表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

初夏の蒼い海

作者: Rリアリィ

大体7月上旬の初夏になると、いつも思い出すことがあった。あれはまだ20歳の頃、ローンを組んで何とか買ったWRXを乗り回していた時の思い出。その日、偶々海の話になり、行くなら何処の海か、何をするか、そんな他愛のない話で友達と盛り上がった。自分も海を眺めたいという明確なしたいことがあったが、言わなかった。少々背伸びをしていると思われてしまうことを避けたかったからだった。そんな話を思い出し、10を指す時計の時針を見て、蒼い車のキーを取ってよく見た実家の玄関のドアを開けた。ガレージのような屋根にはライトが着いており、そのライトが反射して光る赤いSTIのエンブレムが好きだった。運転席のドアを開け、乗り込み、イグニッションボタンを押してギアを1速に入れた。最寄りのインターへ向けて車を走らせた。インターへ着き、まだ新品の匂いを漂わせるETCカードを差し込んでゲートをくぐった。そして本線へ合流し、100Kmの巡航が始まった。まだ慣れていない高速だったが、この時だけは、不思議と余裕があった。

1時間ほどで着いた暗い海は月光を反射して輝いていた。海岸線の側道へ入りハザードを炊いて停車した。ドアを開け、降りて眺めたその海は黒く、蒼く、輝いていた。初夏の爽やかな潮風が体を通り過ぎ、サザーンと波打った海の音が聴こえてくる。車に寄りかかり、ポケットの中から煙草とライターを取り出した。カチッ、と言う音と共に煙草に火が付く。その紫煙は頭の上を漂うと、潮風に乗って飛んでいった。シルバーの車体には、月光で輝く海と赤く小さく光る煙草が写っていた。その時、後ろから車が一台、後ろに停車した。そのドアから出てきたのは、自分と同じくらいの歳の女性だった。自分に構わず、その海を眺めている彼女を見て、同じ考えの人が居ることを自覚した。ロングヘアーの髪をパッと跳ね上げて潮風を首元へ流した彼女の姿は、とても美しかった。煙草の吸殻を空き缶へ入れ、車に乗り込もうかという時に彼女がこちらに気付いた。少々驚くような素振りを見せたが、すぐに微笑してくれた。自分も会釈を返し、車へ乗り込んだ。方向転換し、彼女の車とすれ違う時に見えたのは、月光の中で美しく輝く女性の後ろ姿だった。その姿を網膜に記憶して、走り出した。信号に止まって、ナビを操作し、お気に入りの音楽を流した。心地よい感情が頭からスッと胸元へ流れ落ち全身へ飛散していった。その後の高速巡航をしている時もあの後ろ姿が忘れられない。そう思いながら運転していると気付いたら降りるインターへ着いていた。そうして下道を通り、自宅へ付くとライトが光り、エンブレムが反射した。そうして家に入ると、時計は2を指していた。思っていた以上に時間を使ったことを反省して、着替えて、布団へ入った。

まるで昨日の事のようだがとても美しい思い出だった。あの女性は誰なのか、あの海は何処の海だったか、段々と曖昧になる記憶の中でも、彼女は笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ