其の二十四、選択
死に直面するのは、何も初めてではなかった。
だから、私は何処までも冷静だった。
しかし、私の壊れた心は無性に痛んでいた。
「報告、します。謎の妖怪が紅魔館を襲撃してきて、私達が防衛に当たったのですが、今も劣勢で……」
私は律儀に語るメイドの声を遮るように抱き上げる。
何故だか分からない。
なのに、彼女が妖精から妖怪へと変化していた事に、私は今更気付いた。
このままでは、この子はあの曖昧な世界の向こう側へと旅立ち、戻れなくなってしまう。
縋れるものは、何でも縋るしかなかった。
「紫さん。一時休戦です。この子の治療を、どうか頼みます」
メイドを守るように抱え、私は真正面から言った。
紫さんは、表情を曇らせた。
「傷を塞ぐだけなら出来るけど、元の腕や羽根が無いとその部分の再生は出来ないわ」
「それでも、生きていられるなら……」
「……こちらを先に言うべきだったわね。そのメイドはもう――」
言葉はそこで途切れ、紫さんは腕の一振りでメイドの傷を塞ぐと、無言で私達から離れた。
断言しなかったのは、彼女なりの優しさなのだろう。
それすらも聞こえさせないように強く抱き締めた腕の中で、メイドは苦しそうに私へ訊ねてくる。
「あの、何の話を……?」
「大丈夫ですよ。気にしなくて構いませんから」
「そうですか……。それなら良いのですが」
メイドの体から力が抜けるのを、私は感じた。
紫さんが去り際に彼女の傷を塞いでくれたのだが、殆ど意味が無かったらしい。
この子が、死んでいく。
――何故だ?
「我が儘ですけど、もう少しだけ、このままで居させて下さい。私、腕が無くなったから上手く抱き付けなくて……。気持ち悪いかもしれませんけど……」
「大丈夫ですよ。そんな事、私は気にしません」
「ありがとうございます。……他の皆が一生懸命に頑張っているのに、私だけ楽しているみたいですから、秘密にしていて下さいね」
「……ええ、仕方無いですね。分かりましたよ」
――何故だ。
「私ね……。龍泉さんの事、お兄ちゃんとか、お父さんとか、弟とか、そんな風に今まで見てたの」
「どうしたんですか、改まって?」
「妖精だから家族なんて居なくて、いつも人間の家族を見ては悪戯したりして、羨ましくて、御嬢様達みたいな、少し歪だったけど姉妹の関係が眩しくて、紅魔館に来たの」
「そう……なんだ」
――何故だ!
「楽しかった……。同じ気持ちのメイドも少なくなかったから、まるで本当の家族みたいで……」
「そうだよ、楽しい」
「……私ね、多分死んじゃうの。さっき見てきたから。同じメイドが妖怪に殺されて、そのまま起きなくて、傷も治らなくて。私……、いつの間に妖怪になってたんだろう? 外来人を食べ物として見るようになったのも、龍泉さんの刀を避けるようになったのも、全然知らない内になっちゃってて……」
「死なないから、きっと。死んでもいつものように蘇るから」
「……」
「話そうよ、ね? 丁度良い機会なんだから、もっと……」
「私ね、離れたくない。でも、もし私が死んで、そのまま眼を覚まさなかったら、私を、食べて……」
言葉が、心を刺した。
「妖怪が妖怪を食べたら、強くなれるって聞いたから……。強くなって、此処に居続けて……」
「変な事を言わないで。そんな事をしなくても、私は勝てるから。だから、死ぬとか――」
「先輩としてのお願い。聞こえたら、返事をして。何で、さっきから黙って……」
死の淵に沈んでいく彼女の為に、私は叫ぶ。
「聞こえてる。聞こえています。聞こえていますから! だから――」
腕の中で、メイドが笑った気がした。
「ああ、良かった……。私、死んでも、また生まれ変わって此処に来ますね。だから、それまで龍泉さんは生きて、私を迎えて下さい。立場、逆になってしまいますね。ふふ……」
「分かり、ました」
「……」
私の涙が、メイドの頭に落ちる。
死んだ。死んで、しまった。
――私のせいだ。
私は妖怪や結界を変容させる化け物なのに、それなのに妖精を変容させる可能性に気付かなかった、私のせいだ。
私が、殺した。
「……悲しいでしょうけど、今もメイド達が戦っているのなら助けてきなさい」
黙って様子を見ていた霊夢が傍に来て、鞘に納められた私の刀を差し出す。
凶器にしかなり得ない筈のそれが、今の私には非常に陳腐なものに見えた。
そんなものを使わずに、私は何人も殺している。
私とは――、なんだ?
「しっかり掴んで。そのメイドの腕や羽を取り戻してあげなさい」
「ああ、そうだな……」
メイドを抱き締めたまま、私はその刀を手にした。
霊夢がメイドを預かろうと手を伸ばしたが、途中でふいと止める。
彼女も遺言を聞いていたのだろう。無理に取り上げるつもりまではないらしい。
「左腕は、大丈夫か?」
「問題無いわ。痛みは消えているから」
「それなら預かってくれ。今の私にこの子は……邪魔、だから」
唇を千切るように、私は非情に徹して話す。霊夢は多く語らず、分かったとだけ言って、メイドを受け取った。
それから私は、悲しみを燃やすように駆けた。
その先で、私は新たな絶望を得る。
◇
怪我人も死人も、全員が同じように地面に倒れている。
美鈴が丹精込めて整えていた鮮やかな庭に、メイド達の血が暴虐的に撒き散らされている。
まるで地獄のようであったが、この光景を作り出した事がある私には、これが人工のものだと分かっていた。
そして、この地獄の作り主がその中心に立ち、私を見付け、微笑んだ。
「無事だったか」
「……薄」
過去の憧れ。希望を見出だした存在が人間の姿で私に歩み寄る。
その唇には子供が遊びで口紅を塗りたくったように、鮮やかな血が下品にへばりついていた。
「いや、な。お前が退治されると聞いたから、俺が助けてやろうと思ってだな」
「メイドを殺したのは、何故だ」
「邪魔したからだな。お前を助けに来たのに、あの妖精達が悉く拒否したから、少し強引に通させてもらった」
「食い殺してか」
「まあ、俺の武器と言えばそのくらいしかないしな」
「そうか……」
激情を抑えて、私は刀を抜こうとする手を意思の力で押し止める。
全ての感情を封じて、薄が近くに来るのを、待つ。
「お前は、メイド達に私を助けに来たと、きちんと説明したのか?」
「ん? まあ、一応言ったぞ」
「一応だと……」
一応で、あの子達を傷付けたのか。
そんな、適当な考えで。
「言って、無理だったから食い殺した。妖精だから、思っていた以上に手応えは無かったな」
「そうか。分かった。把握した」
「何が――」
油断した薄の下顎を、刀で叩き割る。
歯の欠片が、血肉と共に私へと降りかかった。
「お前の口は、誰かに思いを伝えるものではなく、ただ誰かを殺すだけのものだ」
返す刀を喉笛に突き刺し、捻り、抉る。
薄の目が、私を責め立てた。
本来の豺の姿に化けようとする彼女の腹を私は裂き、そこに容赦なく腕を突き入れる。
妖気に混じり、彼女の力となって溶け消えようとしていたメイドの腕と羽。それらを紫さんの能力を真似て元に戻し、激痛に身を捩る薄の腹から引き摺り出す。
やがて、私の足元にはメイド五人分の部位が落ちた。
五人、殺されていた。
なのに、薄はまだ生きていた。
私は刀に付いた血肉を浴びせかけると、薄の上顎に指を掛け、紅魔館の外へと引き摺り出した。
向かった先は、森の木陰。
単純に、これをあの子達と同じ場所で殺す気にならなかっただけだ。
最早、何の感慨も無い。
殺そうとして私は刀を振りかざし――、そのまま固まり、ゆっくりと腕を下ろす。
半死半生の身でありながら、薄は慌てる事なく、私の姿を冷静に見詰めていた。
願掛けを思い出す。薄に託した希望を思い出す。
私は脅すように薄の頭の隣に刀を突き刺し、片手で首を絞めた。
その間でも、殺すか、迷って。
最終的に、腕を引いた。
「……次に会えば、私はお前を殺すだろう。だから、二度と私の前にも紅魔館にも来るな。その傷で生きていられるかは、知らないがな」
憎悪を塗り込めた言葉を言い残し、私は刀を引き抜いて、紅魔館の方角へ足を向ける。
顎を潰され、喉を抉られ、腹を裂かれ。
それでも、薄は生き続けるだろう。
あれはもう、その程度で死ねるような生き物ではないのだ。
私が、そうさせてしまったのだから。
「ふざけるな……」
私は少し歩いた場所で理不尽を血塗れの拳に乗せ、樹を殴った。
物に当たるのは愚かだと知っていたが、そんな事はどうでもいい。
――殺せば良かった。殺せば良かった。
先程から、そんな声が頭の中に鳴り響き続けているのだ。
確かに、私は薄を殺しても良かっただろう。殺しの権利があるとするのなら、今の私には確かにあった筈だ。
しかし、それは私の希望を壊す事と同義だ。
――殺せば。
「知るかぁ! そんなもの!」
殺して何になる!
メイドは生き返らない。あまつさえ、私の心の慰みにすらならないではないか!
殴り、殴り、殴り。拳に私の血が滲んで、痛みだけが私を慰めた。
こんなにも苦しいのに、それなのに私は狂えない。
心が壊れている事が、辛い。
家族とも呼べた妖精を失い、希望を自らの手で壊そうとして、それでどうして私は狂気に救いを求める事すら出来ないのか。
頬を伝う涙は、メイドへの弔いなのか、薄への謝罪なのか、私への自虐なのか。
それさえも分からない。全てが曖昧だ。
「……愚か者が」
自らを蔑む言葉は心の内に溢れ返っている。
しかし、その一言を呟くだけで、私は平静を取り戻した。
一言だけで収まる激情とは、本当に、私は一体何なのだ。
樹へ軽く腕を押し当て、再び歩き出す。
私にはまだ、やらなければならない事が残っていた。
◆
メイド達の傷の治療を施しに霊夢と紫、そして、彼女達と敵対関係にある紅魔館のメンバー全員が、庭に集結していた。
この場に居ないのは、いつの間にか帰った魔理沙達と勝負に負けて休養している美鈴達、薄を連れて何処かへ消えた龍泉くらいである。
倒れていたメイドの中で、妖怪化し、重傷で死んでしまったメイドは幸いにも少数だった。
何故、妖精が妖怪になったのか。
その事に唯一、心当たりのある紫は龍泉の人間関係を慮り、口にはせずにメイド達の治療を続けていた。
一先ず全員の治療が済んで部屋で安静にさせ、死んでしまったメイド達の復元をする頃になって、紫は霊夢を近くに呼び寄せた。
遺言を残したメイドを預かっていた霊夢は完全に、龍泉を退治する気持ちを失っていたからだ。
紫は、そうではなかった。
「霊夢。私は今から貴女に重要な話をするわ。だから、口外しないと約束しなさい」
「……生き死にの話ね。分かったわ」
腕と羽を元のように取り戻し、しかし命は失ったままのメイドを寝かせて、霊夢は紫と向き合った。
「メイド達、いえ、それどころか紅魔館の殆ど全員が龍泉を紅魔館に残したいと考えている事は、もう分かったわね」
「痛い程ね。治療の合間にも、時々頼まれたわ」
「それでも私は龍泉を倒さないといけない。倒して、力の差を見せ付け、彼を式神として制御しなければならない」
霊夢は疑問を感じるが、それを口にはしない。黙って、紫に理由を言わせるように促す。
「龍泉は博麗大結界に干渉して外来人を招き寄せている可能性が高く、妖怪や妖精の変容を無意識下で行っている可能性も非常に高い。放置しておけば、……その前に誰かが彼を殺すかもしれないけど、幻想郷そのものに関わってくるわ」
「妖精メイドを妖怪にして、死ぬ可能性を与えたのは龍泉って事ね」
「それどころか、加害者側をあそこまで強くしたのも龍泉よ」
「つまり、加害者と被害者を作ってしまった。事件を作ってしまった。幻想郷が残酷なのは今更だけど……、流石に同情するわね」
「……貴女には今、二つの選択肢がある」
紫は霊夢の目の前で人差し指と中指を立てた。
その内、中指を折り曲げる。
「一つは紅魔館の方達の意思、メイドの遺言の為、私の手伝いをやめる事。少なくとも、死んだメイドはそれを望んでいた」
人間として、感情に従う道だと捉えて、霊夢は頷く。
紫は再び、中指を立てる。
「もう一つは幻想郷の安全や外来人の事を考えて、私の手伝いを続ける事。さっきの方法でも龍泉が自らを制御出来るようになる可能性はそれなりにあるけど、こちらのほうがより確実よ。それに何より、死ぬ命の数を確実に減らせるわ」
博麗の巫女として、理論に従う道。
「……私は、幾ら謗りを受けても龍泉を式神にする。どちらを選んでも恨まないから、答えて」
霊夢は――。
◇
一度自宅に戻り、準備を整え直して、魔理沙達は紅魔館に向けて空を飛んでいた。
彼女達は薄の蛮行に遭遇しなかった。目覚めた魔理沙が急いで家に帰ったので、入れ違いになったからだ。
アリスも最低限の準備という事で槍や剣で武装した小型の人形を何体か連れて来ている。
なんだかんだと言いながらも結局は付いて行くあたり、アリスは魔理沙の事を極端に悪しく思っていなかった。
とはいえ、危険ならば見捨てる非情さは持ち合わせている。
だからこそなのか、他人事でありながら、アリスは魔理沙の身を案じた。
「ねえ、まだやる気?」
「当然だぜ。このまま引き下がれる訳無いだろ?」
「伸されていたのは充分な理由になるわよ。それに、軽いノリで首を突っ込むと首を落とされるわよ」
アリスは周囲にあまり関心を持たないが、情報収集は割と頻繁に行っている。
一度目は急ぎだったので失念していたが、龍泉がキョンシー掃討の一番の功労者であり、更には里の人間を殺したという噂があるところまで掴んでいた。
魔理沙にはその事を今の道中で教えている。勘当されているとはいえ、彼女には里に家族がいるのだ。
しかし、龍泉が倫理的に危険な妖怪だと充分に知らせたにも拘わらず、魔理沙は一切歯牙に掛けなかった。
「深刻な事こそ、こういう軽さも必要だと思うぜ? それに私だって、退治だ退治だと騒ぐ子供じゃもうないんだ。少しくらい考えてもいる」
「だったら訊くわよ。危険なのに退治へ行く明確な理由は?」
「放置していれば他の奴等が死ぬかもしれないだろ」
「それなら他の誰かに任せられるわ。私が聞きたいのは、わざわざ自分から行く理由。降りかかる火の粉を払うだけじゃ駄目なのかという話よ」
紫や霊夢に任せれば、どの妖怪でも確実に退治できる事は今までの実績から証明されている。
異変とは違うが、これも最初から結末が決まっている争いなのだ。
魔理沙はつばの広い三角帽を手で押さえながら、朧気な満月を仰ぎ見た。
「顔見知りだからな。龍泉とは」
「それで?」
「……ああ、何て言うかな。初対面のときに似てると思ったんだよ」
「何に?」
「それはだな……」
――家を飛び出た昔の私と。
魔理沙はそれを言おうかと思ったが、口に手を当てて考え込んだ。
後悔はしていない。しかし、口にするような事でもない。
「やっぱりいい。言わない。ともかく、私は単純な退治で済ませたくないんだよ。龍泉が退治される前に話だけでもしておきたいんだ」
「結局、好奇心なのね……」
「そうだな。悪いか?」
「良し悪しの話じゃないわよ。それなら、一つだけ約束よ。自分の身は自分で守りなさい。私も魔理沙をあてにしないから」
それは手伝ってくれるという事なのだろうと、魔理沙は都合よく解釈した。
いつものように不敵に笑う。
「悪いな」
「だーかーらー……。はあ、もういいわ。さっさと済ませましょう、こんな夜なんてね」
勝手に楽しそうにしている魔理沙を置いて、アリスは月を睨んだ。
掛かる雲が濃くなっていく、何処か人為的な天気だ。
この様子では、近々雨が降らされる事だろう。
「……急ぐわよ」
アリスが速度を上げ、魔理沙はそれを追う。
この天気は魔法的なものでも、霊的なものでもない。もっと別の要因があるとアリスは予想する。
その要因は、恐らく紅魔館にある。
魔理沙の事に否定的な態度を取りながら、結局はアリスも自らの好奇心を満たす為に動いていた。
◇
そして、全員が紅魔館の内庭に集結する。
しかし、敵も味方も関係無く、視線は龍泉だけに注がれていた。
当然だろう。彼の左腕は薄の腹に突き入れられていた事で肘から先が満遍なく、どす黒い血に染まっているのだから。
自らの血で汚れる事も返り血を浴びる事も無意識に嫌っていた筈の龍泉がそうなっていた事に、反射的にレミリアは駆け寄った。
俯きがちの龍泉の目は、足下に来たレミリアを初め、確固たる意思を秘めた凄惨な無感情で捉えた。
思わず、レミリアは後退りたい衝動に駆られるが、踏みとどまる。
その印象を勘違いだと思わせるように龍泉の表情は直ぐに柔らかくなり、彼は屈み込んで、レミリアの頭を綺麗な右手で撫でた。
まるで子供をあやすように、だ。
主君に対する忠誠心が、それには少し欠けていた。
「どうしたの……、龍泉」
撫でられるままに、レミリアは訊ねる。
龍泉は明確に答えなかった。
手を止め、優しさに強い意思を戻して、彼は言った。
「私は絶対に勝ってみせます。ですから、ご安心下さい」
「そういう事じゃなくて……」
「愛しております、レミリア様も、皆様も」
「龍泉?」
龍泉は軽くレミリアを抱き締めてから立ち上がり、服に忍ばせていた辞表を取り出すと、その場で自ら破り捨てた。
龍泉はもう、負けようとは微塵も思っていない。
数十の紙片に引き千切ったそれを風に流して、龍泉は睥睨するかのような態度で全員を見渡した。
レミリア、フランドール、パチュリー、小悪魔の四人。
彼女達から離れて集合している、霊夢、紫、魔理沙、アリスの四人。
前者には親しみを込め、後者には敵対心を込め。
龍泉は、話し出す。
「……私は川上龍泉。種族は妖怪」
久しい言葉を繰り返し、龍泉は妖精殺しの罪を背負って歩き出す。
彼の中にある公平な天秤。それに載せられていた幻想郷と紅魔館。
その天秤を破壊し、龍泉は紅魔館を選んだ。
正当性が無く、この先、幾千人を殺す事になるとしても、龍泉はその覚悟を貫く決意をしたのだ。
霊夢達からレミリア達を背中で隠すように、龍泉は止まる。
「私は、敵だ」
正しき道を外れた者の、それは最後の正当な宣言だった。
四人が身構えるのを悠然と見届け、龍泉は刀を抜く。
雲が払われ、露になった満月が刀身を照らした。
過ちの刃が、その輝きを身に纏う。
道理なき勝利の為、龍泉は死中に身を窶す。




