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湿り気


 しとしとと雨音がする。

 今日は全国的に雨、だそうだ。

 縦長なこの国で全国各地一斉に雨というのは珍しいことなのかもしれない。

 そんな天気の中、今日もいつものメンバーが自室に集まっているわけだが……。

「じめじめしてんな~」

「ドライでもかけなさいよ」

 気温はそれほど高くないのにエアコンをつけろとうるさい二人。

「ウチの地方は年がら年中湿気に覆われているからな、仕方ないだろ。エアコンつけるのももったいないし」

 昔、一人暮らしをした経験から、エアコンを使った月と使ってない月では電気代が一ケタ違うことを知っている。

 元々、湿気が多い場所ではそれなりの対策、例えば、家の構築がそのようになっているとか、そういう道具を使っているとか、まぁそんなわけで人が不快に思う以外はたいして被害はない。

 あるとすれば虫が活発に動くくらいか。あ、また小バエ。

「洗濯物も干せないし、最悪だな。ベッドのシーツまで気持ち悪い」

「漫画読みながら言うセリフじゃないな。そんなに言うなら、コインランドリーにでも持ってってくれ」

 最寄のコインランドリーまで徒歩一時間はゆうにあるが。

 

 そんなわけで一年で二回目の梅雨の時期は、割とダラダラしがちである。五月病の再来とでも言えばいいだろうか。

 外に出れば雨。中にいれば湿気。

 どこにいても不快である。

 おかげでこいつらの機嫌も悪い。もちろん俺自身もである。

 そういうこともあって、まったく話が盛り上がらない。それどころか始まらない。

 前回の最後にお土産で機嫌をとったのはいいのだが、こればっかりは俺にはどうしようもない。

 今日はサンデイインザレイン的なモノローグだけでお送りするのもいいかもしれない。


 BGMをかけよう。曲はもちろんエリックサティ作曲『ジムノペディ』で。


 ズンチャーンズンチャーンズンチャーンズンチャーン……テ、テ、テ、テ、トゥン、テーン……。

 なんというかこの曲は他のクラシックとは一線を画していると思う。

 音楽には詳しくは無いが、不安を煽るような、それでいて穏やかであるような、あきらめにも似ているようなそんな曲調。

 とまあそれでいて聞き入るような曲ではなく、おしゃべりの後ろに流れている、そのまんまバックグラウンドミュージックってことが印象深い。

 そういう意味では、例の憂鬱なアニメでの使い方は自分としては間違っているというかなんというか。

 そんなことを言っている自分でさえ、こうやってモノローグなのだからなにも言えないが。


 うん。それじゃたまには自分の話でもしてみよう。ていうかそれ以外に話すことなんてできない。

 片一方は漫画タワーを形成し、これから一気読みするであろうことが容易にわかるし、もう一方は湿気にやられてベッドで寝転んでいたところ睡魔に負けて、いつの間にか寝息を立てている。

 さて、なにを話そうか……。


 時期はすでに秋真っ盛り。真っ盛りという表現が正しいかどうかは置いておいて、確実に夏とは異なる気温のこのごろ。

 自分はご多聞に漏れず、というわけでもないが、季節の変わり目ということもあって、風邪を引いた。もうそれは自分で自分を呪いたくなるくらいに完膚無きまでに。

 頭は痛いわ、ノドはイガイガするわ、おまけに幻聴や幻覚まで見えるくらいまで熱に浮かされる始末。

 こんな状況でなにができるかって言えば、そうだね、プロ……妄想だね!

 幻聴や幻覚をも利用し、妄想するその様はまさに達人の域にまで達していると思うのですが、ま、そこはいいでしょう。

 問題は中身なわけで、例えば、ありきたりな世界に自分が飛ばされて、ありきたりなヒロインと出会い、ありきたりな冒険をして、ありきたりな超強いラスボスと戦い、ありきたりな祝福をされ、END。

 こういうときっていうのは割りと熱が下がっている証拠で、平穏無事であることを心から受け入れているといった心境。

 他には、謎の宇宙からの侵略者と戦うとある国のエースパイロットとかで、故郷に残してきた恋人を思いつつ、目の前の敵をいかに撃破するかを考え、さらに無線でピンチに陥った僚機を気遣い、本部に連絡を入れるといった超人的かつ聖徳太子のようなアクロバティックをこなす。

 こういうときは熱が高めで、身体全体が非鳴を上げているというような状況だったりする。

 そういうとき考えていることって割と自分自身でもおもしろいなぁとかこういうの書けたらいいなぁとか空想を広げるんだけど、結局はどこかで頓挫したり、そもそも忘却してしまったりで、形にならないことが多い。

 実はもったいないことをしているのかもしれない。

 だから最近は、机の上にコピー用紙とボールペンを欠かさずに置くようにしている。

 どんなに些細なことでもメモしておけるようにしておくことで、こうやっていつか文章にするときのネタになったりしているのだ。

 どうだいボブ? こんな素敵なことができるんだよぅ~? 今ならこれに使い始めて何日かですぐ出なくなるボールペンのインクもついてくるんだ。

 え? でもお高いんでしょう? って? ちっちっち、甘いなぁボブはぁ、もう練乳と蜂蜜を混ぜたものを鍋でグツグツ三日三晩煮込んで、さらに砂糖、黒砂糖、生クリーム、あんこをそれぞれ大さじ五杯入れ、さとうきびにかけたものを、全国のどこかにいる親のスネをかじって生きてきた挙句、大学を二留した佐藤くんの人生観や社会に対する不満を聞きながら食べるくらいに甘いよ。

 今なら、なんと定価二万数千円するところを、今日は奮発して一万九千八百円でご提供なんだぁ~。

 

「誰かツッコめよ!」

 つい、ありえないくらいわかりやすいボケを挟んでしまった。

「今日はモノローグで終始するんじゃなかったのか?」

「なんでそういうとこだけ俺の心の声が聞こえてるんだよ!」

「え、そりゃ、俺、悪魔だし……ほら、なんていうか、こう、悪魔的な力というか」

 悪魔が悪魔的な力を持っているとは小学生がする説明くらいひどいぞ。

「それじゃあ天使も天使的な力持ってるのか?」

「もっちろん」

 そういって立ち上がる天使はトコトコと部屋の中心へ移動する。

 すると急に床からマイクスタンドが現れ、部屋は薄暗くなり、天井からはネオンボールが降りてくる。

「それでは聞いてください。残酷な天使のテー○」

「カラオケかよっ!」

 ぐいっとマイクを奪う。

「せめて、せめてサビだけでも~よよよ……」

 いつの間にか着ていた着物の袖を濡らす天使。アニソン歌うのに着物はおかしいだろ。

「それじゃあ、俺の銀○鉄○9……」

「おま! それ、本気でヤバイから! 歌詞だけで訴えられるから! ていうか、お前らの能力ってそんなんしかないのか!?」

「何を失礼な! こう見えてもれっきとした天使三年目のペーペーなんだからね! 多少なりとそれっぽいことぐらいできるわよっ!」

 自分でペーペーと言うってことはたいしたことないんじゃないか……とか思っていると、今度は窓際へ移動して、外に向かって指を指す。

「ほら、あそこにこれからすれ違う男と女いるでしょ」

 外へ目をやると、たしかにこれからすれ違う、多分四十くらいのおじさんとそれからセーラー服姿の女子高生が見えた。

「それじゃあいくわよ。……テヤっ!」

 指先からピンク色の光線を出す天使。その光線がすれ違いざまの二人に直撃する。

 すると――

「ああ! ロミオ! ロミオなのね!」

「ああ、そうだよジュリエット! 僕達はやっと出会えたんだ! もうキミを離さないから!」

「ロミオ! もう決して離さないでね!」

 なんの接点もなさそうなおじさんと女子高生が急に抱き合いながら愛を語り合う。

「な、なんじゃこりゃー! これ、お前の力なのか? すげーじゃん!」

 素直に感心して褒めると、ふふんと鼻を鳴らす天使……と忌々しそうに眺める悪魔。

「俺だってそれくらいのことできるし!」

 そう子供のような対抗心むき出しでこちらも窓際に移動する。

「そらよっと」

 悪魔の頭の触覚的部分から青白い光線が発射され、ラブラブな二人に降り注ぐ。

 すると――

「キャー! あんたなに抱きついてきてんのよ! 誰かー! 誰かー! 痴漢ー!」

「お、俺だって抱きつきたくて抱きついたんじゃない! いつの間にかこうなっていたんだ!」

 必死に弁明するおじさん。しかし、女子高生の叫び声に付近の民家からドヤドヤと人が出てくる。

 ――それから五分後、あっという間におじさんは警察に連れられていってしまった……。

「どうだ! これが俺の力だ」

「おぉい! 罪の無いおじさんになんてことを!」

「世の中そんなに甘くないってことね……中年が女子高生と恋に落ちることは法律的にも難しいのよ……」

「イヤイヤイヤ! お前らが変なことしたからだろ! ああああ、おじさん……せめて残りの人生楽しく生きてくれ……」

 冤罪? で連行されていったおじさんのこれからを祈りながら窓を閉めた。


「それにしても、お前らすげぇな! たしかにそりゃ超能力ってヤツだわ」

 気を取り直して素直に感嘆を述べる。

「まぁ、これくらいは初歩中の初歩というか」

「なんてったって悪魔と天使だからな。人を操るくらいわけなんてねぇってことよ」

 腐っても鯛とはこのことか。ん? ちょっと待てよ?

「お前、今、操るって言ったか?」

「ああ、それがどうかしたか?」

「もしかして今までに俺のこと操ったこととかあるのか?」

「……あー……いやー、それは……」

 明らかに歯切れが悪い生返事は裏を返せば、正直な回答になっている。

「おい! どの場面で俺を使ったんだ! 言ってみろ!」

「いや、あの、その……悪魔と言ってもですね、その人間の娘にはそれなりに興味があるわけですよ。あぁ、そうそう、日本人が外国人に恋したりするみたいな感じで」

「なんて俗っぽい悪魔なんだ……で? なにしたんだ?」

「その、ナンパしてきてもらおうかなって……」

「ほほぅ、で、結果は?」

「まぁあえなく惨敗だよね。俺ももう少し考えればよかった。だってお前、服のセンスないし、明らかにひきこもりにしか見えないし、おどおどしてそうなのに、いきなり積極的に話しかけてこられたらたしかに気味悪がられるよな」

「………天使は? 俺を操ったことは?」

「あぁ~えっと~あれは、大分昔の話なんだけどぉ~……」

「前置きはいいから」

「はいはい。その……ずーっと欲しかった本があったんだけど、ほら、私って天使でしょ? そうそう簡単に人前に姿表せないのよ。だから、いつもなら密林的な自動的に物を運んできてくれるところに頼んじゃうんだけど、レア物でねぇ……それをちょっと買ってきてもらおうってね」

「ちなみに本の内容は?」

「私の好きなジャンルに決まってるじゃない。いや~あのときこっそり後をつけて行ったんだけど、さすがに奇異の目で見られてたわね~。だって、男がBL……」

「………もういい」

 なんかどっと疲れた。

 それこそ、怒る気力さえなくなった。俺の今の気持ちはご随意に思案しやがってください、どうぞ。


「ま、まぁ、いいじゃねぇか。俺らってこれくらいの能力しかないし。俺らがいることで世界を救ったり、壊したり、泳げなくなる代わりに身体がゴムになったり、ノートに人の名前書くこともないし、ナ○ック星人と戦う必要だってないぞ」

「そ、そうですわよ。他に設定なんてないですから。人畜無害そのもの!」

 なぜか加害者が励ましてくれる。

 やけにジムノペディが心に染みる。

 俺ってなんでこいつらといるんだろ?

「さ、さぁ、気を取り直して執筆作業に戻りましょ!」

「そうしましょったらそうしましょ」

 やけにテンション高めで俺をPCの前に座らせようとする二人。

 それでも、今はそんな気分にはなれなかった。

「いや、もうマジでほっといて……」

 そういって。俺はベッドにもぐりこんだ。



 ……ここから悪魔のターン。


 てなわけで筆者が不貞寝をしてしまったkら、俺が書くことにするぜ!

 なんてったって、今まで大体七千文字くらいで書いてたからな。

 残りの二千くらいは二人で埋めようやということで分担作業にすることにした。

 俺の名前は人呼んで悪魔。ちゃきちゃきの江戸っ子ぽさを目指すナイスガイさ!

 おおっと、そんなに俺のことを知りたいのかい? 

 でも、それはまだ早いなぁ。

 もう少しレベルアップしてからか、とりあえず四天王最弱くらいは倒してくれないと、俺の本名すら出すわけにはいかねぇな。

 それからちょいちょい詳しく語られることにはなるだろうけど……っておいそこ! ググるなカス!

 まったく、最近のヤツラはゲームの楽しみ方ってもんがわかってねぇ。

 ちょっと行き詰ったらすぐ攻略サイト。

 それならまだしも始める前から攻略サイトを開いているヤツもいるときたもんだ。

 おいおい、それじゃただの作業になっちまうだろうが。それで楽しくシナリオを追ったり、システムを理解できるんかい?

 そりゃあ、ゲームの楽しみ方は人それぞれだがよ、とりあえず初めてプレイするときぐらいは作者の意図を汲んでやろうぜ。

 作る側からしたら、ここで熱くなったり、感動したり、行き詰ったりってのを期待して作ってるんだぜ? それに乗ってやるってのも一興ってもんだろ?

 ああ、懐かしいな。まさか、最後は祈るだけで倒すなんてな……普通、気付かねぇよ。

 それでも、途中にヒントはあったんだ。プレイしている本人の名前を入力するところとかな。

 この話がわからねぇヤツは是非、母親的なタイトルのRPGをやってみることだな。もちろん、攻略サイトなんて見ずにな。

 おっと、ついつい熱くなっちまったぜ。まだまだ言いたいことはあるんだがな……まぁこういうことをうだうだ書くと、老害だ~人それぞれだ~なんて言うヤツも出てくるからな。ここいらでやめておく。

 

 ……ここから天使のターン。


 悪魔の書いた文を見たけど、なにあれ? 最終的にただのゲームの話になってるじゃない。

 一応、初めてこうやって書くんだから、もっと私達のパーソナル? な部分とか書けばいいのに。

 と、言っても、私にも書けるようなことなんてないんですけれど。

 私の名前は天使、探偵ではない。いつの間にか眠らされて、身体が縮んでいたなんてこともない。

 ただの天使。ただの……ただの……。

 うっ……私だってこんなただの天使に生まれたかったわけじゃないわよ!

 生まれたときからお前は天使のようなヤツだと言われ、なにかにつけ、あなたはいい子だねと褒められ、そのせいで色んな制約を受けてきたわよ。

 趣味だって小さいときはお人形遊び、大きくなってきてからは友達と談笑したり、買い物に行ったり、化粧に凝ってみたりくらいしかできなかった……。

 本当はもっと違うことをしたかったのに。

 化粧だってそんなに興味ないし、服だって毎日違う服が着れればそれでいい。

 そんな私が天使? 嘘でしょ? とか真剣に悩んでいた時期だってあった。

 ……本当は寝る前の少しの時間だけだったけど。

 そんなとき、彼と出会ったの。

 彼は優しかった。どんな私でも受け入れてくれた。

 私は彼におんぶに抱っこだった。仕事の愚痴とかもたくさん言ったし。

 そんな日々が約一年くらい続いたある日だった。

 唐突に別れを告げられたの。

 なんでも他に好きなヤツができたからお前とは付き合っていけない、だって。

 彼は私だけを見ていてくれているようでそうじゃなかった。優しかったと思っていたものは、ただ単に興味がないから適当に返事してくれていただけだった。

 悔しかった。だから、私はそれまで以上に自分の中に閉じこもるようになった。

 普通、こういうときは他のなにかに狂信的なまでに打ち込むとかになるんだろうけど、そんな漫画みたいな展開は私には用意されていなかった。

 ……あら? もう、こんなに書いたのね。悪いけど、続きはまた今度ってことで。

 ちなみに今まで書いたものの約八割はフィクションだからあんまり鵜呑みにしないでね。

 この情報化社会では正しいと思える情報は自分の知識と経験に照らし合わせなきゃならないのよ。

 まったく、生き辛い世の中になったわね……。


 ……ここから俺のターン。詳しく言うと、夢の中のターン。

 

 なんで夢の中で思ったことが文章化されているかなんて知ったことか。

 そんなことより、残りが三百しかない。

 これだけでどうやって今回を閉めろと?

 無理だから。

 前回使っちゃったから、オチなんてねぇよ! ってヤツ。

 あれはあれで一つのオチなんだから、二回目はないんだよ。

 そういや、どうやってあの二人はここまで書いたんだろう?

 あいつらPCで文章が打てるわけでもないのに。

 イヤ、物を触ることぐらいはできるんだけど、そもそもPCという人間の技術の結晶というものを初めて知ったのは、俺と出会ってからだから……一年くらい?

 しかもその間、触っていた様子もない。

 密林とかで物を買うときは基本的に俺が操作していたし、ニコニコ的なアレも俺が登録してやった。

 そんなヤツラがどうやって文章を打てたというのだろう?

 その疑問だけを残して今回は終わりにすることにした。

 ああ、それともう一つ。

 なんでPCの前で寝てんだろ、俺。

 ちゃんとベッドに入って寝たはずなのに……。

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