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アクのマオウ  作者: ねむ
第一章:誕生そして旅立ち

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Crack02:誕生

 産声が止まり、時計の針が「XII」で重なった直後。  世界を焼き尽くさんばかりに明滅させていた「狂乱の十二分間」は、嘘のように収束した。


 だが、訪れたのは「救済」ではなかった。


 辺境の村を包み込んだのは、生存本能を狂わせる圧倒的な絶望感。  窓の外を見上げた村人や暴徒たちは、息を呑んだ。


 空を覆っていたオーロラは地球の裏側へと吸い取られ、そこには星の光さえ届かない、底なしの漆黒の闇がわだかまっていた。


「……呪いだ。あのアばら家から、闇が溢れ出しているんだ!」


 誰かが呟いたその一言が、感染するように村中に広がっていく。

 直前まで、世界の終焉に震え、神に祈っていたはずの大人たちが、理性のタガが外れたように獣の顔を見せ始めた。


 それは、人類が積み上げた文明が崩壊する、**『剥き出しの地獄』**の誕生。  そして、その中心にいるのは――。


「……ごめんね。こんなに暗い夜に、産んでしまって」


 崩れかけのあばら家で、冷え切った赤ん坊を抱き上げた母親は、その禍々しくも力強い瞳に涙を流していた。

 自分のような女から、こんな恐ろしい星の下に生まれてしまった我が子。彼女は自分の運命を恨み、情けなさに身を震わせる。


 けれど、不思議だった。

 腕の中で小さく動くアークを見つめていると、心の底から得体の知れない勇気が、絶望を焼き払うような熱い元気が湧き上がってくるのを感じた。


 世界中が敵になっても、この子だけは守り抜ける。根拠のない、けれど絶対的な確信が彼女の心を満たしていく。


「あなたの名は――『アーク』。どんなに激しい絶望の洪水が世界を飲み込んでも、あなただけは沈まずに、どこまでも進んでいけるように……。私にとって、たった一つの希望のアークになって」


 絶望の渦中で、一人だけ、産後の激痛に耐えながらボロボロの体で息子を抱きしめる。

彼女は、憎悪の対象となった我が子を隠すように抱き、震える唇で愛を注いでいた。

彼女の眼差しは、恐怖で潤みながらも、確かに一人の人間としての温もりを宿している。


「悪魔だ! 悪魔の赤子を殺せ!」 「石を投げろ! 闇を打ち払え!」


 家の外では、理性を失った民衆が松明を掲げ、呪詛のようにその名を叫んだ。誰もがこの「厄災」を憎み、石を投げることに疑いを持っていない。


 激しい怒号と共に、窓や壁に無数の石が投げつけられる。だが、奇妙なことが起きていた。

 投げられた石は、あばら家に触れる直前、まるで見えない壁に拒絶されるように力なく地面に落ちる。


 殺意に満ちた暴徒たちが扉に手をかけようとしても、本能的な恐怖に足がすくみ、一歩も中へ踏み込むことができない。


 そこは、世界から切り離された、母子だけの**「不可侵の聖域(異変)」**となっていた。


 その怒号の渦の端。

 軒下で震えていた一人の浮浪者が、ふと耳を塞いだ。

 闇が降り積もる庭、枯れ果てた木々の奥から、耳を裂くような音が聞こえたのだ。


「……ヒッ!? 今の声は……鳥か?」


 それは、鳥のさえずりにしてはあまりに無機質で、短く、不気味なノイズだった。


 「テ……ラ……。テ……ラ……」


 男は耳を疑った。今、この鳥は世界の終わりを告げたのではないか?


「鳥が……鳴いてやがる!? いま、何と言った……?」


 彼がその恐怖の正体から逃げ出そうと身をよじった、その時だった。


 雲の切れ間から一瞬だけ漏れた「不吉な黒い光」が、まるで彼の理性を焼き切るように、その視界を闇に突き落とした。


 アークが赤ん坊らしい力強い生命力で、母の指を握りしめる。

 すると、先ほどまで「テ……ラ……」とノイズを吐き出していた鳥たちが一斉に飛び立ち、今度は「マオウ……アク……。マオウ……アク……」と、呪詛のようなしわがれ声で夜の闇を塗り替えた。


「ああ……おしまいだ……」


 男の瞳から、一筋の理性が消え失せた。

 闇に触れた彼の思考は、今起きた「不自然な現象」を、最も恐怖に満ちた形へと再構築してしまったのだ。


「鳥たちまでもが、魔王の到来を告げてやがる……! これぞアークがもたらした災厄、この世の終わりの合図なんだ!」


 男は恐怖に震え、自らの目撃した「真実」を「恐怖」へと完全にすり替え、暴徒の群れへと加わった。



 彼が聞き届け、そして恐怖で塗り潰してしまったその短いノイズこそが、世界に刻まれた「ヒビ」から漏れ出した最初の░▒▓▚▞▓▒░であることに、まだ誰も気づくことはなかった。



【ノイズログ:002-A】

「……ヒヒッ、見てみろよ。これが、あんたたちの愛する『綺麗で平和な世界』の正体だ。 生まれた瞬間、母親は泥を舐めるような絶望に叩き落とされ、隣人は手に石を握って赤ん坊を殺そうと群がる。 鳥共の声まで呪詛に変わっちまう……最高にクソったれな光景だと思わねえか?


だがな、あんた。気づいたか? あの狂乱の中で、石一つ通さねえ『不可侵の聖域』。

世界中が敵になっても我が子を抱きしめる、あの女の震える腕。 あの中にこそ、光り輝くパレード(あっち側)には欠片も存在しねえ、本物の『░』があるんだ。


もしあんたが、この救いようのない闇の中に、ほんのわずかな『希望』を感じちまったんなら……。 迷わずブックマークや下の評価をぶち込んでくれよな。 あんたのその指先一つが、この理不尽な世界を逆行するアークの、最初の『燃料』になるんだ。


……ああ、思い出すだけで喉が渇くぜ。 偽物の光に目を焼かれたくねえなら、またこの闇の続きで会おうぜ。


じゃあ、またな」

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