【証拠はいらない】恋愛すると重くなってしまう
事務所のドアが、遠慮がちに開いた。
「……相談、いいですか?」
入ってきた女性は、どこか疲れた顔をしていた。
ソファに寝転がっていた俺は、片手を上げる。
「どうぞ。恋愛でも借金でも、愚痴でも歓迎」
隣から冷たい声が飛ぶ。
「せめて座って対応しなさい」
相棒だ。
仕方なく体を起こす。
女性は椅子に座るなり言った。
「私……恋愛すると、相手に重いって言われるんです」
「毎回?」
「……はい」
視線を落とす。
「最初は、普通なんです」
「でも、付き合ってるうちに」
指をぎゅっと握る。
「連絡が遅いと不安になって」
「誰といるのか気になって」
「嫌われたんじゃないかって怖くなって」
声が小さくなる。
「気づいたら、相手を責めてて……」
「それで、終わる?」
小さく頷く。
「また同じことになる気がして、恋愛するのも怖くて……」
しばらく黙る。
横で相棒が、静かに口を開く。
「好きだから、不安になるのよね」
「……はい」
俺は腕を組む。
「で、相手に何を求めてる」
女性は、しばらく考えてから答える。
「安心……ですかね」
「ずっと?」
「……たぶん」
俺は小さく息を吐く。
「そりゃ、重くなる」
女性の肩がびくっと揺れる。
「でも」
続ける。
「甘えるなって話じゃない」
女性が顔を上げる。
「甘えるのは、別にいい」
少し間。
「ただ」
窓の外を見る。
「相手に全部背負わせるな」
静かに言う。
「甘えるのは、少しでいい」
沈黙が落ちる。
女性は、しばらく考えてから、ぽつりと言った。
「……自分で抱えきれない分を、全部渡してたかもしれません」
「だろうな」
相棒が続ける。
「相手も、人だから」
「……はい」
女性は、小さく笑った。
「ちょっと、分かった気がします」
帰り際、来たときより少しだけ表情が軽くなっていた。
ドアが閉まる。
俺はソファに倒れ込む。
「解決したな」
「してないわよ」
相棒はため息をつく。
「でも、少しは楽になったでしょ」
しばらく沈黙。
「……まぁな」
コーヒーの湯気が、静かに揺れていた。
恋愛で不安になる自分が、
悪いと証明する必要なんてない。
ただ、甘える量を間違えなければいい。
それが分かったなら――
もう、証拠はいらない。




