大人へのプレゼント 【月夜譚No.329】
冬の海は、どこか淋しい。当然のことながら海水浴に来る人はいないし、海の家もやっていない。時折散歩をする影やサーファーが見えるくらいだ。
夏はあんなに賑やかだったのに、今は波の音に全て持っていかれそうなくらい落ち着いている。
彼女は浜辺に腰を下ろして、寄せては返す波間を見るともなしに眺めていた。目尻が痛いのは、冷たい潮風のせいにしておく。
ぼんやりとただ只管、そこにいた。どのくらい時間が経ったのかも判らず、やがて夕陽が水平線に沈む頃になってやっと自分の意志で瞬きをした。
そろそろ帰らなければ、明日の仕事に響く。そう思って重い腰を上げた時、空から音が降ってきた。
波の音にも負けないそれは微かで、けれど心地良く耳に残る。
「わあ……」
空を仰ぎ、思わずそんな声が漏れる。
暮れかけた空を淡い光が横断する。幻のようなそれは、きっと今日という日にだけ現れる子ども達のヒーローだ。今は準備運動のようなものだろうか。
もう自分のところには来ないだろうそれを見送った彼女の心は、荒んでいたのが嘘のように晴れていた。