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東方朧観簿  作者: 庶民
第二章
58/59

其の五十八、スキマ

 幽々子の夢に入った紫は、ある屋敷の上空にいた。

 不完全な記憶を頼りにした夢である為か、屋敷の外には冥界の景色が広がり、屋敷の一部は白玉楼のもので代用されている。

 しかし、そこは確かに生前の幽々子が住み、そして死んだ場所。

 当時を思い出し、紫の目が褪めていく。






 ある年の春。幽々子の父は亡くなった。

 病で臥せ、あまり動けなくなっていたが、その日は床から立ち上がったという。

 食事も水も摂らず、裸足で屋敷の庭へ下り、愛した満開の桜の下で座り込むと、もう動く事は無かった。

 その懐には辞世の句が認められていた。


 願わくは花の下にて春死なん

 その如月の望月の頃

 

 それは死期を悟った幽々子の父が生前に詠んだものであり、彼は望んだ通りの死を手に入れたのだ。

 美しい生き様で、死に様だった。

 生前から多くの者に慕われていた幽々子の父は、その死によって更に多くの者を惹き付けた。そして、その羨望や憧憬の悉くが彼の愛した桜へと向けられる事となった。

 ある日。その死を真似た者が現れた。辞世の句を残し、満開の桜の下で胸を突いたのだ。その者は病で一年と保たない身であり、美しい桜の景色を冥土の土産に選んだのである。

 それが始まりだった。

 明くる日にも、また人間が死んでいた。その次の日も、また誰かが死んでいた。

 死を求む理由は徐々に弱いものへ変わり、いつしか持たない筈の者までもが死ぬようになっていた。

 夏を前に桜は散り、死の連鎖は途絶えた。

 しかし、その頃には屋敷に暮らしていた者達も多くが死に、死を求めて入り込もうとする輩を追い返す半人半霊の剣客――後に妖夢の祖父となる妖忌と、幽々子の二人だけしか屋敷に残っていなかった。





 

 幽々子の父は歌聖と呼ばれる程の人物であり、紫も名前だけなら知っていた。その死が怪現象を招いていると聞き、興味を駈られた紫は屋敷へと赴いた。

 屋敷の入り口には木刀を帯に差した妖忌が立っていた。物々しい気配を漂わせた彼は近付く紫に誰何し、紫は妖怪だと安易に告げた。

 当然立ち塞がる妖忌だったが、紫は彼を妖術で一方的に打ちのめし、屋敷を散策して問題の桜へ辿り着く。

 季節は初夏であり、桜は緑に覆われていた。枝葉だけでも一見の価値がある威容だったが、死に誘われるには程遠い。


 紫は桜を一目見て怪現象の原因をおおよそ理解した。

 大勢から死に場所として選ばれた事で、この桜に見た者を死へ誘う性質が宿っているのだ。

 言うならば妖怪桜。死んだ歌聖の号を取り、西行妖とでも呼ぶべきか。

 物珍しさから紫は感嘆の息を漏らす。

 自殺の名所は各地にあるが、それらがこのような力を得る事は滅多に無い。絶景を謳うそれらは高所にある場合が多く、少し足を踏み外すだけで苦しまずに死ねる。その容易さから超常の力など生まれないためだ。

 しかし、ここで死ぬには自らの意思で最後まで行動しなければならない。その困難を貫く強い情念。それを一身に受け続けた事で、この桜は妖怪となったのだろう。

 暫く桜を眺めていると、紫は屋敷の中から誰かが様子を窺っている事に気づいた。

 新しい玩具を見付けた事で紫は薄く笑う。


「こんにちは」


 紫がスキマを介して相手の耳元で声をかけると、驚いた人間は声の反対側へ飛び退いた。しかし、そこに待ち構えていたスキマに呑まれ、紫の目の前へ転がり出される。

 倒れていたのは、窶れた少女――幽々子だった。地面に打ち付けた痛みは感じているが、全体的に気力が乏しい。身を起こす様子も緩慢で投げ遣りだった。

 何人もの人間の死を見届け、魂の光を失った幽々子の瞳。澱んだそれは紫の顔を見上げる事も無く、膝の高さをあてどもなく彷徨っていた。


「……どなた?」

「八雲紫。妖怪ですわ」


 西行妖と同じように、幽々子も死に取り憑かれているのだと、紫は一目で気付いた。

 それを制御出来ていない事にも。

 それが理由で、既に何人もの人間を自殺させている事にも。

 幽々子は紫が妖怪と聞き、明らかに動揺していた。

 妖怪でも死んでしまうのか、しまわないのか。

 妖怪が死んだところで罪悪感はそう強くない。しかし、幽々子はもう、誰かが死ぬという事そのものに疲れ切っていた。

 

「気になさらず」


 屈んだ紫は幽々子の頬に手を添え、目を合わせた。

 幽々子の近くに居るだけで死を望む気持ちが芽生えていたが、触れた事でそれが急激に育っていく。

 しかし、紫は自分の生死の境界を曖昧にする事でその誘惑を紛らわせた。そして、心置きなく幽々子の頬に手のひらを滑らせ、様々な感情が渦巻く彼女の表情を堪能する。

 死ぬ様子が無い事への安堵。紫の不気味さへの困惑。そのどちらも、紫にとっては好ましいものだった。


「さて」


 ぺち、と幽々子の頬を叩き、紫は手を膝の上に片付けた。


「あなたと桜の事で少し話を聞きたいの。上がらせてもらえるかしら?」


 





 結局、幽々子は紫を屋敷に上げ、客間に座らせた。

 死なれる心配が無いなら、何でも良かった。

 また、一目で現状を見抜いた紫なら、その解決策を知っているかもしれない。そう期待して、幽々子は全てを打ち明けた。


 昔から死霊を操れた事。父の知り合い達が桜の下で自殺してから、無関係な人間も桜の下で自殺するようになった事。屋敷に他の人間が居ないのも多くが自殺し、その中には自分が死なせた者も居ただろうという事まで。

 辛い記憶だった。何度も言葉に詰まり、幽々子はやっとの思いで吐き出したのだが、紫はその重さを微塵も汲み取らず、飄々と言った。


「殆ど予想通りね」


 同情はせず、事実を確認するだけ。好奇心を満たしたのか、機嫌は良かった。

 その命への無関心さに幽々子は少し傷付いた。

 結婚を控えた者も、孫や子供が産まれた者も居たのだ。

 誰もがそれぞれ望む未来を抱いていたというのに、どうしてか、それを手放さなければならなくなった。

 責任を感じている幽々子に死者達の悲しみを代弁する資格は無い。ただただ、黙って悼む事しか出来なかった。


「訊きたい事がありそうですわね。貴重な話をして頂いた礼ですわ。答えられるものには答えましょう」


 紫に促されても、幽々子は不安だった。

 このまま訊いても、紫は絶望させてくるだけではないか。彼女は人間を誑かし、破滅へ追いやるだけの妖怪なのではないか。

 だから、幽々子は自分とは直接関係無い事を最初に訊ねた。


「入り口に見張りが居た筈ですが、あの人をどうしましたか」

「ああ、彼ですか」


 紫は天井へスキマを作った。そこから無造作に妖忌の体と木刀が落ち、幽々子は小さな悲鳴を上げた。

 妖忌の顔面と四肢は引き攣り、声を出す事すら出来なくなっていた。


「騒がれても困りますし、術で縛っておりましたが、その必要ももう無いでしょう」


 紫が指を左右に振る。術が解け、自由を取り戻した妖忌は素早く木刀を拾った。そのまま飛び掛かろうとするも、みすぼらしい得物に視線を落として立ち止まる。

 暫く逡巡した後、妖忌は身を翻し、幽々子の隣で置物のように控えた。


「あの……、妖忌さん。大丈夫ですか?」

「ああ」


 身を案じて幽々子は訊ねたが、無愛想に返され、会話は続かない。

 妖忌は父の昔の知り合いで、幽々子が人間を死なせるようになってから、幽々子の生活を支えている唯一の――半人半霊をそう呼んでいいのなら、人間だった。

 生活を共にして短い事もあり、まだ距離を上手く掴めていない。それでも幽々子を守ろうとする気概は確かであり、少なくとも信用は出来る相手だ。

 とは言え、紫へ睨みを効かせる妖忌は如何にも不穏で、幽々子は不安に駆られる。当の紫は妖忌など一切歯牙にかけずに言った。


「私は妖怪ですもの。もう慣れたものですわ。それに貴女の方が危険でしてよ?」


 弱くなったとはいえ、紫は幽々子の力の影響を受け続けている。身の安全を考えるのなら、付き合いを慎重にする必要があるのだ。

 幽々子は少し狼狽えたが、意を決して切り込んだ。


「その事について、意見を御聞かせ願います。どうすれば、この事態を止められますか」

「そうですね……」


 紫は幽々子を値踏みするように眺める。

 紫の興味は西行妖や幽々子の周囲で起きる死に対してであり、それを止める事は本意では無い。

 しかし、紫はあえて偽りなく伝えた。


「今の貴女は本来の死霊を操る力が変化し、生者を自殺させて死霊を増やすようになっています。変化というより、成長したというのが正しい表現でしょう」


 西行妖と同じく、幽々子も大勢の死によって変えられた。彼女は死者の情念を直接向けられた訳ではなかったが、元の能力を成長させるだけなら、近くに居るだけでも充分だったという事だろう。


「以前のものを扱えていたのなら今回も修練を積み重ねれば制御出来る筈です。しかし、貴女はどうやら、相手が死ぬまで自分の力が及んでいるのかを自覚出来ていませんよね?」

「……はい」


 罪悪感を噛み締めながら幽々子は頷く。

 人間が死に始めた当初、彼女は死に怯える側だった。

 しかし、屋敷で一人となり、孤独に耐えかねて町へ出た時に決定的な事件が起こった。

 通行人の一人が突然川へ飛び込み、川底の石に抱き付いて溺死したのだ。その際に見た、安堵した死に顔。西行妖を見て恍惚とした死に顔とは違うそれを見て、幽々子は自らも元凶である事に初めて気付いたのだ。

 

「修練するにしても、相手の死でしか確認が出来ない。順調に進まず、ただ死なせ続けるだけかもしれません。それでは本末転倒ではなくて?」


 紫が結論を先んじて告げる。

 一度も間違えずに独学で修める事は不可能だ。幽々子が力を使いこなすにしても、捨てるにしても、その道程には幾つもの死が必要となる。

 いくら被害を無くす為とは言え、自分の意思で他者の生命を脅かす事を想像し、幽々子は苦悶の表情を浮かべた。


「なら、私は死ぬべきなのでしょうか」


 既に何人も死なせ、元へ戻る為にも更に死なせなければならない。そんな罪深い人生に幽々子は意味を見出だせなかった。

 外出は出来ない。来客を招き入れる事も出来ない。たった一人で居るしかなく、そうやって社会から置き去りにされ続ける幽々子には、あらゆるものが暗く見えていた。


「お馬鹿さんね」


 その苦悩を紫は嘲笑った。


「先に問題点を教えて差し上げたでしょう? 一つずつ段階を踏みなさい。もし本当に誰も死なせたくないのなら、まずは影響を自覚出来るようになる事ですわ」

「どうやって?」

「それは知りません。ですが、不可能だとは思いません」


 そう前置きし、紫は次のように根拠を述べた。

 幽々子の力は時間と距離によって影響度が変わる。つまり、極端に言えば物理的な制約がある。

 ならば、死を運ぶ何かが実在し、幽々子と相手との間を移動している事は確実。


「その何かを知覚すればいいのですよ。ここまで分かっているのに諦めては勿体無いですわ」

「そんな……」

「大変な事だとは思いますわ。存在すると仮定したものを証明する事は難しいですもの。でも、方法は単純よ。目の前に持ってくればいいだけ。そして、それは必ず貴女の手の届く場所にある。ーーそれでも、諦めになられます?」


 未知の分野にも紫はまるで臆さなかった。既に分かっているものを再確認していけば、分からないものが殆ど残らない事を彼女は人間達の発明を通じて知っていた。

 分からないもの。奇怪なるもの。即ち妖怪。それらがいずれ人間達から新たな解釈を付与され、平凡な存在へ貶められる事も。

 その危機へ対抗する為に紫は常に怪異を収集しており、この訪問もその一環だ。

 折角の未知の怪異。それも再現の困難な部類だ。死なれて完全に失われてしまうよりは、少しでも存続させておきたい。


「さて、どうします?」


 挑戦的な説得。

 幽々子は迷ったまま、俯いている。


「生きたいのでしょう?」


 しかし、その言葉に幽々子は唾を飲んだ。

 両手を握り、顔を上げる。

 暫く左右に揺れていた視線が、やがて、まだ震えながらも紫の視線と結ばれる。

 先程までと違い、幽々子の瞳には光が灯っていた。


「はい。……あの、ありがとう、ございます」


 期待と戸惑いに揉まれながら、幽々子は感謝を口にする。

 尤も、紫には幽々子の幸福や自由への関心はない。


「どういたしまして」


 形だけの笑顔で流し、紫は隣にスキマを作った。


「少し長居し過ぎましたわ。そろそろ御暇致します」

「待って下さい。……また、来て下さりますか」

「ええ。途中で放り出すのは気持ち悪いですもの」 


 助けたいと思っているのではなく、全ては紫の気紛れ。

 しかし、幽々子にとって、それが救いである事には変わらない。


「いつでも来て下さい」


 屈託の無い笑顔で、幽々子は紫を見送った。

 






 紫は数日置きに幽々子の元を訪れた。

 通う度に幽々子の疑念と警戒が薄くなり、寧ろ好意を募らされている事を、紫は肌身に感じていた。

 幽々子の事情を知った上で関わり、先の見えない努力を応援し続ける紫は唯一の存在だったからだろう。

 紫は幽々子が諦めないように可愛がり、幽々子は紫を信じて何もかもを受け入れる。

 動機は違っても、目的は同じ二人。いつしか紫の口調もくだけて、彼女達は友人と呼べなくもない間柄になっていた。


 夏のある日。紫はいつものように幽々子へ会いに向かった。

 門の前では妖忌が不機嫌そうに木刀で地面に絵を描き、紫の事は無視している。

 ただ、紫はいじけている相手を見ると、構わずにはいられない性格だった。

 軽やかな足取りで近付いて絵の出来栄えを拝見。そのあまりの拙さに、紫は思わず失笑した。


「なかなか、個性的ですわね」


 妖忌は苛ついたのか、感想を呟いた紫を少し睨んだ。

 木刀の先に付いた土を振り落とし、背筋を伸ばして紫を見下ろす。


「俺に何の用だ」


 剣士として円熟した体格に加え、実戦を何度も経験した妖忌には鉄火の気配が強く漂う。

 達人という言葉を具現化したような振舞いに、先程の無気力さは欠片も見当たらない。並の妖怪なら気圧される所だが、紫は躊躇せずに言った。


「拗ねていらした理由が気になっただけですわ」

「弱味探しのつもりか? 生憎、そこ迄の事ではない」

「なら、話して下さりますわよね?」


 妖忌は閉口した。そのまま沈黙して諦めさせようかとも考えたが、紫が首を右へ左へ傾け、顔色を頻りに覗き込んでくるのが鬱陶しかった。


「木刀の事だ。警護に差し支えている」


 妖忌は自殺志願者が屋敷に来るのを追い払う為に入り口を守っているが、そういう者は自殺する為の凶器を必ず持っており、それで抵抗してくる事があった。

 また、幽々子の父が著名であった為に、値打ち物が遺されていると踏んだ盗人が侵入しようとした事もあった。

 いずれも他者の無事に興味の無い相手であり、本来ならば気遣う必要の無い相手である。

 しかし、その者達の死も幽々子は受け入れられなかった。

 彼等を無事に家へ帰す為、幽々子は妖忌へ木刀を使うように頼み、妖忌は仕方無くそれを使って撃退してきたのだ。

 ただ、それも目の前の妖怪を相手にするまでの話。

 妖忌は忌々しそうに言った。


「木刀では妖怪の相手が務まらん。真剣でなければどうしようもない」

「あら? それではまるで、真剣であれば私を追い払えたと仰っているように聞こえますわ。手加減していたのは貴方だけだと誤解されていますのね」

「いや、よく知っている。俺を身代わりにしている事もな」


 紫のにこやかな表情に微かな亀裂が走った。それを見て、妖忌は溜飲を下げる。


「気にはせん。幽々子殿と関わり続けるのなら、俺を死なない目安にしても別に構わん」


 妖忌がここに来て暫く経つが、戦場暮らしの長かった妖忌には幽々子を安心させる事が出来なかった。

 対して、目指すべき方針を示した紫は瞬く間に幽々子を支える存在となっている。

 不服ではあるが、大事なのは幽々子が幸福になる事であり、誰がそうさせるかは問題ではない。だから、妖忌は紫が向けてくる不躾な視線を今まで黙認し続けていた。


「理屈は分からんが、貴様は幽々子殿と会う時は俺と同じように幾らか死ぬ事で影響を減らしている。いつか限界は来るが、それは以前から寝泊まりしている俺の方が早い筈だ。それを確認してから逃げれば、死にはしないだろう」

「…………」

「返事が無いな。図星だったか」

「いえ、確かに考えの一つではありましたが、そこまで都合良く行くとは見ていませんわ。だって、私は貴方が死ぬまで彼女の傍に居続けると思っていませんもの。現状を理解しているなら尚更ですわ」


 妖忌と幽々子は反りが合っておらず、互いに窮屈な思いを抱えて過ごしている。どちらかの死を待つまでもなく、意見の擦れ違いで別れる事も充分考えられた。


「私から言わせれば貴方は我慢し過ぎていますわ。もしかして、彼女を慕っていますの?」

「友人の娘だぞ。懸想などすれば罰が当たる。……俺は単に、あの娘を不憫に思っているだけだ」


 目を伏せ、妖忌は幽々子と出会った時の事を思い返す。

 歌聖の訃報を風の便りに知って訪れたあの日。屋敷の入り口は固く鎖され、幽々子は室内で誰にも知られる事無く倒れていた。

 周囲の人間を死なせてしまう事から、外出はおろか、来客に応じる事も幽々子は拒んでいた。そのせいで食料を得る事すら出来なくなっていたのだ。

 偶然にも桜の近くで人間が死んだまま放置されており、その死臭に気付いた妖忌が押し入った事で幽々子は助かった。しかし、肝心の幽々子は助けられる事をあまり望んでいなかった。


 放っておいて。

 もう誰も死なせたくないから。


 生きる事を望みながら、他人を思うあまり、自分の死を選ぼうとした少女の嘆き。

 それを聞かされ、妖忌は一層見捨てられなかった。

 幽々子は若い。自ら悪事を働いた訳でもない。だから、幸せになる権利はまだあると、そう思ったのだ。


「俺に根本的な解決は出来ん。ならば、命を晒すくらいしなければ無責任だろう」


 妖忌にはその覚悟が最初からある。

 その熱意を暑苦しく思い、紫は明後日の方向へ視線をやりながら、首筋を手で扇いだ。


「そうですか。でも、彼女は貴方の死も望んでいないでしょうから、危なくなったら気にせず逃げた方が良いですわよ」


 そう言い残すと、もう妖忌についての興味を失ったのか、紫は振り返りもせず屋敷へ入っていった。

 残された妖忌は何も言わずに沈思する。

 死は覚悟している。しかし、妖忌の死は紫が逃げる口実になるだけで、何一つ幽々子の為にはならない事は、言われなくとも分かっていた。

 それでも、放っておける訳が無い。

 結局、何があろうと妖忌には現状を続ける以外に方法は無い。不毛な思考に区切りを付け、彼は屋敷の前に立ち続けた。




 西行妖が紅葉し、その葉が全て散り終えた頃。

 屋敷の入り口では相変わらず妖忌が無愛想に立ち、その腰にも相変わらず木刀が差されている。

 結局、妖忌は幽々子に不満を伝えなかった。

 しかし、何もしなかった訳ではない。彼は幽々子に隠れて足下の地面へ刀を埋め、いつでも取り出せるようにしていた。

 約束に背いてでも、幽々子を守る為に決断した事だった。

 ただ、その顔には未練が僅かに残っている。

 努力だけでは間に合わない物事に対し、確実を期す為に妥協する事は間違いではない。そうと知りながらも、彼にとってこの方法はあまりに姑息過ぎたのだ。

 その隣を紫は無関心に通り過ぎる。

 葛藤する相手を弄んで動かす事は好んでいるが、未練や後悔を突き回す事はそうでもない。諦めた者は動かないからだ。それは紫にとって無駄以外の何物でもなかった。







 変わらない事を理由に、変わる努力を怠る者は珍しくない。しかし、幽々子はそうではなかった。

 だから、報われる時が来たのだろう。

 紫と幽々子が出会ってから半年。具体的な方法が分からないままに死を媒介するものを幽々子は探し続け、ようやく一筋の光が見え出していた。


 こじんまりとした部屋。その天井に紙を一つ吊るし、幽々子は身動ぎ一つせずに座り続ける。

 死を媒介するものが物理的に実在するなら、紙を揺らすだけの質量は持っていると仮定した実験だ。そして、まだ実在を完全に証明する程にはないが、一定の成果が既に上がっていた。

 辞世の句を認めた紙を吊るした場合のみ、不自然に揺れる事があったのだ。

 死を媒介する何かには、巧拙を問わず、辞世の句であれば寄り付く性質があった。それに込められた情念を吸い取ろうとしてそうなるのだろう。

 歌聖の死を真似た者が切欠だった為か、屋敷で死んだ人間の殆どが辞世の句を残していたので数には困らなかった。勿論、彼等の死を利用するようで幽々子は気後れしていたが、新たに死なせる事と比べれば、まだ我慢出来る事だった。


 時間を計る為に燃やしていた香の煙が途絶えて、幽々子は凝った首を軽くほぐす。

 今日は空振りだった。

 珍しい事ではなかった。

 辞世の句に籠る情念は死んだ直後に殆ど吸われるのか、辛うじて反応するものさえ稀であり、複数回反応するようなものは未だに見つかっていない。その為、時間の無駄になる可能性が高くても一つ一つ丁寧に試すしかなかった。

 到底順調とは言えないが、被害者を出さないまま、明確な希望が見えるところまで近付けている。少しでも前進している事は確かなので、そこまで落胆はしていない。

 換気する為に障子を開けると、もう冬本番であるかのような寒風が懐を通り抜ける。

 その風に乗って、金の髪が幽々子の視界の端でそよいだ。


「終わった?」


 縁側に腰を下ろし、背を向けたままの紫が言った。


「暫く振りね。元気にしてたかしら?」

「ええ。お陰様で」


 半年前と比べれば、幽々子はまるで違った。

 生きるべきか死ぬべきか。そう悩まなくなった事で肌艶や髪質が良くなっている。夏頃に紫が幽々子の髪に櫛を通してみた時は酷く引っ掛かったが、今ならばそうならないだろう。


「早く上がって。暖めた部屋があるから、そこに行きましょう」

「そうね。こうも冷えると眠くなるもの」

「眠くなる?」

「言ってなかったかしら。私、冬眠するのよ。用事があれば別だけど」


 小さな欠伸を一つして、紫は立ち上がる。

 その内、幽々子が固まっている事に気付いた。


「幽々子?」

「……あ、ごめんなさい」

「心配しなくても、冬も会いに来るわ。暖かく迎えてくれるならね」


 幽々子が驚いて紫の顔を見る。しかし、寂しがり屋の一面を呆気なく見抜かれた事が恥ずかしく、直ぐに背けた。

 ただ、嬉しさもあった。

 考えを見抜ける程に分かってくれているのだ。紫が幽々子自身にも興味を持ち始めている証である。


「こっち」


 幽々子は紫の手を握る。それを紫は小さく微笑んで受け入れ、されるがままに引かれて行った。







 紫を招いた部屋は事前に充分な陽射しで暖めていたが、念の為に幽々子は火鉢を持ち込んだ。

 手際良く火を熾すと、紫が暖を求めて火鉢の前に座り込む。幽々子も火付け道具を片すと、真向かいに座り、赤く明滅する炭を一緒になって眺めた。

 穏やかに燃え続ける炭は、まるで命のようで、見続けていると心が和む。上手く火が回ったのを見届けてから幽々子は口を開いた。


「ねえ、紫。最近、ちょっと良い事が起こり始めたの。前から続けていた実験なんだけど――」


 その報告を紫は満足気に聞いた。

 結果が出ていなかった実験を諦めずに続けた幽々子からの厚い信頼。そして得られたまずまずな成果。

 あの実験の発案者は紫だ。当然、喜ばしいものは少なからずあった。


「おめでとう。よく頑張ったわね」


 紫が素直に褒めると、幽々子ははにかんで頷いたが、少しすると気持ちを切り替えるように首を振った。


「でも、一歩を踏み出したどころか、まだ履き物を履いたくらいよ。ここで満足していたら駄目よね」


 現状に甘えず、幽々子は前を向く。

 その心地好い程の健気さに紫は顔を綻ばせた。

 急かさずとも甘やかさずとも、幽々子はすべき事をきちんと見定め、油断せずに実践出来ている。

 これならば、もう紫が何かをせずとも、幽々子は自力で解決まで持っていけるのかもしれない。

 さて、どうなるだろう。

 幽々子の未来に興味を抱きながら、紫はかねてから用意していた扇子を懐から取り出した。


「これは頑張った御褒美よ。受け取って」

「え、え?」


 幽々子は激しく戸惑った。

 しかし、それは迷惑に思っているのではなく、自らの内に現れた喜びを扱いかねてのものだった。

 あたふたと暫く両手を躍らせた後、それを膝の上に片付け、おずおずと訊ねる。


「あのね、紫。扇子を贈るのって、特別な意味があるのよ?」


 恥ずかしくて直接口にはしなかったが、要するに愛の告白である。

 父が歌人だった事もあり、その習わしについて幽々子はよく知っていた。

 意中の相手に和歌を書いた扇子を渡したり、或いは交換したりして、自らの恋心を伝えるのだ。

 ただ、これはあくまで上流階級の人間が行う習わしだ。妖怪である紫に当て嵌めるものではないと、幽々子も頭の中では正しく理解している。

 なのに、どうにも落ち着かなかった。


「ああ、恋文にするという事? 知っているわ。開けば分かるわよ」


 あまりに紫が軽く言うので、幽々子は扇子を受け取った。

 言われた通りに開いてみると、夜の始まりのような色合いの紙に、御所車と花の図柄が広がっている。鑑賞に向いた造りで、文字を入れる事が躊躇われる程の立派な代物だった。


「これを、私に?」

「趣味に合わない?」

「いえ、好みではあるけど……。私なんかには勿体無いと思って」


 紫と妖忌を除けば、幽々子は誰とも会わず、屋敷に籠りきりの生活だ。この扇子を見せる相手は居らず、飾って一人で楽しむ事も現状では気が進まない。

 しかし、これは紫からの初めての贈り物である。

 手放すには惜しく、幽々子は扇子を膝の上に乗せた。


「ありがとう、嬉しいわ。だけど、どうして? 私、まだ何も御礼出来ていないのに」

「特にこれと言ったものではないわ。ただ、そろそろ未来の事を意識してもいいと思ってね」


 最初の一歩を踏み出せたのなら、後はその繰り返しで目標に辿り着ける。だが、疲労が積み重なり、途中で止まってしまう事もあるだろう。

 そうならない為に、夢を持つ事が大事なのだ。

 幽々子にはそれが無かった。

 未来という言葉を聞いた途端、幽々子の表情は暗くなる。

 現在や直近の未来は考えていたが、そこから先の未来について考える事は避けていた。

 力をどうにか出来るとは、思っている。何年かかるか分からないが、きっと制御出来るようになるだろうと。

 しかし、もう多くの命を奪った後だ。公には屋敷の中での死は自殺として処理されているが、その殆どに死ぬ動機が無かったからには、殺したのではないかと周囲に噂されて過ごさなければならなくなる。

 桜の事もある。死を振り撒き、父の形見でもあるあれを放置して屋敷から離れる訳にもいかない。


「幽々子」


 たしなめるように紫が名前を呼ぶ。

 幽々子が人間としての将来に希望を持てない事は分かっている。だから、暗い未来へ絶望する前に扇子を渡したのだ。


「別人として新しい土地で暮らしてもいいし、桜は切ってしまえばいいわ。父親の墓みたいなものでも、そのせいで我が子が苦しんでいるとなれば、きっと許してくれるわよ」


 甘い言葉で迷いから誘い出そうとするも、幽々子は気乗りせず、壁越しに桜のある方角を見詰めた。

 幽々子自身、外の人間からは生きているか死んでいるか分からない状態である。遠くの土地で別人として生きる事は、逃げるようではあるが、可能だろう。

 しかし、問題は西行妖だ。


「……切れないわ。あの桜は、切ろうとする者の精気を真っ先に吸うだろうから」

「試した事があるの?」

「無いけど、でも、不気味がって誰も面倒を見ないのに、あの桜は虫に葉の一枚も食われない。その代わりに虫の死骸が花弁と一緒に落ちているのよ。夏だろうと、秋だろうと、関係無く」


 植物には生命の危機が迫ると開花を早めたり、種を撒くものもある。西行妖もそれだろう。

 脅威となる存在を認識すれば、その大きな体の何処かに潜んでいる芽を子孫を残す為に急いで開く。そして、あくまで副次的な結果として、花から相手の精気を吸い取って死なせるのだ。

 仮に傷を負ったとしても、吸い取った精気で直ぐに治す。一般的なやり方では枯らせない。


「焼くとか、塩を撒いて枯らすとか、囲いを作って土ですっぽり埋めるとか、色々と考えた事はあるけど全部無理でしょうね。ただ、稲妻に引き裂かれれば枯れるかもしれないわ。天罰だから。でも、それがいつになるか……」


 言って、幽々子は申し訳なさそうに俯いた。

 父が愛した桜の事を、もう化け物としか見ていない。その殺し方を考えていると、自分も死ななければならないような気がしてくる。

 紫は黙って火鉢に手をあて、幽々子が立ち直るのを待った。


「……ごめんなさい。折角来てくれたのに」

「気にしてないわ」


 幽々子の謝罪に紫は肩を竦める。

 自分自身の価値を再認識するのではないかと考え、良い拵えの扇子を見繕ったつもりだが、やはり上手く行かない。


「将来に希望を持てないのは分かるもの。そのまま頑張るのは辛いでしょうから、次に何か進展したら何処でも好きな場所に連れて行ってあげるわよ。それでいい場所を見付けたら思い切って引っ越してしまいましょう」

「でも、迷惑じゃない?」

「大丈夫よ。大体の所には一瞬で到着出来るから」

「どうやって?」

「これよ、これ。一度体験したじゃない」


 紫は火鉢の上にスキマを開いた。弱っていた火を助けるように砕けた炭が幾つか落とされ、小さな炎が一瞬上がる。

 幽々子は火箸で新たな炭の世話をし、紫の提案について暫く黙考する。しかし、具体的な目的地は思い浮かばず、それどころか、その程度の願いを考える事すら苦痛に感じていた。


「……それ、なんて名前?」


 あからさまな逸らし方だったかもしれない。幽々子は紫が今しがた閉じたものについて話を振った。 


「私はスキマと呼んでいるわ。空間の境界と境界の間に繋げているからね」

「よく分からないけど……。なら、紫はスキマ妖怪という種族なの?」

「あら、随分と素直な呼び方」

「違った?」

「そうじゃなくてね。私は種族という括りに最初から囚われていないのよ。何にでもなれるから」


 紫は姿と性質を自由に変えられる。妖怪というのも、あくまで便宜上の自称でしかない。

 酷く曖昧で、その曖昧である事こそが紫の本質。具体的な正体を表す呼び名は今まで無く、八雲紫と言う名前だけがまことしやかに噂される程度だ。

 その事に紫は不自由を感じておらず、自己探求にも興味が無かった為に放置している。何と呼ばれようと、それが蔑称の類いでないなら気にする事も無い。


「スキマ妖怪、ね」


 だから、その名前にも特に不満は無い。

 紫は呟き、軽く頷いた。


「それにしておくわ。複雑で正確なものより、そういう単純で意味の分かりにくいものの方が私らしいもの」

「いいの? もっと良い名前があると思うけど……」

「その時はその時ね。どのみち、私は自分の種族名なんて気にならないし、わざわざ考える気もないから。

 スキマを開けるからスキマ妖怪って事でしょう? 実態からかけ離れている訳じゃないから、それで良いのよ」

「いえ、開けるからじゃなくて――」


 幽々子は不意に言葉を止め、やがて、恥ずかしそうに口を押さえた。

 言いかけたものが初々しいものだと気付いたのだ。扇子を貰う事で生まれた動揺が、今も尾を引いていた。


「えと、その……」


 言わない事も、出来なくはない。

 それでも、幽々子は将来が分からない。その為、どれだけ恥ずかしい事でも言えなくなる前に伝えようと思った。


「スキマを見付けて、埋めてくれる、から」

「……埋める?」

「そう。紫は私みたいな人間の側に居て、寂しさを埋めてくれるから。紫はそういう、優しい妖怪だから」

「まあ」


 心のスキマを埋める。だから、スキマ妖怪。

 その解釈は紫にも予想外のもので、扱いに困って苦笑する。

 確かに、紫は相手の無能や欠点を指摘し、建設的な意見を示して思い通りに動かす事が多い。だから、孤立している人間の元へ出向き、図らずも孤独を癒した事は何度かある。

 ただ、それは優越感を楽しみたいからで、そこに思い遣りがあった事は一度も無い。

 幽々子に対しても同じだ。助けたいと思っていない。幸せを祈ってすらいない。目的が果たされるのなら、幽々子が悲劇的な死を迎えても、紫には数日で忘れる自信があった。

 本当だった。

 優しいなんて、言われるまでは。


「……見る目が無いわね」


 本心の筈なのに、嘘のように弱く響いた。

 裏表無く慕われる事に喜んでいる自分を自覚したからかもしれない。幽々子の勘違いだと諭す事も出来たが、それで片付けるのは何だか惜しかった。

 一度、唇を固く結ぶ。

 普段なら考えもしない事を企んでしまう程に浮かれている。それを自制しなければ危険だという事にも気付いている。

 だが、つい、思ってしまった。

 この居心地の良さを得られるのなら、優しいスキマ妖怪とやらになるのも悪くないと。


「ねえ、幽々子。私に少し考えがあるから、もし大丈夫なら、貴女が克服するまで一緒に住んでもいいかしら」


 命を縮める危険があり、それに見合うだけの成果は恐らく上がらない。幽々子と一緒に過ごしたくて思い付いた、出任せ同然の提案だった。


「……うん」


 突然の事で、幽々子には住まわせる準備など何も出来ていない。しかし、先程の素直さのまま、やや惚けた様子で彼女は頷いた。

 一緒に居たいと、そう思われた事が嬉しかった。

 幽々子の周りでは大勢が死に、それが原因で妖忌以外は居なくなり、その妖忌でさえ、幽々子の日常には決して関わろうとしない。

 だから、常に一線を引いていた紫も、いつか逃げるように離れていくのではないかと、心の何処かでは怯えていたのだ。

 もう、その心配はしなくていいのだろう。

 根深くあった緊張が解かれて、幽々子は思わず顔を覆った。


「ごめんなさい、紫……」


 涙が出る程に嬉しかった。そして、幽々子の一方的な親愛に応えた紫の事を、今まで少しでも疑っていた事が申し訳無かった。

 紫は膝を摺り、幽々子の隣へ移動する。

 優しいのは、幽々子の方だと紫は改めて感じる。

 殺すだけの化け物だと、己を貶め、戒めて。

 得体の知れない妖怪の事すら心配して。


「大丈夫よ、幽々子」


 紫は幽々子の頭を胸に抱いた。

 対策をしていても、そこまでの密着は想定外。遥か遠くにあった死の影が着実に背を伸ばしてくる。

 冷たくも甘美な、死への誘惑。

 命を晒してもいいという覚悟が自発的なものか、強制されたものか分からないまま、徐々に強くなる。

 しかし、仮に精神が不確かなものにされているとしても、紫は気にしなかった。


「貴女は何も悪くない。だから、自信を持って生きなさいな」


 幽々子は紫の言葉を暫く噛み締めた。

 優しいだけの言葉ではない。そこには信頼と決意が籠っており、信じたくなる響きがあった。

 それでも、幽々子は彼女を押しのけ、苦しげに首を振った。


「……そうね。本当に、それならいいのにね」


 たとえ紫が許しても、幽々子自身は受け入れられないのだ。

 心を奪い、命を奪う事が、どれだけ悍ましい事か。

 ただ、気持ちは少し軽くなった。

 自分ですら受け入れられなかった自分を、受け入れてくれたから。生きていいと、言葉にされたから。

 その励ましを無駄には出来なかった。


「私、誰も死なせないようになれる?」

「勿論よ」


 その言葉に具体的な根拠は、やはり無い。

 しかし、幽々子には充分だった。

 もう独りではない。隣に紫が居てくれる。

 彼女と一緒なら、どんな運命にも打ち勝てるような気さえしていた。

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