリア・アイオニス。その任、確かに請け賜りました」
力強い言葉に、他の女神も安心した。続いてサラも任を請ける。彼女はもともと髪を束ねているので束ねなおす必要はない。
「それじゃあ、準備はいいわね」
ヴィオードの言葉に皆が頷く。それに彼女も頷いて、降りた後の行動について殴り書きされた紙を折って端に置いた。任を請けた女神たちはヴィオードを先頭に一番近いバルコニーまで出ると、次々に床を蹴って、未だ汚染物質の溢れ出る通路口へと飛んだ。近付いていくにつれ、空の色もだんだん黒くなってくる。
大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせていると、隣を飛んでいたサラが手を握ってくれた。その手は、すれ違う風と違って温かい。
大丈夫、大丈夫。
「二人とも、通路に入るわよ」
ヴィオードの言葉に、顔を合わせていたのを前に向ける。目の前には、今にも女神たちを飲み込んでしまいそうな闇が大きく口を開けていた。
長い通路を抜けてすぐ、打ち合わせ通りに女神たちは分かれた。
「源」を司るヴィオードと「光」を司るティライト、そして「星」を司るサラは、戦争で被害を受けた人々のもとへ飛んだ。
「皆さん。戦とは、悪しき人の心が生み出すもの。良いですか、決して相手を憎んではなりません……」
「神様……私たちをお助けください……」
「ご安心なさい。戦はすぐに終わります……」
「どうぞ、楽にしてください。すぐに治しますからね」
「あぁ神様……有難うございます」
「喋らないで、そのまま、そのままですよ」
女神の中で一番の治癒力を持つヴィオードが治療をし、治癒術を学んでいるサラがそれを手伝う。治療の終わった者や待っている者にはティライトが心持ちについて話をする。光の力を持つ彼女の話に、人々は多くの涙を流した。その涙から、人々の心の悪しき部分が一緒に流れていくのを女神たちは感じていた。
一方、豪華なホテルの一室には「闇」を司るアークと「夢」を司るドーラがいた。
「うーん……んん」
ベッドで満面の笑みを浮かべていた男は、どうやら欲にまみれた夢を見ているようだ。
「ドーラ、頼む」
男の頭部にかざしていた右手に力を入れると、手のひらから光が溢れてあたりを包み込んだ。
『ハーッハッハッ、酒だ、もっと酒を持ってこいー!』
豪華な部屋の中で周りに美女を侍らせた男は、顔を真っ赤にして酒を追加した。すっかり変態オヤジが出来上がっている。
『どうしたー? ……っく。酒はまだかー?』
『お待たせ致しました』
酒の乗った盆を持った美女が二人、すうっと歩み出る。顔の上半分に布をかけていて、妖艶な雰囲気に男はすっかり上機嫌だ。
『んー……ふっふっ、お前たちいい女だなぁー……っく。よし、何か望みはないか? 今の俺に敵はないぃー! 何でも遠慮せずに言ってみろぉ! ……っく』
『何でも、でございますか?』
『うぅむ。……っく。今の俺はなぁ、A国の大統領なんだぁー! 俺の国はなぁ、世界で一番発展している、いっちばん偉い国なんだ! ……っく。何て言ったって、先進国に一番近い発展途上国を集めた国だからなぁ!』
『それは素晴らしい! 一体どうやって?』
突然入り込んできた二人の女に席を取られ、他の女性はやや不服そうだ。
『決まってるじゃないか、力だよ、ち・か・ら! ……っく。どの国のお偉いさんも、うちの軍隊にゃ敵わないのさ、っくぅ。ちょっと飲みすぎたかな』
『まぁ凄い! お強いのね』
『当ったり前だ! だけどなぁ、B国の大統領が俺のやり方を間違ってる! って批判しやがるんだ! あそこはまだ本当に発展途上中だから僻んでやがるんだ、っく。だから俺は思い知らせてやったのさ! 俺に逆らったらどうなるかをなぁーっはっはっ!』
『そうですか。では、色々と教えてくださったお礼に、私も教えて差し上げましょう』
『……あ?』
美女が立ち上がり、一人が手を一振りすると、豪華な部屋も、美女たちも、酒も消えた。それと同時に、酔っていたはずの男の酔いも醒める。辺りを見回して、何もない闇の世界に包まれているのに怯え、立ち上がって慌てさまよった。
『どこだ……ここはどこなんだっ!?』
『あなたの夢の中ですよ』
ビクッとして振り向くと、黒髪の女性と濃紫の髪の女性が立っていた。二人の後ろからは、光が射している。
『誰だ……誰だぁっ』
『……愚かな』
『ひぃっ!』
黒髪の女性が手を伸ばすと、触れてもいないのに男の首が絞まる。それも、死なない程度に、意識を失わない程度に力が加減されている。ただでさえ恐ろしいこの状況に、彼女の闇の力で恐ろしさは増幅する。
『ぐっ……ふぅっ』
『足掻いても無駄ですよ。ここは夢の世界。私の思うがままの世界です』
『愚かな権力者よ……今お前が味わっている痛みは、お前が戦を仕掛けた先の国の犠牲者が味わったものに比べれば何てことはないわ! 己の罪を自覚し、生涯をかけて償うがいい!』
触れられてもいないのに絞まる首に必死に手を伸ばしながら、男は膝から崩れた。目の前にいる二人は何者なんだろう。薄れかけては戻ってくる意識の中で必死に思い出そうと試みるが、全く思いつかない。
『あなたたちは……一体……っぐぅ』
黒髪の女性は伸ばした手をまっすぐ上に上げて、男と視線を合わせた。
『とことん愚かな男よ……神に向かって何を言う』
神。その言葉に男は目を見張る。
『神……様……!?』
『神の許に誓いなさい。目が覚めたら戦を終わらせ、あなたが力によって手に入れた国々を元のように返すと。そしてあなたが仕掛けた戦で命を落とし、身体を失い、多くの悲しみを背負わねばならない人々に、一生をかけて償いなさい!』
『二度と同じことは繰り返すな。さもなくば、お前の大切なものをすべて奪い去ることになる。それでも構わぬか!』
振り上げていた手を横に振り、同時に男も倒れる。首を押さえてむせ、二人の女神に向かって頭を床に擦り付けた。目からは涙が溢れ出ている。
『女神様……! どうぞお許しください、女神様のおっしゃる通りにお誓い致します! ですから、どうか息子だけは、息子だけはお助けください……!』
女神は顔を見合わせて、頷く。
『誓うのだな』
『もちろんです! お誓い致します、ですからどうか……!』
何か、とても恐ろしい夢を見た気がする。息があがっていて、体中汗でびっしょりだ。ゆっくり起き上がって息を整えようと深呼吸するが、体の震えが止まらない。
夢だ。あれは悪い夢だったのだ。神なんて、いるはずがない。
そう自分を信じ込ませようと必死になってみるが、どうにも息が整わない。恐る恐る首に手をやると、何かに絞められた痕があった。
「うわあぁぁー!」
「どうなさいました!?」
悲鳴をあげて、ベッドから転げ落ちて暴れまわる。扉の前にいた警備員が慌てて駆け込んできたのに、物凄い剣幕でしがみついた。
「おいっ、この部屋に誰も入っていないだろうなっ!?」
「あっ、はい! 何人たりとも入れておりません!」
「本当だなっ!?」
「本当ですっ」
ずるずると崩れ落ちた主を見て、警備員は慌てて敬礼して出て行った。床に手を突き、一層震えの強まった手で再度喉を押さえる。
「……あれは、夢じゃないというのか……」
何度も滑りながら電話に飛びついて、必死に秘書に電話をかけた。番号が上手く押せなくて、何度も間違える。
「おい……あぁ、私だ。今すぐB国に出ている軍に撤退を言い渡せ! 戦争は終わりだ! それから、大臣たちを集めておけ、国の解体を行う……何、夜だから皆寝ているだと? そんなもの、叩き起こせばいいだろう! 叩き起こして集めておけ、いいなっ?」
乱暴に受話器を置いて、ふっと息をつく。一先ずはこれでいいはずだ。
『決して誓いを忘れるな』
「ひぃっ!」
あの黒髪の女神の声が聞こえた気がして周囲を探すが、誰もいない。再度深く息をついて、大急ぎでクローゼットからスーツを取り出した。
そんな男を窓の外から見ながら、二人の女神は顔を見合わせる。
「ちょっとやりすぎたかしら」
「私には足りんくらいだがな。……ここはもういいだろう。サラの応援に行かねば」
「えぇ」
微笑んで、正義の黒い女神たちは被害国へと飛び去った。
「準備はいいかしら、セリア?」
「えぇ……大丈夫よ」
「風」を司るウィルと「花」を司るセリアは、地球一広い海洋である太平洋の遥か上空にいた。
二人の仕事は汚れた大気を浄化すること。セリアの頭部に生まれつきある大きな花びらのようなものは、本来息を吹きかけて細かく散らし、枯れた花を再び蘇らせることに使うのだが、浄化作用も持ち合わせているため、風に溶かせば大気を、水に溶かせば水を浄化することができる。その力とウィルの風を組み合わせて、地球を丸ごと浄化してしまおうというわけだ。
花びらは全部で三枚あるが、一枚は神羅界の浄化に残しておかねばならない。チャンスは、たった二回だ。
目を閉じ、数々のことを思い出しながらセリアは一枚目を抜いた。砂漠の隅で木を植え続けた人々、油にまみれた鳥を洗って放していた人々、絶滅しかけている生物を必死で保護した人々……この世界は、まだ悪しき力で完全に覆われたわけではない。
一枚で、十分足りる。
「封じられし清き力よ……我の名の元に楔を抜き、悪しき力を葬り去れ!」
そう唱えて最初の一枚を放つと、ウィルが風を呼び寄せて包み、溶かして地球中に運んでいく。風が通ると海や大地は色を変え、まるで二人を中心に虹色の波紋が広がっているようだった。
虹の波紋はゆっくりと、それでも確実に広がっていく。が、残りあと少しのところで速度がぐんと落ちてしまう。
「後もう少しなのに!」
「……お願い、届いて……!」
女神の願いが届いたのか、しばらく停滞していた虹色の波紋は再び速度を上げる。そして遂に、浄化の波が地球全体を包み込んだ。
「やった……やったわウィル!」
「えぇ! 虹色の波紋なんて……あら?」
やがて虹色が消えると、山から、街から、海から、地球上のあちらこちらから、次々と光の球が浮かび上がった。それらはゆっくりと上昇し、二人のもとへ集まってくる。
「綺麗……」
周囲を取り囲む幻想的な光の海に見とれていると、またゆっくりと上昇して二人の上で一つの大きな光になった。温かい光を放つ大きな光の固まりは少しずつ膨らんで、みるみるうちに広い海を覆ってしまうほどの大きさになる。
「あなたは幸せね、セリア」
「えっ?」
「私の失った世界でも……こんな綺麗な光があったのかしら……」
セリアたちの上にある大きな光は、地球中の人々の平和への願いだ。人々の胸の内に封じられていたのが、浄化の力によって溢れ出したに違いない。
「あったわ、きっと……その世界にも、沢山の綺麗な光が」
「……そうよね。きっとあったわね」
もちろん! と笑って、セリアは両手を高く広げた。
「さぁ、地球中の平和への祈りよ。この世界中に広がりなさい!」
セリアの声とともに光は弾け、世界各地へと広がっていく。そして山に、街に、海に、世界中のあちこちに雪のように光を降らせた。ついさっきまで汚れていた星は、今や美しい光で包まれていた。
「うっわぁ、綺麗……」
「何これ、雪?」
降り注ぐ光に、人々はうっとりと魅せられた。貧民街の子供たちも、木を植え続ける人々も、油にまみれた鳥も、それを助けた人々も。地球上のすべてに光が降り注ぎ、平和への祈りが満ち溢れる。
「ママ、みて!」
女の子が窓に駆け寄り、光の雪に目を輝かせた。一体何? と駆け寄ってきた母親も、その美しさに息を呑む。
「何て素敵なんでしょう……雪? 違うわね、一体何かしら」
「かみさまだよ!」
そう言ってぴょんぴょん飛び跳ねた娘は、きらきらと瞳を輝かせている。
「まえにね、かみさまにおねがいしたでしょ? だからかみさまがきてくれたの!」
「そういえば、そんなこともあったわね」
神様に届いて良かったね。と笑いかけると、うん! と笑って頷いた。
「でも……」
本当に神がこの世にいるのなら、望みもせずに戦争へ行ったこの子の父親を無事に帰してくれはしないだろうか。
そう、降り注ぐ光に願ってみる。
「ただいまー」
「パパだ!」
「……あなた!?」
玄関に走ると、そこには無事の帰還を待ち望んだ夫の姿。見る限り、どこにも怪我はなさそうだ。
「戦争が終わったよ。突然撤退命令が出てね、緊急帰国さ。この国も、元のように解体されるらしい」
何ヶ月ぶりかの家族揃っての夕食の席で夫は朗報を告げた。どういう風の吹き回しなんだろうな、と彼が笑うと、未だ興奮冷めやらぬ娘が瞳をきらきらさせる。
「あのね、かみさまなんだよ!」
「神様?」
「前に、神様にお願いしたでしょう? 昼間不思議なことがあったから、神様が来てくれたんだって、はしゃいじゃって」
そう笑いながらも、彼女はさっきまで降っていた光の雪を思い出していた。
もしかしたら、神様は本当にいるのかもしれない。
不思議な現象と奇跡の繋がりを信じたくて、ふと、そんなことを思う。
「あぁ、そうか。じゃあ、あれは神様だったのかなぁ」
「えっ?」
「いやね、撤退するとき、仮包帯所にいる仲間を迎えに行ったんだ。そうしたら、救命員じゃなくて、凄く綺麗な、格好も全然違う女の人が三人いてね。二人は怪我人を治療してて、一人は人々に何か話してるんだ。後からまた二人現れたんだけど、治療してもらってる人も話を聞いてる人も、皆凄く幸せそうでさ。でも、一番印象に残ってるのは……」
「……残ってるのは?」
「光り輝いていたことかな。彼女たち、皆、温かい光に満ち溢れていた。……そうか、彼女たちは女神様だったんだね」
「すごーい! パパ、かみさまにあったんだ!」
あぁ、神様。本当に有難うございます。あなた方は、私たち人間を見捨ててはいなかった。私たちは、与えていただいたこの星の環境を壊してしまっているというのに。
はしゃぐ夫と娘を見ながら、妻は涙ぐんだ。体の向きを変えて、夕日で朱く染まった空を見つめる。
どうか神様、この子が大人になっても見守っていてください。
私たち大人は道を間違えてばかりだけど、この子たちには未来があります。
どうか、この子達にご加護を。