第6話〔叔父とはじめての討伐依頼その①〕再開14日目[日中]
都会から打って変わって森の中。
姪と出会った当初の、自分の置かれていた立場から止む無くではあるが今となってはそこそこに新鮮で貴重な経験であったと感じ入る、ホロリ。
「――オジさん?」
「――ん。どうした?」
「ぇ、ぁぁ、なにか考えごとしてた……?」
「ああ、まー気にするな。大した事でもなし」
「ぅん。一応魔物も出る場所だから気を付けてね」
「おう、そうだな。気を付けるよ」
とまあ姪に心配をさせてしまったコトに若干の反省をしつつ、足元の悪い中木々の通り易い間隙を縫い目的の所へと進み行く。
ついでに道中無言なのも嫌なので。
「そういえば今回の依頼は直接だったけど、よくある事なのか?」
「ぇ、ぁぁ、よくはない……かな。通常はクエストと言うかギルドを通してお願いするのが普通かな」
「なるほど。じゃあ何で?」
「大体は仲介手数料を惜しむか単純にお金が無い依頼主、かな」
「なるほど……」
というコトはおそらく。
「後者だと思うよ、小さな村とかこれっていう産物が無い所は大抵困ってるから」
ふムと叔父は同意を漏らす。
「わざわざ直談判、相当苦しいと言う訳か」
「普通ならね。私に来るのは……」
「来るのは?」
「ぅぅん、なんでも無い。とにかく村の近くに出来たって言う魔物の巣を見付けて、処理しなきゃ」
「ふム。その処理と言うのは?」
「巣諸共征伐だね」
「要するに打っ壊して倒すんだな」
「まぁそう……」
段々とRPGっぽくなってきたな。と叔父は思う。
「ただ先ずは偵察、相手の勢力や規模を見てからでないと作戦も立てられないから」
「そうだな。……しかしだ」
まるで訝しげに見る様な叔父の雰囲気と視線を感じ、堪らず姪が足を止めて振り返り何と訊ねる。
「いや、なんて言うか。本当にあのヒメなのかなと……」
一体時期姪を想像しているのだろうか。と思いつつ――。
「――……何が?」
「いやほら、初めて動物園に行くってなった時なにから見て回るのかを悩んだ挙句決められずにパニクってたろ。それを思うと成長したなと」
「オジさん、ハッキリと言っておくけど私はもう子供じゃない」
「いや未成年者だぞ」
異世界では如何か知らないけども。
「…それは、…とにかく、此処ではそういう扱いをしないで」
「ここでは――けど、一応保護者としてだな……」
「保護者? 今のオジさんがどうやって私を保護するの。現状は逆じゃない」
正直に事実を告げられて叔父の心境で言葉が失われる。
「それに私がこっちに来てからどんな苦労をしたのか、オジさんは知らないでしょ」
「……――そうだな。ゴメン」
他意無く、素直に謝罪の言葉が声と成る。
「ぁ……ぇっと、……ごめん。言い過ぎたよね……」
「イヤ本当の事だ。今後は気を付けるよ」
「ぅん…ぁ、…ぅん。――じゃ、急ぐね」
「おう、ちゃんと付いて行くから安心しろ」
そして頷き、前へと向く姪がやや速度を上げて歩むその後を追う。
今はまだ事実だとしても、いずれは本当の意味で護れるように。
叔父が内心で強く決意する。その直後に――。
「そういえばゾウは一日十時間を食事に費やしてるって知ってたか?」
「ぇ、――そうなの?」
「うム。ヒメも食べるのは遅いが、ゾウ程ではないな」
そもそもの食事量が人と比べるモノではない。が、それよりも。
「ぇ、私って食べるの遅いの……?」
「そうだな。あとよく食べる、小さい時から――ッア?」
瞬間羨ましい程に細く風通りの良い叔父の前髪が一部欠落する。
次いでそれが姪の特技、抜刀術である事を理解し――。
「――ヒメさん……?」
「いつまでも足を止めてたら帰りが遅くなっちゃうね。行こっか」
「ぇ、ぁハイ……」
何処となくその背中に般若を視る。
はて、――昼の量が足りていなかったのだろうか。
イヤそれよりも人様に刃物を向けてはイケないと教えるべき――だが今は止めておこう。
命惜しさに、叔父はそう思うのだった。