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閉ざされた唇  作者: 変汁
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「どの道、あんな障害を持った状態なら死んだ方が全然マシだと思うよ」


風子は言いながら起き上がった。


血を避けながら美沙の部屋へと入って行った。


壁中に貼られてあった韓流女性アイドルグループのポスターは綺麗にそのままだった。


ベッドもメイキングされたばかりのように綺麗だ。


漫画や雑誌も荒らされた形跡もない。


机の引き出しを開けてみたが日記のようなものは見当たらなかった。


美沙の性格からして日記を書いていると思ったが、勘違いのようだ。


念のためベッドの下も覗き込んだが何も無かった。


やっぱりあの身体では寝たきりの生活しか出来なかったようだ。


机の上に重ね置きされていた沢山のノートにも、文字の一つも書き記されてなかった。


風子はベッドに飛び込み横になって天井を見上げた。


しばらくぼーとしていると、ふと、車椅子を見かけなかった事を思い出した。


あれだけの血が流されたのだ。


事件を隠蔽する為に、夜逃げにする為には車椅子は運び出さないといけない。


その考えにいたると、車椅子が見当たらないのはごく普通の事だと思った。


けど、やはり何かが引っかかった。


風子は思考を巡らせた。


一昨年の儀式の後、退院した後、この家に戻って来てからの美沙が車椅子に乗っていたのを見たことがあっただろうか。


無い。


家族が美沙を連れて外に出た姿は?


私はなかった。


そんな話をお母さんやお父さんがしていただろうか?記憶がなかった。


美沙が健常な時より会う機会はめっきり減っていたのは間違いないが、だからといって風子が美沙と会わなくなったわけでもない。


最低、月一程度に顔は見せていた。その時、車椅子を見かけたか?

2階では見ていない。当然だ。


2階に車椅子を持って上がったって何の役にも立たない。


使用するなら一階であり、外出する時だ。それはつまり…


おじさんとおばさんは最初から美沙を外に出すつもりはなかったって事?


病室から出る時、車椅子は使わなかったって事?


いや、それは無いと思う。病院側が用意はしてくれていた筈。


となれば美沙の両親は病院から車椅子をレンタルしたり、個人的に買ったりはしなかったという事になる。


それなら外で美沙を見かけたという話が出ないのも不思議ではなかった。


でもそうなら、家に引きこもっているみたい、みたいな話がお母さんの口から出る筈だ。


なのに私はそんな話を誰からも聞いた事はなかった。


美沙の口からもだ。


「外には出たくない」という愚痴も耳にした事はなかった筈だ。


会いに来ても長時間過ごしたわけじゃないから、美沙も私に本音は言わなかったのかも知れない。


「そりゃそうだよなぁ」


風子は身体を起こした。


幾ら儀式とはいえ、あそこまで残虐な行為をされる謂れは無いと今更ながらに思う。


そんな目に遭ったのは美沙が町の神を否定したからだけど、その話は私にしかしていない筈だ。


「あぁ。そっか」


風子は私って自分の事に対しては鈍過ぎるなと思った。


美沙は儀式を否定した美沙の事を皆にバラしたのは、私だと思っていたのだろう。


だから会いに来ても多くは語らず、無理に韓流女性アイドルの新曲などの話を私に聞かせたのかも知れない。


私は私で、むごたらしい姿の美沙を、本当、馬鹿だと思いながら話をしてたから、美沙もそれを感じ取り、どうでも良い話で私が帰るのを待っていたのかも知れない。


「どちらにしても…」


風子はベッドから降りた。部屋を見渡した後、


「美沙達は夜逃げしたんだもん」


と言って部屋を出た。

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