三人組パーティで俺以外の二人が付き合い始めたが、解散せずに破滅を待つ
短編です。以前なろうに掲載したものの運営からダメ出し食らって引き上げた短編「新婚の王子が妹と同衾している場に出くわしました『構いません、続けなさい』」と同一の世界観です。
今回は大丈夫。だと思う。多分。
「パーティを解散しよう」
冒険者ギルドの受付前に設置されている談話スペース。
そこで待つ仲間の男女二人。
疲れた口から、その言葉はごく自然と出た。
「な、何言ってるんだよ、ザイン……」
「そうだよ、ザイン。冗談やめてよ」
「冗談じゃない。本気でパーティを解散したいんだ」
正直、もう少し喉に突っかかりを覚えるものと思っていた。
何しろ、故郷を共に出てから今日に至るまで四年近く共に数々の依頼をこなしてきたパーティだ。
他のパーティが離合集散するのを横で眺めながら、いつか自分たちも同じ末路を辿るのではないか、そうなった時にリーダーである自分は言い出すまでひどく思い悩むのではないかと思っていたが、結果はこの通り。
それだけ腹に据えかねていたということなのかもしれない。
離別を宣言した後も、後悔よりも哀しみよりも、あるべきところにようやく収まったような落ち着きの感覚が強い。
目の前で元凶である二人が狼狽する姿を見ても、心はぴくりとも動かない。
*****
六年前、十四歳を迎えた俺は幼馴染であるローワン、シィナの二人と共に冒険者になることを両親に宣言した。
以前から村を出て冒険者になりたいという希望はそれとなく伝えていた。ただの憧れでないことを証明するために剣や魔法を習得したり、村の図書館に通って必要な知識を蓄えている姿も見せていた。
一応反対されたものの、二人ともずっと前に諦めていたらしい。さほどの説得を要することもなく許してくれた。
同じ日に示し合わせて親に伝えたローワンとシィナも許可を得た。家族の気が変わらない内、俺達は次の日には飛び出すように家を出た。
村から一ヶ月ほど旅した先にある、そこそこ大きな町を拠点とすることにした。そこまで辿り着く間にも、冒険者ギルドの支部が設置されている場所はあったが、故郷と距離を置くという意味もあってそこにした。
元々幼馴染同士な上に、一ヶ月も寝食を共にした後だ。三人組パーティとなることは、ごく自然なことだった。
それから六年、酸いも苦いも共にしてきた。
採取に始まり、狩り、捜索、追跡、討伐、護衛と様々な依頼をこなし、徐々にレベルアップを重ねてきた。
短期的に四人だったり五人だったりにパーティが膨れ上がることはあったものの、俺達三人はずっと一緒だった。
パーティの変化が訪れたのは一年ほど前のことだった。
ローワンとシィナが付き合い始めたのだ。
男女混合のパーティであればいずれこういう事態もあり得るということは先輩パーティから聞かされていた。
二人がお互いのことを異性として意識し合っていることもなんとなく察していた。
ただ、付き合う前は時折ぎこちないやり取りがちらほらある程度で、それもわざわざ注意するほどのものでもなかった。
だから、とある依頼で野営をすることになった際、寝ずの番をしていた俺のもとへやってきたローワンからシィナと正式に交際を始めたと聞かされた際も「そうか。依頼をこなすのに支障が出ないようにだけ気を付けてくれ」と念を押すだけに留めた。
「いいのか?」
「何が?」
「その、お前だってずっと一緒に過ごしてきた仲だ。シィナに気があったんじゃないのか?」
「………異性として意識したことがないとは言わない」
二人に気を遣って言ったが、正直俺にとってシィナはあまりに距離が近過ぎて、性の対象にしたことはなかった。
「けれど、俺にとっては冒険者として一人前になることの方が重要だ。お前の方が彼女にふさわしい」
あの時の対応が間違っていたとは今でも思わない。
だが「絶対、依頼には影響でないようにするから」と焚き火の前で息巻いたローワンの言葉に反して、パーティの連携には亀裂が入り始めた。
*****
最初に違和感を抱いたのは、二人が付き合っていると聞かされて一週間ほど経った頃。魔物討伐の依頼を受けた際のことだ。
前衛であるローワンが剣で、後衛のシィナが弓矢で気を引く間、斥候の俺が短剣であちこち切りつけつつ弱点を探すという、既に何度も繰り返したメソッド。
だがこの日、シィナの矢はローワンの援護に偏っており、俺は何度か無防備になりひやりとさせられた。
戦闘後にそれとなく指摘した。
「ごめん、ローワンが危険に晒されていると思うと居ても立ってもいられなくなって」
「ローワンと俺、両方を援護することが結果的にローワンの危険も減らすことになるのはわかってるだろう?」
「うん。二度と同じミスは犯さないから安心して」
そう言って直後は是正されたものの、しばらく経つとまたローワンに援護が偏るようになった。
それどころか、ローワンも俺を含めたパーティ全体の前衛より、シィナの守護を優先し始めた。
この時点ではまだ俺も余裕があったので、考えが甘くなりがちだった。
付き合い始めた二人だからこうなるのも致し方ない。次第に落ち着くだろうし、その間は俺が上手に立ち回れば良い。そんな風に考えていた。
だが、日を追うに連れ二人のお互いを気遣う傾向はむしろ強くなるばかりだった。
ローワンとシィナがせめて二人組パーティのように動き回れていれば、俺も臨時で加わったメンバーのように動けたかもしれないが、二人は二人組としても連携が取れていなかった。
やがてある魔物の討伐依頼を遂行している際、俺は遂に死にかけた。
魔物の動向に注意しなければならない筈のシィナはローワンばかりを援護し、ローワンもまた敵の気を引くよりシィナだけを守ることに必死で、俺は危うく魔物の尻尾に背後から串刺しにされるところだった。
戦闘後、防具がぱっくりと割れて脇腹に血を滲ませる俺を見て二人は青ざめていた。
怒鳴りたい気分だったが、疲れの方が勝った。
「今日はここで野営する。悪いが治療に専念したいから、寝ずの番は二人で回してくれ」
それだけ告げてテントに潜った。
その深夜。
「駄目だよ、ザインが起きちゃう」
「大丈夫さ。今日の戦闘では危ない目に遭ったし、今もぐっすりだよ」
ぐっすりどころか、戦闘の興奮が抜けきれず意識は冴えていた。
ポーションを飲み、回復魔法をかけたおかげで痛みはなくなっていたが、体が活性化しているおかげで眠気が飛んでしまっている。
ただ、二人の勘違いを正す気にもならず特に反応してやらなかった。
「申し訳ないことしちゃった……あたし、彼の背後に注意してなきゃいけないのに。でも!それでもローワンを失う可能性があると思うと、どうしても……!」
「わかってる、わかってるよ、シィナ…!俺もシィナを失ったらと思うと……!」
感情に火が付いた二人が盛り始める音に苛まれながら、俺は翌日ギルドに戻ったらパーティの解散を宣言しようと決めた。
*****
「パーティは解散したくない」
ローワンがやおら談話スペースのベンチから立ち上がると、俯いたまま言った。
「俺達はずっと三人でパーティをしてきた。今更やり方を変えられない」
その”やり方”が変わってしまったからパーティを解散しようとしているというのがわからないのだろうか。
だが彼の隣に座っていたシィナも腰を上げると彼に寄り添うようにして。
「私も嫌。無理。ザインのいないパーティで依頼なんてこなせない」
「じゃあ冒険者を引退したらどうだ」
「それは駄目だ!ずっと夢だったのに、そんなことできるわけない!」
その夢より自分達の関係を選んだのだろうに。
ギルドの受付から、ついさっき俺に依頼完了の証明証を発行してくれた職員が何事かと首を伸ばしているのが見えた。さっさと話を終わらせたい。
「ならはっきり言うが、俺は今のお前達に背中を預ける自身がない」
「それならこっちだって、ザインがいなくなったら俺達は絶対に死んじまう!お前は俺達に死ねって言いたいのか!?」
「お願い、ザイン!私達を捨てないで!何でもする!その……」
そう言って彼女は顔を赤らめると、自分の肩をぎゅっと抱いた。
「……ザインが望むなら、何でも、するから」
*****
「シィナのその一言でパーティの解散話が痴話喧嘩にすげ替えられて、その後はまともな話し合いにならなかった」
「ふぅん、大変なんですねえ」
リアーヌはそう言うと酒の入ったグラスを傾けた。
この街一番の娼婦と言われる彼女とバーで酒を飲み交わす仲になったのは、ここ最近のことだ。
シィナとローワンのこともあり、冒険者としての自分を切り離せる場所でゆっくり飲みたかった俺は、三ヶ月ほど前から、価格帯が少し高めなこのバーに足繁く通うようになっていた。
リアーヌは勤務している娼館がこの近くにあるらしく、常連同士少しずつ距離が近付いていた。
「実際、今の二人だけで依頼など受けたら雑魚にも遅れを取りそうな予感がする。パーティは解散したいが、それが原因で二人に死なれたらと思うと寝覚めが悪くて、とても踏み切れなくなってしまった」
「じゃあ続ければいいと思います」
カロン、と彼女のグラスに入っている氷が音を立てた。
「多分、ザインさんにとってもそれがベストですよ」
「何故?」
あの二人のせいでこちらは何度か死にかけているというのに。
「今の話を聞いている感じ、二人はザインさんのことを完全にダシにしてしまっています。あなたの信頼を裏切ることで得られる背徳感をプレイのスパイスにしてるんですよ」
「それは…」
否定できなかった。二人は俺に隠れていちゃついているようだったが、徐々にその隠し方が雑になっていることには気付いていた。テントの隣で情事に及ぶ時、やたら俺のことに言及していた。
「バレるかバレないかのギリギリを楽しんでいるんでしょうね」
「気持ち悪いな」
慣れ親しんだ顔である筈の幼馴染が、とても醜怪な生き物に思えてきた。
「同意を得ていない相手を性行為に巻き込む連中って嫌いなんですよね、私」
そう言うと彼女はバーテンにロックのおかわりを注文した。
あまり強い酒は好みじゃなかったが、彼女が飲んでいるものに興味を唆られた俺も同じものを注文した。
「以前、パートナーを寝取られることに興奮を覚える男性客がいました」
バーテンがまず彼女の前に、それから俺の前にグラスを置いた。
琥珀色の液体が、以前討伐したワイバーンの瞳を思わせた。
「きっかけは妻を別の男性に寝取られたことだそうです。気が付いた時には既に手遅れで、奥さんは完全に間男さんに堕ちていたとか」
リアーナがグラスをこちらに傾けたので、俺は自分のグラスを軽く当てた。
それから僅かな量を口に含み、舌の上で広げた。
喉に穴が空いたような風味が通っていった。
「ある日、彼は二人に呼び出され、目の前で仲睦まじくしている様を見せつけられたそうです」
「な…!」
疑問を呈しようとしたが、酒が喉に引っかかり軽くむせてしまった。
「ショックだったでしょうね。性癖が歪んでしまうくらいには」
俺を見て苦笑しつつ、彼女はゆったりとした動作でグラスの縁に唇をつけた。
「……だろうな。だがわからない。間男と妻は何故そんなことをした?」
どうしてわざわざ不貞を自ら明かすような真似をするのか。
「背徳感」
酒精を声に含ませたような声で彼女は言った。
「それに優越感」
「…………ああ」
ローワンとシィナの情事に及ぶ姿が脳裏に浮かんだ。
どうして突然、自分の客の話なんて始めたのかと疑問に思っていたが、ここで繋がるのか。
二人も俺を蔑ろにして関係を深めることで、優越感と背徳感を得ていたというわけか。
「……情けないな」
誰に向けてそんな感情を抱いたのか、自分で言っておきながらわからなかった。
そんな俺の心中を知ってか知らずか。
「面白いのはここからです」
リアーヌがふふ、と笑った。
「見せつけはその時だけに終わりませんでした。彼は何度も呼び出され、その度に間男からは小馬鹿にされ、妻からも詰られ、けれど徐々にそこに喜びを見出すようになっていました」
リアーナは再び酒をあおった。大きな一口が、ごくりと音を立てて喉奥へ滑り落ちる。
「酒と同じです」
つられてグラスに手が伸びた。焼け付くような飲み心地に体が馴染んでいくのがわかった。
「……『それで死ななければ、強くなる』というわけか」
冒険者ギルドでよく交わされる格言の一つだ。
どんな試練も、生きて帰れば自分を高める糧となる。
「その通り。ですが、程なくしてこの関係は終わりを告げます」
「……?何故だ、夫の性癖が歪んだことで三人の関係はバランスが取れたように思えたぞ」
「ええ。彼はね。ですが、呼び出した側の二人は違います」
ふぅ、と彼女は鼻から深く息を吐いた。
「見せつけプレイを繰り返す内、今や自分達が彼に見られていなければ興奮できない体になっていることにある時、気が付きました。旦那さんをマゾだ変態だと罵倒していながら、自分達の性癖も知らず耕していることに気が付かなかったんですね」
彼女は空いている手の指を波打つように動かし、テーブルをドラミングした。
「あの手の性癖というのはマンネリ化が早くてエスカレートする一方なんですよ」
トトトト、と軽快な打音。
「でも最も近い存在である夫に見せつけた時点で、二人の快感は頭打ち。それでも彼抜きでは最早満足に至ることさえままならない。見下していた相手にいつの間にか呑まれてしまい、劣等感に苛まれた間男と奥さんは間もなく破局しました」
愚かです、と彼女は手を止めるとにんまり笑った。
「寝取られ好きの方が余程健康的ですよ」
「その後、そいつらはどうなった」
「夫は性癖こそこじらせたままですが、離婚し理解のある女性……というかウチで紹介した女性ですね。彼女と再婚し、今は円満な家庭を築いています。マゾって案外頭の切り替えが上手なんですよ。社会的にも成功しているので、もしかしたらあなたも名前くらいは聞いたことがあるかもしれませんね」
「間男と元妻は?」
「間男はその後も何人かの人妻や恋人のいる女性と関係を持ちましたが、ある時、手を出してはならない相手に手を出してしまい行方知れずとなりました。死んでなければ、今頃は二度と女性に振り向いて貰えない顔に作り変えられているでしょうね。奥さんの方は先ほど述べた通り、元夫が別の女性と再婚してしまったので一時は心身ともに持ち崩し路頭に迷っていたんですが、ある時かつての旦那さんに拾われて今はメイドとして彼の屋敷で働いているそうです」
かつて愛していた男への裏切りを見せつけていた彼女が、今は彼が別の女性と幸せに暮らしている様子を間近で見せつけられているというわけか。
「皮肉なもんだ」
「ザインさんも仲間のお二人は一種のデバフとして受け入れてしまえば良いと思います。時を経てまた上手に連携できるようになれば上々。そうでなくお荷物のままならば、まず男性の方が自尊心を刺激されて空回りし出すでしょう。そうなれば女性もあっという間に続きます」
ぺろり、と唇を舐める仕草がこの上なく蠱惑的だった。
「あなたが心を痛めるまでもなく、パーティは瓦解します」
これまでずっと共にやってきたパーティが崩壊すると言われても、寂しさなどもう感じない。
空になったグラスを置くと、バーテンを呼んで自分の分だけでなく、彼女の分のおかわりも注文した。
「あんた、いい女だな」
熱を帯びた視線をこちらに向けながら、彼女は「抱きますか?」と聞いてきた。
「……やめとこう」
目の前に置かれたばかりのグラスを一気に飲み干した。
「あんたを抱いたら、冒険者じゃいられなくなりそうだ」
強烈な喉越しが、胸に絡まっていたものを全て流す。
ふふふ、とリアーヌは目を弧に細めて笑った。
*****
それから半年近くパーティは続いた。
ローワンとシィナの動きはどんどん悪くなっていったが、リアーヌに言われた通り、ある種の呪い装備だと割り切ると、それほど苦に感じることもなくなり、むしろ二人の空いた分をカバーする俺の動きは洗練されていった。
ギルドで俺達のパーティを見る目も変わり、俺個人にはしばしば臨時メンバーの依頼や引き抜きの話が舞い込んでくる一方、残り二人は明らかに見下されるようになっていた。
ローワンとシィナも徐々に関係が冷え込み、依頼の最中に衝突することも増えてきた。
「場所を変えたい」
ローワンがある日、そう切り出した。
「できれば一人で」
俺もシィナも特に反対しなかった。
むしろシィナなどは「私も冒険者やめて故郷に帰ろうと思うの」と言った。
「二人とも、好きにしたらいい」
引き止める理由もなかった。
ローワンについてはそれからさらに一年後、旅立った先の新天地でもパーティの女性と関係を結んだ結果、ある依頼の最中、仲間に後ろから矢で射られて命を落としたと風の噂で耳にした。
シィナはその少し前に一度だけ戻ってきたが、俺が既に新しいパーティで斥候として活動していると知ると、すぐに故郷へ戻っていった。
来月、二十近く年の離れた寡夫に嫁がされるのだという。
幼馴染が辿った末路について思うところはあったものの、既に二人は俺にとって遠い過去の記憶になりつつあった。
いつか、彼らとの思い出も円熟して喉元を焦がすようになるのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は今日もバーでグラスを揺らした。
娼婦リアーヌさんが登場する短編「新婚の王子が妹と同衾している場に出くわしました『構いません、続けなさい』」はカクヨムの方で読むことができます。興味が出た方は是非そちらでお読み下さい。




