⑥
階段を降り真っ直ぐ玄関へ向かった。
靴を履こうとした時、外から人の話し声が聞こえた。
玄関は開けっ放しにしていた為、このままその話し声の人達がふとこの家を見たりしたら、間違いなく私は目撃される。
夜逃げした家に勝手に入っているのも問題だし、おまけに家中、荒らされ、挙げ句の果てに2階は血の海だ。
追求されたら目も当てられない。
無実なのは確かだが、町内の人間に下手な疑いをかけられたく無かった。
風子は靴は履かず手に持って急いで2階へと引き返した。
美沙の部屋へ入り窓へと近づき玄関口側にある窓にかかったカーテンの隙間から表を覗き込んだ。
3人の男達が美沙の家がある方向へと歩いて来ている。
全員がキャップを目深に被り町会役場の作業着を着ていた。
近づくにつれ3人の話し声は段々と小さくなり、美沙の家の前に来ると全員が口を閉じた。
3人の男達は周囲を警戒するかのように辺りを見渡した後、2人の男がアルミ製の門扉を通過し美沙の家へと足を踏み入れた。
「来た」と風子は思った。
息を殺し耳を澄ました。
何処からか、微かに話し声が聞こえたが小声過ぎて何を言っているのか聞き取れなかった。
カーテンの隙間に目を戻すと門扉の前に立っていた男がいそいそと中へと入って来ていた。
どうやらさっきの話し声は、外の人間を呼ぶ為のものだったらしい。
風子は物音を立てないよう気をつけながら、美沙のベッドの下に潜り込んだ。
洋服箪笥でもあればそっちへ隠れようと思ったが、この部屋には箪笥はなかった。
シャツや下着類は透明なプラケースの中に収納されており、ダウンジャケットやワンピースなどは衣装掛けにかけてあった。
この部屋で唯一身を隠せる場所はベッドの下しかなかったのだ。