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【証拠はいらない】恋愛すると重くなってしまう

作者: Wataru
掲載日:2026/02/19

 事務所のドアが、遠慮がちに開いた。


「……相談、いいですか?」


 入ってきた女性は、どこか疲れた顔をしていた。


 ソファに寝転がっていた俺は、片手を上げる。


「どうぞ。恋愛でも借金でも、愚痴でも歓迎」


 隣から冷たい声が飛ぶ。


「せめて座って対応しなさい」


 相棒だ。


 仕方なく体を起こす。


 女性は椅子に座るなり言った。


「私……恋愛すると、相手に重いって言われるんです」


「毎回?」


「……はい」


 視線を落とす。


「最初は、普通なんです」

「でも、付き合ってるうちに」


 指をぎゅっと握る。


「連絡が遅いと不安になって」

「誰といるのか気になって」

「嫌われたんじゃないかって怖くなって」


 声が小さくなる。


「気づいたら、相手を責めてて……」


「それで、終わる?」


 小さく頷く。


「また同じことになる気がして、恋愛するのも怖くて……」


 しばらく黙る。


 横で相棒が、静かに口を開く。


「好きだから、不安になるのよね」


「……はい」


 俺は腕を組む。


「で、相手に何を求めてる」


 女性は、しばらく考えてから答える。


「安心……ですかね」


「ずっと?」


「……たぶん」


 俺は小さく息を吐く。


「そりゃ、重くなる」


 女性の肩がびくっと揺れる。


「でも」


 続ける。


「甘えるなって話じゃない」


 女性が顔を上げる。


「甘えるのは、別にいい」


 少し間。


「ただ」


 窓の外を見る。


「相手に全部背負わせるな」


 静かに言う。


「甘えるのは、少しでいい」


 沈黙が落ちる。


 女性は、しばらく考えてから、ぽつりと言った。


「……自分で抱えきれない分を、全部渡してたかもしれません」


「だろうな」


 相棒が続ける。


「相手も、人だから」


「……はい」


 女性は、小さく笑った。


「ちょっと、分かった気がします」


 帰り際、来たときより少しだけ表情が軽くなっていた。


 ドアが閉まる。


 俺はソファに倒れ込む。


「解決したな」


「してないわよ」


 相棒はため息をつく。


「でも、少しは楽になったでしょ」


 しばらく沈黙。


「……まぁな」


 コーヒーの湯気が、静かに揺れていた。


 恋愛で不安になる自分が、

 悪いと証明する必要なんてない。


 ただ、甘える量を間違えなければいい。


 それが分かったなら――


 もう、証拠はいらない。

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