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「ていうかさ」

 悪魔さん、どうも。

「本当に」

 天使さん、どうも。


「「お久しぶりですね」」


 土下座オブ土下座。世間には様々な土下座があるらしい。

 熱された鉄板の上でする土下座。

 土下座よりさらに自らを下にするため横たわるという行為に特化した土下寝。

 岩男に謝る博士が元ネタのジャンピング土下座。

 そのほかにも、片手逆立ち土下座、側転土下座、ブラジリアン土下座などなど。

 その中で、俺が選んだのは最も一般的な土下座でした。


「一年経ちましたよ。ええ、一年。あなた何してたんですの?」

 天使さん、いや、天使様が恫喝気味に聞いてくる。

「いや~その~ワタクシも一応、一般人としてこの世に生を受けたわけでありまして、で、あれば、勤労の義務を果たさなければならない使命を帯びていてですね……」

「いや、就職したのは知ってるけどよ。それ今年の四月からじゃん?」

 きゅうしょに あたった!

「それに最近までエロゲしてましたよね?」

 つうこんの いちげき!

「しかも巣作りド○ゴンとか戦国ラ○スとか廃人ゲームに手を出しやがって」

「い、いや、それについては弁明させてくれ!」

 なに? と二人がこちらを睨む。

「その二つはもう何年も前にクリアしていまして……こないだ部屋を片付けたときに久々にパッケージ見てたらやりたくなってですね……いつの間にか片付けは滞り、インスコする作業に没頭していた。な、なにを言ってるかわからねーと思うが……」


「より悪くなったな」

「最悪の類ですね」


 普段、俺を振り回す二人がいつになくマジメである。これにはもう謝り倒すしかない。

「ほ、ほら、仕事だってそれなりに忙しいわけですしおすし」

「じゃ、ちょっとどんなことやってるか言ってみなさいよ」

「えーと……新人なので主に先輩の無茶苦茶に付き合わされるのが仕事と言いますか、もう奴隷みたいな感じですね」

 実際、体育会系にはほとんど触れてこなかった自分にはかなり場違いな職場だと思っている。そりゃもう上下関係がハンパないっちゃあその通りだ。

「とは言いつつも、それが仕事だと思えば、乗り切れなくもないんですがね……」

「なんか含みがあるな」

 悪魔が俺の言いたい部分を機敏に察知してくれる。

「の、飲み会が……」

 飲み会。それは新人には仕事の延長でしかない。

 ビールを注ぎまわり、飯を持ってこい、話を合わせろ、歌を歌え、芸を見せろ、愚痴を聞け、理不尽な暴言、酔いが回ってきたら暴力的なものまであったりする。これを仕事と言わずになんと言う。

 ハッキリ言って行きたくない。

 多分、世の中でよく言われる「最近の若者は飲み会の誘いに乗らない」っていうのはそういうのが原因なんじゃないだろうか?

 そりゃ友達と行く飲み会なら飛んでいくくらいな自分が、行きたくない! と胸を張って言えるのだから、よっぽどな場所だと思ってもらっていい。ちなみにウチはそれでいて割り勘だったりするので救いがない。


「それで? 可哀相だね、とでも言ってほしいの?」

 ぐっ。

「社会に出て、まだ数ヶ月なのに、もう心が折れたのか?」

 ぐぐっ。


 なんかこいつら学生時代より攻撃的になってないか? いつも、遊ぼうぜ~とフラフラ寄ってくるくせに今回ばかりはそうもいかないみたいだ。

 一年の放置。ダメ絶対。


「ま、とはいえ、なんとか元気にやってますよ。ほら、積みゲだってちょっとづつ消化してきたし」

「どうせならそのレビューでも書いたらどうだ? 結構な本数やってんだろ?」

 む。それはいいかもしれない。ここじゃないどこかにそういったものを繰り広げてもいいのかもしれない。

「ただなぁ……」

「ただ?」

「百本近くやってはいるけれども、この世界、猛者というか上には上がいてなぁ。そんな人たちがいるのに自分なんかが書いても仕方ないんじゃないかとそう思ったりするんだよ。そういう人たちからすればたかだか百本なわけで。だって月に百本近く出る世の中なんだぜ?」


 エロゲ業界も大きくなったものだ。自分がやり始めた頃が全盛期の一歩手前だったわけで、その頃は出ても月に二十本くらいだったと記憶している。それも抜きゲのほうはやらない自分だから年に数本買えばよかったのだ。

「それがさぁ……あれやこれやとたくさん出るようになってから、追いつかなくなって、次第にやらなくなっちゃったんだよなぁ」

 今でも年に数本単位ではあるが、新作に対する比率で考えれば微々たるものになっている。

 これに関しては、アニメや漫画についても言えることで、今までやってきたものが少しずつ崩壊している気さえするのだ。


「社会人になってさ、資金だけはそれなりにあるんだけど、今度は時間がなくなったわけだよ。こうして、ここでお前らとの雑談を書くのも、本当に気が向いたからなんだ。すまない」

 深々と二人に頭を下げる。当初の土下座のようにふざけたものではなく、本当に誠心誠意で。

「でも、それが大人になるってことなのかもな」

「人として真っ当にやっているのならそれでいいんじゃないんですの?」


 人生の夏休みが過ぎ、長い、本当に長い二学期が始まった。


「でもさ、俺、絶対にやめないから。エロゲもアニメも漫画も……それからここも」

「誰も見てなくても?」

「ああ」

「どんなに時間がなくても?」

「ああ」

 ならいいんだ、と二人はスッと消えた。とりあえず今日のところはというヤツなんだろう。

 だから、俺も、明日に備えて早めに寝ることにした。

 おやすみ。

 また、遊んでくれよな。

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