危険地帯
「さて、今日も始まったわけだが」
なぜか二人は正座している。二人というのは、もちろん天使と悪魔である。
かしこまった感じの二人はずずずっとコーヒーをすすっている。今日はいつもの番茶や緑茶が切れていたので、仕方なくコーヒーを出した。
文句の一つでも言われると思ったが、何も言われなかった。おかしい。
「なんだお前ら? なんでそんな座り方なんだ?」
とりあえず疑問をそのまま口にしてみた。
「……ふぅ」
「はぁ……」
二人はなにも答えない。まるでこちらがこれから詰問でもされるような雰囲気。
その様は、学校の問題児が三者面談に駆り出されたかのようだ。
誰もしゃべらない。誰も口を開かない。誰も口火を切らない。
無言のままというのは本当に辛い。
それほどしゃべる人間というわけではないが、性質がツッコミのせいなのか、自分から話題を作ることは苦手だ。
普段の生活でもそう。俺がしゃべり始めると、周りは静かになってしまう。それも耳を傾けるというわけではなく、完全にスルーしているという感じである。もしかしたらイジメかなにかの類なのかもしれない。俺としてはなんだったら邪魔してくれたほうが楽だ。
そんなこっちの気持ちを知ってか知らずか二人はいまだに黙ったままだ。
「あの~……このままだと、俺のモノローグだけで今回が終わってしまうんですが……」
つい敬語になる。こちらが下手に出てまでも、なんとかして盛り上げなければならない。
ちなみにモノローグは得意ではない。普段から物事を考えながら生きているわけではないし、たとえなにか思いついたときでもメモを取るというマメなこともしない。
まるで作家モドキ失格。失格。失格。
形から入るというわけではないけれど、枠というものは重要だ。自分がそうであるかのように、自分を錯覚させるためには有用な手段である。
たとえば、こうやってキーボードで文字を打ち込むだけでなく、ペンを持って、原稿用紙に自らの手で書くということもその一つだし、自分の姿かたちをそのように着飾るのも一つだ。
そうすることでやる気を出すというかギアを入れるというか、まぁ説明はしづらいがわかってもらえるとうれしい。
………。
書くことなくなった。
夏休みの宿題の読書感想文以来のモヤモヤ。ペンが進まない。助けて赤ペン先生。
泣きそうな顔で二人を見る。
あいかわらず悪魔も天使も目を閉じてなにかに耐える修験者のように座布団に座っている。
「そろそろ限界なんですけど……一人でこの物語を続けるのって難しいんだよぅ……ホラ、俺っておもしろくない人間じゃん? お前らとの会話が頼みの綱なんだよぅ。三回目にして、本当の存続のピンチなんてことは避けたいんだよぅ」
そのときは本当に泣いていたかもしれない、とこれを書いているときは思った。それくらいその場の空気がしんどかったのだ。
「あるじゃねぇか。おもしろいかどうかはわからないが、お前ができる話」
痺れを切らしたのかとうとうもらす悪魔。
「え! なになに? 教えてよ~!」
さすが悪魔! いや、悪魔はそんな手助けする存在じゃないんだろうだけど、なんだかんだ言って兄貴分で面倒見のいいコイツに助言を求めるためにすがりつく。
「……お前、この3,4日間なにしてたよ?」
「………」
うん、ごめん。やっぱそのことだよな。
「私たちのこと忘れて楽しんでたんでしょ? そのことでも書けばいいじゃない。私たちなんていらないくらいの面白話が書けるくらいのことしてきたんでしょ?」
天使が続いて俺を責める。
そう、俺は本当に忘れていた。いや、思い出さないというか、なんというか。
「俺も書きたかったさ! 書きたかったけど、できなかったんだから仕方ないだろ!」
「ふぅ……」
「はぁ……」
つい、言い訳がましく叫んでしまう。そして振り出しに戻ってしまった。
この4日間。俺は旅行に出かけていた。こいつらを置いて。
行き先は大都会の東の都。
そこで欲望を吐き出してきた。そう、いろいろと。ついでに言っておくが、別にエロい意味はない。単純に趣味を丸出しにしてもかまわない素晴らしい電気街に行ってみたかっただけという意味である。他意はない。……本当だよ? そりゃ、中には少し……そういうものも……ごにょごにょ……。
とにかく! 昔から夢見ていたあの場所にこの両足で立ってきたのだ!
右を見ても、左を見ても、同種族。
動物界後生動物亜界脊索動物門羊膜亜門哺乳綱真獣亜綱正獣下綱霊長目真猿亜目狭鼻猿下目ヒト上科ヒト科ヒト下科ホモ属サピエンス種サピエンス亜種の中のちょっと二次元に興味のある者たち。
つまりはオタクと言われる部類である。
最近の傾向として、オタクという言葉はアニメや漫画を主流とするオタクたちのことを指している。それ以外の者は、○○オタクや××オタクというように、その対象物をオタクの前につける。
ちなみに自分はプレーンなオタクというものである。たぶん。
自分は社会学者というわけではないので、詳しくはわからないが、そういうモノの見方であってると思う。
まぁ、このようにここでこうやって作家モドキのようなことをしているのもその一環というか、自分の好きなものの中には薄い小説、または軽い小説と表現するものがあったりして、その影響も少なからず受けている。
認めよう。
諸君 私はアニメが好きだ
諸君 私は漫画が好きだ
諸君 私はエロゲが大好きだ
中二病が好きだ
日常垂れ流しが好きだ
感動系が好きだ
熱くなれる系が好きだ
だらだらが好きだ
人生が好きだ
文学が好きだ
友情が好きだ
正体不明のものが地球を征服するものが好きだ
自宅で 自室で
ソファで ベッドで
PCの前で モニターの前で
トイレで ネカフェで
イベントで ショップで
この地上で行われるありとあらゆるオタクと呼ばれても仕方のない行動が大好きだ
「こいつなんかいきなり演説し始めたぞ」
「きっとなんかのパロでしょうけど、ま、放っときましょ。私たちが放っとかれたくらいの期間は」
「ったく……旅行に行くなら、俺らも連れてけっての。カバンに入りきらないからって置いていきやがって。俺だって、掘り出し物見つけに行きたかったっつうの」
「あら? 悪魔もそういうのに興味ありますのね?」
「ったりめーだろ? 路地裏の雑居ビルの七階くらいに位置する場所とか行きてぇよ」
「私はメイド喫茶かしらね~。こう、『お嬢様? お茶のおかわりはいかがですか?』とか言われてみたいわよ。さっきから誰に向かって演説しているかわからないコイツがこ~んなネット回線的な意味の光が届かないド田舎なんかに住んでるから悪いのよ! 喫茶店どころかコンビニすらないようなあんな場所にね!」
「ま、そりゃ生まれる場所と親は選べないからな。それでも俺はお前と違って気に入ってるんだぜ? 住めば都。周りは山だらけで静かだから、夜中まで騒いでても家族以外には迷惑かけないし、車さえあれば割とどこでも行けるし」
「その車を動かす燃料のガソリンを入れることすら不便でならないけどね」
「それは言えてる。でもな、ああいう都会ってのはたま~に行くからいいんだ。俺も昔、ちょろっと出かけたことはあるが、あれは住めたもんじゃねぇな。観光地に住もうなんてどう考えてもおかしい発想だろ? 常に人が絶えないんだ。俺らみたいな日陰モンにはそんなまぶしい土地はそもそも似合わないんだよ」
「悪魔ならいざ知らず、天使なのに日陰者扱いですか……」
「れっきとした日陰モンだろお前。こないだだって、どこぞの巨大掲示板でカップリングについて討論してるとき、あまりにもマイノリティ過ぎて村八分にされてただろうが」
「あ、あれは単純に趣味ですもの。私はメインヒロイ……ヒーローよりも一巻に五コマくらい出てくる脇役のほうが好きなんです! ああいうキャラはなんていうか、儚い感じがいいんですもの。戦いメインなお話ならあっという間にフラグを立てて退場。恋愛モノなら既に彼氏彼女がいる、もしくは絶対的にできない敵役みたいな、ね」
「完全に日陰な考え方だな、お前……」
「日陰上等! むしろそこを愛さずに真にその作品を愛していると言えましょうか! 反語!」
「おい、お前まで演説し始めるつもりか? やめろ、俺の出番がどんどんなくなるから」
「コ、コホン。とにかく、今回は復讐回と銘打って、コイツとは絡まずいきましょう」
「おk 把握」
――であるからして……うん? なにか聞こえていたが、まぁどうでもいい。
えーと、どこまで話したっけ? そうだ、オタクが市民権を得たところまでだったな。
ってこんな俺の思想信条を語って終了なんて許されるハズもない。そんなものは違うSNSでやればいいんだ。
「おい! まだだんまりかよ、コンチクショウ! そういや、タイトル案の件なんだが、見事に玉砕した! 親切心の塊のような人は現れなかった! 絶望した! この無情な世の中に絶望した!」
ちきしょう……どうここの人と関わり合いになっていいかわかんねぇぜ……。
もちろん、有名どころは読んだ。が、感想を求められても、おもしろかったーとか感動したーとかぐらいしか思い浮かばない俺の貧弱な語彙力では書けなかったんだ! 察しろ!
そもそも、俺は常にぼっちで生きてきたんだ。友達? は! そんなもんいるかっての! いたら、こんなところでこんなこと暴露する話書かねぇよ!
……うぅ……。彼女? そんなものより友達がほしい……。俺は友達が少ないどころかいねぇよ! 0だっての!
俺以外滅びろ! いなくなれ! ド○え○~ん! 地球破壊爆弾、今なら使い道あるよー! フヒッーヒーッヒッヒヒー!
~ただいま、不適切な発言、表現がありましたことをお詫び申し上げます。映像が戻るまでしばしお待ちください~
はぁ……はぁ……。
ま、とりあえず、この物語、イヤ、すでに物語なんて呼べないけど、タイトルはこのままで行くしかないみたいだ。もともと、蜘蛛の糸にもすがる思いだったけど、見事に切れたよ……。
さて、どうしようか? 一応、引き続き募集だけしておくか。
汚い話をすると旅行に行っている間にもしかしたらなにか進展があるかもしれないと思っていたことをここで告白しよう。
見事に裏切られたけどね! それどころか読んだ人すらいなかったけどね!
ま、それは仕方ない。自分の時間の使い方は自分が好きなように決めればいいんだ。こうやってここでこんなくっだらないことを書いているのもまたよし、だ。
なのにもかかわらず、こいつらときたらしゃべる素振りもなければ、絡む気すらないみたいだ。そんなに怒ることか? 置いて旅行に行ったことが。仕方ねえだろ、入りきらないし、そもそもネット関係ができる機材がなかったんだよ。ネカフェ? そんな無駄遣いできるかっての! こちとらフィギュアとかゲームとかレア物を見つけて買うのに必死だったんだよ!
※ここから一時間後、改めて見直したところあまりにもひどい内容にめまいを覚えたが、推敲しないという信念のもと、このまま。
「メタすぎんだろ! 筆者の気持ちダダ漏れじゃねぇか! 俺は? 俺というキャラってなんだったんだ? 俺=筆者なのか? 違うだろ……一応、当初の目的としては。やべぇ路線はずれすぎた。というわけで、ここからは普通にやりたいんだけど……」
それでも黙りこくる二人。こいつぁマジだな。仕方ねぇな、秘密兵器投入すっか。
「もちろん、お前らのこと忘れてたわけないだろ? ホラ、これ」
ガサガサと茶色の袋から箱を取り出す。
片一方はなにかと肌色の多いパッケージ。もう一方はなんかメガネをかけたリアルでは絶対にいそうにない男子二人が裸でベッドに横たわった表紙の本。
「お土産。正直、あんまり俺の趣味じゃなかったんだけど、お前らのために買ってきた」
それぞれお土産を手にする二人の目が輝く! うおっ! まぶしっ!
「ま、マジか……これ」
「ホントにもらっていいの?」
やっと口を利いてくれた。
「お前ら、お寺のわけわからんあんこ入りの食べ物のほうがよかったか?」
「んなわけねぇだろ! マジ、サンキューな!」
「これで十分、甘いものは摂取できますから結構ですわ!」
さっきまでの無表情はどこへやら。さっそく中身を見て、ニヤニヤし始める二人。まぁ、喜んでくれたみたいで俺もうれしい。人を笑顔にさせるってのはこっちの気分もよくなる。
「じゃ、だいぶルートは逸れちまったけど、ここから! ここからいつもどおりやってこー!」
オー! とこぶしを挙げる。……俺だけ。あ、あれ? 俺だけ?
「じゃ、ちょっくらこれいじってくるから、あとは適当にやっといてくれや! じゃな!」
「私も読んできますから。ついでに新作も描いてくるわ。あーまた、私の創作意欲が湧いてきたー!」
それだけ言い残して、これまたいつもどおりの空間に消えていく二人。
「イヤ、ちょ、まさか今回これだけ!? これで終わり!?」
大丈夫か? この話。このままアップして大丈夫なのか?
………イヤ、オチとかないから!