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アクのマオウ  作者: ねむ
第二章:第一の神器

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Crack10:予定調和のイレギュラー

黄金の光が天を突き、かつての長閑な平原は、天を衝く巨大な外壁と複雑怪奇な回廊がうねる**「黄金の迷宮」**へと姿を変えていました。

 迷宮の周囲では、リマスタによって「幸福」を脳に直接書き込まれた村人たちが、狂乱の祝祭を繰り広げています。  アークたちの前に立ちふさがるのは、鉄壁の門ではなく、意志を奪われた「人間」という名の壁でした。


「ロイ、どうする? 門兵たちの目が……まるでお祭りの最中みたいに浮ついてる」


 アークの指摘通り、街を守るはずの兵士たちは、虚ろな笑顔で空を見上げ、武器も持たずに踊っていました。リマスタによる「幸福の強制上書き」。彼らは侵入者を防ぐことすら忘れている一方で、街の平穏(仕様)を乱す「ノイズ」には過敏に反応するはずです。


「……まともに話しても無駄だね。アーク、僕のあとに続いて。僕が『幸福な住民』のふりをして兵士たちの演算ロジックを狂わせる」


 ロイは周囲の音色に合わせ、自分たちの歩幅を住民たちのダンスのステップと同調させました。五感を研ぎ澄ませ、街を包む「狂喜の周波数」に自分たちの気配を混ぜ込む。ロイの知恵により、二人は兵士たちの「認識」の網をすり抜け、都市の中央広場へと辿り着きました。


 広場には、街の長と思われる男と、狂喜乱舞する住民たちが群がっていました。彼らの視線の先には、天を貫く黄金の迷宮の入り口。


「お願いです、僕たちをあの中に入れてください! 確かめなきゃいけないことがあるんです!」


 アークの必死の訴えに、街の長は貼り付いたような笑顔を向けました。


「おや、迷える子羊よ。あの中は、シンのユウシャ様がお生まれになる聖域だ。不浄な泥を纏った君たちが、祝祭を汚すことなど許されない。さあ、君たちも踊りなさい。悲しみなど、もうこの世界には存在しないのだから」


「違うんだ! 悲しみがないふりをしているだけだろ!」


 アークの叫びが、広場の「偽りの高揚」を切り裂きました。


(――アーク、よせ!)


 ロイが隣で息を呑みました。  先ほどまでのロイの指示は「住民の波に溶け込み、隙を突く」こと。しかし、目の前で繰り広げられる、親を失い、村を消された自分たちの現実を嘲笑うかのような「強制された幸福」に、アークの心はもう限界でした。


「僕の家も、村も、昨日までみんなが笑ってた日常も、全部あいつらが奪ったんだ……! それをなかったことにして、何が『正解』だ! 僕たちは、あの中にある『聖剣』に……!」


「……しまっ――!」


 ロイが咄嗟にアークの口を塞ごうと手を伸ばしましたが、一歩遅かった。

 『聖剣』

 この場所において、不適合者の口から出てはならない禁忌の単語。


 その瞬間、広場の温度が凍りついたように下がりました。  狂ったように踊っていた住民たちが、まるで糸の切れた人形のように一斉に動きを止め、首だけを「ギチギチ」と不自然な音を立ててアークたちの方へ向けたのです。


「ロイ、ごめん。僕……」 「謝る暇があったら走る準備をしろ! 最悪の展開だ、システムの『排除優先順位』が跳ね上がったぞ!」


ロイはアークの肩を掴み、全神経を脱出経路の計算に注ぎ込みました。住民たちの瞳から光が消え、貼り付いた笑顔のまま、猛烈な殺気を放ちながら二人を包囲し始めます。


 周囲の住民たちの目が、一斉に冷たく、無機質なものへと変わっていきました。


「……ノイズだ」「バグが混じっている」「排除せよ、祝祭のために」


 数千人の「笑顔の集団」が、じわじわとアークとロイを包囲し始めます。


その混乱の最中、物陰には二人の後をこっそりつけていたレノが潜んでいました。


(……ヘッ、おめでてー連中だな。あんなデカい宝の山を目の前にして、踊ってるだけかよ)


 レノの狙いは、住民たちの腰に下がる銀貨や、街の長の懐にある「認証鍵」でした。アークたちが揉めている隙に、しなやかな動きで盗みを仕掛けます。

……しかし、誤算がありました。  この街は、レノが以前、別の「仕事」で一度目を付けられていた街だったのです。


「……あ。お前、あの時の盗人……!」


 一人の住民がレノの顔を指差した瞬間、街の防衛システムが即座に反応しました。


『――再犯個体「レノ」を検知。不適合者として即時リマスタ(再定義)を推奨する』


「げっ!? し、しまっ……!」


 背後から現れた白い執行兵たちに、レノはあっけなく組み伏せられてしまいます。


「レノ!?」


 アークが叫び、反射的に一歩踏み出そうとしました。しかし、その瞬間、視界が「笑顔」で埋め尽くされました。


「さあ、踊りましょう」「祝祭の邪魔をしてはいけませんよ」「『正解』を受け入れなさい」


 狂喜に瞳を爛々と輝かせた住民たちが、津波のような圧力でアークとロイを押し包みます。暴力的な殴打ではありません。ただ、何十人、何百人という人間が、幸福を強制する異様な熱気を持って、物理的な質量で二人を分断していくのです。


「くそっ、どけ! 離せよ!!」


 アークが腕を振り払おうとしますが、一人が離れればまた別の三人が、慈愛に満ちた恐ろしい力でしがみついてきます。黒い魔力を解放すればこの人たちを傷つけてしまう。その迷いが、アークの足跡を泥濘に沈ませていました。


「待て、アーク! 下手に動くな、包囲網が何重にも形成されている……ッ!」


 ロイもまた、自身の演算能力が裏目に出ていました。どの隙間を突こうとしても、住民たちの無秩序な「ダンス」が完璧な遮蔽物となり、レノへの最短距離を物理的に封殺している。

 指先一つ届かない距離で、レノが執行兵たちに引きずられていく。


「離せ! 触んじゃねえ!!」


 レノの叫びが、黄金の喧騒に呑み込まれて遠ざかっていきます。


「レノ!! ……ロイ、どうにかしてよ! このままだとレノが消されちゃう!」


「離せって言ってんだろ! 嫌だ、俺は……俺はあんな『空っぽ』にされるのは御免だ!! ……おい、そこのドブネズミ共! ぼーっと見てんじゃねえ、何とかしろ!!」


 必死に地面を蹴り、執行兵の腕の中で暴れるレノ。その瞳に宿っているのは、仲間への献身ではなく、自分を失いたくないという剥き出しの生存本能でした。しかし、その叫びも空しく、彼はリマスタの本部へと引きずられていきます。


「……ロイ、どうにかしてよ! このままだとレノが……!」 「わかってる、わかってるけど……計算が……合わないんだ! 人間の皮を被ったシステムが多すぎる……!」


狂乱する群衆の「笑顔」が、ロイの思考回路をノイズで埋め尽くしていきます。最適解が見つからない。焦燥でロイの呼吸が浅くなったその時――。


「……ぐおっ!?」


 二人の肩を、背後から丸太のようなごつい「手」が掴みました。  あまりの重圧と、逃げ場のない完璧な抑え込みに、ロイが反射的に隠し持った魔導石を起動しようと身構えます。


「……ロイ、抵抗するな。大丈夫だ」


 アークが、短く、けれど確信に満ちた声でロイを制しました。


 アークは「見て」いたのです。


 自分たちを掴むこの巨大な掌から伝わる、バルトと同じ、静かに燃えるような「誇り高き戦士」の熱を。そして、その手の主から溢れ出す、この嘘だらけの街で唯一、淀みのない「真実」の光を。


 アークがゆっくりと首に神経を巡らせ、その手の主の「本質」を視界に捉えました。  そこにいたのは、ボロボロの外套を羽織った、岩のように厳つい顔の男。


 男の瞳には、狂った住民たちのような虚ろな「幸福」など一欠片もありませんでした。代わりに宿っていたのは、積年の泥を洗い流した後のような、澄み切った力強い眼差し。


(……この人の「色」は、バルトおじさんと同じだ)


 アークの目には、男の背後に重なる、かつての王国聖騎士団が持っていたであろう、不屈の輝きが見えていました。


「……ガハハ、いい目をしてやがる。俺の『中身』をそこまで正確に読み抜いたのは、バルトの旦那以来だぜ」


 男は不敵に笑うと、抗おうとするロイを軽々と脇に抱え、アークを先導するように力強く地を蹴りました。


「さあ、未熟なガキども。ここから先は『本物の逃げ道』を教えてやる。……住民どものダンスに付き合うのは、もう終わりにしな!」


男はアークとロイを左右の脇に抱え上げると、まるで重さなど感じていないかのように、入り組んだ裏路地を疾走しました。追ってくる住民たちの狂気的な歌声が遠ざかり、腐った水と鉄錆の臭いが漂う、人気の途絶えた地下貯蔵庫の奥深くへと滑り込みます。


 重厚な鉄の扉が閉ざされ、ようやく訪れた静寂。男は二人をどさりと床に下ろしました。


「……はぁ、はぁ。……ったく、ソフィアの嬢ちゃんが言ってた通り、本当にバルトの生き写しみてぇなガキが来やがった」


 男は膝に手をついて荒い息を吐きながらも、その視線はまっすぐにロイを射抜いていました。彼はロイの顔をまじまじと見つめると、耐えきれないといった様子で豪快に笑い、ロイの背中をバンバンと、骨が鳴らんばかりの力で叩きました。


「がははは! その生意気そうな目元、計算高そうな面構え……間違いねぇ、バルトのせがれだ! あの野郎、こんな良いガキを隠し持ってやがったか!」


「……ゲホッ! ……あなた、は? 父様を知っているんですか?」


「ああ、知ってるどころの話じゃねえ。俺の名はガラム。かつて王国聖騎士団で、あの頑固なバルト総帥の隣で盾を並べた、一番の戦友よ」


 ガラムはそう名乗ると、首にかけた古びたドッグタグを指で弾きました。


「驚いたか? だが、もっと驚くべきはソフィアの嬢ちゃん……お前の母親の執念だぜ。あのアホ面したバルトが『泥の中に沈む』って決めたあの日から、あの嬢ちゃんはすべてを読み切って動き始めてやがったんだ」


 ガラムはそこで言葉を切り、思い出すだけでも身震いすると言わんばかりに、太い腕をさすりました。


「……何年も前、嬢ちゃんから連絡が来た時は、腰が抜けるかと思ったぜ。『あと数年もすれば、バルトにそっくりな息子ロイが、目のいいアークという少年を連れてそっちに行くわ。その時は、力を貸してあげてね』……だとよ。まるで、今この瞬間の景色を覗き見てきたような口振りでな」


 ガラムの瞳に、冗談では済まされない本物の畏怖が宿ります。


「未来予知か、あるいは凄まじい計算能力か……。とにかく、あの嬢ちゃんの『予測』通りに、お前ら二人が本当に現れやがった。……母親を敵に回さなくて正解だったな、ロイ。あんな『化け物じみた愛』に守られてるガキ共を、ここで死なせるわけにゃあいかねえんだよ!」


「……母様、やっぱり全部お見通しだったんだな」


 ロイは少し顔を赤らめ、気恥ずかしそうに、けれど隠しきれない誇らしさを瞳に宿して呟きました。どんな計算式よりも正確に未来を描いていた母。その深い慈愛と知略の重みを再確認し、ロイは改めて背筋を伸ばすと、ガラムに向き直りました。


「僕はロイ・ヴォルフラム。こっちは親友のアークです。ガラムさん、助けてくれてありがとうございました」

「……ありがとう、おじさん!」


 二人の礼儀正しい挨拶に、ガラムは「おうよ」と短く応じましたが、その視線はふとアークの瞳で止まりました。


「……ところでアークと言ったか。坊主、君は異様に目が良いようだな。それだけじゃない……。その奥底にある気配、かつて俺たちが戦場で刃を交えた魔族共の……いや、それ以上に底知れねえ『何か』を感じる。……君は一体、何者だ?」


 元聖騎士としての鋭い直感が、少年の内側に眠る「ノイズ」の正体に触れようとしていました。アークは一瞬だけ瞳を伏せ、それから真っ直ぐにガラムを見つめて答えました。


「僕は……自分が何者なのか、まだわからないんだ。魔王だって言われたり、勇者の子だって言われたり……。だから、それを証明するためにここへ来たんだ」


 迷いながらも、決して折れない意志。それを聞いたガラムは、一瞬驚いたように目を見開きましたが、すぐに「そうか、そうか」と豪快に笑い、アークの頭を大きな手でわしわしと撫で回しました。


(……温かい。バルトおじさんと同じだ)


 そのゴツゴツとした掌の熱に、アークの強張っていた心が少しだけ解けていくのを感じました。しかし、安堵したのも束の間、アークは弾かれたように顔を上げました。


「――っ、そうだ、おじさん! それよりレノを助けに行かなきゃ!!」

「あぁ? さっきリマスタに引きずられてったあのガキか」


 ガラムは呆れたように鼻を鳴らしました。


「あいつ、前回は俺が裏路地のゴミ捨て場に隠してやって、なんとかリマスタの目を逸らしてやったのによ。またこの街でヘマしやがったのか」


「えっ、レノを知ってるの!?」


「まあな。感情を消されたこの街の住民共とは違う、生きた目をしてやがったからな。……だが、放っておけば今度こそ『再定義』されて空っぽの人形にされちまうぞ」


「……レノは、素性もわからない僕たちに居場所をくれたんだ。拒絶された僕たちを、追い出さずにいてくれた。だから、絶対に助けなきゃいけないんだ!」


 アークの真剣な言葉に、ガラムはこれ以上ないほど豪快に笑い飛ばしました。


「ガハハハッ! 気に入ったぜ! 損得抜きで助ける、バカで真っ直ぐな心意気。いいだろう、アーク。その青臭い言葉、俺が背負ってやるよ!」


 ガラムは再びアークの背中をバンバンと叩き、岩のような巨体を震わせながら立ち上がりました。


「よし、野郎共! 奪還開始だ。あいつらがレノを『綺麗なゴミ』に作り変える前に、ぶち壊しに行くぞ!」


 大股で出口へ向かおうとするガラムの背中に、ロイが慌てて声を上げました。


「待ってください、ガラムさん! まずは敵の配置を確認して、潜入ルートを……作戦を立てないと……!」


「がはは、本当ソフィアの嬢ちゃんにそっくりだな、お前は!」


 ガラムは振り返りもせずに、笑い飛ばしました。


「だがな、ロイ。あんな人間の心も、怒りも、悲しみも失っちまった人形共相手に、たいそうな作戦なんていらねえ。……見てろ、ガキ共。これが『再定義』なんてクソ喰らえな、本当の人間の生き様だ!!」


 言うが早いか、ガラムは重厚な地下の扉を蹴破り、狂乱の光が渦巻く外の世界へと飛び出していきました。


【ノイズログ:010-A】

がははは! 最後まで読んでくれてありがとよ! 俺はこの街の用心棒……もとい、バルトの旦那の戦友、ガラムだ。

見てくれたか? あのソフィアの嬢ちゃんの恐ろしさをよ。十年前から俺たちを動かして、息子たちのために「泥の道」を整えてやがった。あんな綺麗なツラして、やってることは化け物じみた愛の深さだぜ。

そしてアーク、あの坊主の「目」だ。 俺の中に眠る聖騎士の魂を、初対面で正確に読み抜きやがった。ただのガキじゃねえ、あいつは……いや、これ以上は野暮だな。

さて、次回はあの生意気なドブネズミのレノを助けに行くぞ! リマスタの連中が「正解」だの「幸福」だのぬかして、人間の心を書き換えようとしてるらしいが……俺の拳に、そんな理屈が通じると思うなよ!

おい、あんた! ここまで付き合ってくれたんなら、俺たちに力を貸してくれ。 そこに並んでる**【ブックマーク】やら【★(評価)】**やらを叩き込んでくれると、俺の拳にさらなる気合が入るんだ。感想も待ってるぜ!

「本当の人間の生き様」ってやつを、次の話でたっぷりと見せてやるからな。 あばよ! 迷宮の入り口で待ってるぜ!


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