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閉ざされた唇  作者: 変汁
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靴を脱ぎ捨て家に上がると、真っ直ぐ2階の美沙の部屋へ向かった。


玄関の横にある居間の戸は開け広げられ横目に映る室内はかなり乱暴に荒らされていた。


箪笥は倒されちゃぶ台は踏み潰されている。


湯呑みや茶碗、ポットがひっくり返った状態で畳の上に転がっていた。


風子は軋む階段をゆっくりと登って行った。


居間があの状態なら、美沙の部屋もかなり荒らされているだろうな。

そう思いながら風子が2階へ辿り着く一歩手前で上げた足が止まった。


数日経ったせいでか、黒ずんではいるが階段を上がりきった2階の踊り場に誰かが這ったような血の海が広がっていた。


良く目を凝らしてみると、右手の荷物置き場の障子戸も血飛沫が飛び散ったような跡があった。


咄嗟に美沙の部屋の戸へ視線を移すと、そこには恐らく美沙のものであろう小さく細い手形があった。


美沙はきっと背後から何者かに襲われながら必死に自室へ逃れようとしてその不自由な身体で立ちあがろうとしたのだろう。


部屋の戸には誰かに助けを求めるように、5本の指の血の跡が、くっきりと残っていた。


「マジか…」


風子はしばらくの間、片足を上げたままその場に立ち尽くしていた。


ふと気づき足を下ろすとそのまま階段に腰掛けた。


血の海を見ても風子は何とも思わなかった。


女は月一で大量の血を流すし、見る。


だから男よりは血に対しての免疫があると思っていた。中には生理の血と殺人、恐らくだが、襲われて出た他人の血とは別物だという人がほとんどだろうけど、風子は血は血だと割り切れるタイプの人間だった。


儀式の時は襲ってくる男を返り討ちにするくらい、他人を傷つけその身体から血を流す事も厭わない性格な為に、美沙の身におぞましい事が起きたであろう事にも全く動揺しなかった。


恐らく目の前にある血の海が美沙のものだろうと想像しても風子はどこ吹く風で、ただ少しばかり不憫だなと思った程度だった。


美沙を襲ったのが誰か、なんて考えたりするのは無粋だと風子は考えた。


おじさんとおばさんが結託し、美沙を殺害。その死体を持って夜逃げしたのかも知れない。


もしくは儀式の事を町の神であるシラヌ神や家臣のシクロ、シタリ、シナビの存在を美沙が全面的に非難、否定した事に対して数年、恨みを抱いていた者の犯行かも知れない。



それとも行きずりの強盗の犯行か。馬鹿馬鹿しい。こんな田舎町の家を襲って得することなんてない。


ましてや地主のようなとてつもなく大きな家じゃない。


そんなありふれた建売りのような家の家族全員を殺して何になる。そんな風に思いを寄せるが、風子にはここで起きた事に対しての答えは必ずしも必要ではなかった。


必要とする者がいるとしたら、それは町の外部の警察くらいのものだ。


この町の駐在は絶対に公にはしないし、町の駐在ならこの事件は絶対に闇に葬るに違いない。


何故なら駐在も町内会の様々な行事の実行委員だからだ。


美沙の家族は全員バチが当たったのだ程度にしか捉えず、なかった事にするだろう。


けど今はまだ、全員とは言わないまでも、町内会の人間はこの事に気づいて無さそうだった。


気づいていたなら血の海のこの現場を放置したままにはしない。


もしくは美沙を殺しただろうと考えられる犯人が町内会の役員だとして、単に夜逃げとして片付けておけばそれ以上詮索をされない事を知っている為、放ったままにしておいたとも考えられた。


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