婚約破棄されたので令嬢バトルで決着をつけます ~愛・闘衣は令嬢の嗜みです~
「ユリア! セイコを虐めたお前の性根は腐っている! お前とは婚約破棄だ!」
「ユリア様! 謝ってください!」
王子アベルと聖女セイコが喚き立てても、公爵令嬢ユリアは冷静だった。
「私はやってないわよ。でもあなたはあくまで私がやったというのね?」
「そ、そうです! しらをきるつもりですか!」
「だってやってないもの。教科書を破られたでしたっけ? 発覚したのは三日前の午前9時だったかしら? となると犯行は四日前の授業後から三日前の朝までに行われたとなるわけだけどお生憎様。四日前の私は魔道TVで『この世の果てまでダンサブル』を鑑賞してたわ」
「二年前に話題になったあれですか? 私見てない! どんな内容なんです!?」
「ダンサーがこの世の果てを目指して旅をするのだけど、徐々に踊り仲間は増えて行って旅は豪華になっていくの。光の腰と闇の腰の最後の戦いは涙なしでは見れないわ」
「光の腰と闇の腰……」
壮絶な勝負が目に浮かび、セイコはごくりと息を呑んだ。
「私もアモプラに加入しようかな?」
「ダンサブルはネッホフリッコスの方よ」
「あ、そうなんですか。ご丁寧にどうも……じゃなくてユリア様! 謝ってくださ……」
「でも私としては正直その前に見た『婚約破棄シャーク』の方が面白かったわね」
「サ、サメ映画? 異世界でサメ映画あるの!? み、見たい! って話をそらさないで……」
「シャーッシャッシャッて笑うのよあのサメ」
「ぶほ! なんて安直なっ!!!」
「第一犠牲者は王子殿下ね。サメは婚約破棄に反応するから」
いきなり話を振られて王子はぎょっとした。
「え、俺死ぬの? じゃなくて時間稼ぎもいい加減にしろ! セイコを虐めたお前は国外追放だ!」
「だから言ったでしょ? 私は何もしてないって。この子の相手をしている暇あったら『ダンサブルシャーク』を見るわ」
さらなるサメの供給にセイコの瞳が輝いた。
「まさかのコラボ!?」
「つい先日配信されたばかりよ。だから先に過去作二つを予習してたの」
「内容は!?」
「永遠に踊り続けるヒーローと永遠に踊り続けるサメと、魂のぶつかり合いらしいわ。なお最初の犠牲者はやっぱり王子殿下との事」
そしてやっばり王子に飛び火した。
「何故に!?」
「セオリーだから。今王子第一被害者ブームまっただ中よ?」
「セオリーだからって王子も生きてるんだ! っておい! 魔道スマホ弄ってんじゃない!」
「興味ないしー。あははこれチョーウケる」
「貴様ぁ! 許さんぞ!!」
王子はのらりくらりかわされて憤る。
「殿下、落ち着いてください。このままではユリア様の思うつぼです」
王子より先に釣られて脱線したのに、セイコはしれっと自分はそれまでも冷静でしたよと装って王子を諭した。
「すまないセイコ。やはり俺には君が必要だ」
あっさり騙される王子の頭はどこか残念だった。
「ユリア様……」
茶番は終わりと言わんばかりにセイコはユリアへと詰め寄る。なお王子がユリアに突っかかっている間、セイコはちゃっかり魔道スマホでネッホフリッコスに加入を済ませていた。選んだのは最高額のプレミアム会員で後の準備は万端だ。
「せっかく見逃してあげようと思ったのに引かないってわけね」
「はい、私は殿下を愛してますから。そしてあなたも救いたい!」
「反吐が出るほどに甘いわね。でもその覚悟決まった所は嫌いじゃないわ。私は嘘は言ってないわ。あなたもそうだと言う。譲れないのは同じ。このままだと平行線よ。だったらやる事は分かるわね?」
「はい」
「良いでしょう! では上がりなさい! 決戦のバトルフィールドへ!!!」
ユリアの掛け声とともにダンスホールの中央が、ゴゴゴという無駄に仰々しい音を立ててせりあがっていく。いきなりの事に王子は戸惑った。ダンスホールにこんな仕掛けがあるなんて知る由もなかった。
「な、なんなのだこれは!?」
「こ、これは令嬢バトル!」
「知っているのかデリック」
王子に問いかけられて、物知り眼鏡君ことデリックが頷く。
「ええ、遠い昔やったらめったら婚約破棄が起こったらしく、もう裁判めんどくせーってなったため、もう令嬢同士殴り合って決めろやって事になったそうで。決戦のバトルフィールドはいわゆる古代の儀式です。まさか本当に実在していたなんて!」
「なんだと! 殴り合いだなんてそんな危険な事をセイコにさせるわけにはいかん!」
慌てて戦いを止めようとする王子をセイコは静止した。
「大丈夫です殿下。私たちの真実の愛はいくらユリアさんがパーフェクトレディでも負けません!!」
セイコは己自らの足で決戦のバトルフィールドの上へあがると、勇ましく雄たけびをあげた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
まばゆい光がセイコを包み、辺りがざわつく。
「ま、まさか? あれは!?」
そして光が収まった後セイコはピンク色に輝く鎧を纏っていた。セイコの姿を見て誰かが叫んだ。
「あれは愛・闘衣!!!!」
「あれも知っているのかデリック?」
「愛・闘衣とは真実の愛に目覚めた令嬢だけが身に着けることが出来る伝説の鎧です。その愛の力は絶対で魔王すらも倒すと言われるほど」
「つまり?」
「セイコ様の勝利は揺るぎありません!!」
ここぞとばかり眼鏡をくいっとするデリック。気を付けろ。それはフラグだぞ。
「そうか! よしセイコ! ここまで来たら君を信じよう! 憎きユリアに引導を渡すのだ!!」
「はい! 私がこの真実の力を持ってしてユリア様に謝ってもらいます!」
愛の力を解放したセイコを中心にピンク色の闘気が渦を巻いている。その力は凄まじく、空気が振動する。王子含め、これまでの一部始終を見ていた周りの貴族達は核心した。セイコの力は本物だと。
だがユリアに焦りの表情はなかった。王子が怪訝に思った瞬間、ユリアからも光が放たれる。
「まさか、嘘だろ? まさかユリア様も?」
ユリアは自虐的な笑みを浮かべ、彼女もまた光に包まれる。彼女も愛・闘衣が使えるのは確定的に明らかであった。
「ふふ、愛・闘衣は令嬢の嗜みでしてよ」
光が収まった後、現れたのはもちろん愛・闘衣をまとったユリア。彼女の鎧は真紅、セイコの包み込むような愛とは違う、燃えるような愛であった。その美しさはセイコにもひけをとらない。
「どうして? どうしてだ!?」
「どうしたデリック!?」
「愛・闘衣は真実の愛に目覚めた者にしか纏えないはずなんです。一体どうしてユリア様が!?」
「もしや彼女にもいるというのか……真実の愛の相手が」
王子の胸に苦い思いが宿った。自分が捨ててやったはずなのにどうして。
「俺はユリアの事が嫌いではなかったのか?」
その問いの答えは返ってこなかった。
「ユリア様流石です」
「あなたもね。まさか愛・闘衣まで習得していたなんて。取るに足らない相手と思ってた事をお詫びするわ」
「何故嬉しそうにしているのです? あなたは追い詰められているのですよ?」
「くだらない冗談はよして? 私が負けることなんてありえないわ。でも愛・闘衣を習得したあなたには教えてあげる。なぜ私が嬉しいのか。それはとうとう全力を出せる相手と巡り合ったからよ。その点はアホ殿下に感謝しないとね」
「殿下はアホですけどそこが愛らしいんです!」
「ふふ、悪いところ含めて好き、か。真実の愛は本物のようね。でも私の愛はそれを上回るわ。構えなさい」
セイコは言われるがまま臨戦態勢にはいる。緊迫した状況に流石の王子も口をつぐむ。そんな時であった。
「あっ」
デリックがどこか場違いな声を上げた。
「デリック今いいとこなんだぞ。空気読め」
王子が諌めるが、デリックは王子の胸を指差す。
「私がどうかしたのか? これは?」
王子の胸にはピンクのハートマークと赤いハートマークが重なっていた。
「なんと、ユリア様も本当は殿下を愛していたのか!」
「ユリアが……?」
「はい、愛・闘衣を纏った際、真実の愛の対象となる者にはハートマークが浮かび上がるのです。二つのハートマークを持つ殿下は二人に愛されているという事になります」
「そんな馬鹿な……あいつは俺の事が嫌いではなかったのか?」
神妙な表情を浮かべる王子であったが、突然デリックが騒ぎ出した。
「で、殿下! 衝撃に備えてください!」
「は? 何を言っている? 令嬢バトルとはそんなに危険なものなのか?」
「ええ、殿下限定で」
「俺限定、どういう事だ?」
「愛・闘衣は巨大な力を生みますが、大きな代償があるんです」
「代償……だと?」
「愛・闘衣は真実の愛の具現化です。真実の愛には相手が必要。だから二人で一つのわけです。だから責任は男側にも生じます。具体的に言うと愛・闘衣装着時の令嬢のダメージは全部殿下にフィードバックするのです!!」
「はっ!?」
「より具体的に言うと殿下のムスコに全集中です!!」
「ほげぇぇぇぇぇぇっ!!!?」
「しかも殿下はセイコ様とユリア様2人分の対象となってます。つまりは……」
王子はこれから起こる惨劇を正しく理解し、青ざめた。王子は慌てて絶望の未来を変えるために叫ぶ。
「二人ともやめろー! お願い!! 愛してるー、愛してるからー!!!」
「愛が高まるぅ! 溢れるぅ!!」
「コォォォォォォォォォ!!」
その切ない叫びは闘気を高める二人には届かない。そして、
「「れ・い・じょ・う・波ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
王子はその日、天国を見た。
婚約破棄を全力でギャグに振ってみました。
かねてから考えていた、愛・闘衣、決戦のバトルフィールドネタを入れられて満足。
映画っぽい部分はその場のノリだけで書きました!
楽しんでいただけたら嬉しいです。




